節分の日。ミストルティン・獣刻・ドリュアスは日常の些細な不思議と遭遇する。ピサール・聖鎖・サマエルの恰好がなぜだか冬らしくはないものになっていた。そんな彼女と一緒におっとりとした時間を過ごす日常の物語。

※ ミストルティンとピサールが同居している設定で書かれた、オリジナル設定の短編となっています。また、展開も原作の時系列は気にしないで書いている小説なことに予めご了承ください。

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些細な日常の厄除け祈願

 街の住居。

 何事もない空間に私、ミストルティン・獣刻・ドリュアスは暮らしている。

 人の行き来はそこまで多くない。買い物に行くのもほどほどの距離。

 自分のことながら、悪くない住居を持ったと思う。

 ……ただひとつ、季節感がない同居人を除けば。

 

「……なんでこの季節に水着なんて来てるんですか」

「暑いから?」

「……そうですね、ピサールはそういう方でした」

 

 ピサール・聖鎖・サマエル。それが彼女の名前だ。

 暑がりでお酒が好きという性質があるからか、寒い日ですら薄着になっていることが多い。

 ……今日は恐ろしいことに水着になっている。

 

「プールにでも行くつもりですか」

「それもいいかも~? 冷た~いプールで泳ぐのは気持ちよさそう」

「……私は風邪になってしまいそうなので辞退しますよ?」

「だよねぇ」

「……なぜ、そんな恰好になってるんですか?」

 

 一緒の部屋に暮らしている同居人だ。気にしてないつもりでも目に入ってくる。

 私はそれなりに寒さ対札に衣類を羽織っているのもあってなおさら気になる。皮肉を言う以前の問題だ。

 そんな私の問いかけに対して、ピサールは悪戯っぽく笑ってきた。

 

「なんでだと思う?」

「それを聞いているのですが」

「わたしはミストルティンがどう考えてるか聞きたいの~」

「……はぁ」

 

 こういう流れはめんどくさい、と思う。

 相手の気持ちを汲み取って自分の考えを言う。なかなかに気力を使う瞬間だ。

 とはいえ、同居人の機嫌を損ねたら、部屋の居心地が悪くなってしまう。それとなく答えるべきだろう。

 

「……季節風ファッションですか?」

「おぉ、いい線だね~」

「それで、そうなるんですか」

 

 冗談だろうと思いながら言葉にしたものがいい線と言われる。

 そう言われたのも気になったので、私はピサールの水着について確認した。

 彼女の水着はビキニタイプのものだ。大人の女性らしい雰囲気を出す系統のものだろう。水着の柄は寅の模様をしている。

 二月、寅……そのふたつを頭に思い浮かべて、ふと考えが浮かぶ。

 

「……節分だから、寅柄の水着を身に着けてると?」

「だいせいか~い」

 

 微笑みながら拍手するピサール。

 その姿を見て、少しだけ呆れつつも彼女らしいと思った。

 

「特別な日で浮かれる方なんですね」

「こういう日って結構縁起物が安くなったりしてるからね? それでお得な気分になっちゃうから~」

「なるほど……それは頷けます」

 

 街で買い物を行う時に、安価でなにか買えるというのは暮らしを支える重要なことだ。一人暮らしするときにも、こうしてシェアして部屋を使っている時にも大切だろう。それを考えているのならば、彼女もそれなりに真面目なのかもしれない。

 

「節分の日だとね、キャンペーンで和風のお酒が安くなったりするのよ~」

「……そうですか」

 

 その言葉を聞いて逆に安心した。彼女は真面目というよりも、自分の快となることに敏感なだけなのかもしれない。

 

「ミストルティン~、今日は和系のお酒が呑みた~い」

「……そう来るとは思ってましたよ」

 

 そっと冷却保存していた冷たいお酒の瓶をふたつ用意する。

 普段は洋風のお酒……葡萄酒なんかを味わうピサールに合うものは何か、私なりに考えたのだ。

 

「焼酎と梅酒があります。どちらを味わいますか?」

「へ? 用意してたの?」

「……ピサールが家でのんびりしてる間に買ってきたんですよ」

「優しい~」

「……空気が悪くなったりしてほしくないだけです」

「ふふっ」

 

 買ってきたものはいくつかある。

 そのひとつにお酒が入っていただけだ。私はお酒に詳しくないけれど、ピサールが上機嫌になるならば、それは悪いことではない。

 

「ん~、両方とも味わいたい!」

「駄目です、ひとつにしてください」

「え~、なんで~」

「……呑みすぎて横になったりしたピサールを寝室まで運ぶの、大変なんですよ?」

 

 それなりの身長をした女性を運搬するのにはなかなかの力がいる。それも、酔っている存在ならなおさらだ。

 時々、急に私に絡んだりするのもなかなかに気にする。

 

