戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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ワタ殿が、新しい城を与えられてミヤコを離れることになった。

 

これまでの感謝を伝えるべく邸へ挨拶に出向いたとき、そろそろギフへ行ってみるがよいと、紹介状を何枚か書いてくれた。

カヅサ殿はミノ国の領都ギフを拠点にして、キナイ全域に指令を出している。

ワタ殿の配置換えも、その一環による。

さらに行政や通商にまで改革を加えているのだが、とんでもなく画期的な変化が、いくつか見え始めてきた。

 

たとえば、通行税がなくなった。

これまで街道にはいくつもの関所があり、通過するたびに荷を調べられ、カネを払う必要があった。

公的・私的、無数にあって、大概、いいかげんなものだった。

これをカヅサ殿は、原則廃止にした。

 

小領主や宿駅が勝手に関を設けることも、禁止となる。

並行してミヤコからギフへの街道全線整備も命じられた。

安全性が向上して、今年は商人のみならず一般旅行者が大勢、行き交い始めているそうだ。

私が行けばカヅサ殿も喜ぶだろうとワタ殿に言われ、遠出をしたい気分がむらむらと湧き起こってきた。

 

 

ペンテコステが終わってから、教会の諸事をアンタン殿らにお願いして、ロレンソと荷物運びの従僕を連れて、行ってきた。

ミヤコから、オーミを通過して、ミノへ入る。

途中、いくつかの公的な関所はあったものの、簡単に通してくれた。旅の無事まで気遣ってくれる。

こうなると旅人同士も仲良くなって、おしゃべりが弾む。

カヅサ殿の評判は、すこぶるよろしい。

役人が聞いているかもしれない場所で領主の悪口を堂々と言う人はいないものだが、そんなへつらいも感じられない。心のこもった賞讃が満ちあふれている。

澄みきった高揚感を味わう旅ができた。

 

ギフは、大きな街だった。

バビロンとはこのような都市だったのではないか、という想像をする。

広大な平地の中心に山があり、その小高い頂に、カヅサ殿の城がそびえている。

 

ここへ着いてからが、艱難の連続だった。

街の人々は、5年前の追放令だけを知っており、我々がテンジク人だとわかるや否や、対応を拒絶する。

最初の夜は、野宿した。

政庁の受付へ赴きサクマ殿への紹介状を見せると、戦場から戻られるまで待て、と突き返される。

直接カヅサ殿へ取り次いでもらうことも考えたが、言い出せなかった。かれらは役人というより近衛兵そのものであったからだ。すごすごと引き下がるしかなかったが、この場ではそれが正解だったかも、と今も思う。

 

数日を、無為に過ごした。

サクマ殿が現れてから、状況が一転する。

大歓迎され、すぐ城へ入れてもらえた。

カヅサ殿からは、笑われた。

 

オーツ殿という家臣が私たちの担当を命じられ、この日以降は城下にある彼の邸へ泊めてもらう。

今後もギフへ来たらオーツを頼れ、予約は不要だとカヅサ殿に言われた。

え、そんな何度もギフへ……来ていいんですか?

私は、どんどんギフが好きになってきていた。慣れると、何もかもが機能的に進むのだ。

首都をミヤコからギフへ移すのはどうでしょう。くらいまで考えた。

 

カヅサ殿は、ミヤコで何度かお会いした時よりずっと、穏和な表情を見せる。

 

「インディアやエウロパには、これよりずっと見事な建築が、いくらでもあるのだろうな」

 

そう言って、はにかみながら、城の中を案内してくれた。

 

ギフ城も、木と紙のみで造られていることは日本のすべての建築と変わらない。だが木を削って組み合わせるだけでここまで複雑かつ巨大な高層建築物が構成できることに、私は驚きを隠せなかった。

さらに衝撃なのは、その清潔さである。

長く広い廊下の隅々にまで、一片の塵さえ見当たらない。

便所でも深呼吸ができる。悪臭を感じない。

清潔とは日本を象徴する形容のひとつではあるのだが……

ギフ城にくらべればサカイの街は臭い。

ミヤコは、もっと臭い。

インディアやエウロパは……

もはや、思い出すのがつらい。

 

最上階の茶室で、もてなされる。

チャノユといって、日本の貴人がたしなむ最高の接待とされる。タタミ数枚ほどの小部屋で、若草色の飲み物をふるまわれ、閑談するのだ。

過去に幾度か経験しているが、ギフではこれも格別だった。

カヅサ殿の手さばきは優雅で、茶も、ほどよい苦味を芳醇に感じた。

これを、地元の名産だという乾しイチジクが引き立てる。

ほっぺたが、落ちるほどの、衝撃だった。

こんなおいしいものを食べたのは、生まれて初めてだ。

 

「フロイスは、甘味が好きだのう。初めて見たときも、そんな顔をしていた」

 

ほよ?

そんなこと、ありましたっけ。

 

「二条の御所で会うより前だ。妙覚寺で。帽子を呉れたであろう。

佐久間が接待したが、予は隣室で様子を見ていた。

パードレは妖術を使うと聞いておったから、正体を見極めるまでは近寄らせたくなくての」

 

がーん。あの時から、見られていたのですか。

いろいろくやしいですが、さすがはカヅサ殿。

かないません。

ほんっとーに、何から何まで、かないません。

 

「日乗は、困った奴だな。

そろそろ用済みか。手を打とう。

そ知らぬ顔をして見ておれ」

 

私たちの目的が、こうして何もかも順調に、達せられていった。

街を観光したら帰るつもりでいたが、その後もカヅサ殿から呼び出されて、城で何度か茶会をする。

とりとめもない話を、いっぱいした。

エウロパのこと、インディアのこと、船、商売、戦争、歴史、天体、文学、芸術。そしてもちろん、デウスの教え。

 

カヅサ殿もまた、ワタ殿と同じ理由で、入信を拒絶された。

 

「まだまだ、殺さねばならん奴が、多いものでな」

 

その候補に、坊主たちも並んでいる。坊主たちは私利私欲に溺れすぎ、民衆を救うつもりなどない。やつらが行動を改めぬつもりなら、滅ぼすべきだろう。滅ぼさねばならぬ。

そうカヅサ殿は考えておられる。

なんとありがたいことであろう。

 

時は満ちた。

デウスのお導きは、まちがいなく、私たちの目の前を照らしている。

 

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