戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1592/009.hmos

開拓推進派と、わからず屋との対立。

なかなか溝を埋められなかったところへ、緊急事態勃発。

 

新たにナンガサキ知事へ指名されたという、シマノカミという男が乗り込んできた。

 

タイコーは、ミヤコへ戻る途上で実母の訃報を受け取る。

それでも葬儀を取り仕切るため進路は変更しなかったが、多分に取り乱した精神状態のまま、いくつかの指示をナンゴヤへ発した。ナンガサキ知事の交代も、そのひとつ。

 

シマノカミは、コンパニヤに対する憎悪を無闇にこじらせた、教養も思考力も持たない男である。ソリスの法螺話を無邪気に信じこむほど、知性も低かった。

ナンガサキへ着くなり、教会施設をすべて接収・解体し木材をナンゴヤへ搬送せよとの通告を発する。

武装した役人が数百名いきなり岬の教会に詰めかけ、紙切れ一枚読み上げてすぐ解体にとりかかろうとした。

我々は大声を上げて抵抗する。

信徒たちも近隣から駆け出してきて、たちまち人垣ができた。

押し合いへし合いの根くらべ。初日だけは流血沙汰に至らず。ただ怒声が谺した。

 

シマノカミは、追放令が出ているのになぜパードレがいるのだと吠えている。

何も知らずに来ているのが丸わかりだ。我々は10名までの滞在は許可されている、と証書を見せて反駁する。

調べるからこの証書を持ち帰らせろという。

アホ抜かせ。

すったもんだの末、その場で書き写すことを許可してやる。

少しは下調べしてから来い、このクソトンマ。

ついでに86年発給の、日本全国における布教許可証も見せてやり、書き写させた。

 

日が傾いてきて、役人どもは帰っていく。

信徒たちは交代で寝ずの番に就いてくれるという。あいつらがこれで引き下がるとも思えないからな。

しばらくは厳戒態勢を貫こう。

 

2日目。

かれらの堂々たる卑劣ぶりが明らかとなる。

昨日と同じ完全武装した部下を引き連れてきたシマノカミは、いくつかの文書を持ってきて、薄ら笑いを浮かべながら、ひとつひとつ机上に並べる。

追放令に関連する文書は何種類も発せられており、いずれも布教許可証の日付より新しい。とくに最新のものはタイコーになってからの判が捺されている。これらはすべて複写してきてやったものだから呉れてやる。ありがたく熟読し大切に保管せよ。

そうほざく。

 

原本も見せろ、と要求した。

門外不出だという。

ならばこれらが偽書でないことを証明できまい。だいたい捺印まで複写するとはやりすぎだ。

自分たちがどれほどマヌケかわかってもいないのだろう。

 

これが日本では慣例なのだ、と卑劣漢は薄ら笑いを止めずに言う。

へえ、日本はいつから公文書をいくらでも偽造し放題になったのかね。

行政への信頼の根幹を揺るがす発言だよそれは。

交渉ならば相手を納得させられる材料を提示できなければ始まらないが、事実何も始まっていない状態だ。とっとと帰れウスラバカ。自分の国の言葉くらい使えるようになってから出直してこい。

 

こんなありがたい説教をしてやっている間、山の教会が襲われていた。

駐在員と周辺住民たちが必死の抵抗を繰り広げたが、十字架と外壁の一部が破壊され、奪いさられた。

 

夜、我々は厳重なる抗議をしに政庁へ押しかけた。だが官舎の警戒もまたきわめて厳重だったため、侵入路の目星をつけた程度で撤収する。

もはや全面衝突が避けられないことを、ナンガサキ全市民が覚悟した。

庁舎に放火して、役人どもの寝場所を奪うのが最も簡単な報復か。役人どもがナンガサキ市民すべてに仕返しをするなど到底ありえなかろう。市内6箇所の教会施設に防御態勢を徹底させ、早い段階で敵の戦闘力を潰しておくのが正解だろうと考える。

 

3日目。

ナンゴヤからと思われる兵団が到着し、市外に宿営を始めた。

官舎の武装役人も大勢引越しを始め、空いた空間には、暴行容疑で身柄を拘束された市民が押し込められる。

政庁の一角は牢であったが、いま、これを大幅に拡張しているらしい。武装した役人たちが教会周辺を絶え間なく往来し、住民の動静を探っている。

嫌な気配が濃くなってゆく。

我々も防御構築に集中する。

 

6日目。

防衛態勢の一番手薄だった病院が急襲される。

医師や職員は連行され、患者は路端へ放り出され、建物は豚のように解体されてゆく。

周囲をぐるりと完全武装した兵隊が警備し、我々を寄せつけない。人でなし!鬼畜!恥知らず!と怒号を浴びせ石を投げる者が次々と捕縛され、その場で殴る蹴るの暴行にさらされる。

