戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

315 / 328
SengokD.1594/004.hmos

フライ・マルセーロ・リバデネイラ。

本年度の遣日使節団団長として、8月27日、無事イラドへ上陸した。

昨年同様の歓迎を受けたようだ。2週間ほど視察をしたら、ミヤコへやって来るという。

 

私がデ・カルバハルへ託した報告が無事マニラへ届いたことも書いてある。

喜ばしいが、残念ながら、総督に読んでもらうことができなかった。

第7代フェリペナス総督ゴメス・ペレス・ダスマリニャス閣下は昨10月、マルーコ諸島へ向かう洋上で急死した。

現在、息子のルイス・ダスマリニャスが跡を継いでいる。

我々の諜報方針に大きな変更は加えられないと思うが、ルイスはグランチナの門戸開放交渉にも実現性が低いと消極的だったし、日本へ対しても軍事上の脅威が遠ざかれば大きな関心は抱かないだろう。

 

私は自分のチームを編成するにあたり、ゴメスおやじと徹底的に討論して、対日戦略を構築したのだ。

同じだけの支援は今後、あてにできない。リバデネイラたちと共に全員次の冬に帰国、という辞令さえ出ている可能性もある。日本SJへの懲罰はルゥーマに任せればいいから、とか言って。

まあ今の時点では、杞憂かもしれない。リバデネイラを待とう。考えるのは、それからだ。

 

ちなみに日本の通信事業は優秀ですよ。

飛脚と呼ばれる通信士が、大繁盛している。タイコーの治世になってからだそうだが、民衆とくに農民はその時点で住んでいた土地に固定されるようになり、商人たちも領国を跨いだ移動を原則禁止されるようになった。

抜け道のひとつが飛脚だ。

免許制だが審査がゆるく、元手がなくても始められる。

競争が激しくなると料金や接客態度の良化につながる。

日本人は意外に筆まめで、需要も供給も好循環している。日本文字は難しい。だからこそ、文字を書けるだけで手に職をつけたことになり、代書屋があちらこちらに誕生する。

ウタをつくって送り合うのが流行し、これに興じる老若男女も多いようだ。

戦時不況の只中では、行政も、そんな遊びを奨励する。

 

城内粛清は、累計で一千人近くに及んだろうか。

最近は飽きられてきた。だが数少ない官営娯楽として処刑は定期的に続けられており、これに供する犯罪者を集めることに役人は血道を上げている。

立ち小便をしただけで、当人に加え家族全員が処刑されるという例もあった。

たいていは賄賂で見逃してもらうものだが、反抗したか、役人の逆鱗に触れることを言ったのであろう。

珍奇な罪状はむしろ評判になって刑場の集客数を上げるという困った前例もここから生まれる。

このほとぼりを冷ますのに必要な時間は、いかほどか。

 

9月30日。リバデネイラが到着する。

時間がかかりましたね。

SJの妨害で、シモからの出立許可が出なかったのだという。OFMは謀反を煽動するために送りこまれている国際陰謀団だ、との噂が広められていると。

やれやれ。あながち間違ってもいないですが、ブッディズモが流しているのならばOFMとSJをひとまとめにし、「やつらは連携している」という筋書きにするはずです。

OFMだけを狙う意図がある集団は限られる。

その噂をSJが流しているのだとしたら、少しは頭を使えよと指導したくなりますけどね。

 

ともかく、ささやかな貢物を添えて、タイコーへの謁見を申し込む。

最近はミヤコ知事の方が多忙で、予約がとれない。

タイコーとは、一週間先の予定がとれた。せいぜい無邪気に振る舞おう。

それまでにリバデネイラと、口裏を合わせておこう。

 

「フライ・バウティスタよ。布教許可が正式に出ているのなら、教会として正規の活動をすべきではないか?

