戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1595/002.hmos

1595年、マニラ便は来たらず。

SJの定航船であれば、ナガサキへ入港した。パードレも補充されたようだ。

途上、大きな漂流物は確認されていないようなので、フェリペナスは日本との使節交換を打ち切ったと判断してよさそうである。

 

私たちは、ひとまず見捨てられた。

前向きにとらえよう。

あと一年は、ここで日本の友人たちとの語らいを続けられる。

 

コーライ半島での攻防戦は、膠着状態とはいえ未だに続いている。

AGからの書翰によると、グランチナ軍には既にマニラへの内通グループが潜伏しているそうである。前線で、捕虜にした日本兵から様々な情報を得て、マカン経由でフェリペナスへ集約させているようだ。

AGは日本の表玄関であるシモにいるから、地の利を存分に活かし、私よりずっと広い情報に接している。最近はSJ会士とも積極的に懇親を重ね、かれらの案内に従っていかがわしい集会へも出入りを重ねているらしい。

あらためて大いに語らいたいところだが、すべてが片付いて、全員マニラへ帰ってからの方がいいだろうね。はたして何年後に叶うだろうか。

 

送る宛てはないが、報告を綴る。

今夏、カンパクが死んだ。2代目の方。すなわち暴君タイコーの甥が、である。

政府発表では、タイコーに対し謀反を企てた容疑により逮捕され、幽閉先の山荘で自殺したとのこと。

 

その2週間後、カンパクの係累30名あまりが公開処刑された。

側近や政府首脳は対象でなく、あくまで係累。すなわち正妻・妾・実子たち・養子たちが中心で、その乳母たちや召使も、特に女性ばかりが選り抜かれて惨殺されたのである。

筋が通らない。

いや、通る。目的は明白だ。わかりやすすぎて、唖然とする。

 

タイコーの血縁者は、オヒロイただ一人となった。

 

既に没している、タイコーの実弟には、娘たちがいた。厳密には、この子たちも後継者問題に関与する資格を持つ。しかし今のうちから人口に膾炙するようでは、打算と野心に衝き動かされる人間ばかりを惹きつけることになろう。人格形成は歪んでいくだろうし、成人するまで生きていられるかも大いに怪しくなる。だから、ひとまず考えない。

しかし、私は不思議でならないのだ。

後継者として正統性を持つ人物が幼子ただ一人きりというこの状況は、タイコーにとってちっとも好都合ではない。なぜ、こうなったのか。

むしろ、この状況をつくりだすことで最も利益を得られる人物とは、誰か。

 

カンパクの政権に属していた他の男たちが見逃されていること。

タイコーは名誉職で本来実権など持たないこと。

謀反が計画されていた可能性そのものを、考えなくてよいと思う。むしろこれはタイコーによる謀反だ。

現政権の中枢を排除することに成功した彼は、これからどうするのか?

その後釜に座るのか?

新秩序をつくるのか?

 

こういった議論を、日本人はしない。

おののき、おそれ、徒らな方角へ向かって、ただ祈る。

私は途方に暮れながらも、かれらに語る。君たちの国の未来を、君たち自身が考えなくて、どうするのだ?

 

カンパクにとってオヒロイは自身の地位を脅かす存在だった、だからまずカンパクはオヒロイをいつかは殺すつもりでいた。という風聞も根強いのだが、考えてもみてほしい。オヒロイはまだ幼児だ。仮に役職だけ今から与えておくとしても、自らの意思で政治を動かせるようになるまでには十数年から数十年、誰かが代行していなくてはならない。

候補者は何人もいるだろうが、最も有利な立場にいる行政官は、カンパクだった。

目立った業績は上げていないかもしれないが、他の候補者も同じこと。

実務経験を有し、失政も特になく、おまけにタイコーの親族である。オヒロイの後見を任せるのに、彼ほどうってつけの人物は他にいないのだ。

タイコーの没後、オヒロイを守ることが利益に直結する人物が何人いるだろうか。オヒロイの排除を目論む人物を想定する方が、はるかに容易い。

タイコーへの憎悪で結束する集団も、とてつもない勢力を形成しているだろう。

なぜ、このような四面楚歌に陥る状況を、タイコー自らが生み出し、容認していられるかというのも、私にとっては謎のひとつだ。

 

