鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
炭治郎は列車の中で刺されたことに加え凄まじい揺れにより外に投げ出されてしまい、その二つの要因から来る痛みで意識が朦朧とする中、どうにか意識を取り戻すと思考を巡らせていた。
「(痛い…おれはどうなって…痛みがあるって事は生きてるってことなんだろうけど…でも体が動きそうにない…列車はどうなったんだ?伊之助に善逸…禰豆子に煉獄さん…リィン教官も…皆無事なのか…?確かめたいけど…身体が動かない…)」
炭治郎がそう心の中で呟く中一人分の足音と共に「おい!大丈夫か!!三太郎!!」『こんな時まで名前間違えてんじゃねぇよ!炭治郎!動けそうか?』と言う二人分の声が聞こえ、それを聞いた炭治郎はどうにか目を開けると伊之助とクロウが駆け寄ってきたのを目の端でとらえた。
「…伊之助…クロウ…何が…あったんだ…?」
炭治郎は何とか二人の名前を呼び、すぐに何が起こったのか問いかけるとそれを聞いたクロウは『覚えてねぇのか…まあ状況が状況だったし無理もねぇか…炭治郎が魘夢の頸を斬ってすぐ後に多分暴れたんだろうけど…列車そのものが弾んでこうなっちまったんだ…目に見える範囲では大きな損傷も伊之助が開けた大穴以外にはなさそうだけどな』と何が起こったのかを説明し、それを引き継ぐように伊之助が続けた。
「おれ達が生きてるのは鬼の肉がばいんばいんしたからだぜ!そのおかげで逆に助かったんだ!けどお前、刺された腹は大丈夫か?」
伊之助は彼にしては珍しく―責任を感じているのもあるのかもしれないが―炭治郎の怪我に対する心配を一切隠す様子が無くそれを聞いた炭治郎は「…すぐに動くのは無理そうだけど…何とか大丈夫…それよりも他に怪我人は…?一緒にいた運転手の人は…大丈夫か?」と自分の状態を伝えつつ運転手の事を問いかけ、それを聞いたクロウは炭治郎らしいと思いつつ深刻そうな表情で答えた。
『生きてはいるけど…怪我の度合いで言えば炭治郎よりもひどいぜ…運が悪かったと言うべきか因果応報と言うべきかは分からねぇけど片足が倒れた車体の下敷きになっちまってるから良くて粉砕骨折…最悪切断ってとこだろうな…おれ達の世界ならともかくこの世界の医療技術じゃ治せねぇだろうよ…』
クロウは何処かやるせない表情で答えるとそれを聞いた炭治郎は「そうか…伊之助…おれは大丈夫だから…あの人を助けてやってくれ…」と伊之助に頼んだが彼は一瞬硬直しすぐに「アイツ死んでいいと思う!!」と叫び、それを聞いた炭治郎とクロウはそれぞれ「良くないよ…」『…流石にそれは夢見が悪いから助けてやれよ…』と言ったが伊之助は「お前を殺そうとした奴だろ!バロウが言ったようにインコドウホウって奴だろうが!もう歩けねぇしほっときゃ死ぬ!」と運転手に対して怒りの言葉を放ったが炭治郎は静かに続けた。
「…クロウが言ってただろ?良くて粉砕骨折、最悪切断だって…もう治せないなら…十分罰は受けてるよ…」
炭治郎の言葉を聞いたクロウも伊之助に告げた。
『…おれからも頼む…炭治郎の為に怒ってくれてるのは嬉しいけどその炭治郎はこうして生きてて許すって言ってるんだ…だから助けてやってくれ』
二人の言葉を聞いた伊之助は暫く黙り込んだがやがて観念したように口を開いた。
「……ふん、お前らが許すって言うなら構わねぇ…おれは親分だからな、行ってやるよ」
