鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~   作:来斗

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親子喧嘩

 

 炭治郎とリィンは千寿郎の先導で煉獄家への道を急いでいた。

 

「もうすぐです!この先の角を右に曲がったところが―」

 

 千寿郎が先を続けようとしたその時だった。

 

「それがお前の答えだと言うなら良いだろう!お前の残った右目も潰し、その体を叩きのめし、お前には才能が無いと言う事を思い知らせてやろう!!」

 

 リィンと炭治郎には聞き覚えの無い、しかし凄まじい怒りが込められた声が聞こえ、その声を聞いた千寿郎は顔を青ざめさせ「ち…父上の声です!」と叫び、それを聞いたリィンは「二人とも急ぐぞ!」と告げると足を速め、炭治郎達も後に続いた。

 

 

―煉獄家―

 

 

 時は数分前まで遡る。煉獄家の庭ではリィン達の予想通り杏寿郎とその父親である槇寿郎が向き合い、正に一触即発と言った様子だった。槇寿郎は杏寿郎の眼帯で覆われ、潰された左目を軽蔑するような目で睨みながら口を開いた。

 

「…何をしに戻ったのかと思えばどう言うつもりだ?俺に対して庭に出ろだと?…何度言わせるつもりだ…才能が無いのに柱になるから目を失ったのだと言っただろう?それともなんだ?目を失ったにもかかわらず柱を続けている自分は偉いのだと…毎日こうしてる俺は役立たずだと嘲笑いに来たか?」

 

 槇寿郎は杏寿郎に対する嫌悪感を隠そうともせずに侮蔑の言葉をぶつけたが杏寿郎は怯まずに口を開いた。

 

「父上こそ何度も言わせないでいただきたい…俺は父上を嘲笑う気は一切ありません…ただ話を聞いてもらいたいだけです…ですが言葉を尽くしただけでは無意味だと…尊敬するからこそ待つだけでは駄目だと…友に教えられました…」

 

 杏寿郎はそう告げると穏やかな表情の仮面を捨て去り、同時に腰の鞘に納められた日輪刀を鞘ごと傍らに放ると続けて歴代の炎柱も袖を通してきた羽織を脱ぎ捨て、残った右目で槇寿郎を睨みつけた。

 

「だからこそ今だけは炎柱としてでも鬼殺隊士でもなくあなたの息子として!ただの煉獄杏寿郎として言わせてもらう!あなたの事は確かに尊敬しているが、今のあなたの姿は見るに堪えない!母上が今のあなたを見れば何と言うか想像に難くない!」

 

 その言葉に遂に槇寿郎の表情が隠し切れないほどの怒りで歪んだ。槇寿郎はその凄まじい怒りに身を任せて杏寿郎に拳を振り下ろしたが杏寿郎は読んでいたとばかりにその拳を受け止めた。

 

「お前に…お前に瑠火の何がわかる!!」

 

 槇寿郎の言葉に杏寿郎は叫ぶように言い返した。

 

「ああ!わからない!だが想像することはできる!母上は生前生まれついて強い者は弱い者を助けなければならないと!そう言っていた!俺はその役目を果たすために父上の後を継いで柱になったのだ!だが今の父上はどうだ?他人どころか家族すら傷つける!俺だけならばまだいい…だが千寿郎は泣いていた!そして結果的とはいえそれを見て見ぬふりをして父上を正そうとしなかったのは俺の大きな間違いだ!だからこそ!」

 

 そう叫びながら杏寿郎は槇寿郎に足払いを仕掛け、それに気づいた槇寿郎は直ぐに飛びのきながら躱し、それを見ながら杏寿郎は告げた。

 

「今日こそ俺が父上を正す!俺の間違いを正すために!千寿郎の為に!何より母上の為にも!!」

 

 槇寿郎は杏寿郎を睨みつけ、杏寿郎は怯まずに彼の目を見て告げた。

 

「そして俺が勝ったら俺の友人の話を聞いてもらいます!」

 

 杏寿郎が何を言われてもこの喧嘩を止めるつもりが無いと悟った槇寿郎は怒りを滾らせ、そしてはっきりと告げた。

 

「それがお前の答えだと言うなら良いだろう!お前の残った右目も潰し、その体を叩きのめし、お前には才能が無いと言う事を思い知らせてやろう!!」

 

 槇寿郎は杏寿郎に掴みかかるとそのまま流れるような動きで投げ飛ばし、杏寿郎は一瞬面くらったが地面に叩きつけられる直前に体を捻って受け身を取ると続けて地面を蹴って槇寿郎に最接近すると回し蹴りを食らわせ、槇寿郎は直ぐにガードしたが杏寿郎は即座にその顔を殴り飛ばそうとした。しかしそれすら躱され、逆に自身が右ストレートを喰らわされる事となった。

 

「!(やはり手強い!酒に逃げていたとは思えないほどの動き!父上ならば猗窩座と戦っても目を失う事は無かったのではないか…そんな事すら思わせる…だが負けるわけには行かない!)舐めないでもらおうか!」

