鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
「(魘夢…それがこいつの名前か…成程…十二鬼月と対峙するのは初めてだけど確かにこれまで戦った鬼とは違う…強いて言うならこの世界に来て最初に戦ったあの鬼に一番近いかもしれないけどそれとも比べ物にならない…だが―)」
勝てない相手ではない―リィンは魘夢の実力を冷静に分析し、能力こそ厄介だが対処法が解っていることもあり勝てる相手と確信を持っており炭治郎も「(リィン教官も一緒にいてくれている…何より今のおれだってあの時よりも強くなれている…勝てない道理はないはずだ!)」今の自分なら判断を間違えなければ勝てると考えていたがそれを余所に魘夢は揺さぶりをかけ始めた。
「それにしても君たちはどうして夢から覚めたんだい?せっかくいい夢を見せてやっていたのに…お前たちの家族や友達みんな惨殺する夢だって見せてやれたのに…」
その言葉を聞いた二人は一瞬唖然としたが魘夢は笑みを浮かべるとリィンと炭治郎それぞれに対して「お前には実の家族全員が生きていて幸せに暮らしていた夢を…そこのお前には父親が生き返った夢を見せてやろうかな?」と言い放ったがそれを聞いたクロウは『なるほどなコイツは確かに悪趣味だな…大方殺す直前に幸せな夢を悪夢に変えて絶望させるのが趣味なんだろうな…むかつくぜ本当に!』先ほどの魘夢の悪夢を見せる事も出来たという言葉から本質を見抜き顔をしかめそれを聞いたリィンと炭治郎は怒りの表情を見せたが魘夢はいぶかしんでいた。
「(それにしても…どうしてこの二人は目を覚ませたのかな…いや…異人の方は仕方ない…おれから見ても綻びが多かったし気づかれても仕方なかった。今にして思えば異人の方が見てた夢だけはしっかりと操作しておくべきだったのにそれをしなかったおれの落ち度だ…次からは気を付ければいい…けど問題はもう一人の方だ…幸せな夢からあんなに早く抜け出せたうえに覚醒条件も見破った…これは異人の方も同じ…普通夢でも自分の頸を斬るなんてかなりの覚悟がいる…なのにそれが出来た…幸せな夢を見ていたいって言うのは当たり前の事なのに…)」
リィンと炭治郎は共に刀を抜きながら怒りを滾らせるとそれぞれ「人の心に土足で踏み込むな!」「お前に利用されたあの人たちも被害者だ…人の不幸につけ込んで操って用済みになれば悪夢を見せた上で切り捨てるつもりだったんだろう!」そう言い放ちつと続けて「行くぞ炭治郎!」とリィンが呼びかけ、炭治郎も「いつでも行けます!リィン教官!」と答えた直後に二人が持つアークスが光るとそのまま二人を繋ぎ二人はそれぞれ技を構えると魘夢に向けて駆けだした。
「(へぇ…洞察力も高い…ここまでおれの考えていることを正確に見抜くなんて正直予想外だけどどうでもいいかな…二人ともここで死ぬんだから)」
そう考えると魘夢は左手の甲に存在している口を二人に向けた。
「(血鬼術・強制昏倒催眠の囁き)お眠りィィ~」
その口の囁きを聞いた二人はよろめいたがすぐに立ち直ると炭治郎は生生流転を、リィンは紅葉斬りをたて続けに振るい、それを見た魘夢はアクロバットのような動きで避けたが困惑を隠せなかった。
「(何故だ?何故こいつらは眠らない?眠れ!)」
魘夢は再び二人に血鬼術をかけたが二人は一瞬よろめいた後に再び魘夢に迫り魘夢は更に三度術をかけたがそれでも二人は眠ることなく迫り魘夢は遂にその理由に気づき恐怖すら感じた。
「(能力が効かない?いや違う!こいつらは何度も術にかかっている!その度に覚醒の為の自決を繰り返している!それに―)」
リィンと炭治郎はアークスのリンクシステムにより文字通り一糸乱れぬ連携を見せておりこの二人でありながら一人を相手にしているような動きには流石の魘夢も焦りを見せていた。
「(こいつらの連携の精度は異常すぎる!時々同じような動きをしていることを考えると師匠と弟子なのかもしれないがそれを踏まえて考えても明らかにおかしい!それにこの二人は何度も自分を殺している!夢の中だと自覚できていたとしても相当な胆力がいるにも拘らずだ!この二人はまともじゃない!だったら完全に心を折るしかない!)眠れぇぇ!」
魘夢は二人を止めるには完全に心を折るしかないそう判断し悪夢を見せにかかった。
リィンと炭治郎は二人とも何処とも知れない暗闇の中にいた。炭治郎は夢の中で家族から、リィンは仲間からそれぞれに罵倒されていた。だが同時にリンクシステムで繋がっていたこともあり二人とも互いがどのような罵倒をされているのかもはっきりと感じ取る事が出来てしまっていた。
―なんで助けてくれなかったの?―
―どうしてあなたが生きてて姉さんは死んだんですか!?―
―おれ達が殺された時何してたんだよ―
―あなたのせいで黄昏が起こって世界中がめちゃくちゃになった!―
―自分だけ生き残って!―
―あなたを導いたのは間違いだったようですね―
―何のためにお前がいるんだ?役立たず―
―お前があの時死んでいれば黄昏が起こらずミリアムが死ぬことも無かった!―
