戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

94 / 328
SengokD.1572/003.hmos

カブラルはギフへ行って以来、いい親父さんになった。

 

なんてことをそのまま言うとまた雷が落ちそうだが、パパと呼ばれて気を悪くする上長もおるまい。

いや、怖いから試そうとも思わないけど。

 

もっともニエッキとは最後までまともに挨拶を交わさなかったし、ロレンソやコスモに対しても、空気のように扱っていた。

命じるのは私と、ジョアン・デ・トルレスにだけ。

ちなみにもう1人連れてきた従僕もジョアンという霊名だが、彼は先輩に命じられて雑務をこなすのみ。

日本語もうまくない。チイナの生まれかもしれない。

だがカブラルにとっては日本人よりも扱いやすいらしい。余計なことをしないからだ。

 

カブラルに言わせると。

シモに日本人信徒は多いが、人材としては皆無に等しい。

ほとんどが、交易による利益を目的とした領主に号令されて受洗しただけの、意思を持たないハリボテ。

手先だけは妙に器用で、自尊心がやたらと高い。

教育すれば、聖書の語句はすぐ覚えこむ。次に考えるのは、それをどう悪用するかだ。

日本人は、ジュデヨ商人のような素質を持っている。信用するな。情をかけるな。

これを常に肝に銘じておけ、と言われた。

 

カヅサ殿に限っては、その実力を評価し、我々も協力してよいとの方針を示した。しかし。

彼に霊名を与えてはならない。

将来、求められることがあっても、引き延ばせ。

あの殺戮嗜好と覇権欲は、強力であるだけに、危険きわまりない。

パライゾへは行けるはずもないのだから、余計な期待もさせるな。

悪魔は悪魔として利用したのち、インヘルノへ堕とせばよいのだ。

カブラルは私へ特に、そのような注意を授けた。

 

一度会っただけで、そこまで見抜くとは。

勉強になるなあ。

 

 

ミヤコへ戻り、日々の聖務を、カブラルに睨まれながら、緊張しつつ、こなす。

今年の四旬節は、いかにも受難の40日間だった。イエズスの生涯を、我がことのように感じた。

復活を心の底から喜び、それでもドンチャン騒ぎなどをするでもなく。

粛々と、ただ粛々と。お祝いした。

祈ること。

ただひたすらに、慎ましく生きること。

それが人間としてのつとめなのだ。

私は忘れかけていたが、まだ、立ち直れる。そうだ。私は宣教師だったのだ。

我が身をもって、日本人にも、生きる尊さを教えねばならない。

 

 

新たな宿題を命ぜられる。

 

昨年シモでは、新しい港湾が建設された。

オオムラ領ナンガサキという町だ。

今後、日本を世界に開く玄関口として大いに発展させ、拡張してゆくことが決定されている。

今年のナウも、ここへ入ってくる。

深い入江で、山に囲まれ、防御には絶好の地形。

シモ中を測量して選ばれた。それ以前は小さな漁村だったが、日本人はここの戦略的重要性に気付いておらず、ドン・バルトロメウも、あっさりと特別区扱いにしてくれた。

1年も経たないうちに、人口は開港当初の倍以上に膨れあがった。

 

アリマ領では、村ぐるみ信徒ばかりの集落が幾つもあるけれど。

それ以外の土地では概して信徒は孤立し、迫害されているものだ。

とくに、アマングチやサツマなどで信徒は息をひそめて暮らしている。

こういった各地から、ナンガサキへの入植を募っている。

手に職を持った者でも、腕力しか資本を持たぬ者でも、いまナンガサキへ来れば、教会で飯にありつけ、仕事にも困らない。

来たれ。そして第一世代の市民となれ。

こんな呼びかけを、広めて回っているところだ。

 

ミヤコやキナイでも入植者を募集してくれ。

これが我々に課せられた宿題だ。

ことに、カワラモノを歓迎するという。

え?

パパ・カブラルよ。あなたどこからそんな情報仕入れてくるんですか。

 

河原者。

ミヤコ特有の存在である。

文字通り、河原に棲む。

家を持たない。賤しい身分とされる。

否。

そもそも日本人の間では、人間扱いすらされていない。

 

日本では家畜を、穢れた存在として忌み嫌う。

しかし田畑では牛馬が労働力として用いられているし、貴人や武士も馬に乗ったり牛車で荷を運んだりは日常だ。

野良犬も多く、人界に接しているから同様に穢れた存在とされる。

動物が死んだら、どうするか。

河原者が呼ばれ、回収する。

 

かれらは河原で死骸を解体し、その肉を食い、毛皮を剥いで専門の加工業者に売って、生計を立てる。

同種の存在は日本全土にいるはずだが、地方では、村の中で特定の部落に属する数軒が請け負っていることが多いようだ。

集団として一定の規模を有し、僭称とはいえ名前まで与えられているのは、ミヤコならではといえるだろう。

 

ナンガサキでは、肉食を普通に広めたい。

カワラモノはこれに最も抵抗がないだろうし、ミヤコで日陰者の身に甘んじているくらいなら、新天地で市民権を得ろ。歓迎するぞ。

これが、カブラルの発案だった。

 

問題がある。

私が直接河原へ出向けば、今いるミヤコの信徒が全員、その日のうちに棄教しかねない。

どうカワラモノと接触すればよいか。

そこから考えなければならない。

しかし、実現すればたしかに誰一人困らない、理想的な社会貢献を為すことになる。

少し時間をください。何とか、やってみます。

 

私は内申書の点数が良くなることを祈りながら、カブラルとジョアンたちを送り出した。

全員がほっと、ひと息つく。

信徒の誰かが、つぶやいた。

 

「パードレよ。

ヂシピリナをしていいですか。

体がうずいて、どうしようもないんです」

 

もう一日待て。気をゆるめるな。

ジョアン・デ・トルレスがどこかで監視していないとも限らん。

安全を確認したら、やってよい。

そうだな、白衣の主日まで我慢せよ。

盛大にやろう。

 

私が安全宣言を出すまでは、絶対に、ハメを外すなよ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。