そう言うと伊之助は運転手がいる方向へ向かいながら「助けた後アイツの髪の毛全部毟っといてやる!お前を殺そうとした分だってな!!」と言い放ったが炭治郎は何とも言えない表情で「いや…そんなことしなくていいよ…十分罰は受けてるから…」と告げ、クロウも『流石に目を覚ましたらハゲになってるのは可哀想だからやめてやってくれ…』とぼやいた。そんな一連の流れの片隅で最早ただ消滅を待つだけの魘夢は戸惑いを隠せなかった。
「(…身体が崩壊する…再生できない…おれが負けたのか?おれが死ぬのか?あの方の血を受けて強くなったはずのおれが?馬鹿な…馬鹿な!)」
魘夢は元が人型だったとは思えないような姿であり、うろたえる事と今夜起こったことを思い出す事しかできなかった。
「(おれは全力を出せていない!汽車と一体化するまでは良かった…だがその後は人間を一人も食えなかった!人間を一度に大量に食う計画が台無しだ…)」
そう考える魘夢の脳裏には杏寿郎とリィンの姿が浮かんだ。
「(あいつらだ!あの二人のせいだ!二百人も人質を取っていた様な物なのに…それでも押された!これが柱の力…しかも異人の方は直接戦った時は本気の半分も出していなかった!あの耳飾りのガキと別行動をとった時の動きは直接戦った時とは比べ物にならなかった!あんなに厄介な奴がまだ七人もいると言うのか…)」
魘夢は続けて善逸と禰豆子の姿を思いだし、その二人の常識はずれな動きに恐怖すら覚えた。
「(あの妙な色の髪のアイツも速かった!しかも眠ったまま…術が解けていなかったのに何故動けた!しかもあのガキといたあの娘…!鬼じゃないか!何故鬼狩りに与しているのに無惨様に殺されない!?)」
そう狼狽えた所で魘夢の崩壊は止まらずその目は炭治郎に向けられ彼とリィンに対する恨み言を吐き続けた。
「(クソォ!クソォ!!そもそも…!!あのガキと異人の柱…!!あの二人に術を解かれてからがケチのつき始めだった…あいつらが憎い!!異人の方は無理でもせめてあのガキだけでも…!!)」
魘夢は残った僅かな体に小さな腕を生やして炭治郎の下に這い寄ろうとしたが最早何もすることはできず、伊之助の姿を思いだしていた。
「(それにあのガキだけじゃない…あのイノシシ頭の妙なやつもだ!あのイノシシさえいなければあのガキだけでも殺せた!あの被り物のせいで術がかけられなかった…しかも勘が鋭すぎる…視線に敏感だった!負けるのか…死ぬのかァ!?ああああ…悪夢だぁぁぁ…悪夢だぁぁぁ…)」
魘夢は続けて自身よりも格上の存在である上弦の鬼の姿、そして無惨に血を分けられた時の事を思い出した。
「(鬼狩りに殺されるのはいつも底辺の鬼だ…だが上弦の鬼はここ百年一度も顔ぶれが変わっていない…鬼狩りの柱も含めて山ほど人間を葬っている…それほどまでに次元が違うと言うのか…あれだけ血を分け与えて貰えたと言うのにそれでも上弦には及ばなかった…それほどまでに次元が違うと言うのか…あああああ…やり直したい…やり直したい…何とも惨めな…悪夢…だ……)」
それが魘夢の最後の思考だった。魘夢の姿は誰の目にも止まることは無くひっそりとその体を崩壊させその命を終える事となった。
一方リィンと杏寿郎は炭治郎の姿を見つけるとすぐさま駆け寄りリィンは炭治郎の傍らに立つと口を開いた。
「よくやったな。炭治郎…生きててよかったよ…無事だとは思っていたけどやっぱり自分の目で見るのとでは安心感が違うな…」
