戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1592/007.hmos

マニラから来た連中、とんだ食わせ者だった。

 

見事だった、と褒めるべきか?

私はともかく、ヴァリニャーノはすっかり騙されたままだぞ。

彼らのことを、人の好さそうな紳士たちだ、大丈夫だろうか、と本気で心配しているみたいだからな。

 

サツマの舟がナンゴヤへ到着したとき、一行の中にソリスが混じっていたという。

 

いつからいた?

サツマ官吏も同じ一味か。

ソリスはポルトガルもコンパニヤもナンガサキも、すべてを嫌い愚弄する。

ドゥアルテを匿い殺して持っていたカネを奪ったのは私たちだと、ひどい憶測をまくしたてる。

なぜ知ってるんだ。

ナンゴヤではサツマ兵や坊主どもにちやほやされ、酒場は毎晩、奴の独演会となりはてる。

タイコーへの謁見では、日本人通訳をさしおいてこいつが同席した。

メチャクチャだ。

あんまりにも、メチャクチャだ。

 

コーボもリャーノも、実はある程度の日本語を扱える。

マニラがなぜコンパニヤのパードレを派遣してこなかったのかも察しがついた。

ヴァリニャーノに素性を知られていない必要があったからだ。

すべてが周到に計画され、ナンガサキで我々もまた、徹底的に探られていたということだ。

 

私はボロを出してないはずだが、それにしてもここまで演技されていたとは思わなかったよ。

褒めてんだぞ、ちくしょう。

ソリスが主導権を握る以上、マニラからの使節2人もサツマ官吏たちも、影響を受けざるを得ない。そしてナンゴヤでは信徒を中心とした兵団がもうすっかり出払ったので、邪宗徒の比率がきわめて高くなっている。

 

そんな聴衆を前に、連中は放言の限りを尽くす。

 

「エウロパ大陸の中心はカスティリヤさ。ポルトガルは、西の端っこにある、小さな小さな、かつて王国だったこともある漁村なんだ。

王国はもう存在しないから、ルジタニア地方と呼ぶ方が正確だね。

海沿いだったから、いち早く東洋まで進出できた。エウロパの名と、デウスの教えを広めようとしたのは立派だとも思う。よくやってくれた。

しかし背伸びはもういいよ。あとは大人たちに任せてほしいな。

日本人だって、いつまでも見習いの小僧から経を詠んでもらうんじゃ、満足できないだろう」

 

「デウスの教えは真理であり絶対だが、これを布教する団体はいくつもあって、コンパニヤはその一つにすぎない。

ルジタニア人に雇われている、歴史の浅い教団だね。

日本では威張りくさっているけど、賤しい連中だよ。だいたい精神性を第一に謳いながら阿漕なカネ稼ぎばかりやっているし、身なりも分不相応に華美すぎる。

こちらのドミニコ会士をご覧あれ。裸足で、痩せていて、顔にも掌にも苦労のあとが刻まれている。

私たちの原罪を背負ってくださる方は、ここまで清貧を貫かれるものなのだ。

ルジタニアのパードレたちはとんでもない勘違いをしているようにしか思えないのだけどね」

 

「かれらはいつも信徒を唆して、仏像を破壊せよとかテラに火をつけよとか、過激なことばかりさせる。

根っからの暴力主義なのだね。それで敵ばかりつくって、自分たちは逆境に耐えているのだと、存在意義にすり替える。

追放令出されちゃうのも、身から出た錆というやつだよ。

おとなしくルジタニアへ帰ればいいのに。まだまだこの国を破壊したくて、あきらめきれないらしい」

 

「この方々はフェリペナスから来られた。日本より40日くらい南の海に浮かぶ、新しい国だ。

タイコー殿からお手紙をいただいたので、挨拶を交わし、これから仲良くしてください、という訪問だ。

あせらず、じっくり親睦を深めていって、お互いを幸福にできるお付き合いをしていければいいよね。

僕たちはルジタニアの商売を邪魔する気はないけれど、あっちは自分たち以外の船を寄せ付けたくないみたい。話し合う余地はあるとは思うんだけど。でも、決めるのはこの国の人たちであるべきじゃないのかな。

ま、それも、じっくり話し合っていきたいところでは、あるんだけどね」

 