―アンタが死ねば良かったのによくものうのうと生きていられるわね―
この悪夢は確かに二人をかつてない程に動揺させた。そういう意味では魘夢の企みは成功したと言える―だが心を折ることは無くむしろ二人の怒りは頂点を超えた。
「おれの家族が!!―」「おれの仲間が!!―」「「そんなことを言うはずがないだろう!!!」」
これは魘夢にとっては完全な誤算だった。これまでにも何度か相手の心を折るために魘夢はこう言ったことをしていた―しかし今相手にしている二人は折れることは無くむしろかつてない程の怒りを滾らせていた。魘夢は身体能力に物を言わせて避け、それを見たクロウはある決断をした。
『炭治郎!奴の動きを止める方法がある!少し目が痛むかもしれないけど我慢してくれ!』
そう言うとクロウは自身の右目の力を炭治郎に送り炭治郎は一瞬右目に痛みが走ったことで目を閉じたがすぐにそれも収まりそれを確認したクロウは説明した。
『上手く行ったようだな!そいつは所謂魔眼って奴だ!そいつに力を込めて奴に向けて投げつけるような感覚でやってみろ!ただし目に負担がかかるから一回使ったら暫くは使うな!』
「わかりました!」
炭治郎はクロウに言われた通り右目に力を込めるように意識しすぐに魘夢を見据えた。
「動くな!」
その直後炭治郎の右目が光り、何らかの力がほとばしった瞬間、魘夢に頭の中がかき回されるような感覚が襲いかかりつい膝をついた。
「!(な…何だ今のは!?あいつの目が一瞬光ったと思ったら急に体が重くなった!)」
ついにできた隙を炭治郎とリィンは逃さなかった。
「合わせるぞ炭治郎!」
「はい!リィン教官!」
リィンと炭治郎はリンクシステムの応用から互いに同一の技を構え、同時に動いた。
「「八葉一刀流・二の型秘技!」」
それを見た魘夢は咄嗟に腕を上げてせめて二人を少しでも眠らせて隙を作ろうとしたが通り抜けざまに両腕とも斬り飛ばされ、唖然とする中リィンと炭治郎は振り向きざまに刀を交差するように振りぬき魘夢の頸を斬り飛ばした。
「「裏・疾風《
リィンと炭治郎が放った技はクロスベルに住む風の剣聖、アリオス・マクレインの技であり本来は分け身と言う分身のような技と組み合わせて使う技だがリィン自身もこの技は知識としてしか知らなかったことから単独での完成には至っていなかった。故に炭治郎との連携技としてアレンジすることで使用し本来とはまた違う技として完成させていた。しかし二人にとっては予想外の事態が発生した。
「!これは…」
「手ごたえが無さすぎる!」
魘夢の頸を二人は確かに斬った。だがその首はまるで紙を斬ったかのように手ごたえが無く二人が動揺した直後だった。
「フフフフフフ…成程ねぇ…あの方が柱だけじゃなく耳飾りの君を殺せって言った理由…よくわかったよ…」
二人が斬ったはずの魘夢は変わらずに薄ら笑いを浮かべその頸からは肉塊のようなものが根のように伸び列車に根付いていた。
「どうしておれが生きているのか気になるよね?良いよ…おれは今凄く気分が良いから教えてあげる…それはもうおれの本体じゃない…いわば張りぼてだからさ…今喋っている頸もそうだよ…君たちが眠っている間におれはこの汽車と融合したんだからね!この汽車の乗客は二百人はいる…彼らはおれの力を強める餌であり人質でもある…君達二人だけで二百人の乗客をおれから守り切れるかな?」
魘夢は一通り挑発すると話は終わったというように列車の屋根に沈んでいきそれを見た炭治郎は「待て!」と叫びながら日輪刀を振るったがすでに魘夢の頸は沈んでおり炭治郎の振るった刀は空を切った。
『この列車の範囲だったらギリギリ行けるか!炭治郎!おれはあの魘夢って鬼の頸を探してくる!今は一刻の猶予も無い!お前らは乗客を守ってくれ!』
魘夢の言葉を聞いたクロウは自分なら魘夢の頸を探れるため探しに向かったがリィンと炭治郎は驚きの余り硬直し、焦りだした。
「(この列車そのものと融合だって!?十二鬼月はそんなことまで出来るって言うのか?不味いぞ!いくらおれでも一人で守れるのは五両が限界だ!鬼の力を使って無理をすれば八両守りきれるかもしれないけどあれを使えば手加減できなくなるから乗客を巻き込みかねない!分け身を維持できれば鬼の力無しでも行けるかもしれないけど長時間操るのは今のおれでは経験が足りなさすぎる!)」
「(どうする?どうすれば良い?今のおれじゃ八両全部守るのは無理だ…多く見積もっても三両…それ以上は保証できない!そうだ!)」
炭治郎は三人が起きている可能性に賭けるために叫んだ。
「煉獄さん!善逸!伊之助!起きてくれ頼む!!禰豆子!眠ってる人たちを守ってくれ!これ以上犠牲を出してはダメだ!頼むから皆起きてくれーー!!」
炭治郎がそう叫んだ直後だった。
「ウオオオオオオオオ!!」
聞き覚えがある雄たけびが聞こえ、それを聞いたリィンは「賭けに勝てたな」と笑みを浮かべた直後―ドキャッ!―と言うすさまじい音と共に目を覚ました伊之助が列車の屋根を突き破りながら飛び出すと「ついて来やがれ子分共!!猪突猛進!!伊之助様のお通りじゃアアアア!!」と高らかに叫んだ。