鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~   作:来斗

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煉獄家の事情

 

「すまない二人とも!完全に失敗してしまった!」

 

 ある日の灰屋敷で杏寿郎はリィンと炭治郎に対して失敗したとは思えないくらいに爽やかな様子でそう伝えた。現在杏寿郎は無限列車での任務を終えた今は片目での戦いと生活に慣れるための訓練をしているのだがその合間を縫ってヒノカミ神楽について調べるために煉獄家に向かったのだが、父親である槇寿郎がどう言う訳か凄まじい程に荒れていたらしく中に入るどころではなく同じタイミングで家から閉め出された弟の千寿郎と共に灰屋敷に避難していたのだった。

 

「いやアンタねぇ!ヒノカミ神楽の件に関して殆ど無関係のおれが言うのもなんですけどちょっとは申し訳なさそうな雰囲気出しなさいよ!失敗した人が出す雰囲気じゃないでしょうがァァァーーーー!!」

 

 そんな二人に対して突っ込んだのは偶々二人が屋敷に避難してきた際にやはり偶々玄関付近にいたため二人をリィンと炭治郎の下へ案内した善逸でありそのツッコミに対して杏寿郎は「確かに君の言う通りだな!申し訳なかった!」と笑いながら言い放ち、千寿郎は「す…すみません…僕が父を諫められなかったばかりに…」と謝罪したがそれを聞いた善逸は「あっ!ごめんね!君は悪くないから!」と慌ててフォローしていたがそれを余所にリィンが口を開いた。

 

「ああ、善逸が言うように千寿郎君は悪くないよ…けど噂では聞いてたけど思った以上だな…槇寿郎さんの荒れっぷりは…」

 

「槇寿郎さんの噂…ですか?」

 

 リィンの言葉を聞いた炭治郎はそう問いかけたが彼は難しい表情で口を開いた。

 

「何と言えばいいかな…正直デリケートな話だから杏寿郎達に断り無くおれから話すのはな…」

 

「…(でりけえと…って何?家庭の事情って事かな?)」

 

 炭治郎はリィンが使った異国の言葉に首を傾げながら心の中でそう呟いたがすぐにリィンが何を言いたいのかを察していた。因みにこういう時に補足してくれるクロウは休眠中であり今日は炭治郎も含めて誰も彼とは話していない。

 

「ふん!デリケートだかバリケードだか知らねーけど慶三郎の事と無関係じゃねぇんなら話せばいいだろうが!」

 

 そんな彼らの様子に業を煮やした伊之助はそう言い放ったがそれを聞いた善逸は「このおバカ!断りなく話す事じゃないでしょ!関係あろうとなかろうと!!」と突っ込んだが杏寿郎は「うむ!猪頭少年の言うように君の技について調べるために必要なことなのだから話すと良い!」と言い放ちそれを聞いた善逸は「いやいいのかよ!ちょっとは遠慮してよ!」と言い放ったが千寿郎は「…いえ僕も構いません…古参の隊士の中では有名な話ですし…兄上の仰るように無関係ではありませんから…」と何処か浮かない表情で呟き、それを聞いた善逸は勿論だが伊之助ですら黙り込み、それを見たリィンは「…わかった…二人が良いと言うならおれが噂で知る限りのことは話すよ…」と答えると一泊置いて話し始めた。

 

「さてと…先ずは煉獄家についてだけど…これは前に話したよな?」

 

 リィンのその問いに対して炭治郎が手を上げながら答えた。

 

「はい!確か代々炎柱を輩出している家系でしたよね」

 

「その通りだ。よく覚えてるな」

 

 そう言いながらリィンは傍にあった連絡用の黒板に『煉獄家』と書き込むとそのすぐ下に『歴代炎柱を輩出』と補足として書き込むとチョークを置いて炭治郎達に向き直ると口を開いた。

 

「…おれが鬼殺隊に入った時は既に杏寿郎が柱になっていたしそもそも煉獄家に行ったことが無いから槇寿郎さんには会ったことが無いんだけど…槇寿郎さんはある時期から酒に溺れるようになったらしいんだ…二人に聞くけどいつからかわかるか?」

 

 リィンの問いに答えたのは千寿郎で「確か…母が亡くなった時期に近かった筈です…その頃と前後して父は…」と口ごもりながら答え、それを聞いた善逸は「(悲しい音…槇寿郎さんは奥さんを亡くしたショックでそうなっちゃったのかな…)」と推測していたが炭治郎は「奥さんを亡くしてショックを受けるのはわかりますけど息子二人を放置して酒に逃げるなんて父親失格じゃないですか!お二人はそれでいいんですか!?」と憤慨した様子で叫び、千寿郎は何も言えずに俯いたが杏寿郎は直ぐに口を開いた。

 

「うむ!父上の様子に思う所はあるが問題ない!おれが成果を出し続ければ何時か父上も答えてくれるはずだ!おれはそう信じている!」

 

 杏寿郎の一切の迷いない言葉を聞いた炭治郎は浮かない表情で「…そうですか…」と答えたがリィンは難しい表情で考え込むと「二人とも他に何か心当たりは無いか?奥さんが亡くなられた後も暫くは柱として任務を受けていたのなら他にも理由があるような気がしてならないんだ…勿論それも原因の一つだと思うけど少なくとももう一つの理由があると思うんだ…どんな些細なことでも良い…心当たりがあったら話してほしい」と真剣な表情で語り掛け、それを聞いた二人は考え込んだ。

