直哉成り代わり♀が野望の果てを目指す   作:一夏 茜

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お恥ずかしいのですが私はまだハーメルンに慣れていなく、適した文字数でないものを投稿してしまったので、改めて投稿し直しました。




 来年で普通なら高校に通う年になる。私は東京の高専に行くことにした。理由はいくつかあるがその一つ、原作で死ぬと決まっている甚爾くんを救う鍵は東京校にあると思っていた。救済はしないつもりだったが、甚爾くんは別だ。甚爾くんは他のどうでもいい原作キャラとはわけがちがう。私の憧れの全てだ。

 本当は余計なことを私はするのだと分かっている。甚爾くんにとっては五条悟との戦いは一世一代の勝負だったのだろう。逃げれば良かったはずなのに逃げずに戻ってきて、五条悟に挑んだ甚爾くんの心情は漫画を読んでた時に痛いほど分かって、情けなく涙が出てきそうになって必死に堪えた。刹那にすぎる命のやり取り、その一瞬にこそ全てがあって価値があった。それを邪魔しようとする私は強さを至上とする禪院直哉としてあるまじき行動だと分かっている。でも、生きていて欲しいのだ。

 強くなりたい。追いつきたい。できることなら追い越したい。禪院直哉にとって彼は強い強いヒーローのままで本来なら終わる話だった。その気持ちは痛いほど分かる。でも、でもあの漫画を甚爾くんの結末を知ってしまった私はそこでは止まれなかった。生きててほしい。笑ってほしい。幸せに幸せになってほしい人なのだ。憧れの結晶のような人、誰より孤独に寂しい人生を送る彼には生きてて報われてほしいのだ。あれだけ強い人は報われるべきだし、報われないなんてこの私が許せない。

 そんなわけで甚爾くんを運命から救う、そして甚爾くんと同じくらい強くなる。それが東京にいく目的だった。

  

 バン、と広間の襖を開け放ち、言い放つ。

 

 「パパ、私東京に行く。そんで呪術高専に行くわ」

 

 唖然とした顔が連なる広間を見回した。

 一拍の静寂の後に一斉に喚き声が鬱陶しく響く。相変わらず、鬱陶しくてかなわん。実力も伴わないくせに声だけは一丁前に大きい。しょうもない集まりだ。

 

 「ふざけるな!!」

 「そんなことが許されるわけがない!!」

 

 私は冷めた目で男どもを眺めた。

 禪院では女は胎の価値しかない、そして呪力がない人間は無価値である。だから甚爾くんは才能を認められず、腐らせる羽目になった。その孤高の強さはきらきらと輝くようで私は尚更憧れたが、甚爾くんからしたらこの家で息をするのは苦しかったことだろう。

 私が当主になったら、もっと徹底的な実力主義の家にする。まあ、シンプルに弱肉強食やな。

 

 ────強いものが絶対的に偉い。呪術師である以上弱いのは罪や。なんでこんな簡単で当たり前のことに誰も気づかんのやろ。

 

 私が当主になったら男だろうと女だろうと、どんな血筋だろうと強かったら優遇したる。どんな方法を使ってもええ、フィジカルギフテッドでも非術師の武器使っても、戦って強いんやったら何でもいい。逆に言えば優れた術式、呪力を持っててもそいつ自身が弱かったら容赦せん。

 強くなる気がない半端もんもウチには要らん。

 呪術師として生きる覚悟のないもんは家から追い出す。

 それで、それで────甚爾くんが一番やって認めさせたる。

 

 周りで慌てふてめいたり果ては「女のくせに呪術師だと」と喚くポンコツどもを蔑んだ目で眺めてから、私はあぐらをかいてこの昼間から酒を飲んでいるクソ親父をまっすぐ見つめた。

 まず東京に行かねば甚爾くんには会えないし、それに何より強くなるには強い奴が集まるところに行った方が早い。東京校には五条悟に、史上最悪の呪詛師になる夏油傑がいる。そして反転術式使いの家入硝子もいるし、近くに反転術式が使える奴がいればもしかしたら反転術式を覚えられるかもしれない。まあ、そんなに期待はしていないが。

 

 「俺が許すと思っているのか」

 「絶対強くなる。この家のどんな男よりも強くなってこの家ひっくり返したるわ。楽しみやろパパ」

 

