鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
怯まずに自身に向かって来た炭治郎の姿を見たクロウは笑みを浮かべると「その意気や良し…ってところかな!」そう告げると双刃の刃で炭治郎の攻撃を受け止めた直後、二人の武器がぶつかり合ったその場所から蒼い光がほとばしった。
「!こ…この光は!」
「(やっぱりな…後はおれの狙い通りに行くと良いが…)」
唖然とする炭治郎を余所にクロウは読んでいたとばかりに冷静な表情を崩すことは無かった。炭治郎は一瞬自身が騎神の力を使った際に発動する光かと思ったが直感的に違うと悟り―そもそも今も使っている時点で違うと気づいたが―やがてその光の中に炭治郎はある光景を見る事となった。
そこは炭治郎が見たことが無いこの世界で言う所の西洋の墓地で炭治郎はある墓の前で俯く銀髪の少年の姿が有った。
「君は…」
その少年は炭治郎に背を向けて佇んでおり、その顔は見えなかった。だが炭治郎はその少年が誰なのかを直感的に理解しその名を呼ぼうとしたとしたその時だった。
「集中しねぇと負けるぞ!!」
「!(今のは幻?でも幻覚と言うにははっきりしすぎてた…いや今は!)」
いつの間にかその光景は消え去っていたが唐突に見えたソレに炭治郎は気を取られていたものの如何にか思考を元に戻し刀を受け流すような構えに変えると即座にクロウから距離を取りつつ問いかけた。
「今のは…何だったんですか?」
炭治郎の問いは戸惑いを隠しきれておらず、クロウは笑みを浮かべながら「そいつはおれに勝てたら教えてやる…」とだけ告げると凄まじい速度で炭治郎に迫ると「だから今は戦いに集中しな!」そう叫びながら炭治郎に攻撃を仕掛け、炭治郎は直ぐにクロウの攻撃に対して応戦するとそのまま凄まじい速さで殺陣が繰り広げられた。
「!(思ったよりもずっと速い!見るからに扱いにくい武器なのに!…こうなったら一か八かだ!)」
炭治郎はクロウに気づかれない程度に目に力を込めるとすぐに目を向けた。
「(一瞬でも動きを止められれば良い!後の事はそれから考える!)止まれ!」
炭治郎の魔眼がほんの僅かだが発動し、それが功を奏したのかクロウの攻撃の手が一瞬だけだが止まり、その隙をついた炭治郎はすぐに離れると深呼吸して技の構えに入り、クロウはそれを見て「そう来たか…」と呟きながら飛びのきつつ双刃を構えなおした。
「水の呼吸・拾の型・秘技・蒼炎流転!」
炭治郎は以前リィンと摸擬戦を行った時と同じように生生流転に蒼炎の太刀を組み合わせた技である蒼炎流転を構え、それを見たクロウも双刃を構えると「そっちがそう来るんならおれも見様見真似と行かせてもらうか…」と告げると双刃を構えつつ静かに告げた。
「水の呼吸…は使えねぇが動きなら出来る…と言う訳で…見様見真似の生生流転!」
クロウはそう告げると刀では無く双刃による物だが見様見真似で生生流転を放ち、水の呼吸と言う欠けた要素は彼自身の経験と技術で補いながら炭治郎に向けて駆け出し、炭治郎もクロウが生生流転を使用したことに驚いていたがすぐに自分がクロウの能力をある程度使える以上クロウも自分の技を使えてもおかしくないと気づいた。
「(クロウも生生流転を使ってくるなんて!今のおれじゃ経験の差から考えて正面からじゃ突破できない…クロウに勝つにはおれの全てをぶつけるべき…なら!)」
炭治郎はあと少しでクロウとぶつかる直前に呼吸を変えた。
「(ここだ!)ヒノカミ神楽!」
