戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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前もって言っておくと、残念ながらプールのシーンはカットです。書けない……書けないんだ……私にはあんなキラキラしたのは書けない! 私に出来るのは、同様のイベントがあったと記すのみ……。むしろ誰か書いてくれ、いや、描いてくれても助かる。当方永遠に絵とかも募集中ですので。ナインボール(未だ出てきてない)とユメ先輩が並び立つバックショットとか見たいね!TFリベンジの最後みたいな奴ね!

もし来たら AMAZE AMAZE AMAZE!


Land of Mine

 

(いやー……草抜きなんて久々にやるね。前は逆に草を生やそうと躍起になってたからさ。抜く程の草がなかったもん)

 

水分無し、栄養無し、日光毎日アッツアツな土地。そんな環境で何とか彩りを残そうとしていた過去を思い返しつつ、私は合宿所周辺の雑草を体操着姿でポイポイと抜き通っていた。よし、この1本を抜けばここら辺は終わり!

 

『良かったな。今でもあの学び舎には緑が残っているぞ』

 

(だね。後輩ちゃん達には感謝しないと)

 

色々あって、試験に全員合格とは行かず……私たち補習授業部は、ティーパーティーから別館での強化合宿を命じられてしまった。

 

ただ、長年手入れがされていなかったが故の各所の汚れや埃を懸念する声が上がり、まずは衛生面の確保や、集中して勉強に取り組める環境作りから始めよう────そんな話し合いが部員たちの間で行われた結果、初日はまず全員で"大掃除"をすることになったのだ。

 

私自身、潜入準備として1週間前に自分が使う最低限の範囲は済ませていたが、今回は規模をさらに拡大、それぞれの場所に手分けして遂行中。

 

とまぁ、そんな感じの状況になった訳だけど。

 

──────きっと、ここまでは予定通りに違いない。

 

おかしいとは思っていた。一次試験を全員で合格してしまえば、部は解散……矛盾している。手間暇をかけ、せっかく設けたというのに、見つからずのままで呆気なく終わらせる筈が無い。……私たちが1週間の間にホシをあげたなら、違ったかもしれないが。

 

帰ってきた問題用紙と答案に目を通してみれば、どこにも不正を疑う箇所はなく。

つまりハナから向こうは、全員が合格するとは思っていなかった。

悔しいが、そういう事だろう。

 

結構みんな真剣にやっていた感じだし、そこを思うと"全部が手のひらの上"なのは、少々やるせないというか───正解ではあっても、肯定したくないといった気持ち。

でも一応、自業自得なのは事実。自ら招いた結果に変わりはない……が。

 

(………ラナ。ハナコちゃんについてだけど)

 

『ああ』

 

(なんで、あんな事したのかな)

 

今回のテスト結果で大きな疑問を残したあの子。彼女の実力の程は、何度か教えを受けた私自身が知っている。見立て通りならば赤点を取ることなんてそうそう無いはず。

 

なのに…………なんだ、2点って。

何があったらそんなことになるのか。

本人曰く"あくまで勉強できそうな雰囲気だけで成績は別"との事だが、無理がある。

 

あまりこんな事考えたくないがないが、あれは絶対に故意だ。わざとやってる。

 

(まさか、私たちを手助けするつもりだったとか?)

 

『いや、その線は薄いと思うが……どうだろうな。年頃の者が考える事は理解し難い』

 

(まったまた〜、そんな年寄りじみたこと言っちゃって)

 

『君は私の年齢を知らんだろう』

 

(じゃあ教えて!)

 

『ふむ……そうだな。まぁ、そろそろ教えても構わんが……実の所私自身もハッキリは覚えていない』

 

(大体でいいから!)

 

『…………2000以上は確実とだけ、な』

 

(えっ──────……ホント?)

 

『さて、浦和ハナコについてだが、如何せん情報が少なすぎる。その上、中々の曲者だろう。アレは。君が疑わしく思うのなら、積極的に会話を試み、根気強く探っていけ。以上』

 

(あっ、ちょっとラナ!)

