恋愛事には疎い、というより興味が無い、僕だけれども。
ヴィレラが去ってからのモニカの変化を、注意して見ていた。
ひとりのとき、どうしているかはわからないけれど、教会にいる間はつとめて冷静にふるまっている。
報告を求められたならば「何ひとつ変わったところはありませんけどねえ」とでも答えるべきだろう。
しかし時折、空間を見つめて考えこんでいたり
おかしな言い間違いをしたり
同じ話を聞き返したりなどは、かつてのモニカにはなかったことで。
察するところ、必死で自分を抑えこんでいるのだ、という見解も可能である。
ヴィレラ、手紙でも書いてやれよ。
いや、書くな。
きっぱりと別れたんだから、モニカの新しい人生にてめえは干渉するべきではない。
モニカは気丈な娘だ。そっとしておけば、必ず自分自身の力で正しい道へと帆を向ける。
一時の気の病なんて、笑い話のひとつに過ぎなくなるさ。
大丈夫、大丈夫。
私がキナイ上長となってから、サカイ教会では、少なからぬ変化があった。
住み込み従僕は、60歳から8歳まで10人以上、入れ替わり立ち替わりしていたのだけれど。
半分くらいが、ヴィレラと共にいなくなった。
今までさんざん、ヴィレラとつるんで僕をバカにしていた奴らだ。
僕の下では働きたくないという。
僕だって、持て余してしまう。
きちんと挨拶して出て行く奴には、多少のカネを持たせてやった。
私を嫌いでも、デウスの教えは絶対かつ永遠だ。
そのことだけは生涯忘れるなと説諭して、円満なお別れをした。
勝手にいなくなった奴らは知らん。
いろいろ盗んでいくしな。
パウロはアルメイダと、ロレンソはヴィレラと一緒に出て行ったから、いま僕が頼れる人材としては、トマスと、その次はダミヤンという日本人青年かな。
ああ、僕と一緒に来てた大小ジョアンがいたね。かれらは、今はシモにいる。
連絡員をさせていたのだが、物資を持って戻ってくるときは別の信徒が来た。
僕とヴィレラの諍いは、いろんな人に迷惑をかけていたのかもしれないなと、しんみり思う。
しかしその元凶は消えてくれたわけだから、これからは明るい未来を築こうよ。
いつでも、戻ってきてほしいな。
人手不足をなんとか乗り越えて、昇天祭と、ペンテコステを迎えた。
ペンテコステを過ぎると、トマスはシモへ向かう準備を始める。
本業は商売人だからね。トルレスたちからの信頼も厚いし。
誠実なパードレをひとり回してもらうよう、強い要望を託して送り出した。
それからしばらくは、平穏な日々が続いていた。
聖ベネディクトの週。
新たな軍事行動が大規模に開始された。
アワ島より、14代クボウサマ候補者ヨシチカ殿が、ツノ国へ上陸開始。
護衛するのはミヨシ一族。
大挙して乗りこんできているらしい。
今春、もうひとりの候補者ヨシアキ殿が名乗りを上げていた。
彼はミヨシ一族を兄の仇と断罪し、ロカクという領主に守られて、ミヤコの東に接するオーミ国に陣取っている。
ミヤコに入れば、ミヨシ一族との全面戦争となるため、にらみ合いが続いていた。
その向こうから、アワのミヨシ勢が大上陸。
ヨシチカ殿が先にミヤコへ入り、戴冠式をすれば、勝負はついてしまうだろうね。
地理的に見ても、決戦場はミヤコ以外にありえまい。
人々は100年前の戦乱が再来すると恐怖し、大勢逃げ出してきている。
十数年にわたり道は壕と穴ボコだらけになり、建物という建物は焼かれ、死体と追い剥ぎと浮浪者と坊主ばかりが溢れかえった。
そんな日々がまたしても、と。
キナイじゅうに散らばるミヨシ軍は、内紛をピタリと停止。協議を始めた。
翌日、びっくり仰天の大発表。
大ミヨシドノは3年前に亡くなられていた。
その葬儀を、これから盛大に執り行うという。
え??
私がミヤコへ来た日には、もう、死んでいた?
ヴィレラは、知っていたのか?
ロレンソは?サンティアゴ殿は?
アンタン殿や、ジョルジ殿は?
私は、すっかり騙されていたぞ。
ミヨシ家が前クボウサマを殺したときから、まったくまとまらず内紛に明け暮れていた理由が、なんとなくだがわかる。
どうすればいいかわからなくなった幹部たちが、誰にも相談できず、右往左往を繰り返していたのだろうなあ、と。
葬儀の場で、フィウンガ殿と、サキョウ殿が、共闘を誓ったという。
フィウンガ殿は、最大派閥のまとめ役。イイモリ城から大ミヨシドノを追い払ったと噂されていたが、実は最も中心にいた人物ということになる。
サキョウ殿は、大ミヨシドノの息子。最大勢力から追い払われたと言われていた。規模では第二党だ。
この2人が結んだことで、ミヤコ南方の戦乱は、ぴたりと収まった。
再編が整い次第、全力を北へ向けることになりそうだ。
ミヤコ人は、蜘蛛の子を散らす如く、逃げ場を探している。
ソウダイは、包囲から解放された。
これからどうする?
タモン城はあいかわらず難攻不落のようだし、背中を向けた大軍に挑む余裕もなさそうだから、当分は動かないかな。
オーミ国の戦力がどれほどの規模か。これが不明だけど、今日までミヤコを攻めあぐねていたことから考えても、更に戦力増加したミヨシ大軍勢に勝てるとは思えない。
もしかするとミヤコを通過して戦場はオーミになるかも。
となると、ヨシアキ殿がどう足掻いても、14代クボウサマの座はヨシチカ殿で決まりかな。
戦争するならするで、早く終わらせてもらいたい。
十数年は、やりすぎです。