戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

325 / 328
SengokD.1596/005.hmos

置いていけるものは、すべて置いていく。

私たちに必要なものは、ナガサキまで辿りつけるに足る、わずかの路銀だけでいい。

関所を越える通行証もミヤコ知事から出してもらっている。だから、いつでも出立できたのだ。

その余裕が油断を招いたことを反省する。

私たちは一刻も早く立ち去るべきだったのだ。

 

タイコーが、全国の成人男性に、大陸再出兵のため参集せよと号令を発した。

誰もが、耳を疑う。

私はその真偽を確かめたいと思った。

 

使節団第二陣は、粛々と帰っていったばかりである。交渉は、決裂したのか?

背後から、追い討ちをかけるつもりか?

町には浮浪者が溢れている。肉親も、財産も、住居も、希望も失った男たちが徒党を組み、憎しみを弱い者へとぶつけていた。

兵隊へ入れば、食事と衣服と寝場所が支給される。この魅力的な政策は、一時的に市井の治安を改善することはした。

食糧は、東北など震災の被害が少なかった地方から掻き集めているらしい。

軍閥たちは競って男手を奪い合う。狩り放題だ、今のうちは。

しかし復興は確実に遅れる。孤立は決定的に深まる。

そこまで見据えて、やっているのか。日本を、決して信用すべきでない国としてエイジアの歴史に刻みつける、その選択を今ここでするのか、タイコーよ。

 

そこへSJがやってきた。新管区長ペドロ・マルティンス以下、十数名。

オーサカへ逗留し、タイコーへの謁見を調整中と聞く。

私は、彼とは話し合う必要があった。

ただちに、オーサカへと向かう。

 

大波に襲われた地域は泥だらけの残留物で今なお溢れかえっており、至るところから猛烈な腐臭が漂っていた。草鞋を履いていても、足の裏がすぐ血まみれになる。

私は最初にパウロたちが運営するベトゥレヘム診療所へ薬を届けに寄った。ここはもとSJの施設だったので、ミヤコ以上に旧信徒からの妨害が激しい。

マルティンスも訪ねてきたそうだ。尊大で、高圧的で、OFMとそれに味方する日本人は卑劣な裏切者であるという態度が鮮明だったそうである。

ありがとう。

よく耐えてくれた。

 

私の期待する未来からすでに大きく離れていることを、あらためて覚悟する。

しかし、だからこそ会っておかねばならないだろう。これから起きることを精確に予測するためには。

 

マルティンスとは、すぐ会えた。

私は先に、OFM全員が数日以内に退去すること、ミヤコの避難所はSJの管轄下で運営してもらいたいこと、離日の際ナガサキの定航船へ乗せてもらいたいことを申し述べておいた。

被災地を放り出して逃げ出すのか、という頓珍漢な嫌味を言われたが、それも含めてマルティンスの性格を推理する。大局的な視野を持っていない。攻撃特化型だ。

SJにはこういうタイプが多い。

 

「トサに漂着した密貿易船の連中は、どうするつもりなのだ。あちこちで揉め事を起こしていて、目障りでかなわん」

 

かたじけない。ナガサキへ着いたら、トサとも連絡をとりましょう。

あちこちで、ということは、トサを離れた者もいるのですか?

 

「船長たちがタイコーへ貢物をしたろう。そのあとトサへ戻ってきたら正体がバレておったというわけさ。

船員は収容所へ隔離され、積荷はすべて没収。おまえたちのパードレも、そこで逮捕されるはずが、逃げ出したというぞ。

いま役人もオーザカとトサの間を駆け回っている。

よいか、我々は一切この件に関わりを持たぬ。フェリペナスの犯罪はフェリペナスが片をつけろ。まったく、迷惑ばかりかけおって」

 

ミヤコ知事が警告してくれたおかげで、半分ほどは予想していたが、事態は更に悪くなっていた。

没収だと。武器か。

それをふんだくれば大陸で次は勝てると目論んだか。

ランデーロ船長やポーブレたちを全員、密貿易船で漂着した犯罪者に仕立て上げることで、掠奪も正当な行為であると強弁する。誰かが、それを思いついた。タイコーは一も二もなく飛びついた。

辻褄は合う。

 

私は、ハッと、ひらめいた。

パードレ・マルティンスよ。御教示、感謝します。マニラへ戻り次第善後策を協議して、来夏、回収のための船を派遣します。日本政府ならびに日本SJへも補償をしたいと思います。

つきましては、フェリペナス人が日本に留まっている間、かれらの便宜を図っていただくことを、お願いしてもよろしいですか?

