戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1596/003.hmos

大きな揺れがあった。

しばらく、続いた。

 

このところ小刻みな地震が続いている。今日のは特に強かった。

これで終わりじゃないと思いますよと、近所でも声を掛け合っていた。

 

翌日。土曜の深夜。

最大級の衝撃が、天と地とをひっくり返した。

 

家がいくつも潰れている。

私たちの病院も倒壊した。

鈍く重い雲と、濃い闇夜。

タイコーの邸は高層で黄金色なので、それでもうっすらと見える。屋根が崩落しているようだ。

そんなことより、怪我人を救出する。

 

うめき声を頼りに瓦礫をまさぐる。

広い場所に誘導し、水を確保する。

やがて、火の手があがる。

タイコー邸の内部から炎上している。明るい。たすかる。

朝まで、救助を続ける。

 

陽の光を浴びた私たちは、真っ黒だった。

不可解な量の粉塵が宙を舞っている。口の中が苦い。

東西南北、崩れ果てた家々が連なる。

 

OFM会士は、普段から裸足を原則としているが、今日ばかりは草鞋を履く。

瓦礫を縫って声をかけ、応答があれば総出で材木を動かし、助け出す。

既にお亡くなりの方々も多い。

圧死は、むごい。

御遺体の傍に幟を立て、後日の収容を誓う。

まずは生存者が優先だ。

そのうち、病院を頼って来られる方々が増えてくる。

血まみれ、火傷、打撲に骨折。

医療班と捜索班を分離させ、私は治療に専念する。

布を張って天幕を作るが、黒い霧雨を防ぎきれない。

体が冷える。

小刻みな余震も続いており、手元が覚束ない。

 

これから迫り来るのは、飢餓だろう。

元気な者たちで食料調達班を結成してもらう。くれぐれも、力づくで奪い合いになる状況はつくらないでほしいと言い含める。

誰も彼もが廃墟から、一粒でも多くのコメを集めようとしているはずだ。搗ち合ったら譲れ。緊急時ほど、末端の争いは全体の損失を大きくさせる。可能ならば協力関係を築いて、ここへ誘導してくれるといい。

医薬品には限りがあるが、それでもここは避難所として好条件を備えている。もっと人手が増えれば、瓦礫撤去も速やかにできるだろう。そんな話をして回ってほしい。

わかったら、出かけてくれ。

 

役人や軍人も駆け回っている。

かれらには治安維持という職責があり、こんな有事の際にこそ、その真価が問われる。

だが悲しいかな。普段が普段なだけに、その手際はひどいものだった。

かれらの目には、すべての生存者が火事場泥棒に見えるらしい。

こんな時にまで、少しでも余裕のある者から賄賂を得ようとする姿勢には、吐気を催す。

特にタイコー邸を警護していた軍人の一味がひどかった。ポルシウンクラ避難所から被災者を追い出して、軍人たちの手当てを優先させろという。

断固、拒否した。妥協する余地が無かった。

覚えていろよ、と捨て台詞を吐いて去って行ったが、あなたこそ覚えていてほしい。この国を守る気があるのなら、自分がここですべきことは何だったのかということを、よく考えておいてもらいたい。

 

一日目の夜が訪れ、我々は交代で不寝番を立て、休息をとった。

落命した者に、黙禱を捧げる。

私はやっと、デ・カルバハルの手を握った。圧死だったのだ。すまない。私を救いに来た君が、まさか、ここで斃れるとは。

君の家族に、何と伝えたらよいだろうか。ことばが思い浮かばない。

せめて今は、君の穏やかな寝顔を、記憶に刻みつけておこう。心安らかにパラディーソへ旅立ってくれていることを願う。

 

翌日から徐々に情報が集まってきた。

粉塵の正体は火山灰である。東の方にある活火山が噴火したらしい。

震災は、日本全土を呑みこむ規模だった。サカイなど沿岸の都市には大波も襲いかかり、多くの一次生存者が海の中へと引きずりこまれた。

オーサカの被害は特に甚大で、城下の住宅街が一瞬で薙ぎ倒され、その上を火災が舐め回し、今も炎上中だ。

この都市ではタイコーが集合住宅を造成し、急速な伸長を実現させたのだが、耐震性がほとんど考慮されてなかったものとみられる。

ミヤコの新興住宅地も、概ね同じ傾向にあった。

古い塔や寺院は、延焼さえ防げていれば無事だった。あれだけの衝撃に耐えられる五重塔など、いったいどんな構造なのだろう。

日本人はそれだけの技術を持っているのだという、動かぬ証拠でもある。

ぜひ、今日からでも学び直してもらいたいものだ。

 