 

気持ち早口気味に捲し立てると、彼女は一方的にプツリと通信を切ってしまった。

 

(…………)

 

私は片手に握っていた雑草を無造作に放り捨て、反射的に腰の通信機へと手を伸ばす。 しかし、指先に触れたのは慣れ親しんだ機材の硬い質感ではなく、頼りないジャージ素材の柔らかい感触だけだった。

 

(ああそっか。今つけてないんだった)

 

通信機は少々嵩張るため、正体を勘づかれるリスクを考慮し、普段はローブで隠すようにして装着している。しかし今回は体操服で来るようにとの事だったので、身につけていないのだ。

 

故に、指先を滑らせても空を切るばかり。 本来ならその腰元にあるはずの端末には、通信のオンオフを決めるスイッチと、こちらから能動的に回線を開くための機能が備わっている。

 

その為、この状態ではどうやってもラナに呼びかけることは叶わない。大人しく諦める他ないだろう。

 

にしても──────2000か。

 

(……逆サバだとしても、桁がおかしいんじゃない?)

 

冗談と捉えようにも、割と真面目な声色だった。万が一、その事が事実だとするならばラナはもうとっくにおばあちゃんを超えたスーパーおばあちゃんになる訳だけど……うん。前から薄々思ってたけど、ラナは人間じゃなかったり?

 

(むむむ……謎が1つ増えちゃったぞ)

 

喉の奥で小さく唸ってはみるが、何かあればまた彼女の方から繋げてくる……そう思い、私は再び草抜きの方へと意識を戻す事にする。

今考えても仕方ないのだ。それに嘘か誠か、どちらにせよ彼女がこの手の話題に自ら触れてくれたと言うことの方が、私にとっては大切。

 

(……ふふ)

 

とりあえずは、ラナの言う通りハナコちゃんとの接触を──────

 

そう思考を走らせた、次の瞬間だった。

 

「セラ、そっちの方はどうだ?」

 

(うわわっ!? びっくりした!!)

 

背後から突如として掛かった声に、心臓が口から飛び出しそうになり、同時に私は膝をついていた地面から、文字通り弾かれるようにして飛び上がってしまった。

 

だが、非戦闘状態における油断が災いしてか、足元が覚束ず、着地の瞬間にバランスを崩してしまう。 「あっ」と思った時には手遅れで……私はそのまま無様に尻もちをついた。

 

(ひぃん!?)

 

お尻から伝わる鈍い痛みに顔を少々顰めつつ、手の甲で着地した部分を軽く払っていると、目の前にスっと小さな手が差し伸べられてきた。

 

「む……悪い。驚かせるつもりはなかった」

 

淡々としたトーンながらも、何処か可愛らしさを覗かせる声。そこに立っていたのは、愛銃を背負い、片手に備品のスコップを握るアズサちゃんだった。

 

『いや大丈夫。問題ないよ』

 

そう短く伝えると、私は彼女の小さな手を握り返し、若干の情けなさを感じながらグイッと身体を起こしてもらう。

 

(……ふぅ。ハナコちゃんじゃなくて良かった)

 

もし彼女だったら、更に驚いて10メートルは飛び跳ねていた自信があるな。

 

『もしかして、そっちはもう終わった感じですか?』

 

「あぁ、概ね完了だ。後は一輪車を使って運ぶだけだし、そちらの進捗状況によっては手伝おうかと思って来たんだが……」

 

アズサちゃんは、私がこれまで積み上げてきた雑草の山と、まだ手つかずのまま残っているエリアを交互に見やると、小さく顎に手を添えた。

 

「……なるほど。建物近くの密集地帯を中心に、あらかた制圧済み、といったところか。だがフェンス沿い付近はまだ背の高い個体が残っているようだな」

 

軽く分析を口にしながら、彼女は手にしていたスコップの柄を握り直す。

 

『どれも腰の丈くらいはあるかな……。あそこまで大きいと、一つ抜くだけでも一苦労で。もう半分草むらみたいに広がっちゃってますから、ついつい、後回しにしちゃいまして』

 

「ならば、ここからは私も担当しよう。セラの負担を軽減し、予定時刻通りの任務完了を目指す。……構わないか?」

 

そりゃまた、願ってもない。もちろん私は迷わず頷き、手でオッケーのサインを送った。

 

「では、早速取り掛かかろう」

 

