セブン、レッドマン。
私は、セブン、レッドマン。
((( セブン、レッドマン。了解。
こちら、ハヤタ、ヒカリノクニ。
明日処刑される、二十六勇士の中にいるのか? )))
たぶん、その一人だ。人間に乗っている。
((( ノイズがひどいな。私が出力と感度を最大にするから、君は最低出力でささやけ。)))
この声量でどうか?
((( OKだ。拾える。)))
君の乗物は人間か?余命を縮めてしまわないか?
((( 心配ない。この乗物は使い潰して次へ移る。それより君こそ、明日まで生き抜け。)))
かたじけない。さて、君は、どこにいる?
((( 処刑場の下見に来ている。明日、君たちの死を見届けるつもりだ。)))
なぜ、私の存在に気付いた?
((( ミヤコでの医療活動を知った。
人間にできる発想ではないと思ったよ。だから、その中にいるのではと考えた。)))
ちょっと、やりすぎてしまったかな。
私たちの他に、仲間はいるか?
((( ああ。大量に集結している。この付近だけでも相当数いて、皆、乗物の習熟中だ。
特に外洋には、エースという、私の愛弟子が泳いでいる。私よりもこの星について詳しいよ。人間からは、レビヤタンとか呼ばれているな。)))
それは怪物の名前じゃないか?
((( そうみたいだね。
ところで、君はなぜ逃げないんだ?
ずいぶん不自由な状況に自らを追い込んでいるようだが、何か狙いがあるのかね。)))
ああ……逃げたら、たぶん僕は、人間たちから、バケモノだったと語り伝えられてしまうだろうからね。
((( そう語り伝えられると、何が困るんだね? )))
ここまでついてきてくれた勇士たちの幻想が壊れる。それから、私の乗物だった人間の名誉に傷がつく。
((( わからない。そんなもの尊重して、何か意味があるのかい。)))
人間にとっては、たぶん、大きな意味があるよ。
実は私は、この乗物の生命を、不注意から、奪ってしまったんだ。
すぐに乗り移って意識を保全したんだが、せめて、この人間が本来全うすべきだった筈の生涯を引き継ぎ、最期まで演じてやりたいと思った。
この人間に化けたまま、人間らしく死なせてやろうと誓ったのだ。
結果、こうなってしまったわけだが。
((( 人間になりすまして、ばれないように演技しつづけてきたというのか!
それはまたずいぶん、エキセントリックなことを考えたものだな。)))
そんなに驚かれるようなことかな。
((( 被実験動物の感情に配慮すべきだとか主張するイデオロギーも、たしかにあるけれどもねえ……
ちなみに、君の乗物は、今も意識を保っているのかな? )))
いや。もう死んでしまった。
大地震の日以降、必要なエネルギー摂取が困難になって、呼びかけても、返ってこなくなってしまったよ。
((( その性格だと、君は栄養を確保するときも自分を優先しなさそうだな。よくないぞ。
ひとまず承知した。明日、その乗物は破壊される。
次の乗物に移ったら、コールしてくれ。
積もる話は、それからにしよう。)))
わかった。……ああ、ひとつお願いしておきたいことがあるんだが。
((( なにかな? )))
君が人間に乗っているうちに頼みたい。
実は私は、自分の罪状を知らないのだ。
直接の決め手は、床下に隠していた金塊を見つけられたことなんだが、それだけでここまでの仕打ちはひどすぎる。
余罪を山ほど付けられているはずなんだが、それを知りたい。
((( 裁判……なんて、行われているわけがないか。)))
そういうこと。
((( わかった。調べて、何らかの形で記録しておく。
それだけでいいか? )))
ありがとう。あとは、静かに見守っていてくれ。
((( カーテンコールまで、邪魔をしないよ。
それでは、健闘を祈る。
交信終了。)))
私は、ゆっくりと、目を開いた。
おだやかな木漏れ日が、厳かに、最後のエネルギーを与えてくれているのを感じた。
傍らに立つ兵士に、駄目もとで、尋ねてみる。
明日、私は磔にされ、身体を切り刻まれるはずなのだが。
その前に、この着物を脱がせておいてもらうことは、可能だろうか。
日本へ来てすぐの頃、好意でつくってもらった修道服なのだが。
私はそのとき、心から日本が大好きになった。
以来、毎日、欠かさず、着てきた。
汗と血と泥で、すでにボロボロではあるけれども、私は、この着物に、これ以上、傷をつけるのが忍びないのだ。
どうか、お願いしたい。
兵士は、ぽかんとしていた。やがて、口を開いた。
「知るか。ふざけるな、罪人」
……やっぱりなあ。
僕は、こんな服一着も守りきれない。ほんとうに、無力な人間だったよ。
みんな、すまない。
でも、ありがとう。
君たちのことを、僕は永遠に、忘れまい。