ミヤコに住んでたコスモくん。
ある日、神隠しに遭いました。昨年の春先でしたかね。
なんだかすっかり大人びての再会に、びっくりしましたよ。
自宅へ戻ってからのコスモくんは、急に頭が良くなり、礼儀正しくなっていました。
末は博士か大臣かと、ご近所からも注目をあつめ、美しいお嫁さんをもらって、職人への弟子入りも決まって。
信徒であることは隠しつつ。いつか皆の目を覚まさせようと虎視眈々、時期を窺っていたわけです。
ある日、肌身離さず大事にしていたコンタスを、父親に発見されます。
大騒ぎになり、家族はコスモくんを、ツノ国のテラへ送りこみました。
コスモくんは1年間幽閉され、フォッケ宗坊主どもの洗脳を受けます。
しかし、デウスの教えをたったの3日で修得したコスモくんです。
幼少期からフォッケ衆の手口は見てきました。いまさら、そんなものに惑わされるわけもない。
意気揚々と実家へ戻ってきて、自分を導くものはイエズス・クリスト以外にいないことがますますよくわかったと言って、妻と家族に宗論を挑みます。
ああ。私も援護したかった。
追放令さえなかったら。一も二も無く、駆けつけたのに。
しかしフォッケ宗の呪縛から抜け出せぬ憐れな家族を説伏することは、針の穴に駱駝を通すよりも難しいことでした。
自己の力不足を嘆くコスモくん。弟に相続権を譲ることを言い遺し、家を出ます。
そしてサカイの教会へと、着の身着のまま、やって来たわけです。
どんなことでもするので置いてください、と頭を下げるので
どんなことでもしてくれるのだね?と念を押した上で
従僕になってもらいました。
ちょうど最後のひとりも逃げ出して私とダミヤンだけになっていたところなので、これで負担が減ります。
3人で、交代だからね。
私だって同じ雑用をするんだからねと誓い合い、新体制で臨みます。
もうすぐトマスが、シモから戻ってくる。
いまは補充要員はいいから、とにかくおカネがほしい。
ディオゴ殿への借金も返したいし、原則無料の結婚式や葬儀だって、それなりの寄付をしてくれる信徒にしか、してあげられないのを、改善していきたい。
そんなトマスを待ちわびつつの、結成式でした。
トマスが戻ってきました。
一番悲しい報せが、もたらされました。
イルマン・フェルナンデスが、天へ帰りました。
昨年から、病気が重かったそうです。血も、吐いていたとか。
パードレたちが日本病で苦しむ中、彼へのしかかる重圧も、相当のものがあったでしょう。
宿願だった日本語辞典は、完成していただろうか。
トマスは、苦笑します。
寝そべって字を書くことすらもできなくなっていたあの体で、そんな仕事に取り組めていたとは到底、考えられないと。
ああ。
何もかもが。奪われていく。失われていく。
私たちの目の前から消えてゆく。
あとかたもなく、壊されてゆく。
いったい何がお望みなのですかデウスよ。私たちに、いったいどれほどの苦難を与えられるおつもりなのですか。
せめて初級編から進めさせてくださいよう。
あんまりです。
あんまりにも、ほどがあります。
今日のお粥は箸が立つよ、と
それでもデウスへ感謝しつつの
よもやま話。
本年、海難はなかったものの、新規パードレは来航せず。
船は、コチノスへ入港した。
ファクンダは、実は西風に無防備で、決して良港ではないのだそうだ。
コチノスも、水深が浅くて干潮時に船が傾くという。
船員からは、フィラドへ戻せないのかと、年々不満が強まっている。
僕にはもう、どっちでもいいけどねえ。
フィラド、そんなに、悪くなかったと思うよ。
そもそもなんでフィラドを嫌ってたんだっけ?
ああ、領主が我々を毛嫌いして追い出したことがあったんだっけ。
へえ。今もヴィレラはフィラドへ出入禁止なの?
うん。聞いたことある気もする。
僕が来日するより前、ヴィレラがフィラドで、信徒の家にあった仏像や仏具を全部持ってこさせて、海岸で盛大に焚火して肉を焼いて、お祭り騒ぎをしたとか。
それで怒られて、反対運動に発展して、教会が一度、壊されたって。
そんな古い話にいつまでもこだわってないでさ。
ヴィレラ一人が悪いんだから10年くらい牢に入れるとか強制労働させるとか適当な罰を与えてさ。
それで仲直りすればいいじゃないか。
そんな風に、みんなが幸せになる解決法を、考えようよ。
一方、アリマ領・オオムラ領では信徒が増加中。
村ぐるみ、町ぐるみで全住民が受洗した地区も少なくないという。
日本病に耐えながら、シモのパードレたちは一日も休まず、巡回して説教にいそしんでいる。
だからキナイへは人を送れない?
最近、成績が急激に低下しているじゃないかだって?
それトマスがチクったろ。
それともダミヤンが報告したか?
パードレが足りないから信徒も減るんだよ。因果関係が逆だよ。
カネ、それからヒト。
これなくして収穫はありえないよ?
表面的な数字だけを見て語ってほしくないものだね。
僕が担当じゃなければ、もっと悪くなっているだろうよ。
昨年アルメイダが手こずったゴトウでも、今年は信徒が急増中。
シモ島より40レグワ南に浮かぶ島々。それほど大きな町も港もないが、日本とチイナの国交が盛んだった時代には、重要な中継地だった。
住民は、商売と異国人の扱いに慣れている。
アルメイダは、領主も家臣も交易の利益ばかり話題にして不愉快なので洗礼をしなかったというが、これは彼なりの負け惜しみだったみたいだ。
担当替えした途端に、島民が続々信徒になった。
今ではゴトウ担当を希望する者同士が、足の引っ張り合いさえしているとか。
よほど、旨味が大きいのだろうな。
「そうだな。たとえば、五島なら肉が食い放題という理由も大きい。島には鹿が沢山おって、住民はよく狩って食っておる。ここで三箇月も暮らせば、日本病も治る。治ったら交代、というところだ」
へえ。ナラの鹿は食えないけど、ゴトウでなら、食べていいんだ。
ねえ。明日は久しぶりに、お肉を食べないかい?
トマスぅ、調達してきておくれよ。