M県S市杜王町。僕が住んでいる場所だ。
そしてこの僕は――――
―――宮本輝之輔。『エニグマ』のスタンド使いだ。
◇
「お前が、空条承太郎共を始末するのじゃ!分かったな!?」
「……あぁ」
この奇妙な喋る写真のおやじは、スタンド使いであり、幽霊であるらしい。そのおやじ、吉良吉廣とその息子、吉良吉影―またの名を川尻浩作―の、親子から『空条承太郎』とその仲間の始末を指示された。
この写真のおやじから矢で貫かれたその日から、スタンド使いになり、おやじと共にスタンドの研究やら目的やらでお互いに知り、今は協力関係にある。……そう思っているのはおやじだけ、だがな。
僕の生き方に『スタンド』は不要だ。こんなもの『安心』から遠ざける不安要素に過ぎない。だが、コイツの顔はまるで自分自身のように見えて憎みきれない。
そして、吉良親子の目的―息子の『平穏な生活』を守るため、自分自身の『平穏』と『趣味』を続けるために空条承太郎、その一派を殺害する―は、僕の生き方に相容れない。
だが、僕の生き方は気づかれてはならない。ヤツらもきっと『平穏』のため、不安要素は確実に潰すために何がなんでもするだろう。
警察も、自衛隊も、国も、相手にできないだろう。スタンドの力によって。なら、空条承太郎は?それもありえない!どちらが勝つかは分からんが、きっと僕は巻き込まれるだろう。スタンド使いの力を借りたいとか言って。
いくら、この杜王町にいるスタンド使いの顔と能力を知っていたとしても、きっと僕だけじゃ悪にも正義にも勝てない。
だから―――僕は、どちらにもつかない。
…が、どちらにもなれるように小物らしく振舞おう。だろう?『エニグマ』、キミもそう思うだろう?
「その前にひとついいですか?」
「なんじゃ?」
◇
「はーい!どちら様ですか?」
「東方仗助くんのクラスメイトです。どうやら彼、プリントを忘れていったみたいで…」
「あら、そうだったの!わざわざありがとうね!そうだわ、仗助が帰ってくるまで上がっていったら?」
「良いのですか?」
「いいの!ほら、上がって上がって!」
「では、お言葉に甘えて…」
この方が東方仗助の母親、東方朋子…か。
快活ながら愛情深く、その愛を持って東方仗助を祖父、東方良平と共に育てる。が、片桐安十郎の手によって死亡、悲しみにくれるも立ち上がり前を向き、女手ひとつで東方仗助を育てている。
この人が母親ならば、平凡な日常が楽しくなるだろうな。とても『安心』できそうだ。
心は痛むが、東方仗助…恨むなら吉良吉影を恨むんだな。
「ただいまー…まだおふくろは帰ってきてないのか?」
自宅に帰ってきた東方仗助は自分の母親がまだ帰ってきていないのを確認する。
しかし、どことなく漂う紅茶の香りに人がいるような気配を感じさせた。それに――
「誰の靴だ…?」
「待っていたよ、東方仗助」
「うわッ!?誰だお前ッ!?」
声のした場所を見れば見知らぬ人物がいる。歳の頃は同い年だろうか?見慣れない制服に、白髪のはねた髪。最近、スタンド使いの奇襲の多さもあって警戒心を露わにする。
「僕は宮本輝之輔。君の母親はちょっと用事があったみたいで外出している。」
「そんな話誰が信じるんだ?テメーが家にいる理由にもならねえーよなぁ?」
「ま、そうなるわな…。僕は君にプリントを届けに来ただけなんだが、君が帰ってくるまで上がっていて欲しいと言われてしまってね。無げにもできず留守番も頼まれているってとこだ。」
「……。」
「まあ、君が警戒する理由もわかる。『スタンド使い』との戦いは不安だろうからね。」
「ッッ!テメェッッ!」
敵か!素早く身を乗り出しスタンドを出すも
「これがッ!クレイジー・ダイヤモンドか!素早しい!強い生命力を感じるッ!とても『安心』するフォルムだ!!」
なんだコイツは?敵対視しているどころか…褒めているのか?スタンド能力を使っている訳でもない…この時、東方仗助は疑問を浮かべ動きが止まった。
「能力は『治す』ことッ!それが有機物無機物関係なくなんであれ!だが、失われた魂は戻らない。だからこそッ!命の大切さを知ることができるッ!汎用性も抜群!パワースピード申し分無し!ルックスも実にクールだ!COOLだよ!なんてスタンドだッッ!どれ、触れてみるとしようッ!」
興奮した様子で、宮本輝之助はクレイジーダイヤモンドに抱きつく。
「ッッ!!?何すんだテメーッ!」バゴォッ!
