ワタ殿と、1年ほどぶりにお会いした。
ペンテコステを過ぎて、ほどなくだった。
頭髪をすべて無くしていて、驚いた。
詳しくは聞かなかったが、業務上の過失でカヅサ殿からお叱りを受けたとか。
禿になることは日本において罪を認め、反省を顕示する習わしである。ただ、坊主も好んでこれをするので、何かしら区別をつけてほしいところ大である。
ワタ殿は家臣団を連れて、教会を訪れた。
しばし語らう。
心労が嵩んでいるのか、うつむきがちで声にも元気がなかった。
訪問の目的は明らかだ。カヅサ殿が今、ミヤコへ来ているので、御挨拶するとのこと。
私も誘われた。
いいですね、お伴しましょう。献上品は、何がいいかな。
昨年完成した、ダイリサマの新しい政庁。
ここで祝宴が催されている。
その前後の日取りで、謁見希望者が殺到。
キナイ中の有力者が、カヅサ殿とクボウサマに、いろんな要望を持ち込んでいるようだ。
王様って、大変だなあ。
私たちの番が来て、カヅサ殿、サクマ殿、その他の皆さんと久しぶりに語らった。
日本の宴会ではやたらとサケを飲まされるのが常だが、カヅサ殿は飲酒をしないので、私にも勧めない。
他人が飲むのは全然かまわないという。むしろ大いに飲んで笑え、楽しい話を聞かせよ。そう命じられる。
自分だけは常に臨戦態勢で、より多く相手に語らせるのが狙いなのかも。と、この日はちょっと思った。
勘繰りすぎかな。
ワタ殿は、時々しどろもどろになりながら、いろいろ喋らされている。
失敗を赦されるかわりに、次の戦で兵を率いて参加するようにとの約束をさせられている。
どの程度の兵力を出せるか。馬は何頭、弓手は何人、鉄炮は何挺あるか。など具体的に要求されている。
隣室で書記官のセキアン殿が、聴き耳を立て、書き留めていたりしてるんだろうな。気配は、感じられないですが。
私も最初の日に、サクマ殿からいろんな質問をされて、無防備に答えちゃっていたなあ。
とくに隠すことは今も無いけど。
恥ずかしい振る舞いはしないように、気をつけたい。
「フロイス殿、もっと食べなされ。断食期間は終わったのであろう。教会では、貧しい者への施しをいつもやっておると聞く。立派なことじゃ。坊主どもに、見習わせたいものじゃ」
サクマ殿が、私を気遣ってくれます。ありがたいことです。
遠慮なく、いただきましょう。
「フロイス。いま、そちの下には、どれほどの信徒がいる?」
お。カヅサ殿が、こちらへ興味を向けられたようです。
信徒の数ですか……
ミヤコでは約150人。サカイ、アマンガサキ、サンガ、などを合わせると、2000人くらいでしょう。
シモでは、信徒ばかりになった町や村などもあるそうですが、キナイでは、なかなか厳しいです。
「ゆくゆくは、日本人をすべてデウスの信徒にしたいと思うか」
む。ここは、気をつけて回答した方がいいかもしれませんね。
ひと呼吸おいて、ゆっくりと、答えます。
はい。その通りです。ゆくゆくは。
ただし、無理強いをしてはなりません。
私たちは、人々に気付いてもらえるまで、語り続けます。
その流れに沿った上で、日本の老若男女すべてに、敬虔かつ謙虚で清貧を貫く生き方に目覚めてもらうことを、願います。
「それでは、時間がかかろう。今いるパードレだけでも足りるまい。
まだまだ、送りこんでくるつもりか」
おっしゃる通りですが、私たちは1500年もかかって、やっとここまで来たのです。
まだこの先、1000年、2000年かかるかもしれませんが、一歩一歩、積み重ねるだけです。
パードレは、多くても1年に3人くらいまでしか、来日しません。
人手は欲しいですが、こればかりは、なかなかつらいところです。
「悠長なことよ。それまでには儂らが、日本を平定してしまうぞ」
家臣のアケチ殿が、絶妙な発言をしてくれました。
私はすかさず応えます。
今はまだ、皆様への貢献が出来ないでいること、忸怩たる思いです。
然れども私には、カヅサ殿があと10年、20年のうちには、日本66領国を平定している姿しか想像ができません。
そのとき王国全土から争乱は消え去り、住民は自由に移動ができ、商売は盛んとなり、子供たちの笑顔も絶える暇がない。日本がそんな楽園になっていることは、疑いがありません。
私たちが、そのお手伝いをできるとしたら、こんな形でです。
人々に夢を与え、生きる目的を示しましょう。
デウスの教えを理解した者は、職務に迷いを持ちません。
このことは、皆様方も、兵士たちの活躍によって実感されていると思います。
そして私たちは、まずは大船を造る技術を皆様にお伝えしたい。
これによって日本人自ら、大海原に出ることが可能になります。
シンダン、テンジクを遙かに越え、いずれはエウロパまでご案内したい。
一日も早くそんな未来が訪れることを、私は願ってやみません。
全信徒の思いが、同じはずです。私たちは、ひとつになれます。
そのための平定を、カヅサ殿に託したい。
皆の息づかいが聞こえてきた。
全員の時が止まり、瞳に輝きが増した。
大成功だったと言ってよいのでは、ないかしらん。
ワタ殿も、もっと元気を出してください。
今日は、とにかく、明るくて威勢のいい話だけをしましょうよ。
さあ、食べて、飲んで。