戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1565/024.hmos

我々の最大の敵、ソウダイ。

トマスは彼を、ダンジョウドノと呼ぶ。

 

日本人は、名前も面倒くさい。

エスパニヤ国王カルロス1世は神聖ラウマ帝国皇帝カール5世でもある、くらいがエウロパではせいぜいだが、これでも混乱する人には、ここから先は拷問のような授業になるだろう。

では、順を追って説明する。

 

日本人は、至極簡単に子供を棄てるが、同じくらい簡単に、養子縁組を取り結ぶ。

子供ができない家には多い家庭から分けてあげるし、婚姻ほどの手続きも踏まなくてよい。

この時点でも名前が変わる。

貴人になればなるほど、日本人は出世したり環境がかわるごとに、名前を変えていくことを名誉だと考える。

 

「公方様に取り立てられると、義という字を頂戴する。

以前から義の字がついていても改名して、この義は公方様よりの偏諱であるぞと宣言できる。

そんなわけで有力者は義の字だらけになる。

これでは紛らわしいので、官途名などで呼ぶことも多くなる」

 

紛らわしくなるのがわかっているなら、そんな風習、やめればいいのに。

それで官途名とか受領名とか職名とかいった副名が追加されていくのだが。

これもまた、デタラメに過ぎる。

 

たとえば大ミヨシドノは副名として、シュリタイフとか、チクゼンノカミなどを持つ。

公式の書状や、儀式の際にはこれらを全部つけて呼ぶのだそうだ。

チクゼンといえば、シモの領国に同じ名前があるよね、と言ったら、そのチクゼンだとトマスは言う。

 

「三好筑前守修理大夫長慶殿の受領名は、筑前守。

本来の意味であれば、

シモの筑前国を守護する領主様である。

と、いうことになる」

 

へえ。そうなんだ。

でもキナイを離れるわけにいかない大ミヨシドノが、シモの領主なんて、できないよね。

部下に任せてるのかな?

 

「受領名だから、筑前国とは縁もゆかりもない。

三好家の者は、誰も行ったことなどなかろう」

 

……意味がわからなさすぎる。

私にも理解できるように、教えてくれ。

 

「そうさ、のう。

家臣の戦闘団が、手柄を立てたとするわな。

なにか、褒美を呉れにゃならん。

そこで、ゆくゆく六十六箇国を制覇したら、お前にはこの国をやる、と受領名をつけてやる。

下手な宝物より価値のある勲章だ。

長慶殿に筑前守を与えたのが誰かは知らんが、本人も気に入っておるのだろう。昔から筑前守で通っておるぞな」

 

ええと。

その理屈だと、王国全土にチクゼンノカミがひしめいてたりしないか。

ブンゴノカミも同じくらい、いるんじゃないか。

 

「その通りだが?

領内で被っていなければ特に問題ないし、誰も本物の筑前国領主に告げに行ったりなどはせんからな。告げたところで、ああそうかで終わるだろう。お互い様だし。本物が死んでも、跡目争いには加われんから、それまでだ。

理解できたかな?」

 

日本人が果てしなくデタラメであることは、理解した。

トマスはこれを、おかしいとは感じないのか?

 

「儂も、そんな名誉な称号を、誰かからもらってみたいと思うぞ。

実務を伴わないからこそ、夢があっていいのではないか。

生半可な金銀財宝より、よほど心を満たされようぞ。

おぬしは、なにが不満なのだ」

 

僕だったらそんなもので満足しやしないよ。と言いたかったが、虚しくなってきたので、やめた。

ところで、ソウダイだ。我々の最大の敵。

ヴィレラを除けば。

 

トマスはシモから戻って以来、ミヤコでの政変と、ダイリサマによる追放令について、彼なりに調べて回った。

その結果、ソウダイが黒幕ではないようだぞ、というのが新たな注目材料だ。

まずは、トマスの話を聞こう。

 

「日本の暦で、永禄乙丑五月十九日。京で公方様とその近親者が、皆殺しにされた。

この日、弾正殿は多聞城にいた。奈良のすぐ近くだ。

政変の報せを聞くや、ただちに奈良興福寺へ兵を差し向け、一乗院覚慶殿の身辺を警護させた。

覚慶殿とは、十三代公方・義輝将軍の実弟だ」

 

へえ。弟がいたのか。

その人も殺そうと考えるのは、自然な発想だろうね。

ソウダイは、彼を、守った?