 この言葉が誇張でもはったりでもなく、達成可能な事実を言っているのだとアンタなら分かるやろ。私の実力はもうそこらの男には負けないぐらい強い。このまま成長できれば、漫画の直哉同様に男だろうが女だろうがこの家に私の敵はいなくなる。だけどな、それじゃあ生ぬるいんや。私が求めるのはあの圧倒的な強さ。その強さの前には、比べるのも烏滸がましい、言葉も要らん。見れば分かるそんな強さが、私には必要なんや!!そのために、私は呪術高専に行く。そして全てを吸収して自分のモンにしたる。

 私は強い意志を込めて父の目を見続けた。私は反対されても絶対に行く。甚爾くんみたいにこの家を捨ててでもこの意思は曲げないと決めていた。

 

 「いいだろう……認めてやる」

 

 鋭い眼光で私をじっと睨んでいた父がニヤリと笑って言う。

 

 「ただし今言ったことが帰ってくるまでにできなければ呪術師はやらせん。その時は禪院の女として生きろ」

 「やった!おおきにパパ♡」

 

 ただの口約束と思うなけれ。禪院家現当主との縛りだ。破れば相応の罰が下るし、言ったことが守れなければ私はこの家の胎となる。父は自分で言ったことも守れない弱者に意志を通す権利はないと言いたいのだろう。まあ当たり前のことだ。強くなれないのであれば生きる価値などない。これくらい想定内だった。

 

 とにかく強くなるには漫画でもクローズアップされていたキャラの近くに行くことが重要に違いない。漫画に載っていると言うことはそこは歴史が動く場所なのだから、ピンチも多いだろう。そしてその分私は強くなる。強敵に挑んで己を磨いてこその武の道を歩む者だ。

 

 もう一つの目的、甚爾くんの救済は甚爾くんがまず依頼を受けることを阻止する必要があるけど、最悪星漿体の護衛任務に関わって甚爾くんを守ろうと考えていた。五条悟と仲良くなった私が泣きながら縋り付けば見逃してくれるかもしれんし。まあいけるやろ、私顔整ってる方やし。

 

 

 

 

 呪術高専に直哉が入学してから一ヶ月が立った。直哉の予想に反して五条と仲良くなると言う作戦は失敗に終わっていた。

 

「あ、雑魚直哉じゃん」

 

 直哉と灰原で談話室に入ると二年生たちとばったりあって、七海はタイミングの悪さに舌打ちした。五条は御三家出身なのが気に入らないのか、因縁の禪院相手だからなのか直哉に突っかかってばかりいた。直哉も言い返さないのも拍車がかかっていたように思える。五条が突っかかってくるのを夏油は軽く嗜めるだけだったし、あまりに執拗にいじめ抜く五条を止められる者はいなかった。

 

「悟くんからしたらそうやろね」

 

 直哉が馴れ馴れしく下の名前をくん、ちゃん付けで呼ぶのは全ての人に平等にそうだった。敬語を使わないのも。直哉は注意されても全く改める気がなかったので次第に誰も言葉にして咎めることがなくなった。

 直哉は内心困惑していた。入学してから出来るだけ漫画の直哉のような人を煽るような言動は控えているのに、五条には徹底的に嫌われていた。何を言われても、弱い奴に口答えされるのが嫌だろうからと受け流していたのだが、それがますます五条に火を付けたのを直哉は理解できなかった。

 

 「お前、つまんねーやつだな。ヘコヘコしやがってプライドとかねえのかよ」

 

 せせら笑うように五条の言葉に直哉は少しの沈黙の後、渋々口を開いた。

 

 「……勘違いせんといてや。強いやつがわざわざ雑魚に合わせんのが道理に合わへんってのは、悟くん私より強いみたいやし、まあせやなって思ってるだけや」

 

 直哉は自分にプライドがないと言われるのは心外だった。これでもプライドはそこらの凡人どもより高い意識がある。

 今まで五条にネチネチ言われても口答えひとつしなかった直哉にまさかそう返されるとは思っていなかったのか、五条はポカンと口を開いた。

 

 「随分野蛮な価値観だ、猿山の序列みたいだね」

 

 夏油は少し反論する気になって、言葉を発した。ごく普通の一般家庭で育った夏油にとって五条から聞いたような御三家の、正確には呪術界の思想には拒否反応があった。強者が当然のように優遇される直哉のまさに御三家らしい思想は到底受け入れられるものではなかったのだ。

