戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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聖週に入ると、各地から、信徒が続々と集結した。

 

何人も引き連れて、馬や輿で参上する者もいる。

一方で、泥棒や追い剥ぎをしながらやっと辿りついたのだろうな、としか思えないような連中も来る。

そんな犯罪人には安易に赦しを与えるべきではない。

聖週だから当然、皆がコンヒサンを望む。

仮に私が日本語を完璧に使いこなせ、かつ、10人の声を同時に聞き分ける能力を備えていたとしても、復活祭までには片付かないだろう。

日本人信徒を総動員するとしても、ただでさえ狭い教会にコンヒサン用の別室をひとつ設けるだけでも難儀するのだ。

 

ミヤコだって日本人は鍵をかけないし、部屋の仕切りは紙の衝立のみ。

すでに連日、隣家の人たちから、うるさいと猛抗議を頂戴している。

だからせめて晩は早く閉店したいのだが、ヂシピリナは夜が更けるほど盛り上がってゆく。

始めたら、止められない。

 

「今日はヂシピリナをしないだと?正気か、パードレ・フロイス。信徒が何を求めて集まってくると思っているのだ。かれらの期待に応えないつもりか」

 

イルマン・アルメイダよ。ならばせめて、おねがいだ。お隣さんが怒鳴りこんで来たときは、君が宥める担当をやってくれ。

私の鞭では信徒が満足しないのは承知の上だが、邪宗徒との交渉は、もっと苦手なんだ。

察してくれ。たのむ。

 

悲鳴を上げる力すら失った肉体で、復活祭をなんとか乗り切り、私は屍のように眠った。

目覚めると、アルメイダは去ったあとで、かわりに、ヴィレラが戻ってきていた。

 

「たるみすぎだ、フロイス。君は、ドジコスの身分から、再出発した方がよいかもしれない」

 

ひどいことを言う。でも、なんも言えねえ。

粥をすすりながら、あらためてヴィレラより、ミヤコで生きる心得を、聞く。

 

人はすべて泥棒だと思え。

困った者を下心も無く助ける日本人などいない。

鍵をかけないのは、かけても無駄だとわかっているからだ。

鍵屋など儲からないし、客より訴訟人の方が多く集まる。

金目のものは、そもそも持つな。

持つなら、かくせ。

家族にも、打ち明けるな。

 

納得したよ。

私たちがシモから持ってきた献上品は、きれいさっぱり、どこかへ運び去られた。

ヴィレラと、幹部級の信徒たちが、即、隠したのだ。

私はまだ信用されてないので、教えてももらえない。

一貫しているね。

 

「100年前の大戦以来、ミヤコは全国から浮浪者と成上がり者を惹きつける引力の中心と化した。

ダイミョウたちはそいつらを取り込み、槍を持たせて敵対勢力を襲わせる。

生き残っていければ姓名を与えられ、鎧を着て、カタナや馬を持つこともできる。そんな誘惑が、若者たちを駆り立てる。

戦えない者……手足や視力を失ったり、年老いたり、あとは女。かれらは、坊主どもが連れていく。

寺になら、そんな連中にも仕事を与えてやれる。ロクなもんじゃないがな」

 

私はつい、ロレンソの方を見た。

盲目のロレンソは、聞いているのか、いないのかすら判らぬ表情のまま、器用に飯を食べていた。

そもそもの認識から改めなくてはなるまい。日本は、全土が戦場である。

そこへ飛びこんできた私たちも、常に死と隣り合わせなのだ。

マルチルになろう、なんて口にするのもおこがましかった。

 

「坊主を、私たちと対等の商売敵だと思ってはならん。子供をさらい、戦闘員として鍛え上げ、勝たせたい領主のもとへ献上するのは、寺のつとめだ。エスピンガルダの製造も、あちこちの寺がやっているんだぞ。女や老人にも仕事があるという意味をしっかりと把握しろ」

 

衝撃だった。思い当たる節も多い。

ブンゴに1000挺のエスピンガルダ部隊がいる、と知って驚いた記憶があるが、そもそもそれだけの数を定航船から輸入しているはずがない。

日本人はエスピンガルダを量産できるのだ。

すでに、各地で、大規模に。

 

「クボウサマから与えられた布教許可状では、我々は戦争協力を拒むことができる、という一文がある。私が断乎、譲らなかった条件のひとつだ。

通常、坊主どもの寺では拒否が認められない。

日本中の寺は、戦場の近くにあれば、いつでも兵士たちの宿泊所となり、坊主どもはこれに無制限の協力をする。

当然、攻撃対象にもなるから、破壊され焼かれることも珍しくない。

こんな奴らと、口喧嘩だけで渡り合おうとでも考えていたのなら、即刻ドジコスに戻りたまえ。と、念のために言っておく」

 

……完全にお見通しかよ。ぜんぶ、先回りされたな。

反論、できません。なんも言えねえ。

 

「カミも戦争協力の一員だが……なに?カミキョウのカミじゃないよ、フォトケじゃない方のカミだ……

おいおい、ドジコス・フロイスくん、いいかげんにしろよ。

日本へ来て3年目にもなって君は何も学んでないというのか。

フォトケというのは、シャカのことだ。

こいつらが来た1000年前より以前から日本にいたのが、カミだ。

この2つは既に相当混じり合っている要素もあるが、たとえば戦争勝利はカミに対して祈願し、死者を弔うのはフォトケが担当する。

日本のダイミョウは、出陣前、カミに対して、戦争する理由と、その勝利祈願を宣言する儀式を行うのだ。ミヤコでもシモ島でも、66領国すべてでやってるはずだ。

キショウモンという文書の形にして、読み上げ、遺すのだが、我々の布教によってカミもフォトケも棄てた領主のもとでは、キショウモンがつくれない。

この問題をどう解決したものかという話をしたかったのだが……おいドジ、君という人間には呆れた。まったく、不勉強にもほどがある。

これ以上何を話したところで無駄だな。いま俺が話した内容だって、ひとつも覚えちゃいないだろう。

ああ今日はやめだやめだ。ごちそうさま。食器は君が洗いたまえ。

ねえ諸君、今日はこの人が全部するから休んでいいよ。1時間したら皆で聖歌を練習しよう。

じゃあドジ、やっとけ」

 

 

洗濯なんて、何年ぶりだろう。こんなに、疲れるものだったか。

足で踏んでいたら、少年から怒られた。日本では、手で洗わなくてはいけないという。

しゃがんで。ものすごく、時間がかかって。腰も悲鳴を上げた。

悲鳴は、いいね。

まだ生きてるんだって、実感する。

 

夜、ロレンソが、話しかけてくれた。

 

「おつらいでしょうが、ヴィレラ殿なりの、愛情だと思いなさい。私からも、お伝えしたいことがあったのですが、今日は、やめておきましょう。フロイス殿が、早く一人前になってくだされば、私どもは、うれしいです」

 

ああ……なんも言えねえ。

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