 

「おまえたちの言うことは、あてにならん。トルデシリャス条約に違反してコソコソ日本へ潜り込んで布教してきたメノールの宣誓などはな。

私は、タイコーへきちんと説明するつもりだ。エスパニヤはポルトガルより何倍も大きいが、それだけ欲も深い。

最初は優しく手を差し伸べてくるが、肚の中は真っ黒だ。トサに沈んだ船のようにな。

これまでも、おまえたちが日本で我々になりすまして行ってきた犯罪は数え切れぬほどある。私たちの関係にヒビを入れてきたのは、おまえたちだ。

だから、二度と来てはならない。

いいな、二度と来るな。日本はコンパニヤの管区だ」

 

確定した。

マルティンスは、OFMとフェリペナスを一義的に悪者と貶めることで、タイコーに追放令を撤回させるつもりだ。

 

条件は揃っている。第二次大陸侵攻へも全面協力を惜しまないだろう。

自信のほどを見るに、すでに政権内部の工作員とも口裏合わせができていると思われる。

しかし、いいのか。日本は滅ぶぞ。

それで、いいのか?

 

私は帰る前に、もう一度ベトゥレヘム診療所を訪う。

SJ管轄になれば、民間人を追い払って軍閥御用達にされる可能性が強まった。職員は徴用され、大陸で野戦病院をつくれと命令されることもありえる。

OFMはいない。防波堤になれない。

だから、これまでの信条に反することをせねばならなくなったとしても、その都度自分自身で決断して行動してほしい。

おそらく、信義を貫こうとするとろくなことにならないからね。

いずれにせよ自分で決めて動いたことなら、後悔もちょっとだけ少なくなるだろうと思う。そのことだけ、伝えておきたかった。

アディオス・アミーゴ。

 

ミヤコへ戻り同じ話をした。憂鬱になるが、ひとまず眠る。

翌朝、更に状況が変わった。

兵が病院を取り囲んでいる。

 

まだ逮捕ではないが、外に出ることは認めないという。いつぞや悶着したタイコー邸守備隊のようだ。

宣教師は出国するから港へ行かせてくれ、と交渉するのだが聞いてくれない。

避難民の日本人男性が兵士になるため出ていく場合のみ、許可される。不思議な基準だと思うが、不可解なわけでもない。

最低限のコメは差し入れられるが、薬の材料を採りに行けず、診療もできない。

 

監視の兵も退屈してくるので、数日すると、そこそこ対話も弾むようになった。

かれらは以前シモに領土を持っていて、SJ信徒を殺しまくった猛者らしい。大陸でも優秀な戦績を重ねたが総大将が手違いをやらかしてミヤコへ左遷となった。

左遷なのか?首都なのに。

察するところ、タイコーの傍に配置されることは、貧乏くじに当たるようなものなのらしい。

それでもあの大震災の日、この兵たちの総大将は真っ先にタイコーの許へと駆けつけ、過分な栄誉を与えられたとのことで、近く前線に戻れるだろうという。

不思議な感覚だと思うが、不可解なわけでもない。

 

何日目かに家宅捜索をされた。

しまった、その可能性は考えていなかった。

庭に集められ、寒風の中、身を寄せ合いながら、兵たちが家捜しするのを見守る。

畳なども引っぺがしているのが、音でわかる。

失敗した。せめて、土の下に埋めておくべきだった。

 

呼ばれる。

行く。

この金塊はどこで手に入れたのかと尋問される。

信徒からの預かりものだと答えるが、通用しないこともわかっている。事実、それ以上の説明は不可能なのだ。

 

私たちは、どうやら正式に、犯罪者と認定された。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。