鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
杏寿郎がしのぶに連行されてから十日程経ったある日の事、異世界産の薬の効果のおかげもあり予想よりも早く体調が戻ったものの修行に復帰するのは午後からとなったため暇を持て余した炭治郎は掃除好きの血が騒いだのか隠と共に屋敷の掃除を行っていた。
「炭治郎様、手を煩わせてしまい申し訳ありません。本当ならば我々の仕事なのですが…本当によろしいのでしょうか?」
そう炭治郎に告げたのは潔癖症で有名な神谷だった。彼は潔癖症ではあるが他人にそれを強制するのは余程酷くない限りは好まないタイプであり、事実使っている部屋を滅茶苦茶にしていた伊之助以外は説教を受けておらず炭治郎と善逸は特に何も言われていなかった。因みにそれ以来伊之助は部屋をしっかり掃除するようになったとか。
「いいえお構いなく!普段からお世話になってますからそのお礼です!それに掃除するのは好きなので!」
隠達が申し訳なく思っているのとは裏腹に炭治郎は張り切っており、屈託のない表情で掃除好きである事を明かしていた。そんな炭治郎の様子を見たクロウは『掃除が好きねぇ…まあ世の中には節約が楽しいなんて奴もいるし趣味は人それぞれか』と彼なりに理解を示していた。そんな時だった。
―カンカン―
誰かが最近玄関に付けられた和風のドアノッカー…みたいな物を叩く音が聞こえ、それに続いて「ごめんください。リィンさんはいらっしゃいますか?」と言う少年の声が聞こえ、炭治郎は「(この声何処かで…?)」と首を傾げたが、反対に神谷はその声が誰か察すると「!ちょうど良いか…炭治郎様。申し訳ありませんが代わりに出て頂けますか?少々手が離せませんので」と言う風に来客を口実に炭治郎を掃除から引き離すことを決め(重い物を動かしているため手が離せないのも事実である)、それを聞いた炭治郎は直ぐに「わかりました」と答えると玄関に向けて「今行きます!」と相手に聞こえるように答えると掃除用具を置いてすぐに向かい「すみません、お待たせしました!」と言いながら玄関を開け、相手も「いえ、お構いな…く…」と答えたが途中から声が尻すぼみになり炭治郎は疑問符を浮かべたがクロウは直ぐに相手がだれか気づくと『あ…ある意味因縁じゃねーか…』と苦笑いしながら呟いた直後「何でテメェがここにいんだよ!!」と言う叫び声が響き渡りそれを聞いた炭治郎は驚きの余り「えっ!?」と声を上げてしまったがすぐに相手の顔を見た。
「もう一度聞く…何でテメェがここにいる?」
炭治郎の前にいたのは背が高く、そして顔に大きな傷跡を持った少年で一瞬炭治郎は戸惑ったがすぐに最終選別の際に自身が腕を折った相手だと気づいたが名前を知らなかった炭治郎は「…えっと…名前何?」と気の抜ける返しをしてしまい、それを聞いた少年―玄弥とクロウはガクリとこけそうになったがすぐに持ち直した。
「…仕方ねぇ…一度しか言わねぇぞ…俺は不死川玄弥だ…覚えて置けクソ野郎…」
名乗りはしたものの玄弥は炭治郎に対する怒りを隠そうともしておらずそれを見た炭治郎は心の中でクロウに「(俺…なんでこんなに玄弥に恨まれてるんだろう?クロウはわかる?)」と問いかけ、それを聞いたクロウは『いや普通は腕折られたりしたら恨むからな?そりゃあ玄弥がお館様の娘さん傷つけたのは確かに良くねえけどそれで貴方が全面的に悪いから腕折ったことはもうおしまい。なんてできねえだろ折られた側からしたら…』と呆れたように答えた直後、当然ながらクロウの声が聞こえない玄弥は「おいテメェ無視してんじゃねぇ…俺が名乗ったんだ…質問に答えろ…」と炭治郎に対して脅すように問いかけ、その問いに対して炭治郎は慎重に答えた。
