死滅回游の一般泳者   作:モチゴメ

10 / 10
もはや日常と化してしまった難産。ひとまず投稿を優先しました。
予定通りに行けばあと5~6話で完結です。
もう暫くお付き合い頂ければ。


第10話 天秤と歯車VS灼鉄 前編

 領域「誅伏賜死(ちゅうぶくしし)」を展開した日車(ひぐるま)寛見(ひろみ)に対し、同じく領域「炙羅閉山(しゃらへいせん)」を展開した朱堅(しゅげん)

 しかし誅伏賜死は、暴力を禁ずる不可侵の効果を持っている。そのため加害性を持つ限りは、対抗して領域を展開することなど不可能である。

 

 つまり、朱堅の領域は。

 

「俺と同じ、加害性の無い領域――!!」

()()()()()()()、な」

 

 いつの間にか走り出していた朱堅。殴りかかるも、日車は木槌(ガベル)を伸ばし受け止める――かと思いきや、流水を思わせる自然な動作で鉄拳を流し切った。

 

 化野(あだしの)と同様に、日車もまた超常的な才覚を持った術師である。

 体術に優れた虎杖と直前に交戦したことで、歩幅・息遣い・筋肉の収縮などから、その場でより最適な動きを見つける形で成長を遂げていた。

 

「(今の拳、まともに受けていれば吹き飛ばされていたな。甘く見積もっても膂力は虎杖(いたどり)のそれに近い!)」

「(咄嗟に受け流す方へシフトしやがった! コイツ()りなれてんな、受肉型か?)」

 

 続けて二撃、三撃と繰り出された殴打を日車は流し切る。

 経験によるアドバンテージで戦い慣れている受肉型(しゅげん)に対し、呪術に目覚めたばかりの覚醒型(ひぐるま)が食らいついているという異常。それは、日車が術師として優れている事を何よりも証明していた。

 

「(比喩でなく文字通り鉄の拳! 俺の不可侵と同様、必中効果は発動していないはずだ。つまり領域とは別に術式を発動しているのか? 領域に刻んだ術式(もの)と身体に刻まれている術式(もの)。左右の手で別々の動きをするようなものだろうが、理論上は可能か……? 感覚としては、まあ理解できる)」

 

 攻撃を捌きながら分析を続ける日車。

 余りにも最適すぎるその動きに、朱堅は内心で悪態をつく。

 

「(コイツ、動きの予測精度が尋常じゃねぇな。未来でも見えてんのかってレベルで正確! 俺が動き出す前からもう捌こうとしてやがる!)」

 

 相手の動きを予測して動きを作る。

 言ってしまえば単純な事だが、偶然にも日車と朱堅の体格はよく似通っていた。それゆえに『自分ならこう動く』と、朱堅(ベテラン)の動きが比較的容易に予測できるのである。

 

 しかし逆に言えば、それでもなお防戦で手一杯であるという事。

 これは偏に年期と筋力の差である。

 朱堅の呪力操作と肉体は瞬発力と出力が凄まじく、平安の術師に相応しい力量を誇っていた。

 それにより絶え間なく攻撃を繰り出す事で、予測できたところで反撃する暇を与えないという、純粋な暴による対策が出来ているのである。

 

 熟練の攻撃()と、天才の防御()

 朱堅が打撃を繰り出し、日車がそれを捌く応酬が続く。

 

「(どうにか防戦できている訳だが、これは……少し不味いな)」

 

 日車が分析を進めながら防衛し続けていたが、突如()()によって木槌を取り落とした。

 

「クソッ!」

 

 その隙を見逃さず、朱堅はより力強い鉄拳を繰り出した。日車は咄嗟に両腕を交差させて防ぐも、両腕から異音が響く。

 

 ボキィッ!

