ダミヤンを、イルマンに昇格させた。
彼は、教会の全管理を任せられる、優秀な人材だ。
本人はブンゴでの盛式誓願を希望していたが、戻ってこなくなるだろうなと思って、サカイで私が授けた。
彼にいなくなられると、私は本気で身動きがとれなくなるのだ。
待っているだけでは、カネは集まらない。こちらから出向いて、初めて、めぐんでもらえる。
私が始終出かけてばかりいるのも、そのためなのだ。察してくれ。
増員したことになるから、年間予算も、上げてもらえるはずだ。
ヴィレラが去ってから、減額されてたのだ。ひどいだろう。
信徒が減っていくのも当然だ。
現状維持すらままならなくなることくらい、わかれ。
ダミヤンよ。君にはこれから、より一層の献身と責任とが求められる。
パードレへの道は、もっとずっと険しいのだぞ。
気を緩めることなく励みたまえ。
私は大いに期待している。
ともかく、おめでとう。
ペンテコステを過ぎると、トマスがシモへ出稼ぎに行く季節だ。
ダミヤンが、ついていくことになった。
トマスが、余計なこと言うから。
「ダミヤンは優秀な人材だ。だからこそ、堺で留守番役に縛りつけておくことは、長期的に見てよろしくない。
豊後や、大村、有馬、平戸まで見て回り、もっと多くのパードレから刺激を受け、経験を積んでくるべきだよ。
生まれは筑前なのか。なら、ひと夏くらい里帰りもさせてやれ」
とかなんとか。
困るじゃないか。
反論して、私が負けた。
金策に駆け回らなくてすむようにと当座のカネを目の前に積まれると、弱い。
早く帰ってきてくれることを祈りつつ、見送った。
今年は、ディオゴ殿も、シモへ出かける。
モニカも結婚したし、ほっと一安心。羽も伸ばしたいのだろう。
ヴィセンテと、店の若い衆を引き連れて、数年ぶりの陣頭指揮だ。
楽しんできてください。儲かったら、教会への寄付もお願いします。
ブンゴじゃなく、こっちへ。直接。
とりたてて大きな事件はないが、小さな揉め事は、毎日ぼちぼち。
近年は、未信徒である家族の説得に困っているという相談をよく受ける。
大黒柱の権力が強い家族だと、全員右へならえで楽なのだが。たいてい最初に信徒となる人物というのは、家庭に居場所の無い、お父さん。
家長ではあるけれども、妻に頭が上がらず、財布の紐も握られている。
家ではデウスの名前すら出せない。
そんな事例が多い。
冠婚葬祭の直前になって、打ち明ける場合が多いようだ。
儀式をするのに坊主を呼べば、謝礼が必要だし、酒食だって要求される。仏式だと、とにかくカネがかかるのだ。
デウスの信徒になれば無料だし、葬儀も1回しかしないよ、と。
これが一番効く。2人にひとりは落とせる。
ただ、前もってよく言いつけておかないと、坊主の前で、テンジク人に無理矢理勧誘されたのだとか、余計な火種をつくりだす不届き者も現れる。
だから誓約書を作らせておく。
坊主が来たら見せるからなと、ポルトガル語の文書に血判を押させる。
期待以上の抑止効果を得ているように感じている。
日本人が理解できないものを理解できないがゆえに畏れる習性の一例として、今後も活用していこう。
「デウスの信徒になれば先祖の墓参りに行けなくなるぞ」なんて悪口も囁かれているようだが。
これは、まったく事実に反する。
私たちの対応は、柔軟だ。
行ってあげて構いません。
親戚や上司の葬儀が仏式だとしても、行って、お線香を上げてください。
私たちは、咎めたりしません。
信徒の日常生活に支障をきたすことを、望んではいません。
私たちは寛容です。誤解していたあなたこそ、悔い改めなさい。
ただし仏式で弔われた方は、パライゾへは行けませんし、アニマが救済されることもありません。
救われるためにはデウスの教えを正しく理解し、洗礼を受け、寿命を御主の意に委ねた上でせいいっぱい、道を踏み外さずに歩いてゆくことが必要です。
実に簡単なことなのです。
それだけのことが、どうしてわからないのだろう。
「デウスの信徒はフォトケの偶像を破壊して回る」
言いがかりです。
たしかに、かつてヴィレラというド阿呆がいた頃は、宣教師が率先して焚きつけたという事実もあったようですが。
申し訳ありません。彼に代わって、私が詫びます。
どうか、お赦しください。
コンパニヤの規則は、決してそんなことを謳ってはいないのです。
この場ではっきりと、申し開きをします。
デウスの教えは、偶像の崇拝を禁じます。これは事実です。
ですがこれを、形から入って守らせたからって、所詮は付け焼き刃にすぎない。
デウスの教えに耳を傾け、その合理的精神を理解することによって人は無知蒙昧から解き放たれます。
そうすれば自然と、これまであなた方を捕らえてしがみつけていた迷信が、愚かしく見えてくるでしょう。
そうなってから初めて、平和的にお別れすればよい。かれらの国へ、お帰りいただければよい。
これは人間の自由意思によって行われるべきことです。
私たちは決して、強制などしません。おわかりいただけますでしょうか。
「デウスの信徒は、テラに火をつけて回る」
これも、流言飛語です。
自分たちが失火した結果であるくせに、誰かに罪をなすりつけたくなるのは、人の心が弱いせいでしょう。
もし、俺が火をつけたのだぞと自慢する信徒がいたなら、連れてきてください。
私は、叱ります。
他人の財産を奪う行為は犯罪に等しいと。
謝りなさいと。
厳しく言いつけてから、赦します。
そんなことをしなくとも、いずれは皆、わかってくれる。
急ぐな。無茶は、するな。
これが私たちの方針です。
すべての過ちは、誤解と躓きのなせるわざです。
信徒である無しにかかわらず、教会へ連れてきてください。
言い分を聞きましょう。あなた方にも、聞いていただきましょう。
そして、みんなで考えましょう。
これが最も理想的な、平和への第一歩であるべきです。
トマスより先に、ディオゴ殿が帰ってきた。
ヴィセンテは、まっくろに日灼けしていた。
今年の定航船は、ファクンダへ入港。
数年ぶりの、新パードレが1名上陸。
ワラレジオです。あいつか。
陽気で、いささか血の気の多いロンバルディア人です。
にぎやかに、なりそうだな。
トルレスは、シキという町にいる。ここで全パードレを集めて行われた総員会議の報告書を渡された。
トルレス、ワラレジオ、コスタ、フィゲイレド、ヴィレラ。
え?これだけ?
10人くらい、いなかったっけ?
昨年までに全員離日した?日本病に冒されて?
え、モンテまで消えている。
嘘だろ。信じられない。
イルマンは2名。アルメイダと、ミゲル・ヴァス。
ミゲルは、私が来日したときは水兵だった若者だ。
アジュダで私が炎の中から何人もの日本人を救出した姿に感動して、コンパニヤ入会を志願した。
従僕として修練中とは聞いていたが、とうとうイルマンになったか。
ミゲルなら、サカイへ来て僕をたすけてくれないかな。予算増額もオマケにつけて。
肝腎の議事録は、ついてなかった。速記できる者がいなかったようだ。
僕なら得意なんだがなあ。
しかし要約を読む限り、愚痴り合いの域を出なかったようだ。
かっこつけてるだけで内容の伴わない方針演説しか並んでいない。
どうなってしまうんだ、こんな調子で。
私たちの布教活動と、生活は。