アズサちゃんの声に応じ、うっそうと広がる草むらへと早速分け入る。 すると一歩踏み出すたびに、名前も知らない雑草が波のように左右へ割れ、足元にはグニャっとした土の感触が伝わってくる。今朝降った雨が影響しているのだろう。

この辺りは大きな木々が枝を伸ばして深い影を落としているせいか、生い茂る葉にもまだ大粒の水滴が残ったまま。ただ普通に歩くだけでも、冷たい雫が容赦なく脚を濡らし、不快な湿り気が肌にまとわりつく。

正直、これならば用務員の方に任せるか、除草剤なり鍬なりを持ってきた方が良い気もしてきたが……まぁこの際だ。そんなに広い範囲じゃないし、二人でやればすぐに終わるだろう。

 

私は腰を落とし、適当な一房を根元から掴んで、ぐっと力を込める。ほどなくして、指先からミチミチと根が抵抗する感触が伝わってきた。途中でちぎれないよう慎重に引き抜いていくと、やがてそれは呆気なく地面を離れる。

嬉しいことに体重をかけるまでもなく、ただ腕を引くだけでソレは済んでしまった。巨大な根の重みに対し、過不足なく力が伝わったことの実感とともに、私はまず最初の1本目を軽く脇へと放り投げる。

 

2度目は少し手こずった。根がより深く張っているのだろう……雨を吸い込んだ土が先程よりも粘土のように重く、まとわりついて離そうとしない。1度手を離し、リトライのつもりで再度力を加えると──────茎だけが虚しく千切れてしまい、葉に溜まっていた水滴が跳ねて頬を濡らす。

 

(あちゃ〜……)

 

冷たさを袖で拭い、私は小さく息を吐いた。どうやら、根と土の織り成す執念を少し甘く見ていたらしい。

私は大人しく脇に置いていたスコップを手に取り、千切れた根が残る場所へと刃を差し込んで、土を掘り起こす。先端が根を捉えた手応えを確認してから、てこの原理でグイグイと土を跳ね上げ、残りの根を摘んで引きずりだした。

 

三本目。今度は感覚に頼るだけでなく、「流砂」から抜ける時の理屈をなぞってみることにする。

私は一定のテンションを保ったまま、じわり、じわりと時間をかけて上へと導いていく。ここまでは同じだが、それと同時に今度は、土と根の密着を剥がすように草を握る手を前後左右へと小刻みに揺らす。

 

すると段々、手に伝わる抵抗力が弱まっていくのが分かった。揺らしたことにより、根と土の間にわずかな隙間と空気が入り込み、あれほど強固だった粘着力がじわじわと弱まっているのだ。

やがて頃合いを感じ、十分な力を込めてゆっくりと上方向に引っ張り上げてやれば──────今度は成功。太い根の塊が重たい泥を纏ったまま、ズルリと地上へ這い出てきた。

 

一度正解に辿り着けば、あとは再現するだけだ。四本目、五本目。私は同じ手順を繰り返していく。一つ一つが大物だからか、慣れてくると結構爽快で楽しいな。目に見えてどんどん積み上がってくから達成感もある。

 

(そういえば、なんか昔にあったっけ。こんな感じで引っこ抜いた生き物を仲間にするゲーム)

 

コマーシャルの歌が耳に残るあのタイトル。かなり有名なやつだろうし、アリスちゃん達の所に置いてあったら、そのうち遊ばせてもらおうかな。

そんな他愛もないことを考えつつ、順調に作業を進めていた……その時だった。

 

何やら細いものに……そう、まるでワイヤーにでも引っかかるような、硬質で不自然な感触が腕を伝う。

一体なんだと疑問に思った、その矢先。

 

──────視界が白く染まった。

 

強烈な、視覚システム越しでも網膜を焼かんとする閃光。

続けざまに、圧倒的なまでの熱波と暴力的な衝撃力が全身を貫くも、それだけでは無い。この爆風に混じって、数の暴力と言うべき無数の質量が襲いかかってきた。身体中を蹂躙せんとする、まさに超小規模な絨毯爆撃か。

 

(ほわぁああああああ!?!?)