 

「がっ!?」

 

 それで勢いは留まらず、日車の身体を遥か後方まで吹き飛ばした。

 轟音と土埃を立てながら壁面に叩きつけられた日車は肺一杯の空気を押し出され、ひび割れと共に作られたクレーターから地面に転落する。

 朱堅はそこへ追撃をかけず、あえて見に回り状況を整理する。

 

「(コイツ、ありったけの呪力を両腕に回して被害を最小限に抑えやがったな。予測の精度もさることながら、やっぱかなりの術師だ。

 どう考えても受肉型だな、強すぎる。それか化野みてぇなド級の大天才か。後者とは考えたくねぇが、ひとまずあのバケモンと同等か、それ以上の実力を持ってんのは確かだが……)

 まあ、だから何だって感じだな」

 

 対して倒れた日車は、前腕半ばから斜めに折れている腕を見やる。

 骨肉が断裂しているなと、どこか冷静な思考と感覚でその重傷を理解した。

 

「(なんて威力だ。あの膂力、まともに受けたくはないと思っていたがこれ程とは……!!)

 ぐっ、あぁ……! ごほっ!」

 

 激痛に呻き、土埃で咳込みながらも思考を巡らせる。

 

「(やはりこの領域……()()な、体感だが50度前後。もはや『暑い』というより『熱い』の域だ、思考が鈍る。呪力強化である程度は緩和できていたが、手汗で木槌を取りこぼすとは……この高熱、術式とは違うのか?)」

 

 ――炙羅閉山は、術式効果が()()()()()必中する。

 この領域は、朱堅の術式「被我鉄鋼(ひがてっこう)」を付与したもの。

 その効果は対象の身体を鋼鉄に変換するバフである。

 つまりこの領域は術者にバフ効果を必中させるものであり、他者への直接的な加害性は持たない。

 

 直接的な加害性()、持たない。

 

 朱堅の呪力は高熱を帯びる特性を持っており、ただの打撃でも炎に触れたかのような熱量を持つ。

 ゆえに木槌で受けるなどして『直接的な接触を避ける』か、或いは『高出力の呪力強化で被害を最小限に抑える』などしなければ、近接戦闘は困難を極める。

 

 そして炙羅閉山は、朱堅の呪力で構成されている。

 つまりこの領域内にいる限り、膨大な熱で炙られ続ける事となる

 幸いな事に領域が拮抗しているため、まだ()()()()で治まっているものの、しかし灼熱の空間である事に変わりはない。

 

 結果として、朱堅に有利な空間で構成されている状況である。

 

「ここまでしても領域の綱引きがまだ続いてんのは驚きだが、両腕はその有り様。暑さで思考もボヤけてきてんじゃねぇか? 思ってたよりかは持った方だが、このザマじゃどっちでも変わんねぇな」

 

 悠然とした態度で朱堅が歩み寄る。足取りに反し不思議と足音が鳴らないな、などと日車がボンヤリ考えていた――その時。

 

 ガシャン!

 

 結界の外郭を一部叩き割り、一人の男が領域内へとその身を投じた。

 

「日車!」

「あぁ?」

 

 突如として領域内に躍り出たその男は、直前に日車と戦い説き伏せた末に総則11を追加した功労者――虎杖悠仁(ゆうじ)

 

 死滅回游(しめつかいゆう)泳者(プレイヤー) 虎杖悠仁

 所持得点(しょじポイント) 1点*1

 

「ふんっ!!」

 

 着地してすぐさま疾走。俊敏な動きで朱堅へと殴り掛かる。

 朱堅はすぐさま身体を鋼鉄化して防御するが、その剛拳は余りにも重く、受け止めきれずに踏鞴を踏む。

 

「――ッ!?」

「(()っ!? しかも(あっち)ぃ!! ――けど、今の内!)」

 

 朱堅の硬さに驚愕するも、その隙に日車の下へと向かい背に庇う姿勢を取る虎杖。

 

「虎杖……? 一体なぜ!?」

「なんかすげぇ呪力が爆発したみたいなの感じて見に来たんだよ!

