鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
煉獄家の庭で繰り広げられた壮絶な親子喧嘩から一時間後。炭治郎、リィン、そして千寿郎の三人は気を失った杏寿郎が運び込まれた部屋で彼が目を覚ますのを待っていたが暫くして「うぅ…」と言う声と共に杏寿郎が目を開き、それを見た炭治郎は大急ぎで二人に伝えた。
「!煉獄さん!リィン教官!千寿郎君!煉獄さんが目を覚ましました!!」
炭治郎の声を聞いた二人は直ぐに杏寿郎の下へと向かい真っ先に声をかけたのは千寿郎だった。
「兄上!体の具合は!?けがは!?大丈夫ですか!?」
千寿郎は明らかに戸惑った様子で杏寿郎に問いかけ、それを見た杏寿郎はやはり戸惑った表情を浮かべたがすぐに穏やかな笑みを浮かべると優しく答えた。
「ああ…身体は少し痛むが問題ない。猗窩座と戦った時と比べればどうという事は無い…俺の事よりも父上は…」
杏寿郎は自分の怪我よりも父である槇寿郎の事を気にしており、その問いに答えたのはリィンだった。
「槇寿郎さんなら少し前に目を覚ましたよ。目を覚まして少し休んだら部屋に来て欲しいって…それから二人に話したいことがあるって…確かに伝えたからな」
リィンの言葉を聞いた杏寿郎は頷くと「そういう事ならば…」と呟くとすぐに布団から起き上がろうとし、それを見た千寿郎はやはり慌てて止めようとした。
「!兄上!まだ寝ていないと駄目です!せめて後少しだけでも…」
千寿郎はそう告げたが杏寿郎はどこか苦笑気味に答えた。
「千寿郎の気持ちは嬉しいが俺がこうして目を覚ました以上すぐにでも父上と話したい…あのような大喧嘩をした後に話すのは少し緊張するな…こんなに緊張したのは最終選別以来だよ…」
杏寿郎はそう呟くとゆっくりと立ち上がり、父親が待つ居間へと足を進め、その姿を見た千寿朗も後に続き、その二人の後をリィンと炭治郎も続いたが炭治郎は静かに口を開いた。
「…なんだか少し意外です…」
炭治郎のつぶやきを聞いたリィンは「意外って何が意外なんだ?」と問いかけ、炭治郎はその問いに戸惑ったように間を開けると先に進む二人―と言うより杏寿郎の背中を見て口を開いた。
「その…煉獄さんみたいな人でも緊張することがあるんだなって…」
炭治郎は杏寿郎の何処までも晴れ渡る夏の空の様な雰囲気を感じさせる彼ですら緊張することがあると言う事実を何処か不思議に感じていたがリィンは「気持ちはわかるよ」と答えつつ「けど」と付け加えて更に答えた。
「杏寿郎は確かに目に見えて動揺することは少ないけどそれでも一人の人間だからな…人並みに驚いたり緊張することだってある…それに今回は母親が亡くなってから殆ど会話らしい会話をしていなかった父親と親子として本当に久しぶりに話すんだから緊張しないわけがないよ」
そう言いながらリィンはもしも自分が『
槇寿郎はその部屋から動くことなく二人を待っていた。妻が亡くなってからずっと持っていた酒もあるにはあったがそれは槇寿郎の手元からずっと離れた場所に置かれており、少なくともこの部屋では手が付けられた様子は無かった。
「…杏寿郎に千寿郎も…よく…来てくれた…」
彼は何処か言葉を選ぶのに戸惑った様子でありバツの悪そうな表情だったが二人とも父親のそのような表情を浮かべるのを見たことが無く、僅かに戸惑ったが今は何も言うべきでは無いと察すると無言で父を見つめ、槇寿郎も二人の息子が何も言わずに自分を見つめる様子を見て二人とも自分の言葉を待っているのだと察すると怒りとはまた違う様々な感情が混ざったような表情を浮かべると勢い良く頭を下げた。
「今まで…すまなかった!!」
槇寿郎の口から紡がれたのは二人に対する謝罪の言葉であり、彼はそのまま続けた。
「俺が今までお前たちにしてきたことを考えるとこんな言葉を並べた所で許してもらえるとはとても思わない…だがそれでも謝りたいと…そう思ったんだ…瑠火が死んでからずっと酒に逃げた挙句お前たちに八つ当たりをして傷つけ杏寿郎が目を失ってしまった時も罵倒して傷つけた…言うまでも無く父親失格だ…そんな俺がこんなことを言う資格が無いことはわかっている…だがそれでも言わせてほしい…本当に…すまなかった!!」
槇寿郎は頭を下げたまま動かずそんな父の姿を見た千寿朗は戸惑ったが杏寿郎は「…顔を上げてください…父上」と告げると槇寿郎は顔を上げて杏寿郎の顔を見つめ、杏寿郎はそんな父親の表情を見て告げた。
「あなたが本当に申し訳なく感じているのならおれは許します…それに先ほどの喧嘩の時に俺はあなたを何度も殴りましたからおれに対する仕打ちについてはもう済ませました」