 

 杏寿郎は殴られた際の勢いすら利用して体を回転させると槇寿郎の顔面に裏拳を叩き込み、予想だにしていなかった攻撃に槇寿郎はよろめき、杏寿郎はその隙を逃さずその体に拳を叩き込んだ直後だった。

 

「すでに始まっていたか!」

 

「煉獄さん!」

 

「あ…兄上!ご無事ですか!」

 

 二人が戦っている庭から正面口に出る場所にリィンと炭治郎、そして千寿郎の姿が有り、彼らは杏寿郎と槇寿郎の二人が殴り合いを繰り広げているのを目にし、最初に動こうとしたのは炭治郎だった。

 

「煉獄さん!加勢します!」

 

 炭治郎はそう叫びながら駆け寄ろうとしたが直後に「駄目だ!」とリィンが叫びながら制止し、炭治郎は「どうしてですか!?」と叫び返したがリィンはすぐに答えた。

 

「今回は無関係じゃないから同行を許可したけど傷の度合いで言えば善逸と伊之助の二人より炭治郎の方が重傷なんだ。加勢は許可できない…それにこれはあの二人の問題だ…本当にまずいことになりそうだったら俺が止める…だから待つんだ」

 

 リィンの言葉を聞いた炭治郎は握っていた拳を下ろしながら「…わかりました…」と答えた。

 

「ふん!お前の仲間は何もする気が無いようだな!」

 

 彼らのやり取りを聞いた槇寿郎は杏寿郎を挑発したが杏寿郎は一切それには乗らず「問題ない!父上とは俺一人で決着をつけると決めている!」と叫ぶとアッパーを食らわせながら「彼は俺の意を汲んでくれたにすぎない!父上だろうと俺の友をバカにするのは許さない!」と叫び、肘鉄を食らわせると槇寿郎はよろめきながら改めて千寿郎と彼を守るかのように前にいるリィン、そして炭治郎の姿をはっきりと目にし、彼が身に着けている耳飾りを目にし目を見開いた。

 

「その耳飾りは!!」

 

 槇寿郎は凄まじい形相になると杏寿郎を放置して炭治郎に襲いかかろうとし、それに気づいた杏寿郎は「俺を無視しないでもらおう!!」と叫びながら彼の右腕を掴むとその火事場の馬鹿力とでも言うような腕力に身を任せて力づくで投げ飛ばした。

 

「父上の相手は俺でしょう!竈門少年はあなたに何もしていない!彼はあなたとは何の関係も無いでしょう!!」

 

 杏寿郎の言葉を聞いた槇寿郎は「無関係だと?そんな筈があるか!!」と叫びながら起き上がると炭治郎を指さしながら叫んだ。

 

「お前、俺達の事を馬鹿にしているだろう!」

 

 槇寿郎の言葉を聞いた炭治郎は言い返そうとしたがそれよりも早くリィンが口を開いた。

 

「俺の生徒を侮辱しないでいただきたい。何故炭治郎があなた達を馬鹿にしているなんて話になる?」

 

 リィンの問いに槇寿郎は怒りで顔を歪ませながら告げた。

 

「滑稽だな!お前は何も知らないのか?なら教えてやる。そいつは日の呼吸の使い手だ…その花札の様な耳飾りは日の呼吸の使い手が身につけるていたものだと書いてあった!」

 

 日の呼吸と言う聞き覚えの無い言葉にその場にいた全員が思わず動きを止めた。しかしただ一人杏寿郎だけは動きを止めずに口を開いた。

 

「…日の呼吸の使い手ですか…成程…つまりあなたは会ったことも無い記録の中でしかない程過去の人間に対する劣等感…いや単なる挫折と嫉妬を合わせてそれを言い訳にして…酒に逃げて挙句の果てに俺達家族に八つ当たりをしているだけという事か!」

 

 この時初めて杏寿郎は父に対して怒りと軽蔑がこもった表情を向け、それを見た槇寿郎は即座に叫び返した。

 

「なんだその目は!挫折も味わったことも無いクソガキが!お前ごときにそのような目を向けられる筋合いはない!」

 

 ここに来て遂に杏寿郎の怒りが爆発した。そしてかつてない程のスピードで槇寿郎の腹に拳を叩き込み、叫んだ。

 

「いい加減にして頂こう!!俺が挫折を味わったことが無いだと?寝ぼけたことを言わないでいただきたい!そんな物…当の昔に何度も味わっている!!!」

 

 杏寿郎がここまで強い怒りの籠った声を上げるのを見るのは弟である千寿郎も初めてであり、リィンは勿論だが彼と出会って一月も経っていない炭治郎も彼がこのような叫びをあげるとは思っておらず困惑していた。槇寿郎はその叫びに怯み杏寿郎はその隙を逃さず槇寿郎に連続で容赦なく拳を叩き込みながら続けた。

 

「俺の周りには才能溢れた者が何人もいる!鬼の頸を斬れずとも自らの知恵と工夫で鬼を殺し、柱となった者がいた!!」

 

