戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1569/004.hmos

カヅサ殿との面会が決まった。

 

発音しにくい。正式な名前は、オタ・カンヅカンスケ・ノブナンガ。

カヅサドノと呼ぶよう、指導された。

間違えたら即その場で相手の首を刎ねるような人物らしいので、必死に練習した。

 

ヲアリ王である。すなわち、オニである。

日本最強の名を恣にしていたミヨシ一族をひと月足らずでキナイから追い払い、ミヤコを制圧した戦闘集団の、最高指揮官である。

肉親を全員殺してのし上がった、血も涙も通ってない、ルシヘルだって裸足で逃げ出すような悪魔である。

 

なぜそんな人と会わねばならないのだろうか。

私は、追放令の取り消しと、布教許可の再確認さえできれば、それでじゅうぶんなのです。

クボウサマかダイリサマへの謁見が叶うなら、生魚を口に押し込まれることだって、耐えましょう。

しかし、どうしてここに、ヲアリ王が出てきてしまうのでありましょうか。

 

ベゾアールが擦り切れて無くなってしまうくらい嘗めてから、ロレンソと共に、指定のテラへ赴いた。

結論からいうと、この日は会えなかった。

政務で急用が入り、お忙しかったらしい。

ほっとした。

 

ワタ殿が終日一緒にいてくれたが、主に対応してくれたのはサクマ殿という、カヅサ殿の家臣だった。

よく笑う、人の好さそうな、おじさんであったが。

戦場ではじっとしておられなくて、部下よりも前に出て敵を斬りまくる性分が抑えられないのだそうである。

ニコニコとほほえみながら、言ってることは陰惨だ。

かんべんしてください。

 

サクマ殿はじめ、ヲアリから来ている人々は、デウスの教えをまったく知らない。

いろいろ質問され、これにロレンソが答えた。

ヴィオラを爪弾きながら、ケレドを何節か朗誦もした。

おおむね好評だったと、信じたい。

 

献上品を5点ほど持ってきていたが、そのうち4点を、返された。

こんなことは初めてだ。

1点だけは、気に入ってもらえたらしい。

なんだっけ。あ、帽子だ。

他は、お気に召さなかったということか。

どう解釈すればいいのだろう。献上品がまずくて逆鱗に触れるといった場合もあるのだろうか。

もう、どうしていいかわからない。

 

 

復活祭を挟んで、次は、クボウサマとの謁見の場が設けられた。

しかしここでも、本人には会えなかった。

乳母だったという方に対応されたが、実のある話にはつながらなかった。

ほか数名、家臣の方々へも説明と陳情をしてきたが、熱気の無い、興味も無さげな態度が一貫していた。

以前よりずっと、クボウサマの権威は落ちているのだなあと痛感せざるを得ない。

献上品は、すべて、受け取られた。

 

ここまできて、ワタ殿もさすがに反省をしたのだろう。

これでは、甲斐が、無いと。

そこで、再交渉をしてくれたみたいである。

数日して、もう一度、カヅサ殿への面会が、叶った。

 

私もこのときには、クボウサマよりもヲアリ王の方が頼もしいかなという気になっていたので、望むところだった。

献上品をどうするか迷ったが、今日は手ぶらでいいという。

その代わり、今すぐニジョウ地区へ来いとのこと。

使者のよこしてくれた輿に乗って、ロレンソと共に馳せ参じた。

 

ニジョウには現在、クボウサマの新たな王宮を建築中である。

大勢の人夫が働いており、ここに、カヅサ殿が来ていた。

視察というより、陣頭指揮をしている雰囲気だった。

ワタ殿、サクマ殿も一緒にいて、私たちを紹介してくれる。

私は、初めて、オニの姿を、目の当たりにした。

 

小柄な男性だった。

日本人は概して小柄であるが、その平均よりも低身長だった。

華奢に見えた。

髯は薄かった。

だが、眼光の鋭さが、この外見をまったく塗り替えてしまっていた。

うまく説明することは困難である。ただ、彼を囲んでいた数十人の屈強な男たちがもし一斉にこの人物を殺そうとしても、たった一人で全員を返り討ちにできそうな。そう感じさせる気迫があった。

もちろん、私も生き残れまい。

これが、カヅサ殿の第一印象である。

 

カヅサ殿は、部下に命じた。

たちまち、濠の上に架けられた橋の真ん中に、床几が置かれ、日除けがつくられ、茶が用意された。

いつも練習してるのかしらと思うほど、無駄のない、素早い動きで、私たちの会見場が完成した。

家臣たちは立ったままこれを囲んだ。

濠の上を、やわらかな春風が通りゆく。その道だけを、遮らぬように。

何から何まで、完璧だった。

 

 

カヅサ殿、お会いできて、光栄です。私は、ルイス・フロイスと申します。

 

「日本の言葉が達者だな。ロレンソ、通訳はいい。予は、フロイスと直接話したい。困ったときだけ、補助するがよい」

 

張りのある、透明感のある声質だった。

 

「何歳になる」

 

1532年生まれで、今年は1569年ですから、38歳になります。

 

「それは、そちの国での暦か」

 

はい。エウロパでは今年が1569年になります。

 

「一千五百六十九年前に、エウロパができたのか」

 

いえ。これは、私たちの御主であるイエズスが誕生した年を起源としています。エウロパとは大陸全体です。その中に様々の……

 

「質問にのみ答えればよい。エウロパからここまで、どうやって来た」

 

大きな船で、地球を半周してきました。

 

「距離は、どのくらいだ。日数でもよい」

 

エウロパの突端リジボーアから、インディア、日本でいうテンジクまでが、半年。

そこからは海流が複雑なため小さな島を幾つも経由しますが、チイナ、日本でいうシンダンまで半年ほど。

最後に、チイナからシモまで、夏の風に乗って半月。

実際には、途中で待機する時間も必要なため、最短でも2年余りかかります。

 

「下からここまでは、どのくらいだ」

 

 

……え。シモ、から?

それは、日本の地理でしょう。わざわざ、私に質問することですか?

この人、もしかして、ミヤコより西へは行ったことがないのかしら。

 

((( フロイス! )))

 

うわ。な、なんだ今のは。お、おまえ……

 

((( 気を抜くな。彼は、きわめて重要なことを訊いている。正確に答えよ。)))

 

え……せ、正確に?

 

シモからミヤコまでは……私は、小舟を乗り継いで来ました。ひと月くらい、かかりました……

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