 夏油が言った言葉に直哉はこれだからパンピーはとでも言いたげな顔をする。

 

 「生温い表の世界で生きてきた奴からしたら、そら野蛮やろなぁ。でもな、ここは当たり前やけど、弱い奴から死んでいくんや。幾度となく死線を潜って生きてきたこっちからしたら、強い奴が偉いってのは身に染みて理解してることやで。どこよりも命が軽いこの世界で生きるってのはそういうことや。実力差くらい察知できんボンクラが生き残れるわけないんやから」

 

 心底馬鹿にするように直哉は鼻を鳴らす。

 

 「何を甘ったれてはるんか知らんけど、これがあんた方が飛び込んできた呪術師の世界やで」

 

 真っ直ぐに見返した直哉は言い放つ。それは極論と言って仕舞えば極論だったが、重みのある言葉だった。少なくとも一理あると納得してしまいそうな何かがあった。それは命を懸けた呪術師としての吟味や、誇りと言えるのかもしれない。直哉のその言葉に談話室はしんと静まり返る。

 誰もが気圧された中、五条一人は言いようのない嫌悪感と共にイライラしながら吐くまねをした。

 

 「オ゛ッッエ゛ー、直哉のくせして生意気言ってんじゃねえよ。さすがクソの肥溜めみてえな禪院出身なだけある持論じゃん。それがお前の本性ってわけ」

 

 御三家出身の直哉に突っかかっても全く相手にされず、ヘラヘラと笑って受け流している直哉が、五条はとにかく不可解で不気味に思っていた。初めて口答えした直哉に、鬼の首をとったように五条は笑う。

 

 「頭が固くて腐った価値観してる御三家を毛嫌いしてるとこ悪いけど、悟くんこそ自分の言動がまさに御三家出身ですーって自己紹介して回ってるようなもんやって気づいてはる?」

 「ア?」

 「すぐ術式と呪力で判断してチンピラみたいに雑魚雑魚言いよるところとか、禪院の頭の固い馬鹿どもと愉快なほどそっくりやで。ある意味一番御三家らしいんちゃう? 無意識かいな?」

 「ハ? ……ア゛ア゛?」

 

 唖然とした五条だったが、徐々に込み上げていた怒りを必死で抑え込みながら、強さに人一倍執着する直哉に一番響くであろう煽りを投げた。

 

 「は、実際実力のないお前みたいな雑魚が言っても負け惜しみにしか聞こえねーんだよ」

 

 五条の予想に反してそれを直哉は淡々と受け止めた。

 

 「確かにな、私は弱いわ。まだ実力が全然足りひんのは認める」

 

 静かな口調だった。

 

 「私が雑魚って言うんも、あんさんからみたらまあそやろな、と思う」

 

 その場にいた五条以外の面々は無言のまま思った。『馬鹿な。直哉が弱くて実力のない雑魚だったら、他の一年はどうするんだ』と。大体五条からしたら直哉だけじゃなくみんな雑魚になるだろう。

 

 「随分殊勝じゃねえか」

 「禪院で一番強い男は、呪力が全くない人やった」

 「はあ? バッカじゃねーの、そんなのが強いわけないだろ。やっぱ雑魚じゃねーか」

 「今の悟くんじゃ手も足も出ないくらい強い男やであの人は」

 「ハッそれこそ信じられるかよ。俺は最強だぞ」

 

 六眼と無下限呪術を持ってる自分が呪力のない人間なんかに負けるはずがないと言いたいのだろう。だけどな、

 

 「それって悟くんが知ってる小さい世界の中での最強やろ」

 

 家入はプッと吹き出し、五条と夏油の額にも青筋が浮かんだ。

 

 「アア!?」 

 「これだけは訂正させてもらうで。術式なんか、呪力なんか、関係なく強いもんは強いんや」

 

 お前が言うのか、術式至上主義の禪院家のお前が。と言う顔でポカンとする五条を見て、直哉は顔を歪めて言う。

 

 「家のポンコツどもは誰一人として認めんかったけどな。私の憧れの人や。一目見た時から、あの人みたいになりたくて私は血反吐吐くまで一心不乱に己を鍛えた」

 

 五条が黙る。直哉の狂ったように自分に厳しい自己鍛錬は五条でさえ見るに耐えないものだった。直哉は今まで鍛錬で手を抜いたことがない。甚爾くんという明確な人生の目標があるのに、遠回りなんてできるはずがないと常々思っていた。

