秋である。
いつもなら、トマスが戻ってきて、シモの話を聞かせてくれる季節だった。
今年からは、従僕が、カネと物資を届けてくれる。
モンテやフィゲイレドからの報告書は以前より文量が多くなったが、どうも素っ気ない。
従僕くんも、きわめて事務的である。
無欲で誠実、という評価なら与えられるが。
質問をすれば、知っていることは答えてくれる。
ただ、そもそも何に対しても、関心が無いみたいなのだ。
生きることに執着していないようにも見える。
そんな若者だから伝令に選ばれたのかな、と思ったりもするのだが、さて。
オオムラ領へは、襲撃が絶えない。
この夏にも、派手な戦闘があったらしい。ドン・バルトロメウと、たった7人の家臣が1000兵を超える敵に包囲されながら城を守りきったとか。
どこまで本当かな、これ。
従僕くんに訊くと、そうだったみたいですね、と爽やかな返答をくれた。それ以上のことは、知らないようだ。
盛り上がらない。これで話は終わってしまう。
一方ミヤコでは、ニエッキの人気がうなぎのぼりだ。
彼はミヤコ語の中でも庶民語をよく覚え、コンヒサン中でもよく笑い声が漏れてくる。やりすぎな感もあるけれど、私の仕事を減らしてくれているのだから、ありがたい。
歌うのも大好きで、クラボやヴィオラも巧みに操る。
聖歌隊に入りたくて教会に通い始める日本人は多い。その指導もすべてニエッキに任せている。
今年の降誕祭は、劇と聖歌の大合戦を演出できるだろう。紅白対抗とか、やってみようか。
広い会場を借りたいものだな。教会そのものが朽ちてきてて、手狭だし、冬はすきま風がつらいんだよなあ。
引越しも考えないと、いけないなあ。
今日も、地図を見ながら考える。
ミヤコの西にはツノ国が腰を据えている。
主要都市の、タカツキ、アークタンガワ、アマンガサキ、オーザカ。
これらは互いに4レグワも離れておらず、現在タカツキを、ダリオ殿と、ワタ殿の子息とが守っている以外は、ことごとく敵地である。
夏にまた、オーザカで戦闘があった。
最近はその先のサカイへ行くのすら、危険が大きい。嘆かわしいことである。
ワタ殿を殺したのは自分だ、と自慢する男の噂が最近よく耳に入る。
アラキ・シナノカミという。
シナノだと。いつもの、あれだ。王国全土を占領したらシナノはおまえにくれてやると、空手形を与えられていい気になっているわけだな。
とっととシナノ王と戦争して、共倒れになってくれ。
ただし、ミノは通っていくな。ミヤコもな。
このアラキ、雑兵からの成り上がりらしい。
その経歴は、裏切りの積み重ね。ミヨシの各派を渡り歩いては前に仕えた主君の弱みを切り売りするという卑劣漢だ。
そんな手口でのし上がっていけば、信用度など保てないはずなのだが、忘れるなかれ。ここは日本だ。
自分を飾り立て、売りこむ才能は一流なのだろう。
ワタ殿の死を利用して、どこに雇われようとしているのか。
そんなアラキの手足となって働きたい子分も、大勢いるものなのかねえ。やりきれない。
キナイにおけるミヨシ一族の支配領域は、縮小に縮小を重ねて現在はカワチ国の北部におさまっている感じだ。
ちなみに南部はタケヤマなる領主が支配していて、安定した状態にある。
彼はカヅサ殿に忠誠を誓い、ミノ軍が再びキナイへ侵攻するときには全力で支援することを約束した。実に貴重な拠点といえる。
とはいえ、北オーミのアサイも、あれだけ信頼されていたのにカヅサ殿を裏切ったからなあ。
過度に期待すべきではないかもしれない。世知辛い話だが。
ツノ国、カワチ国の先には広々としたヤマト国が連なる。
ナラを中心とする北部の一帯はずっとソウダイが支配していた。だが最近は凋落の兆しが見える。
ツツイという武者が、ソウダイをやりこめているらしい。
急に出てきた新人ではなく、代々ヤマトに地位を築いていた領主の一族とのこと。
ソウダイとも長年にわたり抗争を繰り返してきた。近年はツツイがソウダイの城を奪ったりして、形勢を逆転させているということだ。小気味よい流れである。
このツツイ殿に今のうちから接触したいと信徒たちに相談してみたのだが、難色を示された。
道中の危険がまだまだ大きいことも勿論だが、ヤマト国における布教自体にこれまでとは別次元の戦略が必要だからという。
大雑把にまとめるならば、ヤマト国の宗派はフォトケとカミの融合体なのだ。
こじらせ方も独特で、排他主義が殊更に強い。東隣のイセイ国と並んで、移住者や避難民の受け入れにもかなり消極的な土地柄みたいである。
思い出したよ。悪魔の巣だった。ナラ、ヤマト。
秋は、コメの収穫期である。
農村では男手が駆り出され、役人も税の徴収で大忙しとなる。
どこの軍でも、春と秋には兵が払底し戦争どころではなくなるのが普通というものだが、戦闘行為が減少するかといえば、決してそんなことはない。
むしろ、この時期に特有の戦闘が発生する。常時、備えは必要なのだ。
過去にカヅサ殿は、敵国の稲穂を焼き払うという大胆な作戦で相手の士気を挫く戦略をとったことがあった。
もっと一般的なのは、貢納中の米俵を狙う盗賊や私兵だ。
これが各地に突如現れ、暴れまくって去ってゆく。
領主には、その対策も求められる。
数年前のこと。
古参の信徒、軍人のジョルジ殿が、ある農村でコメの計量を監視していた。
そこへ10倍以上の夜盗の群れが襲いかかってきて、戦闘になった。
多勢に無勢。ジョルジ殿も殺されかかる。
だが襲撃者のひとりに信徒がいて、しるしを見せ合って、見逃してもらえたそうだ。
兵も村人も皆殺しにされたという噂の方が先に届き、あの時は皆がひどく悲しんだ。
そのあとで傷だらけのジョルジ殿が帰ってきて、これまた大騒ぎになった。
ともあれ、たすかってよかった。
デウスの信徒であることは、このように、生死を分かつ決め手にもなるのである。
ゆめゆめ、軽んじることなかれ。