鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~   作:来斗

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密会

 

 炭治郎が夢の中でクロウと戦う数日前の夜、ある家の書斎で一人の少年が何らかの本を熱心に読み進めていたがやがて現代で言う所のバルコニーへと通じる扉が開くと風が吹き込み始め、それに気づいた少年は読んでいた本にしおりを挟みながらそちらに目を向け、その場に現れた男―猗窩座を見据えた。猗窩座はその少年に対して跪くと静かに口を開いた。

 

「…ご報告に参りました…無惨様」

 

 猗窩座に無惨と呼ばれた少年は眼の擬態を解くと少年の演技をすぐさま止め、凄まじい威圧感を放ち、猗窩座を睨みながら口を開いた。

 

例のもの(・・・・)は見つかったのか?」

 

 無惨の問いに対し猗窩座は平伏したまま『例のもの』についての報告を始めた。

 

「…申し訳ありません…東京各地を調査いたしましたが存在は勿論ですが確かな情報も確認できず…『青い彼岸花』は発見できませんでした…」

 

「…そうか…それで他に言う事があるだろう?」

 

 無惨の問いに猗窩座は自身の失態を恥じるような表情になりつつ口を開いた。

 

「…申し訳ありません…例の列車に赴きましたが無惨様のご期待に応える事が出来ず誠に申し訳ありません…ですが二人いた柱の内、一人の片目を奪う事は出来ました…次こそ必ず葬って見せます」

 

「…言いたいことはそれだけか?」

 

 途端に無惨は猗窩座に対しすさまじい殺気を放ち、猗窩座は硬直し、目を見開いた。

 

「柱一人の片目を潰した―だからなんだ?柱を一人も殺せなかったと言う事実は変えることはできないだろう?鬼が人間に勝つのは当然のことだと言うのにお前はそれが出来なかった…私の望みの一つは確かに『青い彼岸花』の発見ではあるがそれは二の次でしかない。私の望みは鬼殺隊の殲滅だけだ…柱だけならまだしも残る三人の鬼狩りを殺せなかったのはどう言う了見だ?…説明できないならばお前の記憶から直接聞いてやろう!」

 

 そう告げると無惨は猗窩座の記憶を読み取り猗窩座と対峙する二人の柱の姿を目にした。一人は派手な髪の男、そしてもう一人は紫がかった黒髪の異人の男だった。

 

「!(この男は!)」

 

 無惨は異人の柱の姿を目にするなり目を見開くとすぐさま猗窩座の記憶を読み取るのを止めると考え込んだ。

 

「(あの異人の男…アルベリヒから聞いた男の特徴と一致している…確認するべきか…)猗窩座…一つ確認させてもらう…お前と戦った二人の柱の名は何だ?答えろ」

 

 無惨からの予想外の問いかけに猗窩座は一瞬面食らったが間を置いた後に口を開いた。

 

「…派手な髪の男は炎柱…煉獄杏寿郎…もう一人…異人の男は灰柱…リィン・シュバルツァー…そう名乗っていました」

 

 途端に無惨は眼を見開いた。その名は自身の協力者から聞いた警戒するべき男の名だった。そして無惨は猗窩座に向けていた殺気を止めると静かに口を開いた。

 

「ならば前言撤回だ…猗窩座…良く生きて戻った」

 

 今度は猗窩座が目を見開いた。無惨は猗窩座に対してただ生きて戻ったことをねぎらう言葉を送っておりこれは猗窩座にとって完全に予想外だった。

 

「…何故…何故失態を犯した私にそのような言葉をおかけになられたのですか?」

 

 猗窩座自身失敗した鬼に対する無惨の容赦のなさを良く知っていたこともあり安堵よりも困惑が勝ってしまっていた。しかし無惨は猗窩座を傷つけることは無くあくまでも冷静に続けた。

 

「…いいだろう…リィン・シュバルツァーと遭遇し生き残ったと言う事実がある以上お前には話しておこう…いずれ他の上弦の鬼にも話すつもりではあったことではあるがな…今から伝える事は私以外には黒死牟と鳴女しか知らない事だが、私には協力者が二人いる。名を一人はアルベリヒ…もう一方をイシュメルガと言う」

 

 無惨の口から発せられた名は猗窩座にとって聞き覚えの無い物だったが名前からしてリィンと同じく異国の人間だと判断すると黙して続きを待った。

 

