戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1593/003.hmos

「臭い。汚い。つぎはぎだらけでみじめったらしい。

その格好のまま、陛下の面前へ参るつもりか!」

 

官吏が激怒する。

ええ、そのつもりですが、何か問題でも?

 

肌着は替えられるが、礼服はこれ一着しかない。修道士だから当然なのだが。

SJが見慣れさせているはずだと思っていた。

服がないなら用意するといわれたが、私がそれを着るわけにはいかない。OFMの修道服でなければ私は着ない。

押し問答が続く。

官吏は、私だけを控え室で待機させようとした。ガルシーアが、それでは重要な話が進められないと粘ってくれる。

最終的にタイコーが「構わぬ、よこせ」と許可してくれた。

ただし私は末席で極力じっとしておくこと。

了解です。お気遣い感謝します。

 

ゴンサーロは新品の礼服に着替え、デ・カルバハルも一番の盛装で城へ入った。

私は、その後に続く。

聞いていなくはなかったのだが、ここまで厳しいとは思わなかった。イラドでは嫌な顔ひとつされなかったのにな。

あとでガルシーアから、今後の注意点諸々、よく聞いておこう。

 

10デド四方はありそうな、広い部屋が会見場だった。

机も椅子もなく、平たい床に足を組んで座る。

書類の作成ができない。

我々に記録をとらせない目的かもしれないが、日本側にも書記官らしき者がいない。

これは懇親会にすぎないのだろうか。

しかし雰囲気が険しすぎるし、予備会議ならそれこそ備忘録が必要だ。

ここで行われていることは何なのだ?と不思議がりながら、話者の表情に都度、注意を向けていた。

日本人は40名ほど。

ガルシーアと同じ船で日本へ帰国したパウロ・ハラダが、立派な装束を着て座っている。似合わなさすぎて感動した。

 

タイコーが現れ、我々を見下ろす席に着座する。

しばらくはハラダが進行役をつとめていたが、ガルシーアが日本語で話し始めるとタイコーの関心はそちらへ移り、後半はハラダをほとんど喋らせなかった。

1時間ほどの会談で、ガルシーアとタイコーがずっと日本語を交わしていた。

途中でカルバハルがエウロパとフェリペナスについて説明し、ガルシーアが日本語訳する場面あり。

ガルシーアが私に数度、確認を求めてきたが、前後の文脈をよく把握できなかったので、任せっきりにした。

概して、タイコー以外の人間は表情をまったく動かさない。

速記はとられず、署名もせず。我々は退場して、城外の控え室へ戻った。

私はようやく伸びをする。

 

「おつかれさまでした、フライ・バウティスタ。私は、あなたへもっと日本の慣習について説明をしておくべきだったと反省しています」

 

君こそ御苦労様だった、エルマーノ・ガルシーア。記憶が確かなうちに、覚え書きをつくろう。いったいどんな対話をしていたのだね。

 

「タイコーは、私が流暢に日本語を扱えることが珍しかったみたいですね。以前にも、ツヅというSJのエルマーノが日本語を巧みに操ったと言っていましたが、私はその男を知りません。

ハラダの出しゃばりを封じられたのは、私には痛快でした。ところで、おそらく理解されていなかったと思いますが、私たちはミヤコでの滞在と布教をする許可を獲得しました」

 

おいおい、理解が追いつかないよ。もう一度、順序立てて頼む。

 

「あらためて説明します。

タイコーは、ポルトガルがエスパーニャの一部であること、SJは幾つもある修道会のひとつでしかも急進的な集団であること、フェリペナスもエスパーニャの一部にすぎず日本と通商は可能だが主従関係は結べないこと、等を、想像すらしていなかったことが確認できました」

 

……すまない。絶句している。

日本SJは10年以上、それを隠し通して、タイコーに、いやそもそも日本人へ、一切伝えてもいなかった、という解釈でいいかね。

 

「はい。ただ、不可解なのは昨年フライ・コーボたちが間違いなく会見しているようですのに、これらの点がまったく伝わっていないことです。私にも、その理由がわかりません」

 

記録もとっていないようだから、多くの話をしているうちに、忘れてしまったのかもしれない。来年また同じことが繰り返されても、おかしくないかもね。

 

「SJは常に華美な装束で自らを飾り立てますが、昨年のOPは見るからに貧しく、今年のOFMはさらに貧窮を極めている。タイコーはこれを深く憐れみ、SJは日本を乗っ取ろうとしたから駆逐したが、おまえたちは迎えよう、と便宜を図ることを約束されました」

