戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1594/005.hmos

10月7日。タイコーに謁見。南ミヤコの、豪邸にて。

 

そのときの話を聞きたがる人は多いのだが、まさか真実ありのままを語ることはできない。かといって嘘もよくない。

苦心の末、編み出した口上はこれだ。

 

「タイコードノは、お元気でした。まだまだ長生きされると思いますよ」

 

人々の興味はそこで潰える。

皆途方に暮れ、思案顔になり、自然と話題が他へ移る。

私だったら、具体的にどれほど元気だったのか、あと何年と予測するかなど、実見してきた者に重ねて尋ねるのだが。

ゴンサーロに訊いても

「日本人には、期待通りでなかった場合、そこで思考停止する傾向がたしかにありますね」と返ってくる。

臆病とは違うらしい。

まだよく納得できないが、ひとまず終わる。

 

豪邸は、やたらと広く、人は少なく、冷たく、陰気で、居心地が悪かった。

タイコーは家族もここに住まわせているが、私なら正気を保っていられないと思う。オヒロイの成長にも悪影響しか及ぼさないのではないか。

 

謁見は、相手の顔も見えないほど距離をとった座席の中央まで通訳同士が伝えに行くという、非効率極まりない形で儀礼的に進行した。

総時間の大半が、タイコーから我々への訓話というか説教で、通訳が我々に伝えている間も後方で喋り続けていた。

頻繁に尿意を催して退席もする。何もかもに倦怠しきっているように見えた。

こういう老人は、長生きするものだ。

 

実見記をありのままに語れば、こんなところである。

役人に咎められない形で要約することも難しいし、このままだとしても、同じ説明を何度も繰り返させられるのはまっぴらだ。

なので今後も、聞きたい人の期待を早めに裏切ることにする。おしまい。

 

ポルシウンクラの教会と病院はその後も順調で、さしたる波乱もなく待降節を迎えた。

リバデネイラがSJ信徒から聞き取りした調書も膨大な量になり、日本人が文字通り骨の髄までしゃぶられ尽くした傷跡をこれでもかこれでもかと見せつける。

さてこれをイラドへ届け、夏以来停泊している船でマニラへ運んでもらう時期となった。

リバデネイラもミヤコの市井にすっかり溶け込んでくれたので、留守を託して、私が行ってくる。

リバデネイラと一緒に来た、フライ・ジェロニモ・デ・ジュズース・コステロをお供につけて。

 

あちこち寄り道してくるよとは伝えておいたが、報告書の束を抱えながら冒険はできない。往路は最短かつ確実を徹し、ひとまずイラドへ着く。

定航船の船長が用意してくれていた、知っていても見つけにくい船倉奥の収納庫へ厳重に入れてもらう。

あとは、航海の無事を祈るばかりだな。

 

大陸からの撤退が未だに終わっていないことはミヤコでも知れ渡っている。その実態を確かめたかった。

案の定、泥沼化していた。

ナゴヤから大陸までは、途中何島かを経由して、最短なら4日で着ける。

最初に上陸する地は大きな半島。

ここにはグランチナに属さない独立国家が存在していた。コーライという。

 

日本は92年春より大陸侵攻を開始。半島を蹂躙して、コーライの首都を占領した。

前線指揮官は当初、ここをグランチナの首都だと思いこんで、完全勝利したと太閤へ伝えた可能性がある。

グランチナの首都ペヒンはそこから何百レグワも先だ。

私は以前、バリニャーノがインディア方面から何らかの工作を仕掛けた疑いを考えたが、もはや、それは無い。最終的にタイコーは、グランチナへは到達さえも無理なことを了解する。

コーライ王の降伏をもって侵攻を中止。日本国内へは、カラすなわちグランチナを征服したと発表することにして、幕引きを図ろうとした。

 

コーライは降伏前に、グランチナへ救援を要請したと思われる。あるいはグランチナの国境警備隊が、異変を中央へ急報した。

グランチナからの派遣軍が編制され出動するまで何箇月もかかったみたいだが、ともかく、コーライへ到着。帰国の順番を待っていた日本軍へと、襲いかかった。

現在も日本軍は半島沿岸で抵抗戦を続けている。

ナゴヤからは現地徴兵された男手が送りこまれ、空になった船しか戻ってこない。ミヤコのタイコーは、「水際でくいとめろ」程度の命令しか出していないと思われる。

ミヤコから送られてきた被粛清者たちは、シモで農業など始めていなかった。この貴重な補充兵も、最近は、来ていないはずだ。

 

「どうする、パードレ。離日するなら乗せていくが。

私には、自分で見聞したことをマニラへ報告する義務があるから、状況の深刻さが伝われば来夏は使節団が派遣されないかもしれない。今ならば、あなたたちだけは確実に連れて帰ることができる。どうしますか」

 

ミヤコのリバデネイラたちを見捨ててかい?