この見せしめ効果は甚大で、ナンガサキ市民の抵抗は表面上、鳴りをひそめた。

 

その翌週。いよいよ、山の教会が破壊された。

敵は鉄炮まで使い始めた。

屋根の上の十字架は、大きな音を立てて崩落。その後、解体開始。

どんどん手際がよくなっていることがわかる。地下室や香部屋など、日本家屋には馴染みのない構造が、いちいち疑惑の対象とされるようだ。あらぬ疑惑を掻き立ててやまないらしい。無知のくせに妄想だけは際限なく天翔けるものなのだな、日本の猿は。

 

この段階になって我々は、防御に過度の期待をかけることを止めた。

残る施設も、順に破壊されてゆくだろう。彼我の武力差に絶対の開きがある以上、これを覆すことは不可能。

せめて武器があれば。

非戦派のわからず屋どもが聞く耳さえ持ってくれていたならば。

いまさら、そんな愚痴を言っても虚しい。

 

まだ襲撃を受けていない施設の祭具や文献類は、ジャンク、信徒の家、アマクサのコレジオなどに可能な限り分散して避難させた。

教会の象徴である十字架も、我々自身の手で撤去した。

市東にある、トルレス時代に誕生した教会は、造りも日本風なのでまるで廃寺に見える。今は使われておらず、貴重品も置いていない。しかし日本布教における重要な聖地なのだ。

ここには警備を置くべきか。むしろ警戒を遠ざけ、その人員を他所に回すべきか。

いや、悪魔どもはここも破壊しに来るだろう。何もかも踏みにじり、奪い尽くさねば気が済まないだろう。

だが、おぼえていろ。

デウスの力に頼るまでもない。この私の手で、私がこの世にいるうちに、絶対おまえたちをインヘルノに叩き落としてやるからな。何があろうともだ。

ゆるさない。おまえたちには、悔いる機会さえ、与えてなるか。

 

シマノカミは、武と策の両刀で攻撃を仕掛けてくる。

ナンガサキ市民から裏切者を出させようと必死のようだ。

「宣教師あるいはポルトガル人から嫌がらせ・暴力・脅迫・中傷その他大小かかわらず被害を受けた者、または噂を聞いた者は届け出よ。秘密厳守を約束する」

こんな高札があちこちに立てられ、巡回する役人や兵士も、そういった事例はないかと強引に尋ねながら徘徊する。

おまえたちが今やっている行為そのものを、私たちこそ毎日何百件も信徒から通報されているのだがな!

だいたいヨソ者が、信徒しかいない町でする質問としては、滑稽この上ない。

それすらわかっていないところが、重ね重ね、度しがたい。

 

こんな連中は、望む意見が集まらなければ捏造するのだ。作文するのだ。かれらの思考回路の枠内で。

そんな報告も生還者から入手している。

ミゼルコルヂヤに集められた乳幼児が食用に供されるとか、墓地に土葬される死体も保存食のつもりで埋められているのだといった類の供述が、未だに再生産されているのだ。

さすが死者を33年間も祀り続ける文化の国。

生まれてからずっと外界と隔絶した老いぼれ坊主ほど崇め、権力者の御意見番に就かせる国。

日本のミイラ製造技術には驚嘆の念すら抱く。

まさかナンガサキでこんな世紀末を迎えられるとは思わなかったよ。笑うしかない。ここまで来ると悲観的になれという方が無理だ。げらげらげら。

 

タイコーは、いつ戻ってくるのだ。それが知りたい。

シマノカミの邪智暴虐をすべて突きつけてやるのに。一気に状況をひっくり返してみせるのに。

しかし、そんな噂は聞こえてこない。

ナンゴヤからは観光客が続いているが、そちらもだんだん弛緩しているのが見てとれる。

 

タイコーはすっかり気が塞ぎ、亡母の好きだった芝居小屋の建て直しを命じて土木部隊をミヤコへ呼び戻させた、なんて酔狂な風聞さえ流れてくる。わけがわからない。

そういえば大陸侵攻は、カンパクを退いた隠居爺による道楽だと誰かが言っていたかな。

まさか、そうなのか。本当に、その程度の余興だったのか。

日本の威信を賭した野心的事業じゃなかったのか。話が違うぞ、おい。

 

せめて誰か、ちゃんと仕切れる指揮官を置いていけ。

このままじゃ、なにもかもが中途半端なまま、冬を迎える。

ヴァリニャーノが去っていくのは有難いが、一隻しか碇泊していない定航船がいなくなれば、タイコーと交渉する切り札が完全になくなってしまうのだ。

いやいやいや、最悪の状況じゃないか。

どうしてこうなる。なぜだ。

すべての計画が、おじゃんだ!

 

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