鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
リィンはⅦ組のメンバーの顔を目にしたことで元の世界へと帰る決意をより強めると一瞬ある人物の顔を思い浮かべたがある理由からすぐに式場から出て行こうと足を進めたその時だった。
「何処へ行くんだいリィン君?…なんて僕が聞くのは野暮と言う物かな?」
その声にリィンは思わず足を止め、声の主に目を向けた。
「…オリヴァルト殿下…どうしてここに…」
そこにいたのはこの式の主役の一人と言ってもいい人物―オリヴァルト・ライゼ・アルノールであり、彼は何時ものようにリュートをかき鳴らしながら「いやなんてことないよ僕はただこの大戦終結の立役者が浮かない顔でどこかに行こうとしていたから気になっただけさ…と言っても本当の所君はこの夢から覚めるためにここから離れようとしているんだろう?」と最初の頃こそいつものスチャラカな言動だったが唐突に冷静な口調で今のこの状況がリィンの夢であることに言及し、それを聞いたリィンは驚きの余り身構えたがオリヴァルトは「落ち着いてリィン君。僕はミュゼ君と同じで君を止めるつもりは無いよ…そもそもこの夢の住人は全員君のイメージに依存しているからこの夢を見せている者が何かをしない限りはここにいる彼らが君に敵対的な行動をとる事は無いからその点については安心すると良い…まあだからこそ趣味が悪いと言えるのかもしれないけどね…」とリィンを安心させつつも、この夢を見せている鬼の趣味の悪さに顔をしかめ、それを見たリィンは「…それをお聞かせいただけて安心しました…夢とは言っても親しい人を斬るなんて後味の悪いことはしたくありませんでしたから…」と何処か安心した表情で答え、オリヴァルトも「君の言う通りだね」と同意しすぐに口を開いた。
「…それで…君は夢から覚めるためにこの場から離れるのは理解できるよ…けどね一つだけ気がかりなことがあるんだ…」
「…気がかりな事…ですか…」
オリヴァルトのその言葉にリィンは動揺を見せた。リィン自身彼が言う気がかりが何か解っていた。ここにいる彼はあくまでリィンがイメージした『オリヴァルト・ライゼ・アルノール』であり本人ではないが『愛』について深い思い入れを持つ彼ならば間違いなく後に続く問をすると解っていた。
「…君が心の底から愛する人の顔を見なくても本当に良いのかい?」
その言葉にリィンはバツの悪さを感じつい顔を伏せてしまったが、すぐに口を開いた。
「…彼女の顔を見たくないと言えば嘘になってしまいます…でもだからこそ彼女の顔を見るわけには行きません…」
リィンの口調は悲し気だったが迷いなく彼女の顔を見るわけには行かないと言い切り、それを聞いたオリヴァルトも「…君ならそう言うと思ったよ…理由を聞かせて貰ってもいいかい?」と続けて問うとリィンははっきりとその理由を答えた。
「今おれが彼女の姿を見たらおそらくは二度とこの夢から覚める事が出来なくなってしまうかもしれませんから…」
リィンのその言葉を聞いたオリヴァルトは微笑むと「そうか…確かにそれなら顔を見るわけには行かないね…」と納得したように言うと頷きつつ続けた。
「愛するがゆえに彼女の姿を見ないか…それなら僕は止めないよ…先に行くと良い…」
「ありがとうございます…殿下…次に会う時は現実で…」
「もちろんだよ…最ももしも現実の僕たち…特にⅦ組の子たちは君が別の世界でイシュメルガにその協力者と戦っていることを知ったら維持でも助けに来ようとするだろうけどね」
オリヴァルトの冗談めかした、しかし現実にそうなったら間違いなくそうなるであろう事実にリィンは「そうですね…きっとそうなります」と同意すると直ぐに振り返り「では…おれは行きます…ありがとうございました…」と言いオリヴァルトも微笑むと「アディオス、リィン君…気を付けて」と告げリィンが去って行くのを見送り暫くリィンが去って行った道を見つめていた時だった。