「私がどのような経緯であのモノに会ったのかは省くが…以前彼らはある者たちと戦い敗れたと言う…そしてその者たちの中心にいたのがリィン・シュバルツァーだったそうだ…私がお前を労った理由はただ一つ…一度とは言え我が協力者を打ち破った者の手から生きて帰ったからだ…それは評価に値する…」

 

 無惨の言葉を聞いた猗窩座は言葉が出なかった。だが今の彼の思考は凄まじい速さで巡らされていた。

 

「(…リィンが無惨様の協力者を破った男…それならばあの強さも納得がいく…あの強さ…もう一度戦えればおれは更なる高みへと進める…ならば!)…無惨様…畏れ多くも頼みがございます…」

 

 猗窩座の言葉に無惨は一瞬黙り込んだがやがて「…いいだろう…どのような物だ?」と告げると猗窩座は静かに答えた。

 

「…もう一度あの男と…リィン・シュバルツァーと戦う機会を頂きたいのです…」

 

 猗窩座の願いを聞いた無惨は彼の表情を見て本気だと悟ると笑みを浮かべ口を開いた。

 

「…良いだろう…お前は私によく仕えてくれている…偶の我儘くらいは許してやろう…今後お前がリィン・シュバルツァーと出くわした際にはどのような任務があったとしても奴との戦いを優先して構わない…だが次は無い…必ず仕留めて見せろ…これが条件だ…」

 

 無惨は猗窩座のこれまでの働きから彼にしては珍しく頼みを聞き入れたが同時に次は無いと釘を刺し、それを聞いた猗窩座は直ぐに「ありがとうございます」と返し無惨は直ぐに「…今日は下がれ…お前には期待している」と返すと猗窩座は直ぐに無惨がいる部屋から去りつつリィンと杏寿郎の二人と戦った時の事を回想していた。

 

「(あの時の二人は確かにすさまじい強さだった…それは間違いない…だがあの時リィンは確かに闘気が消えていた…本来産まれたばかりの赤ん坊ですら持つはずのそれをだ…そうなると考えられる理由はただ一つ…無意識か意図的かは判らないがあの時リィンは至高の領域に入っていた…)」

 

 猗窩座はそう判断しさらにリィンが剣聖を自称したことも奢りではなく確かな事実であることにも彼は確信を持った。

 

「(剣聖…あながち嘘では無いという事か…ならばもう一度剣聖の技に触れる事でおれは更なる高みへと行ける…それにあの言葉を聞いてから妙に胸がざわつく…)」

 

 猗窩座はリィンと杏寿郎が放ったあの時の言葉―人の強さの根底には心が深く関わっているという言葉を思い出していたが同時に自身の中に感じる騒めきについても思考を巡らせていた。

 

 

―わた■は■■さん■良■ん■す。わ■しと夫■になって■れま■か?―

 

―は■。お■はだ■より■よくなっ■一生あ■たをま■り■す―

 

「っ!(この声は…あの二人と戦ってからずっとか…)」

 

 途端に猗窩座の頭の中に声が響き、思わず頭を押さえ、立ち止まった。それも直ぐに収まったが猗窩座は疑問を隠しきれず『声』について考え込んだ。

 

「(男の声は…人間だったころのおれの声か?だがその前に聞こえた女の声は誰なんだ?わからない…だが…)」

 

 猗窩座は月を見上げると静かに口を開いた。

 

「…今のおれにとってはどうでも良いことだ…待っていろリィン…次に会うその時に決着をつける…勝つのはおれだ」

 

 猗窩座は直ぐにその疑問を振り払うとリィンとの再戦に思いをはせていた。

 

 一方無惨は猗窩座が去って行ったのを確認するとかつてイシュメルガ、そしてアルベリヒと最初に会った日の事を思い出していた。

 

 

―数年前・無限城―

 

 

「…一体何の気配だ?」

 

 無限城で何らかの異変が起こったことを察知した無惨は自ら無限城に踏み入ったが鬼は勿論だが人間とも違う気配を感じ取り思わずそう呟き、背後に控えている鳴女に目を向けた。

 

「…鳴女、念のためだ黒死牟を呼べ」

 