儲けなど出していないとはいえ、病院経営だけをしているというのは不自然だ。いや、営利目的でないといえばますます怪しかろう。

積極的な授洗はしないという方針には賛成する。しかしSJに洗脳され今も葛藤に苦しんでいる私たちの兄弟がそんなに大勢いるというなら、かれらを受け入れる場も、私たちには提供する必要があると思うのだが、どうか」

 

リバデネイラは専攻が教育分野なので、学校をつくりたいのだ。それも、わかる。

ミヤコに約一年暮らしてきた私の感想として、オルガンティーノたちの妨害は大した脅威ではない。

私たちはじれったいほど鈍い動きで着実に周辺住民との信頼関係を築いてきた。ここに危害を加えても、SJが得をすることは何も無い。

だが教会にしてしまうとなると、どうか。

 

タイコーの許可を根拠にすべきではないのだ。それは両刃の剣どころか、泥池に家を建てるに等しい。

私は、リバデネイラへ提案する。

日本駐在員の帰国指示が一件も出ていないのだから、来年まで待ちませんか。

冬までミヤコで暮らし、リバデネイラが当地の住民たちと気心通じ合ってから教会と学校を始めるのならば、私は反対しません。

ただ、今すぐは賛成しかねるのです。

 

最終的に、妥協した。

要は、リバデネイラは当面の仕事が無いことに耐えられないのだ。

分析と推理は私がやってしまってる。日本語を覚える必要はあるが、それなら通訳士に協力してもらいながら、教義について語り合うのが一番効率的だ。だから信徒たちと談義し合える場を毎日設けたい。冬まで待てない。

よくわかりました。

この邸の中央部分を聖堂にしましょう。そちらの管理は、お任せします。

病院部門の運営は引き続き、エルマーノ・ガルシーアと私とで行います。

 

「10月4日はサン・フランシスコ記念日。OFM創立者を讃える、我々にとって大切な祝日だ。この日に献堂式を挙行する」

 

ええ、いいと思います。準備をしましょう。

OFMが日本で捧げる、初めてのミサになりますね。

SJは、ミサといえば盛大にやるものという常識を日本人に植え付けました。何日も前から予告して、当日は大群衆が近郊の寺社を一つひとつ睨みつけながら行進して、教会へ戻る。数日中にその何軒かは放火されるので、ブッディズモにとっても恐怖を植え付けられる儀式でした。

これを、塗り替えましょう。

ミサとは、聖堂の中で、静かに、厳かに、おだやかな心持ちで、行われるべきものです。パードレが手順に沿った式進行をしている間、参会者は各々、自身の心と対話する。その空間を共有するのがミサである。

たったそれだけ。暴力行為は伴わない。ここでは、そんなミサをします。

信徒たちは混乱すると思います。

期待が外れたと言って暴れる者も出るかもしれません。宥める用意をしておきます。すぐさま、慌てず対処できるように。

皆が、これを普通と思えるようになるまで、続けましょう。

何ひとつ変えることなく、同じ儀式を続けることで、それを普通とするのです。その記念すべき第一回のミサですからね。気合を入れて、準備します。

 

リバデネイラは、この教会をポルシウンクラと名付けた。小さな土地という意味だ。

決して小さくはない敷地だと思うが、彼なりの夢が込められているのだろう。

ただ、音節数が多くて日本人が発音するのは容易でない。

かれらはすぐに、ホシの教会と呼び始めた。

 

ホシには、乾燥させる・鋲の頭・穀物の一種・黒い印・欲求・勝敗の目安など様々な意味があるが、人気の高いのは、夜空に輝く恒星だ。

日本人は「おホシさま」と語の前後に敬称を付けて、無数の星々を眺め、楽しむ。

明るい昼間に輝く太陽より、闇夜を照らす月や星明かりの方が賢いという価値観を持っていて、私はこれを聞いたとき、おかしくてたまらなかった。その発想はなかったね。

 

フェリペナス人、厳密には外来種たるエスパーニャ人は、地球を取り巻く天体について、もう少し知識を持っている。

地球の公転周期をB年として、人間の性成熟期間は約EDC年。

H世代重ねてもKJI年しか経過しないので、人間にとって星図は永遠に変化しないものといってよい。

地球表面上を広域移動するようになって、人間は座標系を天体に求めた。賢い選択だ。

このまま順調に発展していけばユニヴァースへの興味も深まり、やがてかれらは、いかにして成層圏の先へ出て行くかを猛烈に研究するようになるだろう。

何年かかるか想像もつかないが、私は、応援したいと思う。

早く、私たちの兄弟に、なってほしい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。