戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1572/002.hmos

ギフ城下は、カブラルを驚嘆させた。

 

秩序立った街並みと、清潔感。

真冬だというのに、人々が活き活きと駆け回り、子供たちも大勢遊んでいる。

広さではミヤコに及ばないが、まだまだ土地に余裕はあり、伸びしろは大きい。

カミキョウ・シモキョウといった身分の差によって隔てられる閉塞感が見受けられないのも特徴だ。

もっとも家臣団の住居地と一般の町民が住む区域は、濠で分けられている。

しかしこれは軍政上の境界であって、貴族が穢れを拒んで隔てているのとは雰囲気が異なる。

 

オーツ殿の邸を訪問し、面会希望を伝えた。

オーツ殿もあれからずいぶん出世した模様だ。

翌日には我々は、城へ招かれた。

カヅサ殿は、家臣にも整列させての歓迎を命じた。その中を木綿服で進む私たちは、やはり、珍妙だった。

しかし嗤う者は誰一人いなかった。

 

「この度は寒い中、遠いところ、よくぞ参られた。

存分にくつろがれるがよい。

必要なものがあれば、何なりと申しつけられよ」

 

カヅサ殿もまたカブラルを見て、私よりずっと統率力を持つ人物だと、すぐに認めた。

対話は弾んだ。

カヅサ殿の質問が、きわめて無駄のない、率直で、適確で、かつ礼儀正しいことを、カブラルもまた瞬時に理解したのである。

私はカブラルが日本の印象を好意的に語るところを初めて耳にして、驚いた。

ジョアンも、使い慣れない単語が次々と出て戸惑ったので、しばしば話が中断した。

 

カブラルは、食事もここでは全部平らげた。満足そうだった。

 

「地上の食物はすべて、デウスが人間のために用意されたものです。私たちはこれを余すことなく、美味しく食べる責任を持つのです」

 

この所見はカヅサ殿を面白がらせた。坊主をひとり呼びつけて、もう一度、同じ説明を聞かせた。

余興のような宗論が勃発した。

 

坊主によれば。

あらゆる動物と植物には、等しく生命が宿っている。

花や実をつける植物は、感情のようなものさえ持つという。

フォトケに従う者の正しい生き方とは、他者の生命を一切奪わずに生きることである。

肉を食わないことはもちろん、果実も口にしない。

葉物だけを調理し、それすらも、やむなき所業と詫びながら、最低限の摂取にとどめる。

この道を踏み外すことは、大罪に匹敵するのだそうである。

 

私は、この話のオチを知っている。

坊主は、たとえば兎を動物に含めない。だから食っていいのだ。

結局こいつらは屁理屈を次々と創りだして、一般民衆よりも豪勢に快楽をむさぼるのである。

宗論ごっことはいえ、少々かわいそうではあった。判定者であるカヅサ殿は、私たちを愉しませる目的で、この坊主を呼んだのだから。

この一幕は、カブラルがカヅサ殿への信頼を固める決定打になったと感じる。

いい流れだった。

 

カブラルから出されていた宿題のひとつも、ギフで片が付いた。

実は、こんな質問をされていた。

ヴィレラの時代から、ミヤコにおいて、布教を妨害する最大の敵といえばソウダイだった。

私も報告書に何百回と登場させた。

 

「最近見なくなったが、死んだのか?」

 

いえ、ワタ殿を殺した一味に入ってましたから、まだ、生きてますね。

 

「いま、どの勢力に属しているのか?」

 

ええと、よくわかりません。

 

実のところ、サンガやミヤコでは、ソウダイと利害関係を持つ領主が多すぎて、かえってよくわからないのである。

カヅサ軍が初めてミヤコへ侵攻し、ミヨシ勢を蹴散らしたとき、ソウダイはちゃっかりカヅサ殿と交渉して、その配下に就いた。軍政的な才能を買われて、けっこう重用されていたようである。

私はこれを、報告には書かなかった。ややこしくなるからだし、いまさらソウダイを味方として描くことは良心がゆるさなかったのだ。

 

案の定、奴はただ狡猾なだけだった。

カヅサ殿がキナイから逐われたところで協力関係を断ち切り、本拠地だったナラへ戻ってまたぞろ悪巧みに精を出しはじめる。

小粒な勢力がひしめくキナイで、ソウダイは依然油断のできない存在である。

ワタ殿を殺したのも、こいつだ。

 

せいぜい今のうちに、最後の享楽を味わっておくがいい。

カヅサ殿は着々と、雪辱戦の準備を進めている。

おまえたちは、気付いたときにはその首を刎ねられているだろう。

 

当面の第一標的は、北オーミと、その背後で手ぐすね引いているエチゼン。

ミノ国より東にも、カヅサ殿の窮地につけこもうと牙を研ぎ、時期を窺っている強豪がいくつかひしめいている。

イコ宗の根城となっている都市は、全国土あちこちに潜んでいる。

カヅサ殿は、あらゆる情報を集め、これらすべてを俯瞰して、戦略を決断しようとしている。

休む暇など一瞬とて無いのだ。

にも拘わらず、余裕を感じる。

秋にミヤコでお会いした時より、カヅサ殿はずっと上機嫌であった。

私は、安心をする。

 

さすがに冬は出陣しないだろうけど、春か、夏には。

ミヤコでの凱旋式が、見られるに違いない。

 

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