炭治郎が発動させたのはヒノカミ神楽の呼吸であり、これはクロウも全て把握できていなかったこともあり戸惑いの表情を見せたが次に来る技の推測を始めた。
「!(ヒノカミ神楽と来たか!おそらくは動きが似ている円舞に繋げてくるはずだ!)」
クロウはそのまま正面から迎え撃とうと構えた―それが間違いだった。
――ブォン――
「!なに!?」
その場に炭治郎の姿は無く、クロウが振るった刃は空を切っていた。
「幻日虹!!」
「!(後ろか!)」
炭治郎は一瞬でクロウの背後に回り込んでおりそのまま刀を振るい、クロウは如何にか双刃の背中側になる刃で止めたその時、再び蒼い光がほとばしった。
「また…さっきとは別の場所だ…」
炭治郎は辺りを見回しながらそう呟いた直後、後ろから「本当に良いのね?後戻りはできないわよ…」と言う声が聞こえ、後ろを振り向いた。そこには現在炭治郎と戦っている彼よりも何歳か若く見えるクロウと見覚えの無い女性の姿が有り先ほどの声は彼女の物だとすぐに気づいた。二人は扉の前に立っていたがその扉に描かれた模様を見た炭治郎は首を傾げた。
「あれ?…この模様どこかで…?」
炭治郎はその模様を何時何処で目にしたのかが分からず困惑していたが先ほどの彼女の問いに答えるようにクロウが口を開いたのを見てすぐにそちらに意識を戻した。
「…ああ…構わねぇ…あの男を殺すには…爺さんの仇を取るには力が必要だからな…そのためなら何だってやってやる…とっととこの先を案内しろ…ヴィータ…」
クロウにヴィータと呼ばれた彼女はしばらく無言で考え込むと「…わかったわ…」とだけ告げるとその扉をくぐったクロウに自身も続こうとしたが彼女は不意に立ち止まり、それに気づいたクロウは「どうした?来ないのか?」と問いかけ、彼女は再び考え込むようなそぶりを見せると「…先に行って待ってて…ちょっと気になる気配がするのよね…」と言いそれを聞いたクロウは険しい表情になると「!…奴らか?」と問いかけたがヴィータは首を振ると「わからないわ…兎に角調べてみるから先に行ってなさい。すぐに追いつくから」と告げるとクロウは「…わかったよ…心配はいらねぇだろうが油断しないようにな…」と告げて遺跡の奥に向かって行った直後ヴィータは何やら目に見えない幕の様な物をクロウが入って行った遺跡のような場所の入口に展開すると何事も無かったかのように振り返りながら静かに口を開いた。
「…さてと…これから話すことはただの独り言だけど…よく聞いてなさい…
その言葉を聞いた炭治郎は驚きの余り硬直した。ヴィータには自身の姿は勿論だが声も聞こえないはずだった。そもそも今の彼女はクロウの記憶の中の存在であり現代の物に例えるならばカメラで記録された映像の様な物だった。にも係わらず彼女は炭治郎が佇む場所をはっきりと見据えており炭治郎は彼女の底知れなさに無惨に感じたソレとはまた別の恐怖を感じていた。そんな炭治郎を余所にヴィータはいたずらっぽく笑うと口を開いた。
「…怖がらせちゃったみたいね…一つ言っておくけど私はあなたをどうこうしようって言う気は無いしそもそも手は出せないわ…だから安心しなさい…これから話すのはクロウとあなた自身の事についてよ」
その言葉を聞いた炭治郎はすぐに彼女の言葉を聞き逃さないように耳を傾け、ヴィータは誰に語るでもなく口を開いた。
「…あなたがどういう経緯でクロウと一緒にいるのかは分からないしあなたの傍にいるクロウがどんな状態なのか今の私には分からないわ…けど彼はあれで面倒見は良いから安心しなさい…彼が力を求めた理由は復讐のため…あなたも覚えはあるでしょう?」