いやあ、それは無い。船長の申し出には感謝するが、私は残るよ。そして帰るときは全員で帰る。ペドロがそう言っていたと、ルイスに伝えてくれ。

それより君だって気をつけて帰ってくれよ。あの報告は、僕たちの生命よりもずっと大事な証言録なんだからね。確実に、マニラへ届けてほしい。

アディオス・アミーゴ!

 

イラドでの情報蒐集をすませた私たちは、ナガサキへ向かう。日本SJの巣窟だ。

 

ナガサキは昔むかし、当時その地方一帯を治めていた日本人の領主が、SJを通してポルトガルへ譲渡した町だという説がある。

それが併合前のポルトガル王国から承認されたのかどうかも不明だし、後年タイコーがシモの行政区分を相当いじったから、結局ウヤムヤな状態ということだ。

ミヤコおよびイラドでは、ナガサキはタイコーの直轄領だと認識されていて、少なくとも日本政府側の主張には一貫性がある。

ただ、ここに定住した人々がすでに世代を重ね、ナガサキ人として自我を持ち、たとえばタイコーが命じている徴兵に応じないなど日本政府が統治しているとは言い難いのが現実だ。

このような紛争地帯のことは現地で暮らしてみない限りわからないので、専従の工作員が必要となる。

まずは、彼から話を聞こう。

 

「川を境に、山側が上級市民居住区、海側が下層民街とはっきり分かれています。SJはどちらへも自由に行き来します。

一昨年夏、大規模な教会破壊令をタイコーが出して、実際いくつかを残して解体されました。しかし昨年子供が産まれてミヤコへ帰り、もうタイコーは戻ってこないというじゃありませんか。

行政長官も市民と争いたくはないから、新しい教会を建ててやってSJとも仲直り。上同士はズブズブに癒着し合ってます。平和な町ですよ」

 

そうだな。どこの世界でも、紛争地帯の中心で住民同士は争わない。

外へ向けて危機を宣伝していれば各方面からカネが転がりこんでくるので、その状態で安定するんだ。

元気そうで安心したよ、AG。

太ったんじゃないか?

 

「日本ではナガサキ以外で肉が食えないって言うじゃありませんか。パードレこそ、やつれましたよ。栄養つけて帰ってください。

あれ。帰るといえば、ミヤコへですか?マニラへですか?」

 

私はまだ当分、日本にいるよ。

せめて、この国の住民が今よりも未来へ希望を抱けるようになるのを見届けてから、去りたいと思う。

タイコーは困った首長だが、哀れな一人の男でもある。ここから自分たちでどう変えていくか、それを日本人に考えさせるまでが私の仕事かなと思うんだが。

もう少し、時間がかかるかねえ。

ところでAG。私はアントニオ・アブレウという日本人を探している。上腕にSJの紋章を刺青している。タイコーともSJともつながっている間諜らしい。彼の師匠から紹介されてきた。

心当たりはあるかね?

 

「該当する候補が大勢います。

名前は、あてにならない。僕の名前で、ツケで飲んでいく輩だって、あちこちにいますから」

 

そうか……追放令の鍵を握る証言者なのだが。当時シモにいたことまでしかわからないんだ。

 

「師匠の名前は、明かせますか?」

 

霊名はトマス。今はミヤコで政商をやっている。白髪の老人。体はきわめて頑健。

トマスの刺青にはANTIと刻まれているが、彼の弟子たちがそこまでしているとは限らない。

 

「やはり、雲をつかむような話です。そのトマスが義賊ゴエモンと同一人だったとしても、彼の弟子は日本中にいるんですよ。

私も駐日歴はまだ半年なので、追放令当時の素性となるとじっくり聞き出さないとわかりません。少し時間をください」

 

ありがとう。

私が帰ったあとでも、何かわかれば、手紙で知らせてほしい。

 

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