杏寿郎の許すと言う言葉とそれに続く何処か冗談めかしたもう済ませたという言葉を聞いた槇寿郎は思わず硬直してしまったが曖昧な笑顔を浮かべると「…そうか」と告げ、それを見た千寿郎も口を開いた。
「兄上が許すと言うなら…僕も許します…ですが正直父上には頭に来ていたので…後で一発殴らせてもらいます」
今まで自分の意思をはっきりと見せなかった千寿朗の言葉を聞いた槇寿郎は嬉しいのかまた殴られるのかといろいろな感情が混ざり合い、今にも泣きそうな表情だったがすぐに「ああ…今日の用事が終わったら一発と言わず気が済むまで殴ると良い…お前たちにそれだけの事をしたのは事実だからな…それと一つ提案なんだが…」と告げそれを聞いた杏寿郎は「提案とは何でしょうか?」と問い返し、彼はバツの悪そうな表情だったがすぐに告げた。
「…時間が出来たら三人で何処かに出かけないか?今まで父親らしいことをしてやれなかったせめてもの償いに…」
槇寿郎の言葉を聞いた二人は顔を見合わせたがすぐに「勿論です。時間が出来たら三人で旅館にでも行きましょうか」と杏寿郎が告げ、千寿朗も「僕も構いません…いつか三人で行きましょう」と答え、槇寿郎は頷いた。
「そうだな…それと…喧嘩に負けた以上杏寿郎の頼みも聞かなくてはな…部屋の外で待っている二人を呼んできてくれ…二人が知りたいことを話さないとな…」
そのまま二人に約束すると続けて外にいるリィンと炭治郎を呼びに行くように頼み、それを聞いた杏寿郎と千寿朗は二人を呼びに向かった。
「父上が二人と話したいそうだ」と言う伝言を杏寿郎から伝えられた二人はある種の覚悟を決めて部屋に踏み込むとその部屋で一人で待っていた槇寿郎と向き合い、当の槇寿郎は二人に対してやはりバツの悪そうな表情で目を向けると一瞬目を逸らしそうになったがすぐに口を開いた。
「…二人とも座ってもらえるだろうか?今から俺に答えられることはすべて答える…一先ず楽にしてくれ」
彼の言葉を聞いたリィンと炭治郎は顔を見合わせた。何故なら今の彼の言動は先ほどの様子とは打って変わり気まずそうな雰囲気を出しているがそれ以上に穏やかな様子だったからだ。リィンと炭治郎は槇寿郎に促された通りに座ると槇寿郎は静かに口を開いた。
「…先ほどは申し訳なかった…改めて名乗らせてもらおう…俺は杏寿郎の前に炎柱を務めていた…煉獄槇寿郎だ」
彼は和解したとはいえ未だに息子二人に対する後ろめたさがある事から敢えて二人の父親としてではなく先代炎柱として名乗り、リィンと炭治郎もそれを察するとその事には触れずに名乗った。
「こちらこそ、突然お邪魔して申し訳ありません。私は鬼殺隊、灰柱リィン・シュバルツァーと申します。こちらは継子の炭治郎です」
「リィン教官の継子の竈門炭治郎です」
二人の自己紹介を聞いた槇寿郎は暫く考え込むと口を開いた。
「…杏寿郎から聞いたんだが…二人とも俺に何か聞きたいことがあるそうだな…何から聞きたい?」
それを聞いたリィンと炭治郎は再び顔を見合わせるとすぐに頷き合い、やがてリィンが口を開いた。
「それでは…ヒノカミ神楽と言う名前に聞き覚えはありませんか?」
その言葉を聞いた槇寿郎は何かを思案するような表情になるとやがて「…すまないが…聞き覚えは無い…(だがもしや…)その神楽がどう言った物なのか教えてもらえるだろうか?」と答え、この答えについては二人には予想できなかったが話を聞けば何か解るかもしれないと感じ、炭治郎が口を開いた。
「ヒノカミ神楽と言うのは俺の家に代々伝わる神楽の事です。俺の家は代々炭焼きを家業としていたのですが年の始まりに十二の舞を一晩中何度も繰り返して一年間の無病息災を祈るんです…ただ俺はこの神楽は家に代々伝わる神事としか思っていなかったので剣技として使えることに気づいたのは那田蜘蛛山で十二鬼月と戦った時が初めてでした…そしてリィン教官から煉獄家でなら何か解るかもしれないとお聞きしたんです」
炭治郎の言葉を聞いた槇寿郎は「そうだったのか…」と真剣な表情で呟くとやがて二人に問いかけた。
「今から話すことは全てでは無いが俺の推測でしかない…故に確実とは言い難い…それでよければ聞いてもらえないだろうか?」
槇寿郎の表情は真剣そのものでありやがて二人はそれぞれ口を開いた。
「おれは構いません」
「推測でも構いません。何故ヒノカミ神楽の型で技が使えたのかは自分も知りたいです」
二人の言葉を聞いた槇寿郎は「わかった」と告げると一呼吸置いて話し始めた。