戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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マルコ諸島にくらべれば、日本の暑さは、大したことないです。

地上で寝ているので揺れも無く、蚊や蝿は少々困りものですが、これとて不自由は感じません。

仕事がつらい?いえいえ、パードレ・トルレスたちの積年の苦労にくらべたら、この程度、仕事のうちにも入りません。

食事についても、文句などは申しません。

あ、でも、下痢がやまないのは、生魚のせいかもしれません。お肉を食べて、治したいなあ。

前途洋々の日本開拓。こんな楽園で、伏せっている暇など無いのです。

さあ立て、立つんだフロイス。今日も良い天気だぞ。目を覚ませ。起き上がれ。さあ。

 

とっても気持が悪いです。

熱もあります。

ベゾアールを舐めて、なんとかおさえてます。

 

 

聖マリヤ御昇天日の数日前、ブンゴよりイルマン・アイレス・サンチェスがやってきた。

彼もまた、かつては商人だった男だ。楽器をたしなむので、アルメイダが、子供たちの音楽教師になってくれと引きこんだ。

5年ほどブンゴの教会で音楽指導にあたり、ゴアで申請が認められたことにより、昨年、コンパニヤの一員となった。

 

連れてきた5人の子供たちによる、ヴィオラの演奏は、私たちの教会を優しく包みこみ、その威厳をより高めた。

音楽はいい。良い音楽とは、本当にすばらしい。

一方で、私の調子は悪くなるばかりだった。

単式誓願とはいえ、緊張で芋汁も喉を通らない。芋汁といえば……いや、やめておこう。今はそんな、下品な話をするべき時と場合ではないだろう。

 

 

御昇天日がやってきた。

ドン・バルトロメウには参加してもらえなかったが、ドン・ルイスが一日ついてくれていた。

子供たちによる演奏つきの、ミサ。

西集落をぐるりと一周する大行進。

天地創造を描いた簡単な演劇に、聖体の拝領。

復活祭かと見まがうばかりの大盛況だった。

 

そして、九時課の聖務日課に引き続き、いよいよパードレ・トルレスの盛式誓願が迫ってくる。

私は、ラシャ織の祭服に着替えた。

重かった。汗がしたたりつづけた。

何度も気が遠くなり、意識を失いかけた。

パードレ・トルレスは、信徒に支えられながら跪き、告解した。

日本語はまったく使われず、通訳もされなかったが、信徒たちは静粛に聴き続け、教会はヴィルトゥスに満たされた。

 

……終わった。

私は、倒れそうだった。いや、倒れたかもしれない。

信徒に支えられながら立っていた記憶もある。

少し、休ませてもらった。

フェルナンデス、サンチェス、ゴンサルヴェスたちに、あとをまかせた。

 

ドン・ルイスは、祝祭が終わったらそのままパードレ・トルレスと私をオオムラの城まで舟で連れていくつもりでいたと、その席で言われた。

しかし私の衰弱ぶりを見て、かつ、ドン・ルイス自身も疲れが相当たまっていたようなので、明日にしましょうと話がついて、解散となった。

 

 

翌日、私の具合は、もっと悪くなっていた。起き上がれないほどだった。

聖務日課すら、ままならなかった。

オオムラ行きは、延期してもらった。

ドン・バルトロメウに申し訳ないですと伝えてもらって、もう一日、休ませてもらうことにした。

 

 

次の日、少し起き上がれるくらいの元気は、出るようになった。

しかし城下で説教をするのはどうだろう。体力も、精神も、もつだろうか。

そんな不安を抱えながら授業を始めていたとき、異変の報がもたらされた。

 

城が襲撃を受けている?

火の手も上がっているという。

敵は、この港へもやってくると思われる。ただちに避難を。女・子供は、かくせと。

 

騒然となった。

我々は、ただちに行動を開始した。

手分けして荷物をまとめる。祭具や聖体などは港の船へ運びこませた。

船員たちも、大わらわだ。

商売道具の撤収には、かなりの時間がかかると思われる。

日本人商人たちも、我先にと港から去っているのが見える。

村に家族や親戚がいる者は、その脱出を手伝っている。

誰も彼もが、先を争う。

タケオか?

タケオが攻めてきたのか?

ドン・バルトロメウは、戦っているのか?

 

ここから城は見えない。城からここまで来るには、陸より海の方が近い。

漁民の小舟や、商人の非武装船はともかく、我々の船団と戦うには相当の兵力が必要だろう。1隻は戦闘艦でもあるのだ。

アジュダの港にとどまっているのが、一番安全なような気もする。

陸路から攻めてくるとしたら、東集落の先から入ってくる形になるだろう。見透しはよい。

教会のある、この丘に立っていれば、敵襲の確認は容易だ。

避難行動は継続するべきだが、それ以上に焦ることは、ないのではなかろうか。

そんなことを考えた。

 

正午になる。

我々は、少し落ち着いてきた。港はまだ、騒々しいが。

全員集まり、今後の対策を相談する。

貴重品はひとまず、船へ運び終えた。もし敵がここまで来れば、我々も船へ退避する。

パードレ・トルレスは足が悪いので、体力のある者が支えて脱出する。

教会に暮らしていた子供たちは全員、私たちの家族だ。連れていく。

ところで、新しい情報は誰か持ってないか。

 

ドン・バルトロメウがすでに殺された、という噂が流れているらしい。あくまでも噂だ。

そして、この襲撃は敵国の侵入ではなく、城内での反乱であるとか、そんな噂も広まっているという。

……どこまで確かなんだろう、それ。

 

日本人少年たちが我々エウロパ人の知らない情報を共有しているような、印象を感じた。

フェルナンデスがひときわ、不安そうな顔をしている。

私は、フェルナンデスに命じた。

ここにいる全員の言葉を理解できるのは君だけだ。

教えてくれ。実際のところ、いまいったい、何がどうなっているのか。

 

フェルナンデスは、パードレ・トルレスの顔色を窺っていた。

トルレスも聞きたがっている。

さあ覚悟を決めてくれ。

あくまで、ここで私が知り得た情報のみをもとにしてですが、と断った上で、フェルナンデスは語り始める。

 

「面子を潰された坊主たちが、反乱を起こしたものと思われる。

坊主たちと結託した邪宗徒の家臣は、すでにドン・バルトロメウとルイスを殺した。

どうやら、パードレ2人とバルトロメウらが全員城内へ集まる予定だった日に決行するという計画が、めぐらされていたようだ。

敵は領内の坊主どもである。すでにこの港町の、東集落の坊主どもは、西集落へ攻めこみ私たちを抹殺する準備を整えている。

パードレの訪問が遅れたことで、計画が狂ったものと思われる。

東集落の坊主どもは混乱して騒ぎだしており、それが西集落へも伝わってきているところだ」

 

ありがとうフェルナンデス。では全員、今すぐ船へ避難しよう。

一刻も猶予はならない。ここにいたら、殺される。

 

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