 そしたら領域が展開してたから日車のかなって思ったけど、やけに長引いてたからまさかと思ったら案の定!」

「――君という奴は、本当に」

 

 眩しそうに目を瞑りかけるも、すぐさまこの状況では悪手だとすぐさま朱堅へと視線を移す。

 

「奴は身体を鋼鉄化する。加えて呪力が熱い上に体術もかなりのもの、近接戦は不利だ」

「呪力が熱い……呪力特性ってやつか!」

 

 伏黒(ふしぐろ)の式神『(ぬえ)』を連想し、呪力が特性を帯びている厄介さを瞬時に理解する虎杖。

 

「あぁ。それとだが――」

 

 なにやら静かに話す姿を見ながらも、朱堅は思案する。

 

「(こいつ、俺の前に日車と戦ってた奴か……とんでもねぇ膂力(パワー)だ。低く見積もっても俺と同等かそれ以上! 日車にルールを追加させたのは伊達じゃねぇって訳か。こいつぁ一筋縄じゃ行かねぇな、気ぃ引き締めねぇと。

 ……だが、何だ? こいつの気配……ただの泳者じゃなさそうだが――)」

 

 瞬間、飛び出した虎杖が殴りかかる。

 朱堅はすぐさま疑念を横に置き、鋼鉄化した腕でそれを捌く。

 ただ受けるのでは踏鞴を踏むので、呪力(高熱)によるカウンターへとシフトした為だ。

 

 鋼鉄化(術式)高熱(呪力特性)。朱堅のこの組み合わせは、ただ触れただけで焼け爛れる凶悪性を誇る。

 高熱とは、シンプルながらも強力な武器である。

 

 ――だが、その(熱い)程度で虎杖悠仁は止まらない。

 

 焼け爛れる事を無視し、絶え間なく猛攻を繰り出し続ける虎杖。

 生来持つフィジカルと流麗な呪力操作は驚異そのものだが、それ以上に注視しべきはその内面。自らを省みる事なく戦うその精神性は、まるで意思無き部品の如く。

 どれだけ傷ついてもなお攻撃を叩き込むその姿は、まさしく鬼神である。

 

「こい、つっ、この!!」

 

 その滅私の闘争に思わず悪態をつく朱堅。

 生を求める以上は少なからず発生するはずの、熱に対する躊躇。

 それが、相対する虎杖には一切感じられない。

 

「(何だ、何だってんだコイツは!!)」

 

 自身の土俵である近接戦闘。その中で躊躇無く互角に渡り合う姿を前にして、朱堅の心に驚愕が奔る。

 

 ただの天才なら分かる、上には上がいるから。

 歴戦の術師なら分かる、己自身もそうだから。

 

 しかし、この男は違う。

 繰り出し続ける動きから、発展途上である事が伺える。

 絶え間なく傷つく姿から、生への執着の無さが伺える。

 

 ――その瞳の奥から、己とは違う、遥かな熱が伺える。

 

「っ!! ざっけんじゃ、ねぇぞォ!!」

 

 朱堅が咆哮し、迫る攻撃を無視して虎杖に鉄拳を繰り出す。

 互いに拳が叩き込まれ、相打ちのような形で双方共に背面へと吹っ飛ぶ。

 土埃が盛大に立ち上り、領域内へと満ち満ちる様からその威力の高さが伺えた。

 

 その土埃の奥から、朱堅の声が響く。

 

「はぁ……おい、舐めてんじゃねぇぞボケカスの鼻っ垂れ小僧ども」

「確かにテメェらは強ぇ。そんじょそこらのクソガキどもじゃ相手になんねぇだろうよ」

「けどな」

「俺は藤氏直属の暗殺部隊、日月星進隊(じつげつせいしんたい)の所属だ」

「そこじゃあ滅私奉公は当たり前。闇に生き闇に死す、名前も持てねぇ糞溜まりだ」

「そん中で、俺だけが『朱堅』の名を持つ事が許された」

「それが何でか、分かるか?」

「――強ぇからだよ

 

 怒気が膨れ上がり、晴れゆく土煙からその姿が露わになる。

 全身が朱い鋼鉄と化し、その色からは膨大な熱が感じ取られた。

 

「こと近接戦において、俺ぁ日月星進隊最強だ! 隊長よりも上だ!!」

「その俺が! テメェらみてぇなガキどもに負ける訳にゃあいかねぇんだよクソがぁ!!」

 

 その熱量は凄まじく、領域の端から端まで離れていてもなお焼かれるような錯覚を覚える程だった。

 虎杖とは異なる形の鬼神――否。

 

 それは鬼神に非ず。

 それは人に非ず。

 

 呪術全盛、悪鬼蔓延る平安の魔窟を生き伸びた、羅刹が一体。

 史上最強の術師、両面宿儺(りょうめんすくな)の斬撃をも耐えしのいだ化け物。

 死滅回游において、最高硬度を誇る泳者。

 