「何でいるって言われても…俺がリィン教官の継子だからだけど…」
炭治郎がそう素直に答えた直後だった。玄弥はピシリと固まり、明らかに戸惑った様子になり思考を巡らせ始めた。
「(え?今なんて言った?つぐこ?…継子!?そういや俺…最終選別の時、こいつの教官を臆病教官って言ったけど…つまりこいつの教官って…)」
そこまで思い至った途端に玄弥の表情は真っ青を通り越して青白くなり、最終選別での一部始終を見ていたクロウは『(…知らなかったとは言え自分より上の奴…それも最強格の奴を憶病呼ばわりしたって自覚すりゃあなあ…)』と何とも言えない気分で心の中で呟き、それを見た炭治郎は慌てて「げ…玄弥!?急にどうしたんだ!?具合でも悪いのか!?しっかりするんだ!玄弥ーーー!!」と叫びながら玄弥の肩を掴んで彼の身体を揺り動かし始め、当の本人は「(あ…星が見える…綺麗だな…)」と現実逃避気味に心の中で呟いており、この騒動は騒ぎを聞きつけたリィン達が来るまで続いたそうな。
―三十分後…―
先の騒動から暫く経ち、炭治郎と落ち着きを取り戻した玄弥はリィン、善逸、伊之助の三人と共に昼食を取っていた。因みに今日のメニューはざるそばである。
「玄弥も久しぶりだな。調子はどうだ?」
リィンは薬味のねぎをそばつゆに入れながら玄弥に問いかけ、それを聞いた彼は少し慌てた様子を見せながらも口を開いた。
「!はい、稽古も欠かせていません。今日は偶然近くで用事があったので立ち寄らせていただきました」
玄弥は勢いに任せてそう言い切り、それを余所に善逸は「(にしてもここ何ヶ月かでこいつ変わりすぎだろ…最終選別の時はこんな背高くなかったし…成長期って奴か?)」と心の中で呟いたが、それを余所にリィンは「それにしても…」と呆れたようにため息をつきながら続けた。
「炭治郎からさっき聞いたけど最終選別が終わったその日にお館様のご息女を殴った挙句怪我させるとか何を考えているんだよ…強くなりたいって焦る気持ちは昔の俺にもそう言う時期があったから理解できるけど、その時に炭治郎が言ったように自分よりも力が弱い人に暴力を振るうのは感心しないな…まあその時は炭治郎が制裁を加えたみたいだし多分それもあるからお館様も玄弥の行動を咎めなかったんだろうな…そういう意味では炭治郎に感謝するべきだと思うぞ…もしもそれが無かったらそれこそ厳罰が下っていただろうからな…」
リィンの言葉を聞いた玄弥は改めて自分が何をしたのか突きつけられたこともあり「ハイ…イゴキヲツケマス…」と何故か片言で謝罪したがリィンは炭治郎にも目を向けると「けどそれはそれとして炭治郎も腕を折るのはやりすぎだ…怒る気持ちもわかるし言っていたことは確かに正しいけど、どんなに相手が間違っていたとしても行き過ぎた制裁は暴力になってしまう事もあるから今後は気を付けるように。とりあえずはお互いに謝るように、これでこの話は終わりだ」と炭治郎に言い聞かせそれを聞いた炭治郎は「はい。わかりました」と答えるとすぐに玄弥に向き合うと「ごめんな弦弥…腕を折ったのは確かにやりすぎだったかもしれない…」と頭を下げ、それを見た彼は直ぐに「あ…いや俺も今にして思えばあれは無いって思うから…」もう良いと続けようとしたが直後に炭治郎はとんでもない発言をした。
「だから玄弥も俺の腕を折ってくれ!それでこの話は終わりだ!」