 無惨の言葉を聞いた鳴女は何も言わずに琵琶を鳴らすとその場に侍の様なような服装に顔に六つの目を持ちその中心の対となった瞳にそれぞれ『上弦』と『壱』の字が刻まれた鬼―黒死牟が姿を見せた。

 

「よく来てくれた黒死牟…」

 

 黒死牟は跪くとすぐに「無惨様の…ご命令とあらば…」と答え無惨は直ぐに指示を出した。

 

「無限城の中に鬼とも人間とも違う何者かの気配がある…私一人でも調べる分には問題ないが万が一のためだ。供をしてもらう…」

 

 無惨はそうとだけ告げると黒死牟を伴って謎の気配が感じられる場所へと向かっていたがその途中、異変が起こった。

 

 

―グォォォォォ…―

 

 

「!無惨様…」

 

「…ああ…何かいるようだ…」

 

 何物かの唸り声のような音が聞こえ、二人が身構えた直後―グォォォォォォォォ!!―と言うすさまじい唸り声と共に黒い影の様なモノが二体の怪物のような姿を取って立ち上がり二人を挟み撃ちにした。その姿は―ここにいる二人は知らない事だが―嘗てリィン達初代Ⅶ組が対峙した『ロア・エレボニウス』によく似ていた。

 

「…影の物の怪とは…鬼である私が言うのも妙な話だが…奇怪な物だ…」

 

 黒死牟はそう呟くと自身の得物である『虚哭神去(きょこくかむさり)』を抜き、一方を細切れにし、無惨は「私の前から消え失せろ…!」とだけ告げ右手から衝撃波を放ち、残る一方を一撃で消滅させたその時だった。

 

―パチパチパチ―

 

「お二人とも見事ですね…」

 

 何物かが拍手する音とそう二人の実力を評価する声が聞こえ、二人はそちらに振り向いた。そこにいたのは一人の男だった。白衣を身に纏った科学者と言えばこのようなものだとはっきりとわかる者だったが無惨と黒死牟の二人はこの男は何処か得体が知れない―少なくともまともな人間ではない―と感じ取っていた。

 

「…お前は何者だ?」

 

 無惨のその問いに彼は穏やかながら何処か感情を感じさせない笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「人に尋ねるには自分から…と言いたいところですが確かにあなた方から見た私は得体のしれない侵入者でしかないですし答えるとしましょうか…」

 

 そう言うと彼は恭しくお辞儀すると自らの名を告げた。

 

「お初にお目にかかります…私はあるお方に仕えるしがない科学者です…名を『黒のアルベリヒ』と申します…どうぞアルベリヒと呼び捨ててください…」

 

 アルベリヒと名乗った男は「以後お見知りおきを…」と締めくくると無惨はアルベリヒを睨みながら口を開いた。

 

「…名乗られたからにはこちらも名乗り返そう…私は鬼舞辻無惨だ…」

 

「上弦の壱…黒死牟…」

 

 自らの名を名乗った無惨に習うように黒死牟も自身の名を告げたが二人は油断なくアルベリヒを見据え、やがて無惨が口を開いた。

 

「…アルベリヒと言ったな…どうやってこの無限城に侵入した?お前の目的はなんだ?…そしてお前の主とは何者だ?」

 

 無惨から立て続けに告げられた問に対しアルベリヒは笑みを浮かべると「質問が多いですね…まあ良いでしょう…順を追って説明します…先ず私達がどうやってあなた方が言う無限城に侵入したかですが…こればかりは偶然としか言いようがありません…」と告げ、無惨は顔をしかめると「偶然だと?貴様…ふざけているのか?」と問いかけたがアルベリヒはどこ吹く風と言う様子で「申し訳ありませんが本当に偶然としか言いようがないのですよ…強い力を持つ者がいる場所に逃げこもうとした先が、まさかこのような場所だとは我が主も思いもよらなかったものでしてね…では二つ目の質問の答えに移らせてもらってもよろしいでしょうか?」そう答え、無惨は顔をしかめたままだが少なくとも偶然と言うのは嘘では無いと悟ると「続けろ」とだけ返し、それを聞いたアルベリヒは口を開いた。

 

「では続きを…私の目的はただ一つ…我が主の復活です…そのためには強い力を持つ者の協力が必要でしてね…あなた方はそれにふさわしいと感じています…」

 

