戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1565/015.hmos

ダイリサマとクボウサマ。

日本における2つの王権。

 

ダイリサマは、2000年続く血統に立脚している。

クボウサマは、軍事力を有し治安と防衛を司る。

ヴィレラは、クボウサマから布教許可状を発給された。

ダイリサマとは交渉もしていないという。実権は形骸化しているし、仲介者だって見つからないのだそうだ。

 

先月、クボウサマが斃された。

ミヨシドノへ覇権が移るかと期待されたが、事はうまく運ばなかった。

クボウサマの許可状をただちに無効とされてはたまらないが、ひとまず宙に浮いてしまっていることは確かだ。

私たちはミヨシドノの兵に護衛してもらいながら、事態の収束をデウスへ祈っていた。

そこへ信じられない噂が飛びこんでくる。

ダイリサマが突如、布告を発した。

私たちに、ミヤコから出て行けという。

 

いきなり横から、何を言い出す。

信徒たちの動揺も、はかりしれない。

政治的工作を得意とするフォッケ宗坊主どもの仕業であることは、疑う余地も無いだろう。

 

ミヨシドノの家臣にして悪魔の権化ソウダイが絡んでいることも、容易に察せられる。

クボウサマを殺したのは、ソウダイ直隷の兵士たちだという情報も得ている。

奴は、目的のためなら容赦ない殺戮も平気で実行する男のようだ。

次の標的は、私たちか。

今日にでも軍勢が押し寄せて、問答無用で私たちを一人残らず剣で斬り、槍で刺し、弓で射ち、エスピンガルダで弾をぶちこみ、この教会まで灰にしてしまうかもしれない。

 

私たちは、ただちに脱出の算段を講じた。

身寄りのある信徒は、ここから離れなさい。

私たちがいなくなってもデウスの教えを守り抜きなさい。

生きて、この事件を後世に伝えなさい。

パライゾで、待っています。

 

可能な限り最後のコンヒサンを聴き、全員にアニュス・デイを持たせた。

心得があればドジコスでも聴き役をつとめ、前後左右の声もダダ漏れの中で行われた集団コンヒサンだったが、今度ばかりは勘弁してもらおう。

私たちには、時間がなかったのだ。

 

いつの間にやら増殖していた、帰る家を持たない若者たちは、ヴィレラがイイモリへ連れていく。

イイモリ城は防衛拠点として最適であるし、霊名を持つ兵士たちばかりでなく求道中の家臣団からも説教を請われているから、人手はあるにこしたことはない。

じっくり対策を練るにおいても、ここ以上の好条件はあるまい。

ヴィレラは、さっそく支度を始めた。

 

私は、ミヤコ教会を死守せよという命令を与えられた。

うすうす、そんな予感はしていましたけどね。

誰かはここに残る必要がありますものね。

まだまだ私たちを頼ってやってくる信徒も多いし、ミヤコの情報はミヤコで獲るのが一番です。

それに、追放令はあくまで噂。なあんだって取り越し苦労に終わる希望は、持ちましょう。

私までいなくなったら、泥棒があっという間にここから何もかも、持っていってしまうでしょうからね。

 

「その通りだ。さあ皆さん、この教会の備品を、手分けして持っていってください。一人一品。私とミヤコで再会できるときまで、預かっていてもらいたい。掠奪者どもが来ても舌打ちして去っていくしかないようにしておいてください。さあさあ早い者勝ちです。争わないでね」

 

みるみる、教会は、解体されていった。

祭具はもちろんヴィレラが持っていくが、鍋、釜、包丁、皿、椀、器、箸、盥、桶、柄杓、箒、薪、裁縫用具、手拭い、蒲団、枕、筵、机、筆記用具、屑籠、畳、障子戸、襖、着傘、雨傘、冬靴などが、おそろしい勢いで持ち去られていった。

屋根の藁さえ持って行かれた。

掠奪とは、こういう光景を言うのではないかしら。と、私の頭の中で何者かがつぶやいた。

 

 

ヴィレラと少年たちが去ったあと。

私は今夜、残ってくれた老人たちに何を食べさせればいいのだろう?と、途方に暮れた。

何人かが、どこからともなくサケを持ってきた。

少しずつ回し飲みして、風通しのよい土の上で、ひそひそと聖歌を唱えて寝た。

星が綺麗だった。

 

翌日からたちまち、絶体絶命の困窮生活に直面する。

これまでさんざん迷惑をかけてきたお隣さんが、見るに見かねたのか、施しをくれた。

お礼に説教をしたいと申し出たが、断られた。

今にも倒れそうな私にはそれすらもつらいだろうと、気遣ってくれたのかもしれない。

ありがとうございます。

デウスの御加護は、きっと、あなたがたの上にも、降り注ぐでしょう。

 

家の中で横たわっている私たちを、通りがかりの人々が、シャカ式の拝み方で祈禱し、時々、投げ銭をしていってくれる。

驚くなかれ。数人連れだって嗤いながらやって来た坊主どもさえ、私たちの姿を通りから一目見た途端、啓示を受けたかのような表情に変わり、かれらなりの祈りを捧げて、静かに立ち去っていくのだ。

真に極められた清貧とは、これほどまで人に感動を与えずにはおかぬものであるか。

私は、またひとつ、メステレへの階段を昇ったかのような、誇らしい気持になっていった。

 

 

何日かして、フィウンガ殿という貴人が、現れた。

ミヨシドノの一族であるという。

まだ信徒ではないが、我々にいたく同情しており、ただちにイイモリへ赴くべし、という。

 

ダイリサマによる追放令が、どうやら正式に公布されたらしい。

 

この教会は、すぐに接収されるであろう。

さいわい奪われるものも無さそうだが、もはや守り抜く意味も無い。

即刻、避難されるべし。

 

震える手で、水を飲ませてもらう。

老人たちも、息を吹き返す。

むせてるうちは、まだまだ生きている証だ。

デウスはどこまでも慈悲深い。

 

フィウンガ殿は、てきぱきと輿を用意してくれ、私はそれに乗りこんだ。

死にかけていた老人たちは、動かすのも難しそうなので、兵が何人か残って介抱してくれることになった。

 

川岸へ着くと舟が用意されており、私はその中に寝かされた。

サカイから駆けつけてくれた若者が3人ほど、同行してくれるという。

人の情けが身に沁みる。

こんなにも皆、よくしてくれて。

世界は、実に、美しい。

 

さらば、ミヤコよ。

 

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