戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1569/001.hmos

オニの噂で、もちきりだ。

 

オニとは、日本各地の山奥に棲みついている怪物である。

凶暴化した坊主のナレノハテで、戦乱のたびに数が増える。

赤や青に塗りたくられた上半身は裸のまま。

獣の皮を腰にまとい、勃起したイチモツを頭から生やす。

群れからはぐれた子供を、長い爪でつかまえて、むさぼり喰う。

エウロパ人が日本を発見するよりずっと古くから存在していた。

テンジク人恐怖伝説に酷似するが、出どころは日本であり、その正体は日本人なのだ。

私たちはオニだと、濡れ衣を着せられていたわけである。

まったくもって、けしからん。

 

蛇足になるが、オニの親類にテングというのがいて、こちらは少しだけ知恵が残っている。

服を着ており、底上げした靴を履く。

頭にイチモツは生やさず、その代わりに鼻が長い。

人語を解し、子供だけでなく大人や学者まで巧みにかどわかす。

ヴィレラのことをテングサマと呼ぶ信徒は、未だにいる。

エウロパ人の顔は、日本人よりも起伏に富む。私はそれほどでもないが、アルメイダやヴィレラの顔は彫りが深く、陰影がくっきり浮かぶ。

ことにヴィレラの鷲鼻は特徴的で、これがゆえに奴はテングと同一視された。

テングはオニほど恐れられてはいないが、それでも坊主をこじらせた反社会勢力の一類であるし、妖術を使って災いも撒き散らす。

さすがのヴィレラでも、そんな真似はできない。仮にもパードレだ。

もちろん、私にはもっとできない。

 

ヲアリ国からやってきた、オニの話に戻ろう。

この領国から、復活祭や降誕祭のたびに片道1週間かけて教会を訪ねてくる、敬虔な信徒がいる。

霊名はコンスタンチノ。

ヴィレラから洗礼を受けたときは、ミヤコで高貴な身分だった。老いたので故郷へ隠居した。ケレドとメダイを託され、デウスの教えをヲアリでも広めるよう命じられた。

ヴィレラが去ってからも、コンスタンチノは定期的に、ミヤコやサカイへやって来ていた。

毎回、若者や子供たちを連れてくるが、教義をしっかり根付かせていて頼もしい。

ヲアリにもパードレを、といつも懇請されるのだが、コンスタンチノがいてくれる限りは大丈夫だろうから、優先順位は低くしていた。

 

オニの大進撃が終わってすぐの降誕祭。

誰もが、コンスタンチノは来るだろうかと気を揉んだ。

来たら是非、ヲアリの話を聞きまくろうと、そんな期待が燃えさかっていた。

ヲアリ軍とは全然異なる街道を通ってきた彼と子供たちは、熱狂的な出迎えに面食らう。

我々こそ、君たちの呑気さに困惑したよ。

 

「上総介殿が周囲を驚かせるのはいつものことですし、美濃に住まわれるようになってからは、尾張は静かなものですよ」

 

なあんだ。と一同笑い合ったのだが、そのあとで語られたオニの素性は、あまりにも血塗られていて、全員の心胆を寒からしめた。

 

 

オニは、先祖代々ヲアリ領主だった家に、嫡男として生まれた。

年齢は私と同じくらいのようだが、若い頃はいつも野山を駆け回り、狩りをしていたらしい。

この時分にオニやテングたちと仲良くなって、何らかの妖術を身につけたかもしれないが、定かではない。

 

一族や家臣からは、疎んじられていたようだ。

父親が死んだとき、山から戻ってきたままの姿で葬儀会場へ現れ、線香の灰をぶち撒いて、すぐに退出したとか。

礼儀知らずで野生児か。きっと教養も低いだろう。こう言うと、コンスタンチノは否定しなかった。

国をまとめる器じゃないから、弟が王位を継ぐことになるだろうと、すっかり見放されて成長したようだ。

それにしても、葬儀での態度は物議を醸した。オニは、親族一同と領国内外の有力者から、軽蔑と憎悪を一身に引き受ける対象となった。

 

