戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1565/018.hmos

翌朝、報告書をしたためていると、ディオゴ殿がやって来た。

 

別邸へ案内され、お茶をいただく。

新しいタタミの香りがここちよい。

普段使ってないようなら、ここへ住まわせてもらえないでしょうか。なんて言いたい気持を抑えつつ、ディオゴ殿から尋ねられるままに、ミヤコでの受難物語をお話しする。

 

モニカ嬢とヴィセンテ君から昨夜の対話は伝わっていたようなので、私から補足として、イイモリ城におけるミヨシドノの情勢について述べた。

私はミヨシドノ本人にお会いしたことはないが、出自はアワ島らしい。クボウサマ14代も、同じミヨシ家がずっと庇護してきたのだそうだ。

なんだ。旧知の間柄ですか。

じゃあ、波瀾の起きる可能性は低そうですね。

 

依然、ミヨシドノの方が実力において上であるなら、新クボウサマも、布教をお認めになるでしょう。

ダイリサマの追放令が取り消されることも、期待していいように思います。

追放令は悪魔の陰謀によって公布されたものであり、私たちに何一つ、落ち度はありません。

その誤解がとけさえすれば、私たちはミヤコへ戻れますし、奥方様の心配も氷解することでしょう。

 

ディオゴ殿の通訳が、私の言葉を伝え終わると、ディオゴ殿は、難題を抱えたような、苦しそうな表情を浮かべた。

 

「フロイス殿。あなたは、同じパードレでも、ヴィレラ殿とは、ずいぶん性格が違うようですな。悲観的なことを一切言わない。常に前向きで、楽天家だ。それは、とてもよい気質だと思います」

 

あは。ほめられた。ヴィレラなんかとは違うって。

さすがディオゴ殿は、人を見る目がおありだ。

 

「しかし、いささか、物事を単純に割り切り、希望的な観測にすがる傾向を持たれているように感じられる。

商売はしたことがないと思われるし、したいとも思わないように見受けられますが……

ご自分では、どう考えられますか?」

 

え、商売ですか?

それは本来、聖職者には禁じられた行為ですし、アルメイダは例外ですが、私には無理だと思います。

 

「そうでしょうな。

商売では、不測の事態が必ず起こります。物事が都合よい方にばかり運んでいくことは、絶対にない。

商売人は、誰かが必ず失敗するということを常に想定し、そうなった場合にも備えて計画を立てるべしと、日頃から考える習慣がつくものです。

そういう心構えがフロイス殿には、なさそうだ。

これは、当たっておりますか?」

 

はい。正しいことだと思います。商売をされる方は、本当に大変でしょう。

しかし、あまり心配ばかりしても、ヴィレラのようになってしまいます。

心に余裕をもって、おおらかに構えることも、大事なのではないかと思います。

 

ディオゴ殿は、黙りこんだ。

悩みをお抱えのようである。

コンヒサンを求めてくるだろうか。

この通訳は信徒ではないので、都合が悪いな。さて。

 

「……フロイス殿は、ずいぶんと、ヴィレラ殿を嫌っておられると、確信しました。

それならば、はっきりと、お伝えしたいことがあります」

 

お?おやおや?

なんだか、流れが変わってきたぞ。

 

「モニカのことです」

 

いいのかな。通訳氏を通してだけど。

ひとまず、聴こう。

 

「ヴィレラ殿から、モニカについて、何か話を聞いたことは、おありですか?」

 

えええ?

いや、そもそもヴィレラと、そんな話、する機会ないし。

あいつが何を考えてるかなんて、わからないし、興味も無い。

しかし、ディオゴ殿の表情から察して、明らかにこれは、男女の仲を疑っての質問だ。

背筋に冷たいものが走る。

モニカと、ヴィレラが?ありえない。

ありえてたまるか。

ヴィレラは、モニカを、たぶらかしているというのか。

あの老いぼれ山羊。どこまで、ゲスりやがって。

 

「聖職者だから躓きは起こり得ない、などという教条は、言われぬよう。ヴィレラ殿にまったくその気が無いとしても、問題はモニカにあります。

あの年頃の娘は一途になりやすいですし、私どもも正直、モニカをそのように育てすぎました。

いま、娘と妻は、大変、険悪な関係に陥っています。ある日突然、爆発するかもしれない。

私どもはモニカの家出を恐れています。

決して一人きりにはさせぬよう、注意していますが、それがまたモニカを苛立たせていることも、わかるんです。

この親心を、察していただけますか。フロイス殿、どうか私の味方になっていただきたい。

躓きが起こる前に、防ぎ止めていただきたいのです。どうか、おききくだされ」

 

通訳氏は苦労して、このように要約してくれた。

3人とも無言になった。

重すぎるコンヒサンだった。他人事ではないだけに。

承知しましたと言うしかないじゃないですか。ねえ。

 

繰り返すが、この通訳氏は、信徒ではない。

信徒は嘘がつけない。

モニカはそれをよく心得ており、父親たちがこんな話をしていると知ったが最後、家を棄てて出てゆくだろう。

そこで、何度もフィラド通いしている従業員で、ポルトガル語は覚えたがサケと女に見境が無いため洗礼を受けられないでいる、口の固い者がとくに選ばれ連れてこられたという次第だ。

ここまでする父の気苦労に、同情を禁じ得ない。

罪深いヴィレラに呪いあれ。

 

話題をかえて、今の借家が臭いんですと不満を漏らす。

当面、奥方への配慮のため、あまり良い住居を世話してくれるのは難しいみたいだ。

ああ。どちらを向いても、茨の道よ。

ひとまずブンゴからカネが送られてきたら、いったんディオゴ殿のもとを離れて、教会として使える物件を探そう。

食事だけは、もうしばらく厄介になります。

またモニカが届けたがると思うが、気取られぬよう、対話をつなげてくださいと言われた。

承知しました。

 

午後はジョウチンたちと、サカイ市内を周回した。

サカイの信徒たちは、誰も彼もがミヤコの話を聞きたがり、私に同情を寄せてくれる。

寄付も期待した以上の額が集まり、これで早く教会を建ててくださいと励まされた。

サカイは、ほんとうに、すばらしい街だと思う。

 

やるべきことは、山のようにある。

脇目も振らずに前進だ。

おお前進だ。

 

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