「フェリペナスは、温暖な島々です。

その中心のルソン島に首都マニラがあります。

にぎやかで、たのしくて、おいしいものもいっぱいあるよ。交易が始まったら日本の皆さんを大勢招待したいし、私たちの国からも、日本へ来てみたい人が大勢現れるはずです。

フェリペナスと友好を結んでいる国はいっぱいあって、すでに様々な航路が開拓されています。

日本も早く、私たちの一員になりましょう。一歩一歩、着実にね」

 

反吐が出る。

いたいけな子供を誘拐する手口と同じではないか。

まるで日本からコンパニヤがいなくなれば、すぐさまあらゆる問題が雲散霧消するかの如き美辞麗句の数々。

ナンゴヤにいながら、タイコーの大陸侵略という大悪業には触れもしない。

ソリスがナンガサキへ姿を見せなかったのは、自分がお尋ね者だと知り抜いているからだ。どこまで卑怯きわまりない詐欺師どもか。ドゥアルテと同じ目に遭わせてやりたい。

 

貢物が貧相すぎたにもかかわらず、タイコーは使節らを引見した。

どんな会談が行われたかは残念ながらわからない。

思考力も判断力もお粗末なタイコーがソリスの甘言を鵜呑みにすれば、コンパニヤへの迫害をより強め、マニラをその後釜に据えるという単純な展開だって招来しかねない。

ヴァリニャーノは最低の道化を演じたことになってしまうのだろう。

ありえない。ありえてたまるか。

 

「ソリスは、アマカウでは犯罪者だ。

実刑を受け、全財産を没収された。管区長の計らいで仮出所しているにすぎない。

サツマ乃至タイコーに身柄引き渡しを要求できないものか。せめて、彼が逃亡中の極悪人であることは、役人を通してはっきり伝えておくべきだ」

 

「我々が必死になればソリスが調子づくことはわかっているが、声をあげれば彼の言葉に疑念を抱く日本人だって出てくるはずだ。

今のままのさばらせておくことは、状況をますます悪くさせていくだけだからな」

 

「ソリスの犯罪歴、裁判記録、判決。なんでもいい。誰か憶えていないか。能うかぎり詳細な記録を突きつけよう。

ソリスが顔色を変え、しどろもどろの弁解でも始めれば、そこが転換点になる」

 

「ソリスは日本人も騙しているのだから、我々は日本の皆さんを奴の魔手から救いたいのだと考えていることを強調しよう。

詐欺師は喋らせれば喋らせるだけ矛盾だらけになっていくものだから、日本人だっていずれは気付く。

我々はそんな賢い日本人と連携し、この悪党を包囲するのだ」

 

異端審問官の皆さんが、本気を出し始めた。

ヴァリニャーノは涙ぐんでいる。

私はさっそく聴き取りを開始し、調書作成に全力を投じた。

 

残念ながらソリスは御主に叛いたわけではなく、しでかしてきたことは刑法に対する違反行為ばかりなので、パードレが関与した案件は少ない。

パードレたちも世俗の刑法については専門外で、複数名の記憶に頼る過程で多くの矛盾も出てきてしまった。

 

ここでも、偉大なモレイラ先生が頼りになる。

法の目をかいくぐって生きてきた先生は豊富な実体験を持っていた。

調書は見る見る肉付けされていって、3日ほどで重厚な長編実録犯罪物語が完成する。

カスティリヤで犬の股から生まれたソリスが、いかにして地球を半周し、ルシヘルやベルゼブブと肩を抱き合う大悪党にまで昇りつめたか、その一代記だ。

おっと余韻にひたる暇はない。これを要約し、日本語訳しなくては。

 

ここから先は私ひとりで孤独な作業となるのだが、次々と難問にぶち当たる。

地名・人名・王朝名などは音韻置換ですむが、律法・倫理哲学・社会論等に属する夥しい用語群に、適切な日本語を当てはめられないのだ。

私は悲鳴を上げ、1週間の出張許可をもらってアマクサのコレジオへ駆けこんだ。

イルマン・ファビアンに助けてもらうために。

 

ファビアンは手に汗握りながらソリスの犯罪録をむさぼり読み、私に難解な質問を浴びせかけた。

その日から、これまで日本に存在しなかった数々の造語を私たちは誕生させる。

それでも妥協に妥協を重ねるしかなかった。

完成した怪文書を、私はどう評価してよいかわからない。しかしともかく完成したのだ。

ありがとう、ファビアン。

 

私は、ナンガサキへ戻った。

3週間が経過していた。タイコーはミヤコへ帰ったと伝えられた。

実母が危篤なんだそうだ。へえ。

 

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