 

 「直哉ってすごい努力家だよね」

 「真似しちゃダメでしょう、あれは。オーバーワークです」

 と、灰原と七海。

 

 「そんなに強かったの?その人」

 

 灰原が直哉に尋ねる。

 

 「おん! そりゃもう迫力と威圧感に痺れ切ってしまう程圧倒的なんや! あの人より強い人、未だに私は見たことないんやから!」

 「直哉はその人のこと大好きなんだね! その人のこと話す時、目がキラキラしてるよ!」

 「だって甚爾くんは世界で一番強くてカッコええ男なんや!! 私も絶対甚爾くんみたいになるんや!!」

 

 五条がいかにも不機嫌そうな顔で言う。

 

 「直哉のくせして俺より強くなるなんて無理に決まってるだろ」

 「悟、それは今言っちゃダメだろう」

 

 微笑ましいものを見る目をしていた夏油が嗜める。直哉は馬鹿にされても表面上は怒りを出さずに呆れたように喋った。

 

 「悟くんも案外つまらんこと言うんやね。そら悟くんからしたら弱いくせに恥ずかしげもなくでかい口叩きよる私が目障りでしょうがないやろうけど」

 「いやそこまで言ってな……」

 

 「でも野望ってそんなもんやろ」

 

 猫のように釣り上がった直哉の瞳にはギラギラと輝く何かがあった。

 

 「大体分相応の望みや夢なんて持って、そないな人生の何が楽しいんや。ただでさえいつ死ぬのか分からん短い人生の中で、おもんないことしてる暇ないねん、こっちは」

 

 直哉の面白いことに、鍛錬も入るのだろうか。と七海は思った。直哉はほとんどの時間を鍛錬に割いていた。そう言うところが七海は直哉が嫌いになれないところだと思っていた。高専中の人の共通認識として努力家といえば直哉だったのだ。

 直哉が自信満々に言い放つ。

 

 「いいこと教えたろか?野望はな、大きければ大きいほどええんや」 

 

 五条を貫くその真っ直ぐな瞳にちょっと気圧された五条は思わず零す。

 

 「お前。……早死にするぞ」

 「ハッ細々としょうもない人生歩むくらいやったら、死んだ方がマシや」

 

 望むところだとニヤリと笑う直哉に五条はとうとう言葉が出なかった。

 静寂の中、このやり取りを見ていた灰原が微笑ましいと言うふうに言葉を放つ。

 

 「直哉、意外とロマンチストなんだね」

 「今の話で何でそうなった」

 「え、夢を持つならでっかく!ってことでしょ?」

 

 敵も多いし、苛烈極まりない。しかし直哉はどこまでも真っ直ぐだった。燃え盛る炎のような苛烈さを纏ったその生き方は圧倒的な存在感を放っている。直哉を知る高専の生徒なら誰もが痛感することだったが、直哉は明らかに他の生徒と比べて“必死さ”が違う。直哉には、命を削ってまで強さを求めるかのような“必死さ”があった。そのあまりに苛烈な強さへの執着。普通ならいい顔はされない、むしろ痛ましく思われるようなソレを五条は少し気に入っていた。禪院家だと言う理由で激しく毛嫌いしときながら、ひっそりと五条は直哉を見直していたのだ。

 だって五条を本気で越えようとしている奴なんて夏油を除けば他にいなかった。それほどまでに五条と他の奴らとの間には絶望的なほどの断絶された壁があるのだ。どうしようもない、生まれついての術式の差。それを直哉はコツコツと小石を積み上げて大河を渡るかのように、努力していた。誰もが心のどこかで諦めている五条悟を越えると言うことを、直哉はまだ諦めていない。

そのことに思い当たった時の目の奥がカッとなって鳩尾の辺りがギュウとなる未知の感覚を、五条は苛立ちと混同していた。

 

 「あーー!!俺の負けだ!!しょうがねえな!!認めてやるよ!!!」

 

 五条はその場で頭を抱えると悔しげに叫んだ。夏油たちはいきなり叫び出した五条に目を丸くする。家入は「ようやくかクズめ」と笑った。

 

 「ほんまに?悟くんに認めて貰えるんは素直に嬉しいわ。おおきに♡」

 

 猫を撫でるかのような声で直哉は可愛こぶって言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

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