戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1596/001.hmos

グランチナは93年、日本に降伏したはずではなかったですか?

今年は96年です。

とうとうカラを降伏させた。使節団がミヤコまで謝罪にやって来る。さあ国民総出で歓迎し、最強の覇者たる風格を見せつけてやるのです。

そう、タイコーは言ってます。

 

辻褄を合わせるつもりもないらしい。

そんなタイコーに、ミヤコの民が、合わせてあげる。

街区の隅々まで掃き清められ、家々の破損箇所は速やかな修復を命じられ、落書きは厳罰の対象となる。

役人は路地の裏々まで見て回り、住民に笑顔を指導する。

修繕費を残してやらねばならないので、賄賂の要求だけは少し控えめになった。

 

近年増える一方だった路上生活者は行き場を失い、近郊の山林に隠れてゆく。

ここまでしなくては、国の体面が示せないということですよね。

美しい国。醜い虚栄心。

見事な融合。表裏一体。

皮肉はさておき、講和が進展したことは確からしい。

グランチナ使節第一陣がナゴヤで待機中。第二陣も、大型ジャンクで大陸から渡航の準備に入っていると、AGからの通信にある。

いったいどのような条件で、双方は矛を収めたのか。私はこれが気になって仕方ない。

 

侵略は日本から一方的に始められた。コーライは突如、蹂躙された。

ここまでは間違いない。

戦場となったのは緩衝国の領土のみであり、民間人の犠牲も、コーライだけで発生した。

日本には賠償責任がある。

コーライおよびグランチナは、日本にそれを受諾させたのか?できたのか?

タイコーは補償すると約束したのだが国民には隠しておきたい。という胸算用は考えられるが、使節をミヤコに招く時点で、隠し通せるわけがない。

わざわざ大陸側が日本へやって来ることは説明がつかなくもないが、かれらが日本政府に譲歩する理由は思いつけない。ありえない。

コーライ領内で抵抗を続ける日本兵のしぶとさに音を上げたところまでは正解だろう。しかし、それがグランチナの敗北を意味するものでないことは自明である。

日本軍の最高責任者はタイコーで、そのタイコーは日本首都ミヤコに引き籠もって出てこない。

ならば出向いてやり、その顔を拝んでやる。

これがグランチナ前線指揮官の発想だろうと思う。もちろん偵察を兼ねる。かつて日本がハラダ某をマニラへ送りこんできたような水準とは、桁が違うと見るべきだろう。

せっかくだから私も、ミヤコへ来たかれらをじっくりと拝もう。大陸勢の諜報に一端でも触れることができれば、フェリペナスへの良い土産になる。

 

雨季は明けているはずなのに、重苦しい雲が去らない。

夏に入ったとは思えないほど肌寒い日々が続く。今年は作物の実りが悪かろう。そんな暗鬱な雰囲気のミヤコへ、大陸の使節団はやって来た。

 

第一陣は50名くらい。これを、日本の武将たちが囲む。

私たちが来日直後ミヤコで居候をした官僚の邸が、今度も宿所として使われていた。

タイコーは南ミヤコの邸宅で、かれらをもてなす。

大盛況だったとのこと。

 

その前と後とで、使節たちの表情からは著しく緊張が解けていたのを私は確認した。

全員が殺されることも覚悟して来ていたのだろうからな。それにしてもあのタイコーが、かれらに好印象を与えたらしいことは驚きである。

さあ、はたしてこれがどう、大陸の首都へ伝わるか。

 

ところで本来の日本中央政庁は、北ミヤコにあった。

今度の謁見に使われたのは、建前上はタイコーの私邸である。

北ミヤコの政庁は初代・二代目ともにカンパクの住居も兼ねていたのだが、昨夏の粛清で妻子に召使までが殺されたため無人となり、ほどなくタイコーは解体を命じたのだ。

カンパクの職はそれ以来空位のままであり、政庁も無くなった。

では現在の日本元首は誰なのか。

杓子定規に答えるならば、皇帝のダイリであろうと思う。

しかしダイリは存在感すら失って久しく、今回も一切、話題にすらのぼらなかった。

日本国民にとって自分たちの王はタイコーである。これを基準に考えていくしかないように思う。

この場合、日本は法に立脚した国家ではなくなる。

タイコー没後どうなっていくかの見透しも立たない。フェリペナスは日本を対等な関係と見做せない。他の周辺諸国も同じはずである。

 

