戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

70 / 328
SengokD.1569/005.hmos

カヅサ殿と、対談中です。

 

「下から京まで、ひと月とは、ずいぶんと寄り道をしたな」

 

いえ……。あれは、5年前の冬でしたが、海賊の危険が大きかったことと、私たちを乗せてくれる舟がなかなか見つけられなくて、あちこちで足止めされたからです。まっすぐ行けていたならば、1週間程度のはずです。

 

「イッシュウカン、とは何か」

 

あ……私たちの暦では、8日間を一区切りとして、これを週と呼びます。一直線に来られるなら、シモからサカイまでは、そのくらいです。

 

「さっき、ひと月と言ったが、ここだけ日本の数え方か」

 

え……月?

そう、ですね。ああ、1年365日を、12の月に分けて呼ぶのは、エウロパでも日本でも、同じなのです。約30日ということです。

 

ここで、ロレンソが挙手。補足してくれた。

日本では、ひと月は30日もしくは29日。4年に一度、閏月が挿入される。これに対し、エウロパではひと月が28日から31日までで、閏月は無い。

さらにロレンソは、数え方の違いにも言及した。

エウロパでは1週間を8日とするが、日本流に数えるならば、7日である。さきほど、フロイスが5年前にシモからミヤコへ来たと言ったが、これも、日本式にいえば4年前、永禄七年末から八年正月までの冬の話であると。

 

カヅサ殿は、納得された。ロレンソが適確な註釈をしてみせたことを褒め、私へも、よい部下に恵まれているなという意味のことを言った。

質問は続く。私は、祖国ポルトガルのことを、いろいろ話した。これまで、日本語で説明しようと考えたこともない単語が沢山あって、難儀した。

 

「両親は健在か。手紙はやりとりしているのか」

 

リジボーアにいる私の家族は、そろそろ隠居して、年金で生活している頃でしょう。

手紙は、日本へ来てからは、ほとんど書いていません。

 

「故郷へ帰るつもりは、ないのか」

 

それは、ありません。親兄弟、親族、友人たちへは、出国時に別れを告げてきました。

大航海は常に危険がつきまといますから、今日まで生きてこられたこと自体、奇蹟のようなものです。

日本を去るつもりも、ありません。

 

「中継地のインディアまで戻るつもりも、ないというのか」

 

はい。日本国内に信徒がいる限り、私は留まり、かれらの支えとなって生きます。どんなことがあろうと、逃げ出しません。それが、コンパニヤのパードレに求められる、絶対の使命です。

 

「内裏の追放令ごときで、京から逃げ出したではないか」

 

……カヅサ殿には、ごときでしょうが、あれは私たちにとっては痛切な打撃でありました。ミヤコの教会は見るも無惨なほどに荒らされ、信徒たちの身にも危険が迫るに及んで、私たちはひとまずサンガ城へ退却をしたのです。これは当時サンガ城主で私たちの味方をしてくれていたサンティアゴ殿という武士の尽力でもありました。それは、すべてをあきらめて逃げたということとは、異なります。

 

「京へ、留まりたいか」

 

はい。5……4年ぶりにミヤコの地を踏みましたが、信徒たちがずっと私たちを待っていてくれたことに、感謝と、申し訳無さでいっぱいです。なんとか、ダイリサマに追放令を撤回していただき、私たちの布教をあらためて認めていただけるよう、私は手を尽くしたいのです。これが、今の最優先課題です。

 

「数日待て。許可してやる」

 

え?

 

「その程度のことなら、造作もない。内裏も公方も、気にするな。予が許可すれば、それで済む。信徒にも伝えてやれ」

 

ぽかーん。

思考が、跳びました。何が起きたのか、理解不能に陥りました。

ロレンソも、同じだったようです。帰ってもお互いの記憶は一致するのですが、信徒に伝えるかどうかは、ひとまず保留にしました。

 

 

コンパニヤへの報告は、カヅサ殿がほんとに許可証を出してくれるかどうか、それを見定めてから書くつもりですが、ひとまず自分の頭を整理するための備忘録を綴っています。

いわゆる、日記です。今日あったことを、忘れないうちに、なるべく細かく。

 

そういえば。

夢に出てくる、あの物体。

銀色で、丸くて、黄色い目のようなものが光ってる、アイツが、とつぜん話しかけてきたぞ。何て言ったっけ?