 

一斉に全神経の痛覚をはね上げられ、衝撃によって地面へ突き飛ばされそうになりつつある中、私は身に覚えのあるこの感覚に、犯人の正体を察する。

 

(クレイモア地雷……! なんでこんな所に!?)

 

至近距離で爆圧を浴び、堪えていた足元がズルッと地を滑る。強引に後ろへと重心をさらわれ、視界が上空を向くこの間、反射的に"借り物の服をなるべく汚したくない"と言う思いが脳裏を掠めた。

 

咄嗟に私は片手を真下へと叩きつけ、支えとしてねじ込む。爪の間に土が入り込むのを感じながらも、そのまま指を食い込ませ続け、何とかコレを耐え凌いだ。

洗濯で基本落ちるとはいえ、気が引けるのである。

 

(いたた……)

 

700個の鋼鉄製ベアリングボールが成す猛攻によってもたらされた、全身への"地味な痛み"に辟易しながらも体制を立て直し、私はもう一人の様子を真っ先に確認する。

 

(大丈夫? アズサちゃ……)

 

直後、ピントの結ぶ先にあったのは、木陰に低く身を潜め、銃を構えながら臨戦態勢を取っている彼女の姿だった。

 

「敵襲か──────?」

 

流石と言うべきか、なんと言うか。普段の様子からして、そんな感じに動くだろうとは思った。期待を裏切らないね。

 

「セラ、動けるか? 動けるならゆっくりとだ。慎重に匍匐して……」

 

『大丈夫です』

 

幹から半分顔を出し、淡い紫の瞳でじっとこちらを伺う彼女へ、私はよく見えるよう端末を高く掲げた。

 

『多分誰かのイタズラじゃないでしょうか? トリニティに来てからは初めてですけど』

 

「いや、万が一という事もありえる。危険というのは得てして、身構えずにいる時こそやって来るものだ」

 

……なーんかラナが喋りそうな事だが、いやそんな警戒しなくても。だってここトリニティ総合学園だよ? メチャいいとこのお嬢様学校。そんな、生徒の誰かが襲撃かけるなんてナイナイ。

そんな確信に身を委ね、アズサちゃんの方の草むらへと分け行った瞬間──────。

 

(ふぎゃっ!?)

 

またまた、爆発。しかも同じ痛み。何を隠そう犯人は依然クレイモアであった。

 

(な、なんで……?)

 

トリニティって、思いの外治安悪いのかな? そう思わずには居られなかった。なんでこんな短時間連続で2つも対人地雷を食らわなきゃいけないんだ。痛いものは痛いんだぞ。

 

(うう…………ん?)

 

至近距離からの爆圧に押されると、今度こそ私は完全にバランスを崩し、前のめりに倒れ込んだ。咄嗟に両腕を前に突き出して、顔面から泥に突っ込むのだけはなんとか免れたものの、四つん這いのような無様な体勢になってしまう。

すると……ふと視界の端に妙なものを見つけた。どう考えてもこんな場所に自然発生するわけもない、ある物が、草むらの奥に紛れているのを発見したのだ。

 

(これって……)

 

それが果たして、私の脳裏に浮かんだ物で間違いないのか。興味本位に確認してみようと腕を伸ばすが……先の経験から、またもや引っかかることを想起してしまう。2度はまだしも、3回目はヤダ。恥ずかしいぞ。

 

(1回、アズサちゃんの指示に従おう……)

 

深く息を吐いて頭を1度冷静にし、私は大人しく彼女の方へと向かう事にした。一応、指示の通りにスナイパーや他のトラップを警戒しつつ、ゆっくりと慎重に身を這わせ、ややぬかるんだ土の上を匍匐で進んでいく。

 

折角汚れないように気をつけたのに、これじゃ結局本末転倒だと自嘲しながら、やがて幹の裏へと身を滑り込ませると、アズサちゃんは未だ周囲への警戒を解かぬまま、鋭い視線を私の全身に走らせた。

 

「怪我はあるか? どこか痛むところは?」

 

その薄紫の瞳は、私の手足から顔に至るまで、素早く的確に外傷の有無をチェックしている。至近距離で二度も爆風と鋼球の嵐を浴びはしたが、体操着が泥や焦げ跡で汚れているだけで、出血も殆ど無い私の状態を見ると、彼女は微かに安堵の息を吐く。

