予定通りに行けばあと5~6話で完結です。
もう暫くお付き合い頂ければ。
領域「
しかし誅伏賜死は、暴力を禁ずる不可侵の効果を持っている。そのため加害性を持つ限りは、対抗して領域を展開することなど不可能である。
つまり、朱堅の領域は。
「俺と同じ、加害性の無い領域――!!」
「
いつの間にか走り出していた朱堅。殴りかかるも、日車は
体術に優れた虎杖と直前に交戦したことで、歩幅・息遣い・筋肉の収縮などから、その場でより最適な動きを見つける形で成長を遂げていた。
「(今の拳、まともに受けていれば吹き飛ばされていたな。甘く見積もっても膂力は
「(咄嗟に受け流す方へシフトしやがった! コイツ
続けて二撃、三撃と繰り出された殴打を日車は流し切る。
経験によるアドバンテージで戦い慣れている
「(比喩でなく文字通り鉄の拳! 俺の不可侵と同様、必中効果は発動していないはずだ。つまり領域とは別に術式を発動しているのか? 領域に刻んだ
攻撃を捌きながら分析を続ける日車。
余りにも最適すぎるその動きに、朱堅は内心で悪態をつく。
「(コイツ、動きの予測精度が尋常じゃねぇな。未来でも見えてんのかってレベルで正確! 俺が動き出す前からもう捌こうとしてやがる!)」
相手の動きを予測して動きを作る。
言ってしまえば単純な事だが、偶然にも日車と朱堅の体格はよく似通っていた。それゆえに『自分ならこう動く』と、
しかし逆に言えば、それでもなお防戦で手一杯であるという事。
これは偏に年期と筋力の差である。
朱堅の呪力操作と肉体は瞬発力と出力が凄まじく、平安の術師に相応しい力量を誇っていた。
それにより絶え間なく攻撃を繰り出す事で、予測できたところで反撃する暇を与えないという、純粋な暴による対策が出来ているのである。
熟練の
朱堅が打撃を繰り出し、日車がそれを捌く応酬が続く。
「(どうにか防戦できている訳だが、これは……少し不味いな)」
日車が分析を進めながら防衛し続けていたが、突如
「クソッ!」
その隙を見逃さず、朱堅はより力強い鉄拳を繰り出した。日車は咄嗟に両腕を交差させて防ぐも、両腕から異音が響く。
ボキィッ!
「がっ!?」
それで勢いは留まらず、日車の身体を遥か後方まで吹き飛ばした。
轟音と土埃を立てながら壁面に叩きつけられた日車は肺一杯の空気を押し出され、ひび割れと共に作られたクレーターから地面に転落する。
朱堅はそこへ追撃をかけず、あえて見に回り状況を整理する。
「(コイツ、ありったけの呪力を両腕に回して被害を最小限に抑えやがったな。予測の精度もさることながら、やっぱかなりの術師だ。
どう考えても受肉型だな、強すぎる。それか化野みてぇなド級の大天才か。後者とは考えたくねぇが、ひとまずあのバケモンと同等か、それ以上の実力を持ってんのは確かだが……)
まあ、だから何だって感じだな」
対して倒れた日車は、前腕半ばから斜めに折れている腕を見やる。
骨肉が断裂しているなと、どこか冷静な思考と感覚でその重傷を理解した。
「(なんて威力だ。あの膂力、まともに受けたくはないと思っていたがこれ程とは……!!)
ぐっ、あぁ……! ごほっ!」
激痛に呻き、土埃で咳込みながらも思考を巡らせる。
「(やはりこの領域……
――炙羅閉山は、術式効果が
この領域は、朱堅の術式「
その効果は対象の身体を鋼鉄に変換するバフである。
つまりこの領域は術者にバフ効果を必中させるものであり、他者への直接的な加害性は持たない。
直接的な加害性
朱堅の呪力は高熱を帯びる特性を持っており、ただの打撃でも炎に触れたかのような熱量を持つ。
ゆえに木槌で受けるなどして『直接的な接触を避ける』か、或いは『高出力の呪力強化で被害を最小限に抑える』などしなければ、近接戦闘は困難を極める。
そして炙羅閉山は、朱堅の呪力で構成されている。
つまりこの領域内にいる限り、膨大な熱で炙られ続ける事となる。
幸いな事に領域が拮抗しているため、まだ
結果として、朱堅に有利な空間で構成されている状況である。
「ここまでしても領域の綱引きがまだ続いてんのは驚きだが、両腕はその有り様。暑さで思考もボヤけてきてんじゃねぇか? 思ってたよりかは持った方だが、このザマじゃどっちでも変わんねぇな」
悠然とした態度で朱堅が歩み寄る。足取りに反し不思議と足音が鳴らないな、などと日車がボンヤリ考えていた――その時。
ガシャン!
結界の外郭を一部叩き割り、一人の男が領域内へとその身を投じた。
「日車!」
「あぁ?」
突如として領域内に躍り出たその男は、直前に日車と戦い説き伏せた末に総則11を追加した功労者――虎杖
「ふんっ!!」
着地してすぐさま疾走。俊敏な動きで朱堅へと殴り掛かる。
朱堅はすぐさま身体を鋼鉄化して防御するが、その剛拳は余りにも重く、受け止めきれずに踏鞴を踏む。
「――ッ!?」
「(
朱堅の硬さに驚愕するも、その隙に日車の下へと向かい背に庇う姿勢を取る虎杖。
「虎杖……? 一体なぜ!?」
「なんかすげぇ呪力が爆発したみたいなの感じて見に来たんだよ!