「そんなに呑んでないけど~」

「自分のお金で買っているのでそこまで咎めるつもりはありませんが、たまに葡萄酒を味わいすぎていることもあります。気を付けてください」

「なんだかお嫁さんみたいなこと言ってるね~」

「……ちゃんと話を聞いていますか?」

「うん、まぁ、それなりに?」

「そうですか……」

 

 話を聞いていないように見えて、それなりに聞いている。それがピサールだ。

 要領がいい部分もあるのは尊敬する。

 

「厄除け祈願の日にめんどくさいのはミストルティンもいやよね?」

「そうですね、面倒ごとは避けたいです」

「じゃあ、今日はひとつにするね。梅酒でいい?」

「はい、では焼酎はまた今度で」

「ミストルティンもいっぱい呑んでいいよ?」

「……嗜む程度には、いただきます」

 

 焼酎を片付け、次は恵方巻を用意する。

 節分の縁起物だ。

 

「しっかりした向きを見つめて食べるやつ!」

「恵方巻です」

「そうそう、美味しいんだよね~」

「本日は街で特別に作っているお店で購入しました」

「自作はしなかったんだ?」

「意外~」

「街の買い物でよくお世話になっている方だったので、その縁でいただきました」

「なるほどね~」

 

 自分で作るのもできないわけではないけれども、それだと時間や素材で色々難航してしまうだろう。

 具材を家に残してしまうと後々使うのが大変になりそうなので、控えたという部分も大きい。

 

「……まさか、ピサール。私が全て一から作る存在だと思いますか?」

「チョコレートの時はやってるじゃない? カカオの木を魔法で用意したりしてさ」

「手作りチョコレートは誠意が大切だと思うので」

「変なところで拘るよね、ミストルティンって」

「そういうピサールも、チョコレート作りはいつも気合を入れてますよね?」

「お酒入りのチョコ作るの楽しいからね~」

「……目指してるものが違いますね」

「そうかも~」

 

 それとなく恵方を調べながら、食事の用意をする。

 テーブルには恵方巻とグラスに用意された梅酒。

 

「和風のお酒なら、いい感じのやつがあるとよかったかも~」

「木製のなにかですか?」

「そうそう、そんな感じ」

「お酒の趣味は詳しくないので、ピサールが探してくださいね」

「ん~、じゃあ、その時はミストルティンも一緒にどう?」

「考えておきます」

「いただききま~す」

「いただきます」

 

 小さく食事前の挨拶を交わして、恵方巻を口にする。

 恵方を向いて、静かに食べる。

 様々な味わいが広がって素敵な味わいだ。

 静かに黙々と食べる瞬間は心地よい。気持ちも落ち着く。

 お互い恵方巻を食べ終わったのち、少しの時間を空けて、ピサールが再び口を開いた。

 

「ミストルティンって縁起物とか信じてる?」

「厄除け祈願は気持ちを落ち着かせる働きもあります。そういう点で、私は信じている方かと」

「そうなんだ」

 

 じっと私のことを見つめるピサール。

 その様子が気になり、こちらから再び尋ねてみた。

 

「なにかありましたか?」

「よくよく考えると、ミストルティンも縁起物じゃないかな~って」

「私がどうかはわかりませんが、宿り木は縁起物ですね。この時期に飾るヒイラギとも関わりはないわけではないです」

「そうなの?」

「はい、ヒイラギは節分に飾られることが多い植物ですが、クリスマスにも縁起物として使われます。厳密には品種が違っていたりもしますが……」

「ミストルティン、専門的な話はいいかな」

「……私自身にご利益があるかはわかりませんが、宿り木はヒイラギと同じ立ち位置になったりすることもありますね。縁くらいはあるかもしれません」

 

 そう言葉にすると、ピサールは考え込んだ。

 しばらくしたのちに、彼女は言葉を繋いできた。

 

「じゃあ、ミストルティンには豆は投げないようにするね」

「一応節分豆は買っていますが」

「わたしが鬼をやろうかな~」

「いいんですか?」

「まぁ、鬼っぽい衣装にもなってるからね~、それくらいはいいかも?」

「わかりました、では後で厄除け祈願を行いましょう」

「わかった、じゃあ外で……」

「その恰好のまま外に出るつもりですか?」

「うん」

「寒くはないですか?」

「そんなことはないけど」

「……そうですね、ピサールはそういう方でした」

 

 たまたま通りかかった人がいたら驚かせるかもしれないけれども、彼女がそれとなく対応してくれるだろう。

 厄除けの節分。健康で過ごす為の祈願を行う日でもある。ピサールが風邪でも引かないように気にかけておこう。

 

「ミストルティン」

「なんですか?」

「寒いから、風邪にならないようにね?」

「……その恰好でいいますか」

「わたしは平気だよ?」

「……それでも、その言葉は暖かいですね。ありがとうございます」

「じゃあ、豆まきする?」

「その前に、お酒を味わうのもいいかもしれませんね」

「さんせ~いっ」

 

 独特な雰囲気の同居人と一緒に過ごす日々。

 静かに、そして穏やかに過ぎていくこの時間も悪くないものだと思えた。


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