国家として賠償責任を果たし、戦場にしてしまった土地の再建計画を提示できるなら、援助してくれる国だって現れるだろう。それができない以上は、獲りたい国が毟りに来ても、自力で身を守るしかない。

君たちを無償で守ってくれる存在は、いない。

つい数年前、君たちがカラを手に入れようとした正にそれと同じことが、今から君たちの身にふりかかるということだ。いいかな。外国人である私が教えてあげられるのは、ここまでだ。あとは自分たちで決めたまえ。これからどうしたいのかを。

 

謁見の翌日、嘘のような青空が戻ってくる。

市民の表情も明るくなった。

大陸の使節団も、監視付きだがようやくミヤコ見物に繰り出す。

嘘臭いことは嘘臭いのだが、それでも何かしら良い印象を持ち帰ってもらえるならば、今後の両国が結んでいく関係に、希望を求めるきっかけがつかめるだろう。

そんな淡い期待を抱く。

 

その夜、西の空に彗星があらわれた。

大きい。どこの船だ?

人々はしきりに光跡へ向けて祈りを捧げる。しあわせになれますように、とかかな。私だってこんな無邪気な願いに水を差すほど無粋じゃないよ。

夜更けに教会から山火事が見えた。

 

翌日、火事は全国で発生したらしいとの噂を聞く。

あの彗星は相当に広い範囲で観測できたらしく、それを見ながら夜更かしをする者が多かったせいであろうか。

オーサカの南部では、山ひとつ全焼したという。

タイコーがこの件で激怒しているとの風聞が流れる。

大陸使節団が通過・宿泊・観光する地域からは、浮浪者が強制排除された。かれらは山林へと身を隠し、特にあの夜はあちこちで野火を焚いていたと思われる。

原因・過程・結果がすべてつながっているので何の不思議もないわけだが、とにかくタイコーは激怒した。動員できる諸将に山狩りを命じ、国の美観を損ねる者は一人残らず斬り捨てよと厳命を下す。

第二、第三の使節団がやってくることを考えると、また恒例の処刑で民衆の歓心を買うつもりでもいるのだろうね。

市民は山菜採りに行けなくなり、劣悪な食糧事情がますます、急激に悪化する。

 

病院には、外傷を負った患者が増えてきた。しかもだいたい、夜更けに複数名で駆けこんでくる。

私たちは素性を聞かないようにしている。

一番奥まった部屋で、蝋燭の灯りをたよりに、できる限りの処置をする。

 

日中は、傷だらけの兵士が担ぎこまれてくることも、よくある。

こちらの人たちへは、つとめて朗らかに接してあげ、患者がなんでも話したがるような雰囲気をつくる。

近頃の野良犬はすこぶる凶暴で始末に負えないのだそうだ。大変ですね。今日はどちらの山でお仕事を?

 

その情報を、夜、誰にともなく私は、呟く。そして、明るくなる前に送り出す。

すまないが、匿ってはあげられない。

死にものぐるいの野良犬たちは、静かに頷きながら去っていく。とても優秀な人たちだ。

 

ああ、疲れたね。

早く寝よう。夜明けまでに少しでも体を休めよう。

 

少々危険な綱渡りだが、続ける理由はある。

山に自生する、薬の原料を手に入れるには、優秀な人たちの協力に頼らねばならないのだ。食糧だってかれらのおかげで賄えている。ありがたい限りなのだ。

原因がなくなってくれるのが一番いいことであるのは、疑いないのだけれどもねえ。

それまで耐え抜けるかな。

じゃあ、おやすみ。

 

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