そしたら領域が展開してたから日車のかなって思ったけど、やけに長引いてたからまさかと思ったら案の定!」
「――君という奴は、本当に」
眩しそうに目を瞑りかけるも、すぐさまこの状況では悪手だとすぐさま朱堅へと視線を移す。
「奴は身体を鋼鉄化する。加えて呪力が熱い上に体術もかなりのもの、近接戦は不利だ」
「呪力が熱い……呪力特性ってやつか!」
「あぁ。それとだが――」
なにやら静かに話す姿を見ながらも、朱堅は思案する。
「(こいつ、俺の前に日車と戦ってた奴か……とんでもねぇ
……だが、何だ? こいつの気配……ただの泳者じゃなさそうだが――)」
瞬間、飛び出した虎杖が殴りかかる。
朱堅はすぐさま疑念を横に置き、鋼鉄化した腕でそれを捌く。
ただ受けるのでは踏鞴を踏むので、
高熱とは、シンプルながらも強力な武器である。
――だが、
焼け爛れる事を無視し、絶え間なく猛攻を繰り出し続ける虎杖。
生来持つフィジカルと流麗な呪力操作は驚異そのものだが、それ以上に注視しべきはその内面。自らを省みる事なく戦うその精神性は、まるで意思無き部品の如く。
どれだけ傷ついてもなお攻撃を叩き込むその姿は、まさしく鬼神である。
「こい、つっ、この!!」
その滅私の闘争に思わず悪態をつく朱堅。
生を求める以上は少なからず発生するはずの、熱に対する躊躇。
それが、相対する虎杖には一切感じられない。
「(何だ、何だってんだコイツは!!)」
自身の土俵である近接戦闘。その中で躊躇無く互角に渡り合う姿を前にして、朱堅の心に驚愕が奔る。
ただの天才なら分かる、上には上がいるから。
歴戦の術師なら分かる、己自身もそうだから。
しかし、この男は違う。
繰り出し続ける動きから、発展途上である事が伺える。
絶え間なく傷つく姿から、生への執着の無さが伺える。
――その瞳の奥から、己とは違う、遥かな熱が伺える。
「っ!! ざっけんじゃ、ねぇぞォ!!」
朱堅が咆哮し、迫る攻撃を無視して虎杖に鉄拳を繰り出す。
互いに拳が叩き込まれ、相打ちのような形で双方共に背面へと吹っ飛ぶ。
土埃が盛大に立ち上り、領域内へと満ち満ちる様からその威力の高さが伺えた。
その土埃の奥から、朱堅の声が響く。
「はぁ……おい、舐めてんじゃねぇぞボケカスの鼻っ垂れ小僧ども」
「確かにテメェらは強ぇ。そんじょそこらのクソガキどもじゃ相手になんねぇだろうよ」
「けどな」
「俺は藤氏直属の暗殺部隊、
「そこじゃあ滅私奉公は当たり前。闇に生き闇に死す、名前も持てねぇ糞溜まりだ」
「そん中で、俺だけが『朱堅』の名を持つ事が許された」
「それが何でか、分かるか?」
「――強ぇからだよ」
怒気が膨れ上がり、晴れゆく土煙からその姿が露わになる。
全身が朱い鋼鉄と化し、その色からは膨大な熱が感じ取られた。
「こと近接戦において、俺ぁ日月星進隊最強だ! 隊長よりも上だ!!」
「その俺が! テメェらみてぇなガキどもに負ける訳にゃあいかねぇんだよクソがぁ!!」
その熱量は凄まじく、領域の端から端まで離れていてもなお焼かれるような錯覚を覚える程だった。
虎杖とは異なる形の鬼神――否。
それは鬼神に非ず。
それは人に非ず。
呪術全盛、悪鬼蔓延る平安の魔窟を生き伸びた、羅刹が一体。
史上最強の術師、
死滅回游において、最高硬度を誇る泳者。
――灼鉄の怪人、朱堅。その全貌には及ばずとも、本気を曝け出した戦闘形態である。
「『法廷等の秩序維持に関する法律』第二条だ」
「……あ?」
だが、この男もまた常軌を逸した術師である。
いつの間にやら立ち上がっていたその男は、その手に木槌を握りしめていた。
「端的に言えば、暴言・暴行等で裁判所の職務を妨害した際に制裁として科される現行法だ」
折れている筈の両腕はまっすぐに修復されており、反転術式特有の痕跡が感じ取れた。
「誅伏賜死は六法を下に判決を下す訳だが……なるほど。領域の綱引きが発生した場合にはこうなるのか」
虎杖の後ろに立つその男は、呪術に触れたばかりの覚醒型でありながらも、呪霊・受肉型・覚醒型を問わずに蹂躙し、102点という高得点を叩き出した奇才。
「確実に有罪を取るためとはいえ、両腕を折られるとは思わなかったが……断裂した腕を治せるとは、呪術とは中々に便利なものだな」
日車寛見。
現代最強の術師、
「と、話が逸れてしまった」
「
バシュン!
突如として灼熱の鉄鉱山は没収され、塗りつぶされていく。
そして再び、ギロチンに囲まれた法廷が領域を覆いつくした。
「まず、一手だ」
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