戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1596/004.hmos

荷車一杯の食糧が、運びこまれた。

傍らには、ジュアン・ポーブレが立っていた。

私はついにここまで強烈な幻覚を見るまでになったかと、精神の限界を察した。

せめて最後の晩餐を一口だけでも味わってから絶命したいものだがなあ。そんなことを、咄嗟に考えたことを覚えている。

 

フライ・ジュアン・ポーブレ・ディアス・パルド。

OFMのパードレで、私の大先輩にあたる。

84年に一度、日本へ上陸したことがある。そのときも遭難だった。

ポーブレが船に乗ると必ず事件が起きる。だが悪運の強さも持ち合わせているので、彼を乗せたがる船主も一定数いる。

 

「今回の事故は、ちょっとひどかった。

最初の暴風雨で羅針盤をやられた。次ので舵が折れた。3番目ので竜骨にヒビが入った。

そこから5日ほど漂って、陸地に打ち上げられる。日本のトサ島だった。

さすがは、わしのおかげだ」

 

島の住民は、総出で救助に尽力してくれた。負傷者を介抱し、村じゅうの家が可能な限り生存者を収容した。

潮の干満で船体は何度も傾き、やがて破砕するが、昼夜を徹して積荷を浜に運び出す作業を手伝ってくれた。

ポーブレが今日持ってきてくれた食糧は、その一部だ。

 

船長は、マティアス・ランデーロ。

マニラからヌエバ・エスパーニャへ向かう船団の旗艦だった。彼は日本人に深く感謝を捧げ、国王への親善訪問を希望する。震災の話もトサで聞いていたので、運べるだけの貢物を携えて、オーサカまでやってきた。

ポーブレはここで本隊と別れ、ポルシウンクラへ来てくれた。

日本では、イラドとサツマでジャンクを造った実績はあるけれど、その後に継承発展しているという噂は聞かないし、あっても使わせてはもらえないだろう。

ナガサキにSJの定航船が停泊している。僕たちはそれに乗って離日するつもりだ。余裕があればトサに漂着した船員の一部も帰れるだろう。残りは来夏以降だ。それまで日本人にはお世話になる。

お礼と救援物資が、より沢山、必要になるね。

 

「このあとナガサキへ行き、SJとも交渉せねばか。

ペドロ・マルティンス?聞いたことのない名前だな。

リバデネイラがいるのなら揉めることもないだろう。これは純粋に海難だし、我々は出て行くだけなのだから。

かれらにも物資を届けよう。積荷の損害が少なかったのは、まったく幸運だった。

さすがは、わしのおかげだ」

 

翌日、私はミヤコ知事の呼び出しを受ける。

穏やかならざる雰囲気だった。

いきなり、本題に入る。

 

「ペドロ。私は、君から何度も、フェリペナスについて聞いた。

日本よりも小さな島々で、住民はのどかで、あくせく働くということをせず、産業も大きな規模ではないと。

確かか」

 

はい。相違ありません。

 

「昨日、土佐に漂着したマニラ船の宣教師が一名、君の教会を訪ねた。

彼は君の仲間か。

間違いないか」

 

はい。間違いありません。

 

「土佐の奉行衆から、検分報告が届いている。君の話と矛盾する点が沢山あるので、私は、困惑しているのだ」

 

具体的には、どういった点でしょうか。

 

「大船には、多種多様の武器が積載されていた。高値で取引される硝石も、大量に出てきた。

生糸は、ポルトガル船が持ち込むものより質が良い。

その他数々の装飾品類。

あれらはすべて、マニラからの輸出品ということになるか?」

 

すべてがフェリペナス産ではありません。

たとえば日本からヌエバまで直接は行けない。マニラは中継地として都合がよいというだけです。

積荷のすべてがフェリペナスの富を象徴するものではありません。

 

「積荷には、大量の黄金もあった。あれもマニラ産ではないと申すか」

 

そう思います。フェリペナスで黄金が採れるなんて、私は聞いたことがありませんので。

 

「ペドロは宣教師だが、交易については、深くは知らないものか」

 

そうですね。宣教師は人間の精神面に尽くす仕事ですので、交易とはそれほど接点を持ちません。

エウロパ人の往くところ必ず伴うがゆえに、交易船で移動はしますが。

 

「京にエウロパ人はほとんど居らぬが、それにもかかわらず、君たちは暮らしているな」

 

私たちの場合は、なりゆきで、救済を求める日本人への手助けをしているうちにこうなってしまったものです。

知事殿へも、お世話になりました。もうじき帰らせていただきますが。

 

「日本人の霊魂というものは、君たちの間では、高値で取引されるものなのかな」

 

は?