ヴィータのその言葉に炭治郎はクロウが以前お前に胸を張れるような生き方をしてきたわけでは無いと言っていたことを思い出した。そして同時に気づいた…気づいてしまった。
「!…そうか…あの時クロウが言っていたことはこういう事だったんだ…」
炭治郎はクロウが復讐のためには手段を選ばなかったことを―否―
「…貴方が何を考えているかは分からないけど…これだけは覚えておきなさい…大切な人を奪われた結果そいつを許せない…復讐したいって言う気持ちは人として正しい事よ…決して恥なんかじゃないわ…それでも迷うなら自分の心と向き合いなさい…そうすることであなたは前に進める筈よ…話はこれでお終い…縁が有ったらまた会いましょう。その時はオペラ公演の特等席で招待してあげるわ…またね、誰かさん」
そう言いながらヴィータは炭治郎に手を振ると優雅な足取りで遺跡へと足を進め、炭治郎は彼女の言葉を嚙みしめながら「おれが戦う理由は…」と呟いた直後、再びその光景は消え去りクロウとの鍔迫り合いに戻っていた。
「っ!全く…異世界に来てまであいつの底知れなさを思い知るなんて…な!」
今度は先ほどとは逆にクロウが炭治郎を弾き飛ばし二人は再び距離を取る事となった。
「あの人は一体何者なんですか?」
炭治郎は思わずそう問いかけ、クロウも再び炭治郎と切り結びながら答えた。
「おれを騎神の所まで導いた奴にして魔女だよ!深淵を除く時、深淵もまた我々を覗いているとかなんとかいう文が書かれた小説があったけどって!そう言やあいつの二つ名『蒼の深淵』だったじゃねぇか!よく言ったもんだぜ全く!!」
クロウはそのまま勢いで炭治郎を蹴り飛ばすと技を構えた。
「炭治郎!こいつを防ぎきって見せな!」
クロウの言葉を聞いた炭治郎はどうにか体勢を立て直して着地するとクロウを見据えた。クロウは双刃に力を込めており炭治郎はクロウが放とうとしている技は緋空斬と同じタイプの技だと気づくと防御の構えに入りつつ目を閉じた。
「(おれが戦う理由…禰豆子を人間に戻したい…それは間違いない…でもあの人の…ヴィータさんの言葉を聞いた今なら…クロウが力を求めた理由を知った今ならわかる…おれもクロウと同じだ…自分と同じ思いをする人を減らしたいって言う気持ちも嘘じゃないけど…それ以上におれはあいつを…無惨を!…この手で殺したい!!)」
それに気づいた炭治郎は自身の心の奥にこれまでとは違う黒い炎が燃え上がるのを感じ取った。そしてこの炎の存在を自覚すると同時に炭治郎は今燃え上がった黒い炎の正体が自分自身の復讐心だとはっきりと理解することとなった。
「(…そうか…クロウもこの炎を抱えていたんだ…消したくても消す事が出来なかった…それはおれも同じだ…でも…)」
そこで炭治郎の心の中には黒い炎とは別の物が思い起こされた。
「(…でもおれには一緒に戦ってくれる人たちがいる…だから決して一人で戦ってるんじゃない…)」
炭治郎は黒い炎とは別に禰豆子に善逸に伊之助そしてリィンをはじめとする鬼殺隊の仲間の姿を思い浮かべ、最後にクロウの姿を思い浮かべた。
「(それにクロウ!貴方もおれの仲間だ!だから)だからこそ絶対に乗り越えて見せる!」
炭治郎の言葉を聞いたクロウはニヤリと笑みを浮かべると「いい啖呵じゃねぇか…ならこいつを受けて見な!」と告げると双刃を振るい、先ほどから準備していた技を放った。
「防いで見せな!デッドリー・クロス!!」
クロウは双刃をバツ字を描くように振るい、真空の刃を放ちそれを認識した炭治郎もすぐに動いた。