 

『全然平気ですよ』

 

「なら良かった。あの爆発、察するに恐らく──────」

 

『M18クレイモア地雷。でもやっぱり、アレはイタズラ用のトラップです』

 

「なぜ分かる?」

 

『簡単ですよ。そもそもこの合宿所に、対人地雷をいくつも仕掛けてまで守るような戦略的価値はありません。何か重要な物が隠されてるなんて話は聞きませんし、立地からしてもそうです』

 

「む……」

 

『それに仮に私たち補習授業部を本気で狙った攻撃だとしても、やり方が不自然すぎます。わざわざこんな派手なトラップで警戒されるより、夜間にしれっと奇襲をかける方がずっと確実でしょう? だからあれは、明確な殺意や防衛目的というより、ただ引っ掛けて驚かせること自体が目的のイタズラなんですよ』

 

「……なるほど。確かに、地形の優位性も活かしていないし、制圧のセオリーからも完全に外れているな。しかし……これがイタズラというのは、些か考えにくいが。そういうものか?」

 

『そういうものですよ。私も前によく見かけましたし』

 

「…………」

 

ゲヘナに出張してた時には日常茶飯事だった。引っかかると、大体それに反応した不良生徒が好機とばかりにカツアゲ目的で襲ってくるのである。

 

『そういう訳ですから、放置しておくのも危ないですし片付けちゃいましょう。これも立派な掃除です』

 

「……そうだな。手早く撤去するとしよう』

 

説得を終え、アズサちゃんが銃を下ろしたのを見ると、私は彼女に少し"待った"をかける。

 

『まずは私が先行して、残りの地雷の位置を特定します。2回も引っかかったおかげで配置のクセは掴めましたので、マーキングが終わるまで少し待機してもらえますか?』

 

フェンスに絡みついていた丈夫なつる草を引きちぎり、拾った小枝の先端へ目印代わりに巻き付けつつ伝えると、短い頷きで返ってくる。

 

「了解した」

 

(よし、今のうちにアレを回収……!)

 

そうして何本かマーキング用の枝を数本拵えると、私は再びトラップ地帯の草むらへと舞い戻った。

この視覚システムには、トラップ検知などという便利な機能は付いていない。従って、自身の持ちうる観察眼と経験則を頼りにするのみ。不自然に折れ曲がった葉、異様に浮かぶシルエット、木漏れ日を微かに反射する肝心のワイヤーを、慎重に見極めていくのだ。

 

(あった……まずは1つ)

 

早速、ワイヤーの起点となっている一つ目のクレイモアを発見。その付近の地面へ、急造のマーカーをサクッと突き刺す。これで彼女にも位置の共有が出来るし、この後の事で怪しまれることもないだろう。もしや、勉強のお陰でちょっと頭良くなったかも? なんて。

 

そんな調子で足元に細心の注意を払いつつ、目玉をあちこちグルグル動かしながら、2つ目、3つ目とクレイモアを見つけ出しては、同様に目印を立てていき……ついに私は、本命へと距離を詰めた。

 

(やっぱり……)

 

とても──────このような場所にあってはならない。いや、別にそんな超絶問題かと聞かれたら、そこまででは無いけど。うん。だけど公には誰もその事を肯定するのが難しいであろう代物。

 

それは本だった。

ただの本ではない。

 

文庫本と言うにはサイズは大きく、漫画本と言うには分厚くなく、絵本かと言えば表紙は刺激的。ではコミック? いや、アルファベットの類は"R"のみ。

 

──────つまりは"そういう"本だ。

 

(うわわ……早く隠さないと……)

 

焦りか、あるいは見てはいけないものを見てしまった羞恥心か。額にじわりと汗が滲み、鼓動がテンポアップしていくのを感じる。

私はなるべく直視しないよう薄目になりながら、本についた土汚れをパッパと手で払った。

 

大方、コレに釣られた子を脅かす為のトラップだったのだろう。多分偏見だと思うけど、トリニティの生徒達ってあまり耐性無さそうだから、良くも悪くも気になって引っかかりそうだ。

かといって、私もさほど耐性があるわけでもない。コンビニでも、その手のコーナーはいつも目を逸らして足早に通り過ぎるくらいだし……。

 

(とりあえず、背中にでもしまっておくとして。後で隙を見計らってから処分かな?)