SJもまた、虎視眈々と、様子をうかがっている。

タイコーを憎悪する集団としては、私の把握していない範囲まで含めたとしても、おそらく最大勢力のはずだ。カンパクの死にも積極的に関与した可能性は高い。タイコーの手札を減らすことに直結しているのだから。

 

ミヤコにはオルガンティーノ以外にも複数のSJパードレが潜伏しており、タイコーやOFMを監視するとともにオルガンティーノも監視対象に含めている。

実に巧妙で、すぐれた諜報戦略だ。だから私はやはりオルガンティーノと仲良くできない。

彼はまさしく裸の王様。

思考も行動も単純すぎて、利用する側には便利すぎる駒なのだ。

 

SJが陰謀をめぐらせるとき、オルガンティーノは必ずその枠外にいる。私たちが注目すべきは彼ではなく、その影の方だ。

しかし闇夜で影は目立たない。

どこもかしこも影になる。

いくらでも隠れることができる。

意思を持つ影と戦うには、陽が昇ってからでなくてはならない。オルガンティーノに協力してもらうのも、そこからだ。

影が身動きとれなくなる状況をつくってから、白日のもとで退治する。

私がやろうとしているのは、こういうことだ。

寓話だが、伝わるだろうか。両刃の剣であることも承知の上でなのだけれどね。

 

「両刃の剣とはどういうことでしょう、フライ・バウティスタ。

敵を殺せる武器が、自分自身へも向けられていることに気をつけよ、という意味ですか?」

 

ちょっと違うね、パウロ。それならば、片刃の剣に持ち替えることで回避できる。

私は陰謀との戦いを光と闇で喩えたのだが、この二つは表裏の関係にあって、どちらかだけが存在する世界はありえない。光が有利になる状況と、闇が有利になる状況は、交互に現れ、永遠に循環し続ける。

光が有利なときに私たちは闇を封じ込めることができるが、闇が有利なときに同じ戦いをすれば、いともあっさり滅ぼされてしまうのだよ。

だから、両刃の剣と言った。

 

「光と闇、正と邪は、常に逆転するものだ、ということになるでしょうか」

 

ほう。面白い表現だね。

まだ違うんだが、それもまた、ひとつの真理には違いない。

 

「今の言葉は、私の学友がよく口にしていたのです。

彼はブッディズモからSJへと改宗して、セミナリヨからノビシヤドへ異例の速さで昇級しました。

ボンズとの宗論で無敗を誇る饒舌家でしたが、デウスの教えに対しても辛辣で、ボンズの側に就いたとしてもSJ相手に同じだけの戦績を稼いでみせると、よく豪語していたものです。

フライ・バウティスタは、彼のようなエルマーノとも、戦えますか?」

 

戦わない。

私は議論が得意ではないから、それほどの才能をうらやましく思う。

私なら、彼の能力を最大限活かせる仕事を考えて、そこで楽しく働いてもらえるように仕向けるだろうね。戦おうとは思わない。

たとえ彼が戦いを挑んできても、私には楽しい行為じゃないから。まっぴらだよ。

 

「フライ・バウティスタは、楽しむために宣教師であったり、医者であったり、外交官であったりしているのですか?」

 

楽しいかと問われると、楽しくなくもないけど、楽しくないことも、いっぱいあるねえ。

宣教師も、医者も、外交官も、仕事だからやっているだけで、決して目的ではないつもりなのだが、向いていなくもないようだし、私にできることだったら有限責任の範囲内でやってみているところかなあ。

うむ、この話はもうやめよう。おやすみ。

 

オーサカからの研修医が、めきめき力をつけてくれている。

かれらの好奇心を刺激すると、きわめて旺盛に、貪欲に学習し、研鑽を積んでくれる。

私がこれまで見てきた生物の中でも、地球の人間という種は、実に面白く、ユニークだ。

私はかれらが大好きだ。

何より、私が楽しい。

まだもう少し、かれらと一緒にいられることを、幸福に感じている。

 

焦らなくていいからね。君たちにはまだまだ、乗り越えるべき課題も多い。

しかし着実に、経験を積んで、成長を重ねて、私たちの世界まで到達してくれることを、私は疑わない。

待っている、その日を。

楽しみながら、ずっと。

 

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