 

「弾正殿が京の襲撃を事前に知っていたとすると、奈良での動揺ぶりは、いささか不自然が過ぎると思うな。

弾正殿は知らなかった、と儂は判断しよう。

京で事件を起こした連中の内には、弾正殿の息子がいた。

姓は同じ松永だ。つまり、どうやら、コイツがクサい」

 

ソウダイの息子は、クボウサマから義の字をもらっていたらしい。

これを事件後すぐ、以前の名へ戻したという。

堂々とクボウサマへの反意を表明しているわけだが、父親はその動きに同調していない。

これほどの計画を知らされてなかったことも考えると、親子の仲は相当、悪いようだ。

 

「三好新政権の樹立に、内裏様も諸寺院も抵抗を示したが、これには弾正殿の意見書が大きく影響したとも聞く。

人道に反する弑逆で天下を治めようとする者を称讃してはならぬと。

弾正殿は何事にも筋を通されるお方だからの。実の息子だからとて、容赦はせんのだ」

 

ふうん。

そんな人がなぜデウスの教えに逆らうのかも、謎だけどねえ。

 

「ひとつ聞きたいのだが。

フロイス殿もヴィレラ殿も、なぜそこまで弾正殿を憎むのだ?」

 

え。

なぜって。当然じゃないか。

追放令を出させたのはソウダイだし、それ以前からミヤコでの布教を事あるごとに妨害してたのはソウダイだって、皆言ってる。

 

「ほう。皆、とは安易な言葉だな。

ちなみに追放令に関して弾正殿は完全に潔白だ。

公方様に勅令を出させた人物は、特定した。

三好家内の一派だが、そいつらと弾正殿は、とても仲が悪い」

 

そうなんだ。

ふう。まったく次から次へと、悪党がいるものだね。

 

そういえば、政変の日から教会によく来て情報をくれていた、コスメというミヨシドノの秘書も、やたらとソウダイの悪口を言っていた。

コスメは、ソウダイと敵対する派閥だったわけか。

もしかして、追放令を出した一味とつながっている?

ありえるけれど、今更、たしかめようもない。

ミヤコを出て以来、コスメの姿、見てないしな。

 

まあいいや。人を疑いだしては、キリがない。

対象をむやみに多くしてはいけない。敵はソウダイとヴィレラだけで、ひとまず、じゅうぶんだ。

考えすぎるな自分。

 

「ついでに、これも言っておこう。

殺された十三代将軍の、弟君。彼は幼き頃に継承権を奪われている。

それからずっと、仏門に入って過ごしてきた。

だから公方様との関係は断ち切っていると見做されて、後日、暗殺対象から外された。

安全が確認されてから、弾正殿の派遣した護衛兵も、引き揚げた。

しかし、安心できなかったのだろうな。

またいつ、自分を狙う者が襲撃してくるやもしれぬ。

それを恐れたからか、突然、行方をくらませた。

これが今、弾正殿の立場を悪くさせている。

あの時すみやかに殺しておけばよかったのに、ということだ。

よって近々また、三好の荒くれどもが、どこかで何かをやらかすやも知れん」

 

ソウダイまでが、仲間から命を狙われてるってこと?

まったく、次から次へと、物騒な連中だよねえ。

サカイが戦場にならなければいいよ。

むしろ、私たちを憎む者、私たちが憎むべき相手が、一人でも減ってくれるなら、それを歓迎すべきだよ。

 

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