 アルベリヒの答えに無惨は興味深いことを聞いたと感じると直ぐに「成程…見返りはなんだ?話だけでも聞かせて貰おう…」と答え、アルベリヒは表情を変えずに「勿論何の見返りも無しに協力してもらおうなどと言う虫のいい話は私も主も考えていませんよ…見返りにあなたの目的に全面的に協力させてもらいましょうか…」と答え、それを聞いた無惨は「そうか…最後の質問の答えは?」とだけ告げると「答えはただ一つです…私と我が主はこの世界の住人ではありません…」と答えそれを聞いた無惨は「貴様…ふざけているのか?」と殺気を放ちながら告げたがアルベリヒは直ぐに「証拠ならありますよ…こちらをご覧ください」そう言うとアルベリヒは懐から小型の機械を取り出すと軽く上に投げた。するとその機械は変形すると現代で言う所のプロペラが出現し、それは無惨と黒死牟の周囲を飛び回り、やがてアルベリヒの手元に戻ったのを目にした二人は驚きを隠せなかった。

 

「これは超小型の物となっておりますが私がいた世界では人形兵器と呼ばれるものです…少なくともこの世界の技術ではここまで小型のものは作れないことはわかるでしょう?」

 

 アルベリヒが持ち込んだ人形兵器を目にした無惨は暫く考え込むと口を開いた。

 

「…良いだろう…お前達と組んでやる…だがお前にはこの城から出て行ってもらう…私が許した時以外でお前が無限城に踏み込むことを許すつもりは無い…」

 

 それを聞いたアルベリヒはふっと微笑むと「構いません…それでは我が主を呼び出しましょう…交渉成立です…イシュメルガ様」と告げた直後、アルベリヒの傍らに謎の機械―ゾア・バロールが出現し、浮遊しながら無惨に近づき、語り掛けた。

 

『我ノ提案ヲ受ケ入レテ貰エタ事感謝スル…我ガ名ハイシュメルガ…今コノ時ヨリオ前ハ我ガライザーデアル事ヲ忘レルナ…我ノ復活ノ為ノ手順ハ追ッテ伝エル…構ワヌナ?』

 

「…良いだろう…だが約束は守ってもらう…鳴女」

 

 無惨は鳴女にそう呼びかけると鳴女は琵琶を鳴らし、アルベリヒの背後に襖を出現させ、それを見た彼は観念したように両手を上げるとすぐに口を開いた。

 

「わかりました…出て行きますよ…ああ出て行く前にこちらを…」

 

 アルベリヒは襖に向かおうとする途中で振り向くと先ほどの小型人形兵器を無惨に向けて投げてよこし、無惨はそれを受け止めた。

 

「どういうつもりだ?」

 

 無惨はアルベリヒの行動にそう問いかけたがアルベリヒはやはり笑みを浮かべたまま「先行投資と言う奴ですよ…先ほど私がしまった機械から目を離していませんでしたし…この際です。新しい機械が出来るたびに提供しましょう…私に用がある時はイシュメルガ様を通してお伝えください…それではよろしくお願いしますよ…」そう告げると襖をくぐって出て行き、イシュメルガも『今後トモヨロシク頼ムゾ…』と言うと姿を消し、それを見てようやく無惨と黒死牟は警戒を解き無惨はアルベリヒが投げて来た小型人形兵器を舐めるように見ていたが黒死牟が静かに口を開いた。

 

「…無惨様…恐れ多くも進言したいことがございます…」

 

「…聞かせて貰おう…」

 

 無惨はアルベリヒから渡されたそれを懐にしまいながらそう返し、黒死牟は直ぐに「私は…あの男が…信用できるとは思えません…」と答え、それを聞いた無惨も「…ああ…奴が渡してきた機械は興味深いが確かに手放しに信用するのは危険だな…黒死牟…命令だ…私からの指示がある時以外はアルベリヒの監視をしろ…」と告げ黒死牟は「…承りました…」と答えると鳴女は直ぐに琵琶を鳴らし襖を出現させると黒死牟は直ぐにそれをくぐって行き姿を消した。

 

 

―回想終了―

 

 

 無惨はあの二人と会った時の事を思い出しながら本棚に本を戻しつつ「…私はお前たちの思い通りにはなるつもりは無い…せいぜい足掻いて見せるんだな…」とイシュメルガとアルベリヒに対する警戒心を高めていた。

 

 

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