「…おや?やっぱり来たんだね…リィン君はもう行ってしまったよ」
一人の少女が息を切らしながら現れリィンが何処に向かったのかオリヴァルトに詰め寄り、その答えを聞いた彼女は俯いたがそれを見たオリヴァルトは考え込んだ。
「(…彼女はもちろん僕も含めてここにいる皆はリィン君の夢から生まれた虚構…偽りでしかない…けど今こうして感じている想いは嘘ではない…リィン君に君の姿を見せるわけには行かないけどせめて声だけなら構わないよね…)…けど今すぐ行けば間に合うかもね…だけどリィン君に会うなら一つだけ条件がある…決して彼に君の姿を見せてはダメだ…そうなったら君たちは永遠に本当の意味で幸せにはなれないからね」
オリヴァルトの言葉を聞いた彼女はそれを聞いて顔を上げ戸惑った様子を見せたが頷くとリィンの後を追って駆け出し、それを見たオリヴァルトは「我ながら少しずるいかもしれないけど…重度のシスコンである君の事だ…妹のためにやったって言えばこれくらいは許してくれるだろう?」とリィンを追って行った少女―自身の妹であるアルフィン・ライゼ・アルノールの背を見送っていた。
―カレル離宮付近の森―
一方リィンは森の中に足を踏み入れたが目を覚ます方法が分からず、何度も足を止めてはまた歩き出すという行動を繰り返していた。
「夢から覚めかけているからか今ならわかる…微かだけどあちこちから鬼の気配がする…おそらくは血鬼術の影響…何処かに目を覚ますきっかけになる物があるはず…オリヴァルト殿下がおっしゃられたようにこの鬼は趣味が悪い…考えられるのは生きようと思って行動する人間が決してしないような行動が覚めるための鍵…という事になるのか?」
リィンはそう思案しながら再び歩き出そうとしたその時だった。
「リィンさん!」
背後から聞こえたその声を聞いたリィンは思わず固まってしまった。本当ならばすぐに離れなければならない…だがいざその声を聞いてしまったリィンはその場から立ち去るという選択が出来なくなっていた。
「…アルフィン…どうして…いやオリヴァルト殿下が話したんだな…あの人らしいな」
リィンは一切振り向かずに困ったような口調で語り掛け、彼女もリィンに話しかけた。
「間に合ってよかったです…リィンさん…私の姿を見ることはできないんですよね…」
アルフィンはオリヴァルトの言葉を覚えており、それを聞いたリィンはバツの悪い表情になると「…すまない…本当ならおれも君の姿を見たいし正面から顔を見て話したい…でも今おれがそうしたら…おれはきっとこの夢から覚める事が出来なくなってしまう…だから君の姿を見れない…本当にごめん…」自身が今彼女の表情を見れない理由を話し、それを聞いたアルフィンは泣きそうな、だが何処か嬉しそうな表情になると口を開いた。
「…リィンさんからその言葉をお聞き出来て安心しました…嫌われたわけでは無いってわかってましたけど…それでも良かったです…」
アルフィンは何処か祈るような表情になるとリィンの背に対し静かに続けた。
「リィンさん…私はずっと待っています…だから必ず帰ってきてください…」
それを聞いたリィンは泣きそうになりながらもやがてその言葉を紡いだ。
「…アルフィン…行ってきます!」
そう言うとリィンは振り向かずに駆けだしたやるべきことをするためにも今はそうしなければいけない、そう感じたからだった。そしてそれを見たアルフィンもただ静かに「待ってます…リィンさん…行ってらっしゃい…」そう紡ぐとリィンの姿が見えなくなるまで見つめていた。
「ここまでくれば…大丈夫だよな…」
リィンは式場から離れた場所でどうすれば目を覚ませるか様々な思考を巡らせていたその時だった。
―ゴォォォォォ―
「!きゅ…急に強い風が…」
不意に強風が吹き、リィンは思わずよろめいた―その時だった。