 

「心当たりか…しかしおれには特に心当たりは無いな…千寿郎はどうだ?」

 

 珍しくいつもと比べて静かな口調で答えた杏寿郎は千寿郎にそう問いかけ、千寿郎はそれに対し「心当たり…あ…そう言えば…」と答え、心当たりがあるような様子を見せた。

 

「どんなことでも良い。話してくれないか?」

 

 リィンのその言葉を聞いた千寿郎は遠慮がちに頷くと答えた。

 

「母が亡くなる少し前の事ですが父が歴代炎柱が残した書物を読んでいるのを遠目に見たんです…その時はいつもの事と思ったので特に気にしませんでしたが、もしかしたらその中に父が自信を失うような何かが記されていたのかもしれません…思い返してみれば父の様子がおかしくなったのもその後だったように思います…」

 

 リィンはそれを聞いて「成程…」と呟くと真剣な表情で杏寿郎に目を向けた。その目は友人に対するそれとは違い生徒を叱る時の教師のそれに見えた。

 

「…杏寿郎…槇寿郎さんの事は尊敬しているか?」

 

 リィンの突然のしかし普段の杏寿郎の様子から答えが分かりやすい問いに質問された本人以外は疑問符を浮かべたが彼は特に気にした様子もなく答えた。

 

「うむ!当然父上の事は尊敬している!かつての父はとても強く目標と言って過言では無かった!何時か父が立ち直る日が来るとおれは信じて待つだけだ!」

 

 杏寿郎の言葉にリィンは「そうか…」と呟いたがすぐに厳しい表情になると「歯を食いしばれ!」と叫び、渾身の力を込めてその頬に平手打ちを食らわせ、それを目にした炭治郎達は呆気にとられたがリィンは間を開けずに杏寿郎に対して畳みかけた。

 

「それでいいはずが無いだろう!父親に対して思う事があるならはっきりと言うべきだ!尊敬しているなら尚更だ!尊敬している父親が間違っていると感じているならそれを正さないとダメだ!何よりおれの実の父とは違って槇寿郎さんは生きてる…互いに思う事があるならこの際一度思い切りぶつかり合うべきだ!…互いに悔いの無いように…!」

 

 リィンに叩かれたと言う事実と激しい口調に杏寿郎は珍しく驚きを隠せていなかったがそれを見た千寿郎が口を開いた。

 

「…兄上…僕からもお願いします…父の間違いを正してください…リィンさんが言うように父のあんな姿は見るに堪えません…それに兄上は柱である以前に鬼殺隊の隊士です…今回は運よく生き残れましたが次もそうなるとは断言できません…何よりこのまま話し合えずに死んでしまったら兄上も父上も後悔してしまいます…ぼくはお二人のどちらにも後悔して欲しくないんです…だからお願いします…父上の間違いを…正して下さい!」

 

 千寿郎の目はこれまでの気弱な様子でありながら強い意思の様な物が感じられ、それを見た杏寿郎は笑みを浮かべた。

 

「…ははは…父上だけでは無かったな…おれも間違っていたという事か…」

 

 そう静かに呟いた杏寿郎は立ち上がると力強く告げた。

 

「リィン!千寿郎!二人のおかげで目が覚めた!だから決めたぞ!おれは父上に自分の気持ちをぶつけようと思う!」

 

 杏寿郎の言葉にその場にいた全員が顔を綻ばせたが、杏寿郎は再び椅子に座り、続く言葉にすぐに首を傾げる事になった。

 

「…ところで…どう言った風におれの気持ちをぶつければいいだろうか?何分そう言った経験が殆ど無かったからな…」

 

 それを聞いた全員何とも言えない気分になった…ただ一人を除いて…

 

「何を悩んでんだよ。簡単なことじゃねぇか。思いっきり喧嘩すりゃいい!おれは我慢できない事があるんならそうするぜ!山ではいつもそうだったからな!」

 

 そう言い放った男―伊之助に対して善逸は「このおバカ!もっと平和的なやり方あるでしょ!」と叫んだが千寿郎は直ぐに「…いえそれが良いと思います…こんなことを言いたくありませんが父上がまともに話を聞くとは思えません…この際ですので一度思い切り喧嘩するべきだと思います」と伊之助に同意しそれを聞いた杏寿郎は直ぐに立ち上がると「よし!そういう事ならば分かった!父上と思い切り喧嘩してくるとしよう!…後悔しないためにもな…」と言いすぐに灰屋敷を出て行き炭治郎達は呆気に取られていたが最初に正気に戻ったのはリィンだった。

 

「!すぐに追いかけよう!杏寿郎はまだ本調子じゃない!急がないと!」

 

 そう言いながらリィンはすぐに立ち上がり、炭治郎も続いた。

 

「俺も行きます!ヒノカミ神楽の事を調べる話がこんなことになるなんて思いませんでした、俺も無関係ではいられそうにないので行きます!」

 

 それを告げた炭治郎にリィンは頷くと素早く指示を出した。

 

「…わかった…善逸と伊之助は残ってくれ。二人ともまだ傷が治りきってないから安静にするんだ。千寿郎君は案内を頼む!」

 

「わ…解りました!」

 

 そう素早くやり取りを終えると、リィンと炭治郎は直ぐに千寿郎の案内で煉獄家へと向けて慌ただしく飛び出していった。

 

 

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