今、なんと?

 

「私はずっとふしぎだったのだよ、ペドロ。

君たちは、どうして私たちのために、そこまでしてくれるのか。

身体をぼろぼろにしてまで、日本という異国の地で、未曾有の天災にも立ち向かってくれていたのか。

日本人ならそんなことは絶対にしない。見返りもなく、他者のためになど働かない。

なのに君たちは、なぜだろう。

実は今も、そのことばかりを考えているのだ」

 

見返り無いこともないですよ。

私は、日本人から多くのことを教えられているのです。友人もできた。

ふしぎなことは、なにひとつ、していないです。

 

「心に留めておこう。

……それから、これも、訊いておくように言われた。

裂けた大船から、あるものが大量に見つかった。

それについて君は、どこまで知っているのだろう」

 

何のことでしょうか?さっぱり、わかりませんが。

 

「カフルといったかな。黒奴だ。

男も女も、大人も子供も、百人くらい繋がれていたそうだ。

全員、そのままの姿で死んでいたそうだよ。すでに沖へ流されていったようだ。

中継でも何でもいいが、マニラでは、そういう商品も扱っているものなのかね」

 

……知事殿へ、私は、隠し事をいたしません。

知っていることを申し上げます。

それは奴隷の輸出だと思われます。

高値で取引される商品です。

 

「誠意ある回答をしてもらえて嬉しいよ。

かつて太閤殿は、ポルトガル人が日本人を拉致することを国の危機だと問題視されたことがある。

日本人も、あのような形で、船の底に繋がれて、外国へ売り飛ばされていったものなのかねえ。

何百人、何千人、何万人、どれだけの規模でそんなことが繰り返されてきたことやら、しれないが」

 

私は、それについて答える術を持ちません。

ただ、マニラやマカンなどでは取引台帳がつくられているはずです。部外者が容易に見られるものではありませんが、日本より連れ去られた者の行方を突き止める手段は皆無ではないと思います。

もちろん、現地で日本の記憶を持つ者を尋ねて回るといった捜索も、できると思いますが。

 

「そこまでは、しなくていい。

当人が戻りたいと思っているならともかく、徒らに騒ぎ立てては、悲しむ人間だけが増えよう。

ただ、黒奴が大勢繋がれていたことは、かなりの波紋を呼んでいる。太閤殿へもすでに伝わっていることを心しておいてほしい」

 

ありがとうございます。心得ます。

 

「ついでに言っておくが、土佐の奉行たちは、薩摩から通訳を呼んで、救出された船員たちへも聴き取りをしている。

かれらは日本人への恩義を感じており、積極的にマニラのことを語っているようだ。何も、かもな。

それは最終的に太閤殿へ伝えられる。

私には止める手立てが無い。わかってくれるな?

だから帰国するなら早いほうがよい。今日はそれも伝えたくて、呼んだ。

餞別をやる。行くがよい。今日までのこと、心から礼を言う」

 

衝撃だった。事態は思わぬ方向へ、音もなく転がり落ちていたのだ。

私は、深く頭を下げ、退去した。

 

危険はもちろん、オーサカにいる船長たちへも及んでいるはずだ。

教えたいが、私はポーブレとさえ、確実に伝わる暗号を取り決めていない。

平文では致命的な証拠となる。

どうする。

 

「彼は聖なる場所に立った。読者よ、気付け」

 

気付いてもらえるかな。パードレだったら、わかるはずだ。

これだけ書いて、飛脚に託す。

私たちも、すぐに逃げる準備を始めた。

 

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