戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1597/001.hmos

オーサカでも手入れがあった。

パウロたち5名が連行され、私たちと同じ牢に入れられた。

総勢24名。

12歳の子供もいる。病院の、従業員の家族だ。

エスパーニャ人は、私を含めて6名。

ゴンサーロ・ガルシーアは病院開設以来ずっとずっと働き詰めだったため、数年ぶりの惰眠を貪ってもらっている。

 

拷問は想像していたほどではなかった。最初の数日だけだった。

その後、監禁状態が続く。

上層部で対応を審議しているものと思われる。

 

ひと息ついた囚人は全員でかわるがわる、思い出話をして過ごす。

18名の日本人は皆、SJともOFMとも何らかの関わりを持っており、一人ひとりが唯一無二の複雑な心境を吐露した。

私はかつてモニカにディオスの非実在を説いたが、同じ質問は、この牢では出なかった。

誰もが御主の存在を疑わず、そして自分たちがこれからマルチレスとなる、すなわち無抵抗のまま殺されるべきであると決意表明したのだ。

異議を唱えることは可能だったが、私はかれらの自由意志を尊重することに決めた。理解できなくもなかったからだ。聖書には、そうせよと書いてあるのだから。

そして、決めたからには、かれらの夢を壊させまい、その幻想を最後まで私が守り抜こう。そのように規範を設定した。

 

すでに日付がわからなくなっていたが、ある日、外に出るよう言われた。

縛られたまま刑場まで歩く。いよいよか。

 

そこは見通しのよい河原で、川向こうには観覧客がひしめいていた。

風が凍てつく。

石場の上で整列したまま正座させられ、一人ずつ前に出される。

台の上に頭を載せられ、両耳と、鼻を削がれる。

これは日本人が好む虐待行為の一つで、コーライでも多くの民間人に対して行ったと当事者から聞いていた。

激痛を伴い、失血も甚大だが、致命傷には至らない。私は痛覚を遮断した。

24名のうち、未成年と老人、体格の虚弱そうな者は片耳だけで許されているようだ。まだまだ殺しはせぬ、ということか。

全員終わるまで時間がかかる。意識はすっかり遠のいていた。

 

午後から、我々は牛車に分乗させられた。ミヤコの街区を、血まみれの姿のまま巡回する。

住民の半数が見物に群がっていると仮定しても、随分と少ない。特に若い男が、ほとんどいない。人口減の深刻さを実感する。

皮肉にもなっていないな。

ああ、血流が足りない。思考力がどんどん失われているのが、わかる。

 

我々は、新しい牢で夜を明かした。

建物が汚れてしまうため、庭に、竹製の簡易収容所が作られたのだ。ご苦労なことだ。

それなりの量の、煮豆のようなものが、桶に入れられ運びこまれた。

交代で首をつっこみ、むさぼり食う。

寒いので、二人一組になり、抱き合いながら眠った。

夜中、何度も誰かの絶叫で目が覚める。鼻のかさぶたが、鼾の衝撃で剥がれてしまうのだ。私たちはこんなとき、ミゼレレを唱える習慣をつくった。すまない、とか、大丈夫だ、など呟かれるよりずっといい。

 

翌日、我々はオーサカまで歩かされた。

到着後また車に載せられ、オーサカの観光へと繰り出す。

黄金色に輝く威圧的な城が、どこからでも我々を睨みつけている。

時折、人影を見たが、タイコーかどうかはわからない。さぞや御満悦なことだろうな。

街はまだまだ瓦礫の山で、ミヤコと同じく、男の数は少なかった。

タイコーには、この現実が見えているのだろうか。見ていて、なおも続けるか。

わからないな。私には、到底理解が及ばない。

 

翌日は雪で、一日、竹牢の中で休んだ。

その後サカイへ行かされた。オーサカ以上に滅茶滅茶な破壊の跡だった。

大商都だと聞いていたが、復興の目処も立っていないようだ。

牛車観光を済ませてオーサカへ戻る。

いつまでこんな余興を続けるつもりだと辟易していると、そこから流れが変わった。

我々24名は厳重な監視のもと、西へ向かってひたすら歩かされることになった。

 

