イイモリおよびサンガ城は、サカイ・ミヤコ・アマンガサキ・ナラの4点を結ぶ中間点付近に位置する。
信徒が集まるのにも、地理的にちょうどいい。
もちろん軍事施設だし、市街地からは離れているので、普段は近寄ることさえ許されない。
だが城主サンティアゴ殿が各地より貴人を招き、招かれた貴人が近所の信徒を何人も連れてくる。
大いに復活祭を祝いましょう。パードレもいます。と宣伝する。
サカイではできないヂシピリナも、盛大にやれる。
こうなると人が集まってこないわけがない。
この流れは止められない。
まるで、戦場だった。
主日までの辛抱だ。それが終わったら帰るんだ。もう二度と来てやるものかと歯を食いしばって、説教を振るい、鞭を読み上げる。
断食していては体力が続かないので、出されるものはすべて食べる。
私は心と体を蝕まれている。
サンガ病だ。
御主も、お赦しになるだろう。
そんなところへ、仰天の知らせ。
確認しよう。
ミヨシ家は3派に分かれていたが、ひとまず休戦した。
東将ヨシアキを成敗するべく、共同戦線を張った。
ナラに追い詰めたソウダイとの決戦はひとまず先へ延ばした。
サンティアゴ殿は押さえ役として、サンガ城で四方に睨みをきかせている。
さて、このあと。
ミヨシの家が、また、割れた。
昨年、フィウンガ殿とサキョウ殿が同盟を結んだ。
サキョウ殿は大ミヨシドノの世子だが、一家をまとめるほどの器量は、残念ながら無いらしい。
この男が、あろうことか、ソウダイと手を組んだ。
は?
ナニシテクレチャットンノヤオンドレ。
こんな宣言をしたらしい。
「弾正殿は、三好家をここまで大きくした父に仕えた、忠臣である。
これからの三好家にとっても、なくてはならない存在である。
前・公方様を卑怯な騙し討ちで惨殺し、京を混乱と恐怖に陥れ、今なお弾正殿まで亡き者にしようと欲す三人衆こそ、悪逆非道の大罪人なり。
私は三好家を正しく立ち直らせるべく、ここに立ち上がったことを、神に対し誓う」
サンティアゴ殿はすぐ会議を始めて、戻ってきません。
どこまで知っていたのだろう。
次はどっちに就くつもりかしら。
サキョウ殿の統率力がいかに低くとも、ソウダイが知恵を貸すとなると、案外、粘りそうですよね。
三人衆側に愛想を就かしていた軍勢からは、サキョウ側に寝返る輩も出てきそうです。
ソウダイほどの老獪なら、あくまでサキョウ殿を表に立てつつ、裏ですべての実権を握るかも。
それくらいのことは、たくらんでいるでしょう。
東将ヨシアキがどう動くかも、計算づくではないかしら。
信徒たちは、私以上にどうしていいかわからず、途方に暮れている。
私はモーゼの苦難を例にとり、御主を信じて、道を踏み外すことなく、まっすぐに歩み続けていましょうと教える。
具体的には?と訊かれると困ってしまう。
とりあえず、ご飯を食べましょう。
疲れたら、睡眠をとりましょう。
汗を流すのも、良いことです。
ヂシピリナは、悩みすぎた頭をほぐすのにも、効果があると思います。
翌日。
情勢が落ち着くまでサンガ城に留まるべしとサンティアゴ殿から言われ、承知する。
宿泊費は払えませんよ。もう、すっからかんなので。
かまわないそうです。
なら、居座れるだけ居座ってやれ。
食事も、もりもり食べてやる。
サンティアゴ殿の表情から、何か探れないかなと注意してましたが、読めませんね。
さっぱり、このおじいちゃんが何を考えてるのかなんて、わかりません。
表情は豊かだし、気前は良さげなんですよ。
いつも私は、彼の優しさに騙されます。
でも肚の底で何たくらんでるかわかりゃしない。
悩み始めるときりがないので、今日も体を動かしましょう。
家臣の兵たちは、来客の一般人も城内にいるというのに、訓練に余念がありません。
大声が聞こえます。
銃声も止みません。
河に向けて射つので、魚が獲れます。
アシガルたちからも時々コンヒサンを求められます。
人を殺せる自信が無い、など素朴な悩みが多いです。
業務だと割り切りなさい。猪か猿だと思って斬りなさい。それでも夢に出てくるようなら、また来なさい。
私は赦すのが仕事です。そう言って、送り出します。
昨日の友が、今日の敵に。
つらいことです。殺していいのか悪いのか。
その場で考えてる余裕なんて、ないんだからね。
だからイエズスのしるしを、大きく身につけておくべし。
あ、味方だ!と気付いたら、すかさず自分のしるしも見せる。
大いに、戦って見せましょう。
オヌシナカナカヤルナ!!と讃え合って、別れましょう。
みんなが信徒だと、戦争なんて、起こらないのですけどねえ。
どんな敵とも、明日には友になれるかも。
素敵だと思いませんか。
残念ながら、戦場へ行ってからでは、説教する余裕、無いですけどね。
錯乱する情報の中、こんな噂も。
ナラで戦っていた兵士が、鹿を撃ち、陣へ持ち込んで、鍋で煮て食べたそうです。
ナラの市街地を自由気ままに歩いている鹿はカミの化身とされており、「いくらヨソから来て知らなかったとはいえ厳罰に処すべきだ」と坊主どもが怒っているのだとか。
その兵士はイエズスのしるしを付けていた。
パードレ、どうしましょう?
という相談事として、この話を聞きました。
捕まれば、重罪でしょう。
私の前まで来て、コンヒサンをするなら、赦してあげましょう。
助かりたければ、逃げてきなさい。
でも私だって、ただでは赦しませんよ。
悪魔の肉を食らうなど!!
二度とやってはいけません!!!