ミヤコへ戻れると知らされた。突然だった。
ラザロの主日を迎える準備をしていたところに数名の武士が現れ、ただちに同行するよう言われる。
ワタ殿の家臣であるところの、ダリオ・タカヤマ殿が、アークタンガワで待っているとのこと。
サカイからミヤコまでの途中にある城ですね。
なんの準備もしてなかったので、大慌てで支度する。
サカイの教会はコスモに留守番をしてもらうことにして、私は、用意されていた馬に乗った。
ロレンソも同行させることにしたが、彼は盲目なので馬は危ない。ディオゴ殿に輿を用立ててもらって、あとから追いかけてもらうことにする。
それから、献上品や当座のカネも必要だって。
厭な予感がぷんぷん臭うが、抵抗できる雰囲気ではない。
従僕2人に担がせて、これも、同行させる。
テンジンという馬場で、ダリオ殿を囲む大勢の信徒に出迎えられた。
ダリオ殿は私を知っていた。
初めて見たとき、ミヤコ教会の裏手で、しゃがんで洗濯をしていたそうだ。
そんな昔のことは、忘れてください。
はじめまして、フロイスです。あなたにお会いできて、とてもうれしい。
雨が降ってきた。大急ぎで城へ向かう。
今日は、ここで一泊する。
至れり尽くせりの歓迎ぶりに、ほっぺたが落ちそうです。
え、受難節がどうしましたか?
今日は特別な日ですよ。むしゃむしゃ。
デウスよ、ともに祝いましょう。
現在のアークタンガワ城主はワタ殿である。しかし政務に忙殺されており、ミヤコを離れられない。ダリオ殿は留守居役に命じられ、サワから移ってきたのだ。
ダリオ殿の家族とも交流を深めた。全員が普段から霊名で呼び合っていた。
日本では、城主ほどの貴人になると妻を何人も持つ。しかも配置転換で城を移るときは離縁して新地の女性を妻に迎えなおす。そんな嘆かわしい悪習が根付いているものだったが、ダリオ家では、絶対にありえない。
エウロパでも通用する理想的な家族の姿が、ここにあった。驚いたね。
長男のジュストくんは、ヴィセンテと同じくらいの年齢だ。きわめて聡明で、いつ父の身分を継いでもいいほどの貫禄を備えている。
日本の子供は、坊主と接することさえなければ優秀なのだ。エウロパ人の倍の速さで学習し、道理を弁え、たくましく成長する。
久々に、そんなことを思い出させられた。
翌日、ロレンソが到着。
彼もダリオ殿との再会を懐かしんでいた。
私もここから先は、輿に乗ってミヤコへと向かう。
途中ミヤコから駆けつけてきてくれた信徒たちが、どんどん合流していった。
到着する頃には250名ほどの大行列になっていた。
シモキョウの教会へ辿りつく。
ミツノという部将が、どさくさまぎれに兵舎として使っていた。ヲアリ王に加勢するためやって来た、スルカ国の軍勢だ。
ワタ殿からは、指揮系統上、直接命令ができない。適当な代替地が見つかるまでは、追い出せないと言われる。
私たちはそれまでの間、ミヤコの裕福な信徒アンタンの邸へ、住まわせてもらうことにした。
綺麗なタタミの室へ案内され、つい涙ぐむ。
アマンガサキでは、ジュリヤンの邸以外では、土間より上を歩かせてもらえなかったからなあ。
日本人は家へ入るとき靴を脱ぐ。
藁でつくったタタミという床を、常に清掃することを、きわめて重視する。
下賤な者を家に招かない。敷居をまたがせない。
この点が、異様に厳しい。
それが当り前だったので、今回はまさしく祝福された帰還なのだという実感があった。
私はパードレだ。愛され、尊敬されているのだ。
最高の自信が漲ってくる。来日して以来、ここまで強いヴィルトゥスを味わったのは初めてかも。
帰ってきたぞ。帰ってきたぞ。
ああ、生きていてよかった。
翌日、ワタ殿がやってきた。
ただちにクボウサマとの謁見を調整しようとの言葉をいただく。
他にも幾人かの貴人や武士の訪問を受けたが、ひとり、珍しい人物が。
アンリケ殿。
私は彼を忘れていたが、ロレンソが声で言い当てた。
大ミヨシドノの家臣だった人だ。あれ?
こんなところにいて大丈夫ですか。
へえ、今はヲアリ王の下でミヤコの警護をしてるんですか。
うまく転職されたのですね。元気そうで、とてもうれしい。
これからも、世の中を良くしていきましょうね。
さっそく、復活祭の準備に取りかからねばだ。
サカイはサカイ組に任せよう。サンガも、また破壊されていなければ、現地の皆でやってくれるだろう。
ミヤコでは、私が、復活させる使命を負う。
信徒の皆さん。今年はここで精一杯、盛大な復活祭を祝いますよ。
持ち寄れるものは何でも持ってきてください。何もないので。お願いします。
あ、ヂシピリナはどうしよう。
アンタン邸の、この綺麗なタタミの上では、さすがに怒られちゃうよな。