最初の町はアマガサキといった。我々のための竹牢がつくられており、そこへ収容される。市中観光は無し。少し良い食事が出た。

ここで収容者が一人増える。ガヨという、体格のよい信徒だ。

志願して罪人に加えてもらったという。自分もマルチルになるとの固い決意で臨んでおり、すぐに全員と打ち解け、疲労や損傷の激しい者への介護に一晩中、全力を投じてくれた。

理解しがたい面もあるが、彼の献身がどれだけ私たちの支えとなったかは語り尽くせない。

しかも彼は言う。兵隊に入って異郷で死ぬことを選択する方が信じられませんと。

ああ。確かにそうだ。

ならば、私たちと一緒に死んでくれ。

 

ガヨによると、どうやら私たちはナガサキまで歩かされるらしい。そこで磔刑に処せられる。タイコーがそう命じたそうなのである。

そうなのか。ひとまず行先がわかって、少し気が楽になった。

そこが私たちのゴルゴタなのですね、と誰かがつぶやく。途端に全員が恍惚の表情を浮かべる。

嬉しいのか、おまえたち。

痛覚が刺激されすぎて、おかしな脳内麻薬物質でも生成されたか。ひょっとして、ヂシピリナ嗜癖とも関係あるものか?

しかしそれが今の私たちにどれだけ必要なものであるかということも考える。

いったいどのような環境適応を経て日本人にそんな機能が備わったものかと興味は尽きないが、時間のかかる研究は、ひとまずお預けだ。

 

一日ごとの中継地は、綿密に距離計算され、前もって連絡を受け、準備されていた。

基本は朝食後出発し、夕方まで歩き詰め、宿営地の役人に引き継がれる。

首都圏を離れるにつれ、役人も住民も刺々しさが薄れてゆき、どこだったかでは、熱々の握り飯と汁物を振舞われるなど、まるで国賓級の扱いを受けた。

全般的には予定時間遅延に対して異様なまでの厳しさがあり、天候が悪くなると役人の態度も豹変して、急き立てられるのが辛かった。

途中もう一人加わり、護送者は26名となった。

全員が足裏を凍傷で腫れ上がらせており、痛みと痒みでまっすぐ歩くことすらできない。そこで後半は朝から車に載せてもらえる区間も現れた。

ありがたいが、体を動かさないと寒さが余計に厳しいねと、身を寄せ合いながら私たちは贅沢な悩みを口にする。

 

舟で海峡を渡り、シモ島へ入ってから、また雰囲気が変化した。

我々への敵対心が鋭利な刃物の如く刺さってくる。

ナゴヤを中心に前線基地が集中してくると、戦場を実感する緊張が高まる。それに加え、シモではSJの監視と洗脳が行き届いているからではないかと推量する。

マルティンスはどんな風にOFMの噂を流しているのだろう。ディオスの名を騙る、悪魔としてか。そしてむしろタイコーは今では救世主か。

町の信徒に訊いてみたいが、叶うまいな。

 

ナガサキは、山側から入ろうとすると随分勾配が激しく、小刻みに昇降を繰り返す。

峠の上で、男が2人、待っていた。

ひとりは、ツヅじゃないか。

ゴンサーロの変わり果てた姿に驚愕しながら、役人と交渉をしている。

26名のうちSJに属する者が3名いる。かれらは釈放されるべきだ。駄目ならこの場でコンヒサンをする時間を与えてもらいたいと。

 

途中から増えた2名分なら逃がしてやっていいのじゃないかと私も思うのだが、すでに十字架は26本分準備させているので駄目だと役人は言っている。

ご苦労なことだ。

 

かれらが押し問答をしている間、予期せぬ休憩がもらえた。

日向にしゃがみ、少しまどろむ。

この旅も、まもなく終わるのか……

合格点は、出せなかったな。

 

そのとき、シグナルを感知した。

 

((( CQ、CQ。

こちら、ハヤタ。こちら、ハヤタ。

未登録者がいればコールせよ。1回でよい。

未登録者がいればコールせよ。)))

 

近くに、仲間が、いるのか……

私は、コールした。

 

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