 

処分方法は、ラナに捨ててきてもらうって事で。共同のゴミ箱から見つけられちゃったらリスキーだからね。

 

(にしても……一体誰がこんなトラップ仕掛けたんだろ)

 

こういう学校にも、案外イタズラ好きっているんだな……と新たな知見を得つつ、私は背に回した本を体操着のズボンの腰ゴムに挟み込んで固定し、上着の裾を被せ覆い隠した。派手に動きすぎなければ、落ちることは無いだろう。多分。

 

これにて最大のミッションは無事完了。後は残りのクレイモアへと次々マーカーを付けていき、ついでに他にも同様の本が落ちていないか目を凝らして確認し終え、私は何食わぬ顔でアズサちゃんの方へと戻った。

 

『お待たせしました。以上でマーキングの方は終了です』

 

「あぁ、ご苦労だった」

 

『でもでも! まだ見落としがあるかもしれないので、くれぐれも油断せず取り組みましょう!』

 

そんなわけで、急遽地雷撤去の緊急タスク開始。私たちは自然な流れで互いの持ち場を決め、それぞれのポイントへと向かった。

するとやはり、歩く度背中でゴワつく感触に若干の動きづらさを感じてしまうが、仕方ないと自身に言い聞かせ、やがて自分が担当する一つ目のクレイモアの前に立つ。そのまま、わたしは挟んだ本がずり落ちないように背筋を伸ばし、なるべく不自然に見えないようゆっくりと膝をついてしゃがんだ。

 

(よし。さっさとやっちゃおう)

 

仕掛け部分にシステムのフォーカスを合わせ、観察してみると、既存の起爆装置を後付けした、ごくごくシンプルなやり方で組まれている事が分かる。これを作ったのは大分真面目な子だろうね。爆弾解体の教本で最初らへんの章に載ってるやつだ。

 

これくらいなら簡単簡単。そもそも地雷撤去自体は何度も任務でやってるからね。……専用の道具ないけど。まぁ、全然行ける行ける。簡単だ。

 

まず右腕を伸ばして、起爆装置とワイヤーを繋いでいるリングをそっと掴む。この時点でセオリーガン無視である。良い子はちゃんと安全ピンを装置に差し込んで、物理的なロックを掛けておこう。

 

お次に、ワイヤーの張力に一切の変化を与えないよう完全に右腕を固定したまま、今度は起爆装置の方に左手をかけ、ねじ込まれている雷管ごと、落ち着きを保ったままゆっくりと回して引き抜いていく。

少しでも手元が狂えば、その瞬間に撃針が落ちてドカン。そんな危険極まりない方法だけど、義手故の絶対的な精密性をもってすればなんて事はない。通常の筋肉みたいに微かな震えが生じることもないから、この手の"ミリ単位の現状維持"はお手の物。

 

…………ほらね、これであっという間に解除完了。クレイモアはただのお弁当箱へと様変わり。道具なしでも案外いけるものである。いやぁ、前にラナから習っておいて良かった。あの時は20回くらい失敗したっけ?

 

ま、こんな感じの2ステップを繰り返すだけなので、後はもう言うことはない。マーカーの地点に赴いて、サッと解除してサッと次のマーカーへ。草抜きと同様に単純作業だ。違いとしては、爆発するかしないかって事くらい。

そんなこんなで、自身の担当エリア内の地雷は全て撤去。私は一息つき、アズサちゃんの方はどうか────様子を窺おうと視線を向ける。

 

だが、ここでふと疑問が浮かんだ。
彼女、一体どうやって解除しているのだろうか。

 

私と同様に無理やりって訳にも行かないだろうし……。でもさっきから爆発が起きてない以上、確実に解除には成功している筈。

果たしてどんなやり方で臨んでいるのか、ハテナを頭に浮かべつつ彼女の方を見やると……。

 

(よ、用意周到〜~!!)