そういうリィンとは別に杏寿郎も炭治郎の傍に歩み寄ると満足げに頷くと「うむ!流石はリィンの継子と言うべきか全集中の常中も会得しているようだな!感心感心!」と言い炭治郎は何処か呆然とした様子で「リィン教官…煉獄さんも…」と二人の顔を見ながら言い、クロウも『流石柱ってところか…二人とも無事見てーだな。おれはとりあえず善逸と禰豆子の様子見て来るからあとでな』と言いながら姿を消し、それを見送りつつ杏寿郎の言葉を聞いたリィンは「常中を教えたのはおれじゃなくてしのぶなんだけどな…」と苦笑いしたが杏寿郎は何処までも爽やかな様子で口を開いた。
「そうなのか!だがそれ以外は殆ど君が教えたのだろう!そういう意味で言えば竈門少年は今の鬼殺隊では最も柱に近い隊士と言えるだろう!リィンの指導も素晴らしい物だ!最も柱までは一万歩あるかもしれないがな!」
杏寿郎の言葉はやはり明るく、それを聞いた炭治郎は「頑張ります…」と答えるとすぐに炭治郎の傷を目にし「腹部からの出血だな。もっと集中して呼吸の精度を上げるんだ。体の隅々まで神経を行き渡らせろ」とアドバイスし杏寿郎の意図を察したリィンは何も言わずにティアの薬(珠世制)を取り出して準備すると杏寿郎の指導が終わるのを待ち、杏寿郎は「破れた血管がある。もっと集中しろ」と強めの口調でアドバイスし、炭治郎が破れた血管の位置に気づき意識を集中させると「そこだ。止血、出血を止めろ」と強い口調で続け炭治郎は全身に力を入れだしたがそれを見た杏寿郎は炭治郎の額に人差し指を当て再び「集中」とだけ告げ、炭治郎は刺された場所により強く集中し、止血に成功するとそれを見た杏寿郎は満足げに頷くと穏やかな口調に戻った。
「うむ!止血できたな。呼吸を極めれば様々な事が出来るようになる。何でもできるわけでは無いが昨日の自分よりは間違いなく強くなれる。とは言え体力の問題で止血できない事もあることから薬等も常備した方が良いだろう!君も知っての通り幸い今の鬼殺隊には良い薬を用意する事が出来るからな」
杏寿郎は呼吸だけでなく薬の必要性も説明し、それを見たリィンは「終わったみたいだな杏寿郎」と言い、それを聞いた杏寿郎は「うむ!呑み込みが早いから教えがいがある!正直羨ましい限りだ!」と告げるとそれを聞いたリィンはティアの薬(珠世制)の蓋を開けつつ「なら時々教えに来てくれないか?合流の時も言ったけどおれとしてもいろんな人から指導してもらえるのは悪い事じゃないと思ってるんだけど…」と杏寿郎に問いかけ、それを聞いた杏寿郎は「そうか!君がそう言うなら引き受けよう!」と言いそれを聞いたリィンは「ありがとう杏寿郎。炭治郎、ティアの薬だ。少しずつで良いから飲んでくれ」と杏寿郎に礼を言いつつ炭治郎に薬を飲ませ、炭治郎は「ありがとうございます」と告げると如何にか薬を飲み、それを見た杏寿郎は笑みを浮かべると「皆無事だ!怪我人は君も含めて大勢いるが誰も命に別状は無い。…それとどうしても君に伝えたいことがある。君の妹の事だが―」と伝えようとしたがその先は続けられなかった。
―ドオン―
突如として一切の前触れも無しにナニカが凄まじい音と共に降り立ち、三人は同時にそこに目を向けた。その場所には砂ぼこりが立ち込めていたが降り立った何者かはゆっくりと立ち上がりその姿をあらわにした。ソレの姿は人間とよく似ていた。全身に刺青の様な模様がありその肉体は見事としか言いようがない程に鍛え上げられていた。そしてソレは自然な動きで三人に目を向け、その目を見た炭治郎は愕然とした。
「上弦の…参…だって…!?」
何故ここに?―それは炭治郎だけでなくこの場に居る一人を除き全員が思ったことだった。それを説明できる者はこの場に現れた上弦の参だけだろう。だが一つだけ確かなことがあった。
―悪夢はまだ終わっていない―
それは誰の目から見ても明らかだった。