対照的なのが、北ミヤコに建造中だった、巨大な人形型の像。

半壊し、禍々しい怪物のような姿態を晒し、周辺住民に畏敬の念を与えたという。

残念なことに、その報告を受けたタイコーがすぐさまこの像を覆い隠せという指示を出し、今はすでに見られなくなっていると聞いた。

それだけの人員を全力で被災者救済に回していれば、彼はどれほど国民の畏敬を得られたろうか。そう思うと心から残念でならないのだが。

 

大陸使節団は、早急に帰国したいとミヤコ知事に懇願した。当然だろう。

知事は素早く対応し、使節団を被害の少なかった地区の邸へ一時避難させたのち、付き添わせていた日本軍海軍司令官に内海の安全を確認させた。

 

一週間も経たないうちに、使節団はミヤコを去る。

私はこの司令官の部下に手紙を託し、ナガサキとイラドに暗号で状況を知らせた。

 

カルバハル以外は全員、無事なこと。イラドのマニラ船が無傷ならばミヤコを撤収して向かうが、もし出航が難しいようならもう1年、ポルシウンクラで復興にいそしむ。苦渋の選択だ。

何もかもが中途半端になってしまったが、我々の限界もとうに超えている。現実問題、この冬を乗り切る間にまだまだ多くの死者が出るだろう。皆で知恵を絞りあって、なんとか生き延びてほしい。

私たちは、出国できるようならば日本を去る。マニラへ戻り、この惨状を伝え、来夏、できる限り多くの救援物資を積んで戻ってくるつもりだ。

そのときに、もっと強い握手を交わそう。約束だ。

 

寒さがひしひしと迫ってくる中、避難所は200名ほどの収容力を確保する規模になった。

不自由ながら、なんとか一日一椀の粥を、患者と協賛員に提供している。

もちろんこれでは、生命を維持する限界にも届かない。

こんなときはね、極力、動かないことだ。今は体を休ませるときだと割り切るんだ。争うなんて、もってのほかだよ。その代わり、当番がきたら、働く。公平にね。

そんな習慣を布教する。

 

震災の日から、ひと月半後。

手紙を受け取る。リバデネイラからだ。

船は無事だ、帰ってこいという。

君も無事か。よかった。

 

この手紙は、オーサカへ上陸した、大陸使節団第二陣と共に届いたそうだ。

なんだって?来たのか?使節団が。

震災の、あとで?

情報を集めたところ、次のような話だ。

 

震災は、シモにも大被害をもたらした。

第一陣使節団は帰国し、コーライで待機中だった同胞に日本の状況を伝えた。

第二陣はそれを承知で渡来し、タイコーへ謁見を申し込んでから、オーサカまでやってきた。

ミヤコのタイコー邸は消失したが、オーサカの城は堅牢だったので、タイコーはオーサカで使節団と会見した。

 

ここからは推測を多分に含むが、大陸の諜報部隊は日本の甚大な被害に同情し、援助を申し出るつもりで、来日したのではないだろうか。

もちろん数年来の侵略行為が無効化されるわけではない。しかし日本が真摯に謝罪し賠償に応じるとしても、その能力が著しく損なわれたことは事実だ。

世界の中で孤立していた日本にとって、今度の天災は、大洋の只中で溺れかけている状態に等しい。

どんな強気の暴君でも、今なら、手をさしのべる者に虚勢を張ったりできないはずだ。

だから、あえて、来た。

タイコーに謝罪させるために。

そして、自分たちには日本の復興を支援する余裕があることを、示すために。

 

希望的観測が過ぎるかもしれない。現地指揮官にそこまでの決定権が与えられているはずもないだろう。

しかし、そうであってくれれば、日本人はすっかり改心して、将来きっとエイジアのために尽くす、輝ける星にもなれると思うのだ。

タイコーよ、気付いてほしい。

あなたには力がある。あなたに忠誠を誓う者が、まだまだ大勢いる。

その力の方向を、変えるだけでいい。

正しい座標を掴むには、周囲をよく見つめることだ。それは、自分自身を孤独から解き放つ方法でもある。

この国を生き続けさせたいなら、その名を未来に語り継がせたいなら、今は二度とない機会であると、私は断言しよう。

 

だから、祈っている。

こんな危険な被災地へはるばる来てくれた使節たちに感謝を尽くして、誇らしい表情で帰国させてあげてほしいと。

たったそれだけで、未来は大きく、変わる。

 

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