戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

322 / 328
SengokD.1596/002.hmos

ナガサキに、マカンからの定航船が到着。

今年は大物が乗りこんできた。

 

ペドロ・マルティンス。

SJの司教として来日。これをもって、日本は独立管区となる。5年くらい前のはずだが、ルゥーマの教皇猊下がSJに対して承認を与えていたのだ。

東廻り航路にしても随分時間がかかったと思うが、ゴアでバリニャーノと調整でもしていたのか。

ともかく、来るべき者がきた。

 

上陸後、彼はすぐに会士を集合させ、檄を飛ばした。

かなりの強硬派らしいとAGは書いている。日本SJの規定路線を継承・発展さらに推進するつもりのようだ。

カトリックでは日本をSJに独占させるというのが基本方針なので、OFMがミヤコに居座っていることに対して、強い圧力をかけてくると思われる。

仕方ないねえ。

私たちはかれらの船に乗せてもらって、今冬、いよいよ日本を出ていかねばならないだろう。

 

新司教は準備が整い次第、タイコーへ謁見すべく、ミヤコへ乗りこんでくるはずだ。

バリニャーノの失敗をどのように翻してみせるか、大いに注目するところではある。それを見届けるまではミヤコに留まっていたいものだが。

ひとまず交渉役がナガサキへ行って挨拶し、撤退の意思あることを伝えておくのが良策だろうね。

 

協議の末、リバデネイラに行ってもらうことにした。

マルティンスが問題解決能力を備えた人物であれば、それに応じてOFMが掴んできた情報を与えてやってほしい。

追放令の原因については、バリニャーノもマルティンスも、現場から正しい経緯を伝えられていないと思われる。それを知っているといないのとでは、タイコーへの接し方が全然違ったものとなるだろう。

だがそれはOFMにとっても貴重な切り札だし、日本国内でSJに囲まれた状況で打ち明けたりすれば、最悪我々全員がここで消される。そんなの御免だ。

リバデネイラへは、その辺をしっかり言い含めておいた。信用するに価しなければ何も教えず、OFMが今年限りで日本から撤収することだけを約束してきてほしい。それで充分だ。

あとは手紙一本よこして、シモで待機していてくれていいよ。

 

リバデネイラを送り出して数日後、デ・カルバハルがミヤコへ現れたのでぶったまげた。

いつ日本へ戻ってきたんだ?

 

「着いたばかりだよ。

船はイラドの島影に停めてある。SJに気取られてなければよいが。イラドの防諜力次第というところかな。

AGにも気付かれていないようなら、大丈夫だろう。

なぜ来たかって?

君たちを帰国させるために決まっているじゃないか。

さあ、ひからびる前に日本人へ仕事の引き継ぎをしたまえ。

マニラへ戻ったら、君はたっぷり1年は休暇をもらった方がいいな」

 

かれらはルイス総督を説得し、中型船で来日した。イラド長官にたっぷり貢物をして味方に引き込んである。私たちOFMを全員、連れ出して日本を去る。目的は純粋に、これだけだという。

可能であればタイコーやミヤコ知事たちへも挨拶し、禍根を遺さぬようお別れすることも手伝ってもらえる。

私たちがいなくなっても友人たちに余計な嫌疑がかからないよう、跡を濁さず去りたいね。

それにしても、随分無茶をしやがって。おまえたち。

 

デ・カルバハルは、パードレ・アセンシオンとエルマーノ・ブランコを連れてきていた。

2人とも、医学の心得がある。

日本人医師の育成も、かれらに一部を肩代わりしてもらって、ガルシーアと私は交代で少しずつ、熟睡できる時間をとった。

気付かぬうちに、泣いていた。

虚勢を張っていたけれど、心身ともに限界を超えていたみたいだ。持つべき友に救われた。ありがたい。

もう少しだけ、甘えさせてもらおう。

カルバハルたちは、自分たちより後にSJのマルティンスが到着したことを知らなかった。

一方、リバデネイラもAGも、イラドにマニラ船が来ていることを知る由もない。

さて、これらの整合性をとらなくてはならない。

そして私はやはり、タイコーとSJが和解できるのかどうかを見届けてから、日本を去りたい。

 

必然的に、次の手順となる。

 

1.リバデネイラが、ナガサキでSJに説明をする。

2.ミヤコOFMはタイコーに謁見し、今冬で退去する旨を伝える。

3.マルティンスがミヤコへ来たら、タイコーがどんな様子であったか情報を与える。私がSJとタイコーとの会見に立ち会った方がよければ参加し、和解の仲介をつとめる。

4.終了後、反省会や事後処理の検討などをする。病院と教会は、双方合意できればSJに引き継がせてもよいだろう。

5.OFMはシモへ向かい、ナガサキからマカンへ出国する。

6.カルバハル隊はSJとは接触せず、イラドへ戻り、我々の出国を確認後離日し、マカンへ向かってほしい。

7.マカンで合流後、一緒にマニラへ帰ろう。

 

「もったいないな。これだけの医療態勢を整えて、職員の練度も高いのに、みすみすまるごとSJに呉れてやるというのか」

 