「リィン…我が子よ…刀を抜け…この夢想の世界から抜け出したいと言うならば必要となる…何より斬るべき物は今もお前のすぐ傍だ…それが何か今ならば判るだろう?」
「!貴方は!」
背後から聞こえた声とその気配にリィンは驚きの余り反射的に振り向いてしまった。しかし背後には誰の姿も無くただ木々が生い茂っているだけだった。だがそれでも今この場に『
「今のは…ありがとう…こうして導いてくれるなんて思わなかった…いや…親子なら多分当たり前の事なんだよな…」
リィンは呼吸を落ち着かせると刀を抜いた。
「(今のおれが斬るべき物…最初からずっとそこに有った…つまり今斬るべき物は―)」
リィンは自身の頸に刀を当てた。
「(おれ自身の頸以外にない!これで合っているはずだ間違いない!夢の主に自殺を強いるなんて悪趣味極まりない!けど迷ってはいられない!こうしてる間にも鬼が何かする準備をしている!だから!)やるしかないならやってやる!」
最後の叫びはリィン自身も完全な無意識から来るものだったがこの叫びがリィン自身の最後の迷いを取り払うきっかけとなりその瞬間リィンは自身の頸を斬り裂いていた。
「!こ…ここは…」
そしてその瞬間リィンは列車の中に戻っており、そのまま深呼吸した。
「…現実に戻れたのか…それにしても自分の頸を斬るとか生きた心地がしなかったな…!そうだ!炭治郎達は!」
リィンは安堵したがすぐに炭治郎達に目を向けようとした直後程なくして「ああああああ!!!」と言う叫び声と共に炭治郎が飛び起き、彼は冷や汗を掻きながら自身の頸に手を当て心の底から安心した表情になり、それを見たリィンは「…何とか二人とも目を覚ませたみたいだな…」と炭治郎に告げ、それを聞いた炭治郎はすぐさまリィンに目を向けると「リィン教官も…夢の仕掛けにお気づきになられたんですか?」と問いかけ、それを聞いたリィンは「何とかな…けどこんな悪趣味な仕掛け外部からのきっかけ無しで目覚めるのは難しいと思う…」と答え、二人は何も続けられなかったがその沈黙をクロウが『お目覚めか?お二人さん』と声をかけることで破り、続けて『禰豆子に感謝しろよ。あの血鬼術が無かったらもっと時間がかかってたしな…』と告げそれを聞いた炭治郎は先ほどの叫び声に驚いて縮こまってしまった禰豆子に「ありがとな禰豆子…」と告げ、リィンも「ありがとう」と答えたがすぐに未だに眠ったままの三人に目を向けた。
「後は三人と繋がっている人たちだな…このロープは…炭治郎はどう思う?」
「え!?は…はい!えっと…」
唐突に話を振られた炭治郎は驚きつつも自身の腕に残ったロープを観察しながら答えた。
「…理由はわかりませんけど何だか嫌な感じです…」
炭治郎の答えを聞いたリィンは考え込むと「なら日輪刀で斬るのは止めた方がよさそうだな…禰豆子、三人に繋がっているロープを燃やしてくれるか?」と頼むと禰豆子はコクリと頷き三人と鬼の協力者を繋ぐロープを全て燃やすと直ぐに炭治郎達の下へ戻り、それを見た炭治郎が「よくやったぞ禰豆子」と言いながら頭を撫でようとしたた直後だった。
『!炭治郎避けろ!!』
クロウが避けるように促し、それを聞いた炭治郎はすぐに身を躱した。間一髪だった。先ほどまで炭治郎がいた場所に現代で言う所のアイスピックによく似た物が振るわれており、それを手にしていたのは先ほどまで杏寿郎と繋がれていた少女でその目は溢れんばかりの敵意で満たされていた。
「どういうつもりだ…おれ達が何をしたと言うんだ?」
その少女の姿を見たリィンは炭治郎をいつでも庇える位置に移動しつつあくまで冷静に問いかけたが少女は苛立ったように口を開いた。
「…どういうつもりですって?それはこっちのセリフよ!あんた達が来たせいで夢を見せて貰えないじゃない!!」