「(それってしのぶさんの事…だよな…)」

 

 炭治郎がそう思うのを余所に杏寿郎は何度も続けた。

 

「彼女だけじゃない…!十四歳と言う若さに加え刀を持って僅か二ヶ月で柱に上り詰める程の才能を持つ者に自らの呼吸に存在しなかった独自の技を編み出した者もいる!更には全集中の呼吸を使わずして柱になった者までいる!」

 

「(最初の二人の事は誰の事かわからないけど最後の一人はきっと…)」

 

 炭治郎は杏寿郎が最後に挙げた三人目がリィンの事だとすぐに察したが杏寿郎の叫びは止まらなかった。

 

「柱だけではない!育手に技を習わなくとも、自らの手で新たな型を編み出した天才がいた!たった一つの技しか使えなくともその一を極限まで極めぬこうとする神速の剣士がいた!!」

 

「(それって善逸に伊之助の…)」

 

 炭治郎はあの時の長くも短い戦いの中で杏寿郎が二人の実力をそこまで評価していたという事実に驚いていたが彼はそれを余所に続けた。

 

「多くの者に認められずともたった一人残された家族の為に戦う不屈の心を持った剣士もいた!彼は鬼殺隊に加わって一年も経たずに十二鬼月を倒し、家族を助けるために戦っている!そしてその彼は今あなたの目の前にいる!家族を助けるために戦い続ける者を侮辱しないでもらおうか!!」

 

 杏寿郎はその叫びと共に一度手を止めた。炭治郎は彼の言葉に何も言えなくなり自然と涙が流れていた。

 

「(匂いで解る…煉獄さんはもう限界を超えている…本当ならあんな動きが出来る身体じゃないのに…)」

 

 そして杏寿郎は再び口を開いた、しかしその言葉は先ほどまでとは違い穏やかな物だった。

 

「そして…何より…子供の頃から目標とし…憧れていた…いや…今も憧れている…父もいた…」

 

 その言葉に槇寿郎は眼を見開いた。これまで自分がひたすらに罵倒し、妻が死んでから一度も自分が向き合おうとしなかった息子がまだ自分にそのような感情を持っているとは予想していなかった。

 

「!(杏寿郎…お前はまだ俺の事を…俺はお前達に見捨てられても仕方ないことを何度もしてきたと言うのに…)」

 

 炭治郎が感じた通り杏寿郎はもはや限界を超えており、無限列車での任務でできた。そして治りかけていたはずの傷が一部開いてしまっていた。しかし彼はそれでも歩みを止めず、力を振り絞って再び拳を握り締めると「父上…これが最後です…この一撃で目を覚ましていただきます!!」と告げると残された力でそれを槇寿郎に向けて振るった。その一撃を槇寿郎は何故か防ぐ気にはなれず一切の抵抗なくその一撃を顔に叩き込まれ、その衝撃で倒れる直前、槇寿郎はある人物の―死んだはずの妻の姿を見た。

 

「(瑠火…お前は…俺に失望しているだろうな…父親の役目を放棄し、ただ酒に逃げて二人に八つ当たりをした…だが、もしもそこにいるなら答えてほしい…俺は二人に謝りたい…杏寿郎と喧嘩して始めてそう思った…俺はまた二人とやり直せるだろうか?ただの…親子として…)」

 

 槇寿郎は姿を見せた瑠火に対して懺悔するようにそう問いかけた。彼の言葉を聞いている間の彼女の表情は険しい物だったがやがて優しく微笑むと穏やかに告げた。

 

『私と違ってあなたは生きています。いくらでもやり直せますよ』

 

 返ってくるとは思わなかった返事に槇寿郎は面食らったが「(そうか…良かった…)」と言う心の中の呟きを最後に気を失い、それを見た杏寿郎は「…父上…俺の…勝ち…です…」と静かに告げると同じく気を失い、それを見たリィン達は直ぐに二人に駆け寄り治療を始めた。しかし気を失った二人の表情は憑き物が落ちたかのように穏やかだった。

 

 

―一方その頃…―

 

 

 蝶屋敷のとある病室にてしのぶはいつもの穏やかな表情ながら静かに怒りを滾らせていた。

 

「あの人は無断で何処に行ったんでしょうか…」

 

 彼女がいる病室の利用者の名が書かれた札には煉獄杏寿郎の名があり遠目に見ていた三人娘とアオイはしのぶが放つ凄まじい怒りのオーラに震えを隠せずにいた。

 

 

 




おまけ

リィンの鎹鴉について

鬼殺隊に入ったリィンに日輪刀と隊服と共に支給された鴉。
性別は雌で西洋かぶれでもある。気が強い性格だが仲間想いであり、リィンとの仲も良好。
他の鎹鴉からは所謂姉御肌と認識されていると同時に甘露寺蜜璃の鎹鴉の麗とは親友と言って良い程仲が良い。
本人?はマリィと名乗っている。
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