その突拍子もない行動と気持ち悪さから思わず一発ぶち込んでしまう。
「イっっだぁ〜〜〜〜ッッ!!!うぐぐ、ぐぅ〜〜っ痛〜〜ううっぐほうぇ〜〜〜!」ゴロゴロ
たった一発叩いただけで、倒れ転がりこんでしまった。本当に敵なのか?まだ、安心はできないがここまで痛がられると流石に罪悪が湧いてしまう。
「い、痛いよ…痛いよ…涙が止まらなイィィ〜〜〜不安だよ〜〜悲しいヨォ〜〜…」
「あー…な、なんか悪かったスね…ほら、もう『治した』から痛くないっすよ」
「……厶。本当だ。痛みが消えている。急に抱きつくような真似をして済まなかった。」
「いや、オレも急に攻撃してしまった悪かった」
「…少し話をしないか?君の母親が帰ってくるまで」
「まあ、少しなら」
少し、いや、かなり頭がブッ飛んでるこいつは少なくとも、吉良のおやじから来たスタンド使いとは思えない。パンチ一発で転がるほどマヌケだが、どうも悪いやつに見えない。話を聞くくらいなら良いか。だが、用心するには越したことはないだろう。仗助はそう考えた。
「所で、君の髪型だが…」
「あ?」
「クレイジー・ダイヤモンドにもその髪型にできないかな?かなりイケてる髪型だからスタンドも似合いそうだと思ったのだが…」
「え〜〜!ホントっすか〜〜!?」
「あぁ。とても気合いが入っていて俺は好きだぜ。是非、スタンドにもその髪型をオススメしたい。絶対似合うだろう。」
コイツは良いやつだ。そうに違いない。仗助は考えを改めた。
◇
「…それじゃあ、確かに。プリントは渡したよ」
「ああ、サンキュー」
話というのは、プリントを渡しに来ただけだったらしい。なんだが、ますます攻撃してしまったことに申し訳なく思う。
「それじゃあ、仗助くんも帰ってきたわけだし、僕はそろそろ…」
おいとましよう。と言いかけるか、かけないかの時、
「あー…もうちょい、いて欲しいっつーか…。ほら、おふくろが帰ってきたらその時にでも挨拶はしたら良いだろうしさ!」
罪悪感もあってか、もう少しもてなしたいという気持ちが言葉に出る。そんな気持ちを察してか知らずかソイツは微笑みながら
「…分かった。お言葉に甘えてもう少しお話しようか?」
そう言われて。ほっとした。
「さて、仗助くんも知ってる通り、僕はスタンド使いだ。スタンド名はエニグマ。紙の中に物を閉じ込められるスタンドさ」
そう言うと机の上にあったティーカップを紙で挟むと、ティーカップがまるで無くなったかのように、紙が折りたたまれる。
「ほら、ティーカップはこの通りさ」
挟まれた紙が開かれるとティーカップの絵が移っている。
「更に絵に触れると…」
手のひらが絵に触れると、ティーカップはまた現れた。何とも応用の効きそうなスタンドだ。『クレイジー・ダイヤモンド』の事を汎用性抜群と言っていたが、『エニグマ』も中々のものだ。敵だったらと思うと厄介この上ない。
「それってよォ〜、でかいものも閉じ込められるのか?例えば…テーブルとか。」
「ああ、お安い御用さ。ちょっと離れて。」
そう言うと、先程と変わらない大きさの紙をテーブルの角を挟みこんだ。すると、テーブルは最初から無かったかのように消えてしまった。
「ほら、見ろよ」
そう言う彼の持つ紙には、先程のテーブルの絵があった。
「色々と試したが、鉄パイプやタンクローリー、果てには家までもが適応できた。…その分、スタンドパワーは消費してしまうがな。凡そ何でも紙に閉じ込められると考えていいな」
「スゲー能力っスねぇ」
「お陰様で教科書もこの通り」
「紙の中に全部あるのか!ちょー便利じゃねぇっスか」
「忘れ物に困ることは無くなったよ」