SJがここを今より発展させていけるなら、という条件付きでだよ。

SJに譲渡しない場合は日本人が維持していくことになるけど、それも厳しいだろう。経営を指揮していく能力を磨かせるには、全然時間が足りなかった。だったらむしろSJに委ねたい。ということさ。

ところで、グランチナの使節団が今ミヤコへ来ている。

もっと大規模の第二陣がこれからやって来ることになっているはずだが、イラドでこれに関する情報は、拾ってないかね。

 

「私たちがイラドを発った時点では、まだ日本へ到着していないようだったな。

私もマニラへ帰ってからグランチナおよびコーライについての情報を精査してみたのだが、どちらの国も、外交におそろしく閉鎖的だ。日本とは違った意味でだがな。

そこで実態をつかむため、ランデーロ一族の協力に、全面的に頼った」

 

ランデーロ?まさか、あの大富豪から情報をもらったのかい。

たしかに今やエイジア全体を包括する知識を一番蓄えているのは、かれらだろうからね。

チナ、コーライ、日本のすべてに中央政府を通さず商売する販路を持っていて、どこの地域が何を欲しがっているのかを具体的に把握している。

 

「そう。ランデーロ本社は今もマカンにあるが、マニラ支部の方が大きいし、ヌエバ支店も年々大きくなっているようだ。

最近コチンチナやエルモーサにも営業所を開設したらしいよ。もはや並の国家では太刀打ちできない規模に成長している」

 

きっと諜報部門も、フェリペナス総督府より潤沢な予算を使い放題なんだろうねえ。どんな奴らが跳梁跋扈しているのか、とても興味を掻き立てられるよ。

 

「ははは。休暇をもらったら、潜りこんでみるのもいいんじゃないか。

1年後には君が転職している方に1ドゥカード賭けるよ」

 

とっとと破門されて、移っちまうか。

なんて冗談はさておき、ランデーロからはどんなネタをもらったんだい?

 

「グランチナの民衆は、銀を欲しがる。

兵役は、銀を払うことで免除できるんだ。かつて日本産の銀はグランチナで大量に買われた。今は、ヌエバ産の銀がほとんどグランチナへ直行している」

 

兵役が厳しいのか。

グランチナはどこと戦ってるんだ?

 

「大陸の北方に騎馬民族国家があり、ここと昔から仲が悪いらしい。

この騎馬民族、300年前にはコーライや日本まで攻め入ったことがあるという噂も聞いたが、本当かな?」

 

僕は初耳だね。あとで日本人にたしかめておくよ。それから?

 

「コーライで求められるのは、銅だ。

その用途が面白い。コーライには、活版印刷技術が根付いているんだよ」

 

なんだって?それも初耳だが。

独自に生み出したってことかい?

 

「おそらくな。コーライ人の識字率と知識欲は、きわめて高いと考えてよいかもしれない。

識字率といえば、グランチナがあの広大な領土を中央集権政体で統治していられる秘密にも、文字の力が絡む」

 

日本でも使われている、あの複雑な象形文字群のことか。

 

「そう。何千ともいわれるあの文字をすべて暗記し、形も崩さず一発勝負で完璧な文書を作成する能力が、中央官庁の公務員には求められる。

その試験が毎年あり、すべての国民に受験資格がある。

合格すれば一生安泰に暮らせる。

この制度が公正を期して維持されているために、政権の支配力が衰えないのだという」

 

なるほど。修得には膨大な労苦と努力の積み重ねが必要だからね。

しかし……僕も日本語学習の過程で感じたことだが、その体制には致命的な欠陥もあるよ。

間違いを許容できなさすぎる社会では、思考の硬直化と挑戦への忌避感が形成されやすくなる。

それから、グランチナの場合は最初の難関を突破することしか求めないのかな?合格後の安泰が約束されているというなら、登用された途端に官吏は堕落してしまうよ。

グランチナがなぜこれほど門戸開放をしたがらず、あらゆることに決定が遅いのかということに、一瞬で納得ができてしまったのだが。

 

「それはこれから君がじっくり研究してくれたまえ。

ところでランデーロたちは昨今、日本へ来ることを嫌がるのだが、そのためエイジア商圏で不足気味な品目がある。

当てられるかな?」

 

はて。日本の特産品か。

硫黄じゃないか?

日本は活火山帯の上に載っているような島だから、至るところで硫黄が採れる。だから地震も多いわけだが。

 

「あっさり当てちまいやがって。正解だ。

そのため、どこも火薬がつくれなくて困っている。近代工業技術の多くで火薬が必需品になりつつあるからな。

もしグランチナとコーライが協力して日本を平和的に開放できるならば、エイジア全域を豊かにすることにも繋がるんだ。

ランデーロはこれに協力を惜しまないと言っていたよ」

 

なるほど。グランチナ使節団の背後には、ランデーロの思惑も控えているわけだね。

その調整で時間がかかっているのかも知れないな。

 

マルティンスに、どこまで教えてやれるだろうか。

彼の見識と力量を見極めてからということになるが。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。