 ――灼鉄の怪人、朱堅。その全貌には及ばずとも、本気を曝け出した戦闘形態である。

 

 

「『法廷等の秩序維持に関する法律』第二条だ」

「……あ?」

 

 だが、この男もまた常軌を逸した術師である。

 いつの間にやら立ち上がっていたその男は、その手に木槌を握りしめていた。

 

「端的に言えば、暴言・暴行等で裁判所の職務を妨害した際に制裁として科される現行法だ」

 

 折れている筈の両腕はまっすぐに修復されており、反転術式特有の痕跡が感じ取れた。

 

「誅伏賜死は六法を下に判決を下す訳だが……なるほど。領域の綱引きが発生した場合にはこうなるのか」

 

 虎杖の後ろに立つその男は、呪術に触れたばかりの覚醒型でありながらも、呪霊・受肉型・覚醒型を問わずに蹂躙し、102点という高得点を叩き出した奇才。

 

「確実に有罪を取るためとはいえ、両腕を折られるとは思わなかったが……断裂した腕を治せるとは、呪術とは中々に便利なものだな」

 

 日車寛見。

 現代最強の術師、五条(ごじょう)(さとる)に並ぶ程の――才能の原石である。

 

「と、話が逸れてしまった」

 

ガンガンガン!!

 

 

有 罪 (ギルティ)

 

没収(コンフィスケイション)

 

 

 バシュン!

 

 突如として灼熱の鉄鉱山は没収され、塗りつぶされていく。

 そして再び、ギロチンに囲まれた法廷が領域を覆いつくした。

 

「まず、一手だ」

*1
日車から譲渡されたもの




今さらではありますが、感想・評価等お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

羂索の目論見を破綻させる、天元渾身の一手(作者:金鳥)(原作:呪術廻戦)

▼ 呪術廻戦の二次創作読んででそういえばあの時こうしてたら諸々の問題解決したのでは?と思ったので書いてみました。▼ 駄文です。


総合評価:3303/評価:8.3/短編:4話/更新日時:2026年05月04日(月) 13:28 小説情報

死滅回游 泳者 八百歳比名子(作者:螺旋坊主)(原作:呪術廻戦)

「突然殺し合いをさせられて、私だけ生き残って──ラッキーだったなんて思える?」 ▼『私を喰べたい、ひとでなし』と呪術のクロスオーバーです。▼※某掲示板スレの概念が面白かったので書き始めました。スレの設定を一部お借りしています。▼↓元ネタのスレ↓▼https://bbs.animanch.com/board/6508938/▼2026/5/3 追記▼「曇らせ」…


総合評価:2706/評価:8.81/連載:50話/更新日時:2026年07月27日(月) 21:03 小説情報

幼き神にはあしからず(作者:庚申待ち)(原作:東方Project)

 錦上京の異変の解決を見て一月が経ったある日、博麗神社に一人の子供が来訪した。その子供は、霊夢に巫女なのかと質し、霊夢の肯定を聞くや否や、幼気な声を張って叫んだ。「ぼくの仕事を増やすのは止めて!」……当然、霊夢に心当たりはない。▼ 橘と名乗った彼は、霊夢ですらも神名を知らない日本の原初神、可美葦牙彦舅神。背伸びしたい年頃の幼子にしか見えない神様は幻想郷の者に…


総合評価:842/評価:8.81/連載:17話/更新日時:2026年07月21日(火) 00:15 小説情報

捕食者系魔法少女(作者:バショウ科バショウ属)(オリジナル現代/冒険・バトル)

「捕食するのも、苗床にするのも、お前たちだけの特権と誰が言った?」▼※書籍版第3巻発売中!▼※コミカライズ版第3巻発売中!▼※マルチ投稿中。


総合評価:53843/評価:9.1/連載:104話/更新日時:2026年07月06日(月) 21:30 小説情報

殴る方の加茂(作者:分真鷲太郎)(原作:呪術廻戦)

パッとしない方のノリトシ君を、魔改造してみました


総合評価:6310/評価:8.59/連載:5話/更新日時:2026年05月14日(木) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>