 

なんと、体操着のどこに隠し持っていたのか、コンパクトなツールポーチから針金を取り出して安全ピンの代わりとして使用。さらに専用のカッターも併用し、確かな安全性を確保してから本体の解除を行っている、正しくお手本通りな姿がそこにあった。

 

なんだか……見習った方が良さそうだな。こう、他の子が真面目に準備してやってるのを見ると。今度から私も常時ああいった道具を持ち歩くべきかも。備えあれば嬉しいって言うし。

 

そんな、反省に似た考えを巡らせていると、こちらの視線に気づいた彼女が解除したクレイモアを手に立ち上がった。

 

「これで最後だ。そっちはどうだ?」

 

『バッチリです!』

 

サムズアップと共に答え、これで無事に一件落着。ようやく草抜きへと戻れる訳だが……ここでまたもや、ふと疑問が湧いてきた。かなり素朴で、何の気もなく軽い興味だが。

 

『ところで、アズサちゃんはどこでやり方を学んだんですか? 独学?』

 

爆弾解体の技術自体は世に広まってこそいるものの、SRTのような特殊な学園でもない限り、決して義務教育の範疇ではない。自ら能動的に学ぼうとしなければ、そうそう獲得できるスキルではないのだ。そもそも、前に倉庫を占拠した際の事件でブービートラップやIEDを使用していたことから鑑みて、ただ付け焼き刃で持っているモノでは無いだろう。

 

「……昔に、教わった。必要な事だから」

 

いくらかの逡巡の後、彼女は手元のクレイモアを見つめながら呟く。

確かに言う通り、たった"今"必要になった。

 

『誰から?』

 

「………………」

 

質問を投げてから思ったのだが、この場に乗じて何かしら聞き出せたりはしないだろうか。

──────なにせ、ラナが目星をつけているのは目の前に立つこの少女。日常仕草に薄められそうになるが、忘れてはならない。私達の目的はかねてより裏切り者を見つけ出すことにある。

 

「師匠……もとい、教官と呼べる人だった」

 

(…………教官、ね)

 

警戒してはぐらかされるかと思ったが、思いのほか彼女は素直に言葉を紡いだ。

 

『"だった"っていうのは?』

 

「今は……所属が違う。だから、そう」

 

心做しか、アズサちゃんの顔が俯いているように見える。小さな子が袖を握るように、彼女のクレイモアを持つ手にはぎゅっと力が入っていた。

 

『もう、教官じゃないって?』

 

「……うん。少なくとも、私は二度と彼女をそう呼べないと思う」

 

(…………)

 

私には、この子が一概にも憎むべき敵とは感じられなかった。そりゃ、怪しさはある。らしき言動や証拠もこれ迄にある。仮に"裏切り者"だとして……"敵"であると、必ずこの場所から排除すべき存在であると、定義しづらかった。いや、なにか違う。もっと違う言い方があるに決まっている。

 

『その人は、どんな人だった?』

 

「……厳しい、人だ。でも、それだけじゃない」

 

そうだ。私はよく知っているじゃないか。

敵はみな、必ずしも悪ではない。数々の任務で敵とされた人達は皆、自らの生活や幸せの為、または私と同様誰かのためとして、結果的に戦うこととなっただけ。

昨日の戦友は今日の敵、また逆も然り。

全ては巡り合わせに帰結する。

 

『だったらさ。良いと思うよ』

 

「……?」

 

『どこまで行っても、先輩は先輩なのと同じで。その人だって、いつまでもアズサちゃんにとっての教官だよ。多分、長い時が経って、立場や周りの環境が変わっても、案外変わらないんだよ。そういう根っこみたいなものって』

 

「…………」

 

『その人と何があったかなんて私には分からないけど、互いにまた同じ呼び方とか接し方がしたいって思えたなら、きっとまた出来るよ』

 

だからなのか。私は、"容疑者"として見るよりも先に、ただ悩んでいる子として、彼女を見てしまった。拙くても、腹を探るより先に言葉をかけたい気持ちが先行してしまった。この子もまた、悩み、悔やみ、悲しむ人間だと言うことに変わりはないのだと。

 

『全部、私個人の経験則みたいなものだから、アレかもだけど』

 

もし、不運な巡り合わせにあったのなら。

どうか気に病まないでほしい。そう思わずにはいられなかった。私だって、そうだから。

 

