鬼滅の刃~世界を渡った剣聖・閃とヒノカミの鬼殺譚~ 作:来斗
炭治郎と玄弥の摸擬戦による一騎打ちから数日経ったある日の事。リィンは炭治郎達と共に産屋敷家へと招かれておりそのまま縁側からそれ程離れていない部屋へと通されることとなりリィンは「お館様と話してくるから少し待っててほしい」と告げると部屋を出て行き後には炭治郎達が残されることになった。
「…緊張するな…お前らはどうなんだ?」
炭治郎達に対してそう問いかけたのは初めて産屋敷家を訪れた玄弥だった。最も彼が緊張しているのは耀弥の娘の一人を殴って怪我をさせたと言う今の彼からすれば黒歴史としか言いようがない過去があると言う事情もあり―それについては完全に自業自得という事は彼自身も理解していたが―緊張と気まずさと言う二つの要因により胃がキリキリと痛んでいた。
「フハハハハハハ!!情けねぇな!俺は緊張なんざしねぇ!!」
そんな玄弥の問いに玄弥と同じく初めてこの場所を訪れた伊之助は空気を読むことも無く言い放ち、それを聞いた善逸は呆れた様子で「緊張でガチガチになるよりはいいけど仮にもここ偉い人の住まいだって事は考えろよ!」とツッコミを入れていた。それを見た炭治郎は苦笑いしながら「俺は二度目だけど…やっぱり慣れないかな…」と何処か緊張した様子で呟いた。最も炭治郎が以前ここを訪れた時は自身と禰豆子は勿論だがそれに加えてリィンと義勇、更には鱗滝の命がかかっていたという事もありどうしてもその時の事を思い出してしまうためか当の炭治郎自身もどうにも落ち着かない心境なのかそわそわしており、それに気づいた善逸は少しでも炭治郎の緊張を和らげようと自ら話題を変えた。
「そう言えば本部についてすぐにリィンさんはお館様と話すって言って離れちゃったけど…炭治郎は何か知ってる?」
善逸の問いに炭治郎は「それなら…」と前置きするとすぐに続けた。
「少し前に聞いたんだけど…俺よりも前にライザーの力を使えるようになってた人がいるみたいでその人の事で話に行ってるみたい。それにその人だけじゃなく柱の人達も顔見せには参加するそうだから多分それ関係の話をお館様を交えてしてるんだと思うけど…」
炭治郎は推測込みでそう答えた。事実その推測はある程度当たっており、現在リィンは耀弥としのぶ、そして玄弥の師である悲鳴嶼を交えて話し合いをしていた。…最も議題の内容は如何に実弥の魔の手から玄弥を守るかと言う物だったが…
「他の適合者が誰か…うん?そういやお前さっき適合者の事らいざあ?って言ってたよな?この前リィンさんも仮初のなんちゃらって言ってたし…それが適合者の正式な呼び方か?」
炭治郎の推測を聞いた玄弥はその中に存在していた聞きなれない言葉を思い出すとそれについて問いかけ、それを聞かれた炭治郎はすぐに口を開いた。
「そうだけど…ああそっか、俺と違って玄弥は力を使えるようになったばかりだからまだ元のライザーの人とはそこまで話せてないんだっけ?ライザーが正式な名前で合ってるよ。ただ異国の言葉だし…俺達にも言いやすいようにという事で基本的には適合者って呼んでるみたいなんだよな…ただ俺はクロウと話してるうちに慣れちゃったから」
炭治郎はそう答えると「慣れってすごいよな…」と実感が籠った呟きで締めくくるとそれを見た玄弥はふと「…クロウって人…今もいるんだよな?」と問いかけた。玄弥にクロウの姿は見えていないし声も聞こえないが自身が得た力の説明と共にクロウの存在も明かされ、同時に彼自身が聞いた誰かの声の事もありクロウの存在も嘘では無いと確信を持っていた。それを聞いた炭治郎は苦笑いしながら答えた。
「それがクロウなら…」
『俺ちょっとリィンの様子見て来るわ』
「て言って何処か行っちゃったんだよな…クロウが俺から離れられる距離には限界があるから多分もう少ししたら戻ってくるとは思うけど…」
それを聞いた玄弥は「意外と自由なんだな…」と何とも言えない表情で呟いた直後だった。
『よお、戻ったぜ』
そう言いながらクロウが壁だけでなく何故か善逸の身体まで通り抜けながら姿を見せ、何の前ぶりも無く通り抜けられた善逸は顔を青ざめながら「ちょっと!!心臓に悪いからやめてくんない!?」と怒鳴りつけ、クロウは『悪い悪い。今度は気を付けるから』と笑いながら答え、それを聞いた善逸は「…絶対悪いって思って無いよこの人…」とジト目で見ながらぼやいたがクロウはすぐに『そんな事より』と言いながら善逸から炭治郎に目を向けると『準備できたって話だから行こうぜ。それと玄弥には炭治郎から伝えてくれ』と伝言を伝え、炭治郎は善逸がクロウに遊ばれている様子を目にして思わず苦笑いしたがすぐに気を取り直すとクロウに言われた通り玄弥について来るように伝え、それを聞いた玄弥は重々しく頷きつつある人物の顔を思い浮かべながら覚悟を決めた様子で「わかった…」と答えると深呼吸し炭治郎に付いて行こうとし、そんな彼の様子を目にした善逸と伊之助も何かを察して顔を見合わせたがすぐに三人の後を追って部屋を後にした。