炭治郎の突然の爆弾発言に玄弥は「いや、リィンさんは謝って終わりって言ってたじゃねぇか!?」とツッコミを入れ、偶々リンゴジュースを飲んでいたリィンと善逸はそれを吹き出してしまい、それを見た伊之助は「お!口に入れたソイツをどこまで飛ばせるかの勝負か!」と無駄に目を輝かせていたが『んなわけあるか!バカイノシシ!』とクロウがツッコミを入れそれを聞いた伊之助は「誰がバカだ!」と返したが善逸は直ぐに伊之助を沈めながら「おバカ!事情を知らない奴がいるのにクロウさんに話しかけんな!!」と突っ込んだ。幸いにも玄弥は炭治郎の爆弾発言に気を取られていた為このやり取りには気づいていなかったがリィンはすぐに「そこまで!」と叫び如何にか場を納めた。
「とりあえずまずは皆落ち着け!深呼吸!」
リィンの叫びを聞いた四人は言われた通りに深呼吸し冷静になったのを見たリィンはすぐに「皆落ち着いたか?」と問いかけ、それを聞いた四人は直ぐにそれぞれ「はい」「うん」「おう」「はい…」と答え、リィンはそれを見て頷くと口を開いた。
「それじゃあ俺から一つ提案がある。その前に一つ聞くけど玄弥はこの後予定とかは何かあるか?」
それを聞いた玄弥は直ぐに「いえ今日は特に予定は無いです…」と答えるとリィンは「よし…それなら大丈夫そうだな」と笑みを浮かべ、それを見たクロウは『…成程…確かに良い修行になるかもな…』と呟き、リィンはすぐに口を開いた。
「よし…食事中に悪いけど今日の午後からの訓練の内容を伝える。先ずは善逸と伊之助の二人だけど…二人にはこれから行われる訓練をじっくりと見学してもらう」
リィンの予想外の言葉を聞いた伊之助は叫び声をあげた。
「オイ!見学とかどういう事だよ!修行させろ!」
伊之助は急に叫んだもののリィンはそんな伊之助の叫びも予想しており「これも修行の一つだよ。それに理由もある。今回の訓練の内容は遠距離から直接命に係わる攻撃が出来る相手への対応の仕方を覚えてもらうと言う物だ。伊之助は下弦の壱と戦った時にあいつの術は遠距離から使えるけど直接的な殺傷力は無いことには気づいてたか?」と問いかけそれを聞いた伊之助は魘夢が炭治郎を殺そうとした時のやり方を思い出し「…確かにあいつの術は源次郎を直接傷つけてねぇな…」と呟き、善逸はそれを聞くと「俺も那田蜘蛛山で離れた所から攻撃できる鬼と戦ったけど…それともちょっと違うな…」と呟きそれを聞いたリィンはすぐに口を開いた。
「善逸が戦った鬼は毒液を溜める動作があったから比較的タイミングが予想しやすかったんだよな?」
リィンの問いに善逸は「はい…あの毒液はかなり強力でしたけどいつ攻撃が来るかはわかりやすかったです」と答えそれを聞いたリィンは「まさにそれだ」と告げると説明を続けた。
「善逸と伊之助には遠距離攻撃であると同時に溜めの動作が殆ど無い攻撃の対応方法を見てもらう。今後そう言った術を使う鬼が出てこないとは限らない。それに過去の十二鬼月には銃を使う鬼もいたそうだから知っておいて損は無いはずだ」
リィンの言葉を聞いた二人は「わかりました」「仕方ねぇ…見ててやるよ」とそれぞれ答え、それを聞いたリィンは炭治郎と玄弥に目を向けた。
「そして炭治郎だけど…今回の修行には玄弥も協力してもらう…玄弥も構わないか?」
その問いかけに対し玄弥は「わ…わかりました」と戸惑ったように答えるとそれを聞いた炭治郎は玄弥と協力してリィンと戦うと言うのが今回の修行の内容だと考えた―しかしその予想は直ぐに裏切られることとなった。
「炭治郎と玄弥には一対一の摸擬戦をしてもらう」
それを聞いた二人は互いの顔を見合わせ戸惑いの表情を浮かべる事となった。