『過去を否定するようなこと、しないであげて』

 

「……過去」

 

押し殺すような声色の末尾は、ひどく掠れていた。彼女の脳裏に、今どのような記憶が映っているのか。分かるのは、ただの穏やかな別れではなかったであろう事のみ。

 

『どんな過去でも、それが自分を形づくっているって事に変わりはないの。だから、無理に否定しようとするのは、難しいと思う』

 

ああ、何故だ。どうして。

なんで彼女の瞳は─────正解を探そうとする、年相応の少女のそれなんだ。

そんなに揺らぐ色で、見つめ返してくれるんだ。

 

「……………だったら、いいな」

 

木々の隙間から差し込む青空を仰ぎ、ポツリと呟く彼女の姿。

 

「もし、本当にそうなれたなら……どれだけ素晴らしいことだろうな」

 

憂いを帯び、どこか諦めを含む笑顔。

まだ彼女が"裏切り者"だと確定している訳ではない。ここから、完全にシロだと叫べる証拠が見つかるかもしれない。

けれど……まだ疑いをかけ続けなくてはならないこの段階で。この先の可能性を考えると──────ひどく、心が軋む。

 

「セラ。望むなら……そう望んで行動を続けたなら、いつかは叶うと……信じているか?」

 

『うん』

 

迷いなく即答した私に、彼女は微かに息を呑む様子を見せ、重々しく口を開く。

 

「vanitas vanitatum……全てが虚しいと……たとえ神に言われたとしても、そう思い続けるか?」

 

知らない言葉。恐らくは古代語。後に続けて放たれたのが、その意味だとして。それは途轍もない程冷たく、否定の意に満ち満ちている。

数ある中の1つの考え方としてはアリかもしれない……だがどうにも、彼女にとってはそれ以上の何かがある気がしてならなかった。

 

でもそのことを問うには、まだ早い。

さすれば、シンプルに私も私自身の考えを示すしかない。

 

『私は、全てに意味があるって信じたい』

 

こちらを向く薄紫の双眸が、小さく見開かれた。

足元に広がる、二人で苦労して綺麗にしたばかりの地面と、山積みにされた雑草を見下ろして、私はもう一度画面に文字を走らせる。

 

『少なくとも、今日だって。いつかまた草は生えてくるけど。だからといって無駄じゃない。こうして、一緒に話せてること自体が、既に私にとっては意味があるから。だから全部が全部無駄なんて、思わない』

 

「……そうか」

 

穏やかな、それでいて、どこか不器用さを感じる一言。私の言葉が彼女の内でどのように受け取られ、解釈の糸で編まれ、反芻されているのか。数度の瞬きを経て、次の言葉が紡がれるまでには幾ばくかの時を要した。

 

「私は……私はな、セラ。虚しくても、それでも、諦める理由にはなり得ないと……信じてる」

 

飲み込みの果てに返ってきたのは、彼女自身の内に秘めていたであろう強さであった。手放しに賞賛したくなるほどの、尊敬の念をも起こさせる、凛とした確固たる表情。

 

『いいね。それ』

 

無意識のうちに、肯定する私がいる。

仮面の奥で、目元を綻ばす私がいる。

どことなく、彼女にシンパシーを感じる私がいる。

 

そしていつしか、"その時"が来る事に酷く怯える、私がいる。

 

ねぇ、ラナ──────彼女は本当に、ただ、ティーパーティーの人が言うような"裏切り者"なのかな?

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

「……とまぁ、そんな所になる。君の懸念していた点はおおよそハズレと見ても良さそうだ」

 

「私は……何も言っていませんが。しかし、まだ油断はできません。確定する迄は完全にマークを外す事はなさらないようにと、彼女にもお伝えください」

 

「了解した。ところでだが……そちらに動かせる駒は幾つある? 」

 

「……どういうお考えで?」

 

「いやなに、こればかりはどうにも私の力だけでは手に入れられない情報だ。なにせアナログだからな。それに、面倒はなるべく避けたい」

 

「そうですか……なら、どうぞ。仰ってみてください」

 

「白州アズサの転校元。もとい、担当した者についての情報だ」

 




私はクレイモア撤去の経験無いので、これで合ってるのかは分かりません。
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