「…それにしても…前から気になっていたけど俺の前に騎神に選ばれた人って誰の事なんだろう?」
炭治郎は以前から疑問に思っていたことをリィンとそのもう一人が待つ場所に向かう道すがらぼやき、そのつぶやきを聞いた善逸は少しばかり驚いたような表情で「え?炭治郎も知らないの?てっきりリィンさんから聞いてるかと思ってたけど…」と問い返し、炭治郎も頷くと続けた。
「うん。リィン教官は少しでも情報が漏れる可能性を防ぐために俺と玄弥も含めて三人のライザーが見つかるまでは情報を隠すことに決めていたみたいなんだよ。だから俺もライザーが誰なのかは聞いてないんだよな…クロウは知ってる?」
炭治郎は自分が知る限りの情報を話したが直後にクロウなら知ってるのではないかと気付くと問いかけたが彼はすぐに『多分この人じゃないかって予想はあるけど悪いが俺からは教えられねぇよ。リィンが話してねぇのに俺から話すのは筋違いってもんだろ?心配しなくてももうすぐわかる事だから焦るんじゃねぇって』と予想はついていることを認めつつもリィンが隠してる以上自分が話す事では無いと答え、炭治郎は「そういう事なら良いけど…」とこれ以上追及しないと決めた直後だった。
「皆、こっちに来てくれ」
通路の先にリィンの姿が有り、彼は炭治郎達に気づくとそう呼びかけ、それを聞いた炭治郎達もすぐに駆け寄った。
「話し合い、終わったんですか?」
炭治郎はリィンにそう問いかけ、リィンも頷くと「まぁ何とかな…」と答えるとすぐに玄弥に目を向け「…伝えたいことは色々あるけど…柱全員がこの場に集まるんだ…特に玄弥は覚悟しておいてほしい…この言葉の意味は…わかるな?」と重々しい口調で伝え、それを聞いた玄弥は兄の姿を思い浮かべ何も言わず俯き気味になりながらもコクリと頷き、それを見たリィンは「…わかった…それじゃあ皆は呼ばれるまでこの部屋で待っていてくれ」と控室として指定された部屋を示すと自身はすぐに会議の場へと向かって行きその姿を見送ったがリィンの姿が見えなくなるなり善逸が遠慮がちに口を開いた。
「…あのさ…答えたくなかったら答えなくても良いんだけど…さっきリィンさんが特に玄弥は覚悟した方が良いって言ってたけど…どういうことなの?」
善逸の問いを聞いた玄弥は「…それは…」と口ごもり、以前の柱合会議で対峙した―ある意味では柱の中で最も炭治郎の印象に残った一人の柱の名を覚えていたことから確信こそ無かったがある程度事情を察していた炭治郎は「…良かったら俺から話そうか?」と遠慮がちに問いかけたが玄弥は首を横に振ると「ありがとな…けど俺から話すよ…こういう事は自分で言うべきだと思うから…」と感謝しつつも自分から話すとはっきりと告げ一度深呼吸してから話し始めた。
「…俺が鬼殺隊に入ったのはある人に会うためなんだ…名前は不死川実弥…鬼殺隊の今の風柱で…俺の…実の兄だ…」
善逸はそれを聞き驚きながら「えっ!?じゃあ玄弥って…柱の身内ってこと!?」と聞き返し、玄弥は頷きつつも何処かバツの悪そうな様子で「大分長い間会って無いけど…」と答えさらに続けた。
「詳しくはまだ話す気にはなれないけど…俺は昔兄ちゃんに酷いことを言ったんだ…だからその事をずっと後悔してて…謝って仲直りして隣で戦えるようになりたいんだ…柱を目指していたのもそういう事だ…こんな形で会う事になるなんて思わなかったけど…」
玄弥は気まずそうに黙り込み、彼の悲痛な思いを感じ取った炭治郎と善逸は何も言えなかったがいつも通り空気を読まなかった伊之助が「ならそいつにお前の今の力をぶつけりゃいいじゃねぇか少なくともあの力を使ったお前は今の俺と梵逸よりも強いじゃねぇか」と珍しく玄哉を褒めつつ「すぐに追い抜いてやるけどな!!」と何時ものように対抗意識も固辞していたがそれを聞いたクロウが『お前の空気の読めなさに感謝する日が来るなんてな…』と苦笑いしながら呟いた直後だった。
「皆さん。雑談も良いですけどもうすぐ時間ですから部屋に入って待ちましょうね」
炭治郎達のすぐそば―控室として割り当てられた部屋の引き戸が開かれる音がし、その後から穏やかな女性の声が聞こえその部屋にいた彼女―胡蝶しのぶの姿を目にした四人は驚きの表情を浮かべた。
炭治郎が気付かなかったのは緊張していたことに加えて雑談に夢中になっていたからです。