「(まずはクロウの言う通りこの攻撃を防ぐ!全力じゃないなら可能性はある!)八葉一刀流・陸の型・秘技!緋空・十文字!!」
炭治郎はクロウの技に合わせて土壇場で緋空斬を十字型に放つという技を編み出すと即座に駆け出し、それぞれが放った技は互いに激突するとそのまま打ち消し合い、炭治郎はそれも構わずに構えるとそれを見たクロウは目を閉じ、口元に笑みを浮かべた。
「(…本当に強くなったな相棒…)今回はおれの負けだ…最高の技で決めろ!」
クロウの言葉を聞いた炭治郎は「決めさせてもらいます!」と叫ぶと以前一度だけ使えた物の完全な習得には至らなかったあの技を構えた。
「(わかる。今なら使える!あの時は完全に習得できなかったけど今ならやれる!)」
炭治郎はかつて那田蜘蛛山で戦った時と同じ構えを取るとクロウを三度斬りつけると、間を入れずに連続斬りを放つと最後に一閃しクロウに背を向けると刀を納めながらその技の名を告げた。
「八葉一刀流・奥義・終ノ太刀!暁!!」
炭治郎が鞘に刃を納めると同時にクロウは大の字に倒れ、何処か清々しさすら感じさせる様子で口を開いた。
「あ~負けた~強くなったな、炭治郎」
クロウはそう声をかけたが炭治郎は曖昧な笑顔を浮かべながら口を開いた。
「ありがとう…けどまだまだだよ…実際はまだまだ余裕があるんでしょう?」
そう言った炭治郎にクロウは「おっ!ばれたか…なんて判らない方がおかしいよなっと!」と言いながら跳ね起きるとまだまだ余裕であることを隠さずに腕を回していた。
「そう言えば…戦ってる時に時々見えたのはクロウの記憶何ですか?」
炭治郎は確信をもってそう問いかけるとクロウは直ぐに「…ああその通りだぜ…あぁけどヴィータのあれに関してはマジでなんも知らねーからそこんとこ勘違いすんなよ…」と答えた。後にこの事を聞いたリィンは「多分だけどクロチルダさんがこっそり仕掛けていたんじゃないか?特定の条件を満たさないと開かない絡繰り箱みたいな感じで…」と苦笑しながら推測していた。因みに彼がこう思ったのは似たようなことを一度経験しているからである。
「それで…戦う理由は見つかったか?」
「…はい…」
クロウは真剣な表情でそう問いかけ、炭治郎は静かに答えた。
「おれは禰豆子を人間に戻したい…それは変わりません…それだけじゃなく一人でもおれみたいな思いをする人が少なくなればいいって思ってました…でもそれ以上に…おれは無惨を殺したい…それは変えられません…」
「…だろうな…おれもわかるよ…おれもあの男を許せなかった…まあ蓋を開けてみればあの男にも事情があったんだけどな…じゃあ一つアドバイスだ…戦いが終わったら何かしてみたいことが無いか考えてみると良い」
クロウの言葉を聞いた炭治郎はきょとんとした表情で「してみたいこと…ですか?」と答えると「ああ…復讐の為だけに生きるなんて辛いんだよ…それはおれもよくわかってる…だから何でもいいから復讐が終わった後にやりたいことを考えな…まあ今すぐ考えろとは言わねぇから思いついたら話してくれ…おれは教官じゃねぇけど宿題って事にしといてやる期限はそうだな…無惨との決戦が始まるまでって事でどうだ?」と言う風にクロウが告げ炭治郎が「わかりました」と答えた直後、世界にノイズの様な物が走った。
「!これって…」
「どうやらもうすぐ朝みたいだな…ちょっと疲れたからおれ今日は休ませてもらうぜ…またな」
クロウの言葉を聞いた炭治郎は戸惑ったがすぐに「ありがとう!また!」と返すと同時に夢の世界は白い光に包まれて行き、炭治郎は気が付いた時には目を覚ましていた。