アントニオ・ユキノ・サイモンジョウ殿。
あなたは3年前、私たちの兄弟となり、両親および主君にもよく尽くし、誠実にして立派な人生をまっすぐ歩み続けました。
あなたを慕う部下たち、信徒たち、そして私たち宣教師も、誇らしい気持に満たされています。
短い間ではありましたが、共に過ごした日々に心から感謝します。
今はすべての重荷を下ろし、パライゾで安らかに憩われていることでしょう。
御主のみもとで、私たちの輝ける導き手となってくださいますよう、祈りを捧げます。
アーメン。
葬儀を、可能な限り盛大に執り行った。
ミヤコの外郭に信徒が土地を持っていて、そこを墓地にしてある。
兵士に見守られながら行進し、埋葬し、多くの蝋燭を灯した。
ミヤコ中の人が、物珍しさに群がった。
これだけの葬儀をして、一切カネはとらない。
ただ、無理をしない範囲で寄付をいただければありがたい。説教を聞きに来てくれれば本望だ。
毎度毎度これだけの規模でとはいかないが、私たちはすべての信徒に対し、その洗礼から帰天までを見守り、決して疎かにはしない。
貧しき者には目もくれない坊主とは、何もかもが違うのだ。
そのことを見せつけてやる、よい機会だった。
コスメ殿の情報によると、アントニオの死因は、毒殺。
そこまでやるか、と憤懣やるかたない思いであるが、坊主としては何がなんでも、私たちを排除したいらしい。
ほんとに坊主の仕業だろうかって?
たしかに証拠はない。
しかし、アントニオを殺して誰が一番得をするかといえば、この点については、坊主しかいない。
その奥から手綱を引いているのが、われらの最大の敵、ソウダイだ。
状況がやや複雑になってきたので、整理する。
カワチ国イイモリを本拠地とするミヨシドノ。
キナイを掌握する、実質的な支配者となりえる唯一の実力者だ。我々の味方である。
その筆頭家臣に、ソウダイという老人がいる。
骨の髄までフォッケ宗に染まっており、悪魔的頭脳でミヨシドノをたぶらかそうとする。
我々にとっては、坊主より手強い敵なのだ。
そういえば、アルメイダはソウダイに会ってからブンゴへ戻ると言っていた。
タモン城へテンジク人が訪れた噂は、コスメ殿の耳にも入っていた。アルメイダは実に大仰に感心し、城主ソウダイを讃え、高価な土産物を与えられて、無事に立ち去っていけたようだ。
しかし本人からその後、便りひとつ来ないので、詳細も真意も掴めないでいる。
アルメイダよ、ひどいじゃないか。
私からは、しつこく催促しているのだが。
ミヨシドノの軍には、大勢の百人隊長がいる。
アントニオやアンリケらは、これに属する部将たちだ。いずれも、ロレンソが授洗した。
配下の兵が教会へ送ってよこされ、私たちは彼らを信徒にして返す。
デウスの教えを理解した兵士は迷いが無くなり、主君へ絶対の恭順を示すようになると好評だ。
この美しい関係を、無能かつ驕慢な坊主たちは妬む。
自分たちだって陰ではエスピンガルダの製造とか、傭兵の錬成とか、しっかりやっているんだが、私たちには嫉妬を覚えるらしい。
でも自らを正す発想へは行き着かない。
だからこそ坊主だ。嘆かわしい連中だ。
三位一体の主日に、ミヨシドノはクボウサマを斃した。家族親族も一人残さず殺した。
妃だけは逃げ出し、市中のテラのひとつに匿われていたそうだが、数日後に発見され、首を刎ねられた。
ここでも、坊主はいったい何をしているのだと思うところもあるのだが。次へ行こう。
ミヨシドノへの政権交代は、すんなりいかなかった。
随分と揉めている。ミヤコには、ミヨシドノの兵があちこちに立っていて、治安は守ってくれているが、この兵たちもだんだん退屈してきたり、食糧を求めて市民への乱暴を働きだしたという噂も流れてくる。
私たちの教会へも、信徒の避難者がいま60人くらい詰め寄せてて、収拾がつかない。お隣さんからの苦情にもさらされている。
身寄りのある者は親族同士で助け合うべしと、調整に明け暮れている日々だ。
いつまで、この世情混乱が続くのだろう。
そんな思いで、疲れきっていたところへ、アントニオ殿が殺されたという、知らせが届いたのだ。
アントニオ隊は、ミヤコへ入ってから、テラの一つを兵舎にしていた。そこで、毒を盛られた。
2日ほど苦しんだ末の、最期だったという。
坊主が弔おうとしたが、部下が、隊長はデウスの信徒なのでと拒絶した。
坊主が知らなかったとは考えにくい。
アントニオも、配下の信徒も、毎日祈りを捧げていただろうし、軍装にはしるしをつけていたはずだから。
なお、隊の兵らも、コスメ殿も、そのテラの名をどうしても教えてはくれなかった。
ヴィレラも、しつこくは求めなかった。
私たちが赦したとしても、血気に逸る信徒か求道中の者が、躓きを起こさないとも限らない。
知らない方がいいだろう。しかし、葬儀だけは盛大に行おう。
道半ばで旅立ったアントニオへ、せいいっぱいの祝福を捧げよう。
そう決まった。
夏の夜空を見上げつつ思う。
今年の定航船は、どこの港に入っているかな。
パードレは何人、やって来たかな。一人よこしてもらいたいな。
アルメイダやモンテが手紙をくれなくたって、トマスが戻ってくれば、いろいろな話が聞けるだろう。
それまでにミヤコは、落ち着いてくれているだろうか。
外で寝ていると、虫を防げない。
おかげで肌が、ボロボロだ。