それを聞いた炭治郎は困惑し「(自分の意志で?鬼に操られているって訳じゃないのか?)」と戸惑い、そうしている間にも炭治郎に繋がっていた青年以外の鬼の協力者が少女と同じ様にアイスピックとよく似たそれを構えて三人に迫っていたが唯一何もしようとしない青年の様子に苛立った少女は「それにあんたもどう言うつもり!?起きたなら加勢しなさいよ!結核だかなんだか知らないけど働く気が無いならあの人に言って夢見せて貰えないようにするからね!」と言い放ったが青年はただ涙を流すだけでそれを見たリィンは「(…彼からだけは敵意を感じない…炭治郎の夢に入ったことで何か影響を受けたのか?と言うよりはこの人はこの姿が本来の性格の様にも感じる)」と考え、一方炭治郎は「(今…結核って…この人は病気なんだ…後の人達も怒りとは別に深い所に悲しみを感じる…とても辛い経験をしてそこにつけ込まれたのか…)」彼らが弱みにつけ込まれたことに気づくと一瞬だけ顔を伏せたがすぐに「ごめん…おれ達は戦いに行かないといけないから…」と告げ、炭治郎の意思を察したリィンは「いいんだな?」と問いかけ、炭治郎は頷き返しそれを見たリィンは二人、炭治郎は一人をそれぞれ気絶させると炭治郎はただ穏やかな口調で語り掛けた。
「ごめん…幸せな夢の中にいたいんだよね…その気持ちわかるよ…おれも夢の中に居たかったから…」
一方リィンも「おれも故郷の夢を見た…大切な友人に生徒に…最愛の人もいた…今はまだ帰りたくても帰れない場所の夢を…」と告げ、そんな二人の姿を青年は何も言わずに見つめ、それを見た炭治郎は「…大丈夫ですか?」と問いかけると彼はただ優しく微笑むと
「…ありがとう…二人とも気を付けて」と伝えると炭治郎は一瞬戸惑ったがすぐに「はい!」と答えリィンも「ありがとう…それとできればその三人を何とか起こしてほしい、今は一人でも人手がいるんだ。けど自分の身の安全を第一に考えてほしい」と礼を言いつつ頼むと彼も頷き「わかりました…任せてください」と答えるとそれを聞いた炭治郎は「禰豆子!おれ達と一緒に!」と呼びかけ、リィンも後に続き、禰豆子も後を追いかけ、車両と車両を繋ぐ場所に出たが突如として炭治郎に強烈な匂いが襲いかかり思わず顔をしかめ、それを見たリィンは屈みこむと「大丈夫か?」と呼びかけ炭治郎は「な…なんとか」と答えると直ぐに「凄い匂いです…この感じは恐らくですが十二鬼月だと思います」とリィンに伝えそれを聞いたリィンは「鬼がいるのは車両の上か?」と問いかけると炭治郎は頷きリィンは考え込むと「なら二手に分かれよう。おれと炭治郎で鬼の相手をする。禰豆子は残って何か異変が起こったら乗客の皆を守ってほしい…頼めるか?」と二人に伝えると炭治郎は「わかりました!」と答え、禰豆子もコクリと頷くとすぐに踵を返し四人の下へと戻って行きそれを見たリィンはすぐに車両の屋根に飛び乗ると炭治郎に手を貸して引っ張り上げるとそのまま先頭車両へと足を進めると炭治郎が「誰かいます!おそらくは…」と伝えそれを聞いたリィンも頷きつつ「慎重にいくぞ…」と伝え刀をいつでも抜刀できるようにしつつ炭治郎と二人で一歩踏み出すと二人に気づいた魘夢は振り返ると「あれぇ?もう起きたんだ?おはよう二人とも…まだ寝てても良かったのに…」と当たり前のように挨拶しつつ二人を出迎えた。
「下弦の壱…十二鬼月か…」
リィンは魘夢の目に刻まれた数字を読み上げそれを聞いた魘夢は笑みを浮かべると「そうだね…せっかく来てくれたんだし自己紹介しなくちゃ…おれは十二鬼月下弦の壱、魘夢よろしくね二人とも…」そう答えた魘夢はただ薄ら笑いを浮かべていた。
おまけ
キメツ学園での設定その四
アルフィン・ライゼ・アルノール
リィンの恋人にして彼の出身国の皇女。誰もが認める美少女であり、テレビで姿を見た炭治郎に善逸は勿論、伊之助ですらかわいいと認めているが原作同様、根本的には兄と似た一面もあり常にハリセンを持ち歩いていて原作同様たいていは変な発言をした兄が叩かれる。
後に来日した際リィンに連れられてお忍びで立ち寄った竈門ベーカリーで炭治郎の母親の葵枝に会ったがその際昔の炭治郎と声がそっくりなことに驚かれたりしている。