 

いろいろ腑に落ちるな。SJは驕りたかぶっていたのだね。

日本を乗っ取るとは大袈裟な気もするが、武器密売疑惑が昔から囁かれていたから、それなりのことをやっていたのだろう。

私の姿はそんなに憐れみを誘ったかね。しかし本来、修道士とは清貧であるべきだからね。

 

「タイコーは、我々がいつマニラへ帰るのかと訊きました。

私は、冬になれば帰れますが、可能であればタイコーが平定されたという日本王国を歩き回り、見聞を広めてからマニラでそれを伝えたい、と答えます。

タイコーは上機嫌で、ミヤコへ行くがよい、と言いました。

その場でホーガンという家臣に、私たちのために宿を提供してもてなすようにと命じました。近日中に船を準備させるからそれまでこの宿所に留まっているように、と指示されています」

 

なんと、話が早いな。いろんな問題が一気に解決してしまった。

むしろ不安になってくるぞ。危険はないかな。

 

「このシモ島には、SJのパードレたちや信徒も大勢隠れているから、私たちには落ち着かないだろう、と気を遣ってくれたようにも感じます。

ミヤコにもSJのパードレが数人いるそうですが、決して争うなよ、と釘を刺されました」

 

ん?追放したSJパードレがミヤコにいることを、タイコーは把握しているのかね。

 

「SJの年寄りパードレで、ずっとミヤコに駐在していたオルガンティーノという変人がいます。彼が住み慣れたミヤコで暮らしたい、温泉で療養もしたい、と願い出て、特別に許可をしたということです。

ほか数名が付いていってそのまま居座っているようだが、布教はしていないようだから放っている、との説明でした」

 

ふうむ。その、パードレ・オルガンティーノは、君から見てどんな人物だね。

 

「私は88年までずっとシモにいましたので、オルガンティーノとは面識がありません。ただ日本SJ内でもかなり浮いた存在で、勤怠報告、予算管理、生活態度のすべてにわたってだらしがないと、よく話題に上っていました」

 

はぐれ者か。ならば我々の良き味方となる可能性が大いにある。接触を試みよう。

ミヤコの地理や人脈にも通じているなら尚のこと、協力関係を結ぶのが得策だね。

ホーガンというのは、タイコーの側近の中では、どんな位置付けなのかな?

 

「かれらの組織図はよくわかりません。私の知識ではお手上げです。

ただ、ホーガンは特に個性を持つ人物でも無いように感じました。忠実な官僚。彼自身は、ミヤコへはついて来ないと思います。事務的に、我々の接待を命じられた。それだけではないかと」

 

了解した。こちらも事務的に礼を尽くそう。

では、そろそろ重要な議題に移るよ。

日本はフェリペナス攻略を、どの程度準備しているのか。探れたかい?

 

「タイコーは、自分が日本における一千年来の戦乱に終止符を打ち、完全平和をもたらしたのだと何度も主張しました。しかも敵は殺さず、赦し、家臣に迎えてからも、親が子を愛するの如く遇している。私ほど慈悲深い人間はエウロパにすらいないだろう。と同意をしつこく求めてきました。

私の知る限りでは、あなたのような人物はまったく初めてです、と答えました。

デ・カルバハルも同じく回答して、タイコーは満足したようです」

 

ハラダの持ってきた文書では、100年余の戦乱だったように記憶するが、ずいぶんと増えたものだね。

 

「いまグランチナへ向けている軍勢を、最初にフェリペナスへ向けなかったことを、自分とハラダに感謝すべきである、とも言っていました」

 

なるほど、もっともだね。感謝しよう。それで?

 

「我々の貢納した品々と、それから修道士の貧窮ぶりは、タイコーを烈しく失望させた模様です。

ハラダも、マニラの軍事力がきわめて脆弱であると、しきりに嘲笑しました。ジャンク一隻分の兵力でフェリペナスは容易く手に入れられるが、その価値も無さそうだとかれらは判断したように感じます。少なくとも、表面的には」

 

ハラダには、軍港も兵舎も見せないよう、気をつけていたからね。そんなかれらの水準と、楽天ぶりに感謝しよう。

ただ、油断しないこと。

我々はボロを出さないよう、かれらの表情の変化にすぐ気付けるよう、常に注意を怠らないことが求められる。

敵を侮る者は、愚か者にしかなれない。これは永遠不滅の法則だ。

 

それでは次の議題。ミヤコへ行く組と、シモに残る組を、割り振るよ。

 

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