日中、出てきたのは、初めてだな。

物体?お~い、物体?でてこーい。

 

((( うるさいな。)))

 

うわっ。で、出てきた。やあ物体。君の名前は、何だっけ。

 

((( こんな呼ばれ方をするとは思わなかった。質問は、それだけかね? )))

 

あ……いや。起きているなら、いろいろ話したいこともあるんだが。今、おヒマかい?

 

((( 失礼にもほどがあるな。まあいい、つきあってやる。なんだね、ルイス・フロイス。)))

 

や、やあ物体くん。きみは、いったい、なにものなんだい?いつも夢の中だから、僕、何度か聞いてると思うんだけど、よく覚えてなくてさ。

 

((( 起きてても寝てても同じだろう君は。私の名は、ウルトラだ。)))

 

そうだった。ウルトラよ。今日、君は、僕に話しかけてきたかい?覚えているかな。

 

((( 君が忘れているなら、なかったことにしておこう。おやすみ。)))

 

おいおい。君は今日、カヅサ殿の質問にちゃんと答えろって、僕にどなったじゃないか。あれは、どういう意味だったのか、教えてくれよ。いや、教えてください。

 

((( 君の思考には無駄が多すぎる。カヅサ殿と同じように私にも接してもらえたら喜ばしいのだがね。で、何だって? )))

 

うーん。今日、カヅサ殿と会見していると、君が、割りこんできた。どうでもいいことをいろいろ訊いてくる人だなと思っていたけど、重要な質問をしているぞとか。どこで、そんな風に思ったんだい?ウルトラは。

 

((( 真面目に答えてやるか。

カヅサ殿は、君がポルトガルから日本まで来た道程を聞いた。

彼の頭の中では、大まかな地図が描かれていた。

最後に、シモからミヤコまでの距離を確認した。

ここで全体の大きさが決定される。

あの一連の質問は、そういう意図を含んでいたのだ。)))

 

……あ、は、ははは。まさか、そんな。

会ったばかりの外国人に対して、そんな。

面白いけど、考えすぎじゃないかな。

 

((( カヅサ殿は、ミノを平定し、それから僅か1年でキナイ全域までその勢力圏を拡げた。

君もこの過程を見てきただろう。そこまでできる男だ。

彼の目は、今日、エウロパへ向けられたぞ。

君はその瞬間に立ち会ったのだ。)))

 

アハハハハ。愉快だね。

でもね、日本人が総出で挑んだとしても、エウロパには手が届かない。

ナウはおろか、ジャンクやフスタさえ造れない連中だよ。

この王国から出ていくことさえ、不可能だ。

いくらカヅサ殿が戦争の天才でも、日本66領国を蹂躙するまでが、せいぜいだね。

考えすぎ、考えすぎ。

 

((( それが君の結論なら、それでいい。

さあ、もう寝てくれ。エネルギーは有効に使うべしだ。)))

 

一つだけ、確認させてくれ。

君は、ちゃんと答えろと僕に言った。

僕はちゃんと答えてしまったが、そのために地球の大きさをカヅサ殿がかなり正確に捉えてしまったのだとすると、君はエウロパを危険にさらすことに手を貸したことになるぞ。

何のために、あんな忠告をした?

 

((( 君の説明に一貫性が無く、情報源として利用できない対象だと思われてしまえば、カヅサ殿は二度と君に会わないだろうし、便宜も図ってくれない。

私は、君にも最大の利益がもたらされるよう、協力したつもりだよ。

さあ、安心して眠りたまえ。

おやすみ。)))

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。