この頃、オニに反省を促したり、邪険にしたり、遠慮して近寄ってこなくなった者たちは、ひとりひとり姿を消してゆく。

反面、現在オニの率いる軍団で幹部の座に就いている者共は、ほぼ全員が、当時からオニと一緒に野山で遊んでいた仲間たちだという。

 

そのうちオニの、真の実力に気付く者が現れる。

オニへ娘を嫁がせたミノ国の王がなにかとオニに味方するようになり、オニとの個人的な友好関係を基にして、陰に陽にと力を貸す。

ある兄弟は、オニが病気だと聞いて見舞いへ駆けつけたところ、就寝中のオニを殺そうとしたぞという疑いで、処刑された。

オニは冷酷だった。

血族を、いや血族だからこそ、優先的に駆逐した。

野望を達しても、兵を休ませなかった。

自分たちを憎む者は、まだまだ大勢いる。すぐ傍にいる。そのことを忘れず、忘れさせなかった。

やがてオニは、ヲアリを統一する。

それで大団円。ではなかった。

究極の狙いは、まだまだ道遠き先にあった。

 

数年後、ミノの王は、内紛で斃される。

オニは、義父の仇という名目で、ミノへの侵攻を開始した。

だが、互いに手の内を知る同士である。なかなか結着がつかなかった。

ここへ東将ヨシアキが、誰か力になってほしいと、方々へ呼びかけをして回る。

オニは、新たな大義名分を掴んだ。

ミノを片付け次第、ミヤコへお伴しましょうぞ、と。

 

ヨシアキにとっては、ヲアリとミノの争いなど、心底どうでもいい。

間に立って和睦もすすめた。一旦は停戦する。

これをオニが裏切った形になるわけだが。無理もない。

ヨシアキを上京させるには、ミノを通過してオーミで戦争してから、ミヤコでも更に大軍勢と戦わねばならない。

全兵力を動員すれば、ヲアリが、がら空きになる。

ミノが黙って見ていてくれるわけがない。

ミノがヨシアキの要請を断り、守りに入っている状況下で、オニが動き出せるはずもないのだ。

 

キナイの争乱。オーミの暗闘。ヲアリとミノの鍔迫り合い。これらがそれぞれ同時進行しながら、数年が経過した。

ヨシアキは、オーミから北のエチゼンへと逃げた。

ミノが、ヲアリに制圧された。

オニはミノの領都へ移り住み、新たな視野で、計画を練り直す。

1年ほどかけてミノの兵を鍛え直してからヨシアキを呼びつけ、そろそろ行くかと、鎧を着させた。

そこからは、破竹の勢いだった。

気がついたら終わっていた。

 

コンスタンチノ、もういいよ。

この辺はみんな知ってるから。ありがとう。休憩してくれ。

 

 

ミノ出身の逃亡兵が一人、奥で従僕をやっている。

彼から聞いた話を、こっそり付け加えよう。

 

ミノが滅ぼされたあと、ヲアリ軍に編入されて、1年間厳しい訓練に耐えた。

いよいよオーミを攻めると聞かされ、自分たちはこれから最前線で陽動をさせられ肉の壁となって死ぬのだなと、覚悟したそうだ。

完全装備で前線まで出て、整列してその場へ座るよう命じられた。

これからヲアリ軍が攻撃するので戦いぶりをとくと見ておけ、と言われた。

瞬く間に城が焼かれ、最後の一兵が首を斬られるところまでを、じっくり研修した。

翌日は、実習だった。

自信をつける兵と、失う兵の、2種類に、ここで別れた。

彼は後者だったので、逃げ出した。

 

貴重な証言だ。

ヲアリ軍が強い理由は、この徹底した教育体制にあるのかもしれない。

幹部にも、オニやテングが、いるのだろう。

よほどの知恵者がついてなければ、こんなこと考えもつくまい。

 

しかもだ。これでおしまいとも思えない。

オニは、どこまで先を見据えているのだろうか。

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