「まるで、四次元ポケットみてぇだな〜」
「オイオイ、エニグマって呼んでくれよ。『ドラえもん〜』って呼ぶんじゃあないぞ。」
そう言う彼のスタンドは彼の肩に抱きつきながら少し不満そうで泣きそうな表情をしていた。
「わかってるよ。」
そう言うと、どこかホッしたような安心した表情を出した。自我があるスタンドなのだろうか
「……それでだな、人も紙に閉じ込められる。無論、危ない時に包めばケガもなく助かる訳だが…」
「紙を破ったりして壊せば、中の物も壊れる。人間も例外では無い」
「!」
「さて…先程渡したプリントだが…その中には何が入っていると思う?」
「…テメェ、まさか…」
「そう、そのまさかさ。誰とは言わないがね?」
真っ先に思い浮かんだのは母親だ。つまり、自分は罠にかけられたのだ。
「ならお前を叩けば…」
「おっと!紙の中の物は僕にしか取り出せないよ。それに、僕を攻撃したとしても能力は解除されない。下手をしたら破れるかもよ?」
「クソッ…」
ここまで用意周到に追い詰められるとは思わなかった。どう切り抜ける?どうやって、ヤツをこの紙に触れさせる?
「その紙の中の物を賭けて、ゲームをしないか?東方仗助。」
「はァ?」
「ルールは簡単。」
そう言うと、ヤツはテーブルをなぞるように手のひらを這わせて、次々にティーカップを出現させた。
「このティーカップは先程飲んでいた紅茶と全く同じもの。ただし、5つある内1つは『毒入り』だ。」
「お互いひとつずつ、紅茶を飲んでいく。その中で、コレだと思う『毒入り』の紅茶を当てられたら君の勝ちだ。そして『毒入り』紅茶を飲んだら負け。最後に『毒入り』紅茶が残っても君の負け。あぁ、安心していいよ。毒は即効性。呼吸器にダメージを与えて窒息させる。」
「僕が死ねば…きっと能力は解かれるだろう。だが、君が死ねば―――
―――――吉良吉影には二度とたどり着けない」
「グレートっすよ…コイツはァ…!!」
東方仗助には悪いが、これは勝負ですらない。単なる暇つぶしだ。さぁ、その血の運命を見せてくれ。
でなくば、『安心』など出来はしない。
◇
「先手は譲るよ東方仗助」
「いいんすかァ?後で泣き言を言っても聞いてやらないからな!」
とは言うものの、どれが毒入りか分かんねぇ!香りも匂いもまるで同じ!ティーカップまで同じもの!
「もう少し話に興じろうか」
「ひとつひとつが似ていても、ちょっとした時の流れで大きく変わる」
「エジプトの暑い中で、水で溢れかけているコップの下にあるチョコレートが溶けて、表面張力が変わるように」
「触れてみてから気づくことだってある…失ってから初めてわかることだってあるんだぜ」
…今、微かに紅茶の香りが変わったような気がした。いや!確実に変わった!アップルティーからレモンティーに変わったような香りと色だ!
「コレだッ!」
ひとつ手に取りぐびりと喉に入れ込む。
「………グレート、どうやら毒はないみたいっすね〜」
「おめでとう。だけど、何も毒入りは変化しないとは言っていない。」
思わず、吹き出しかけてしまう。
「テメッ!?」
「早とちりをするんじゃあない。結果的に良かったがこれが毒入りなら?…これが、爆弾だとしたら?矢安宮重清くんがその被害者だったんだ」
「…クソ野郎が」
「いいか、これは忠告だ。これ以上、大切な物を失いたく無ければ頭を回転させろ」
ヤツはそう言うと、ティーカップを見回しながら、ひとつティーカップを口につける。毒入りであることを願ったが――
「うん。悪くないな」
「そのまま、毒入りを飲んでくれたら嬉しいんだけどなぁ〜?」
「残念だけど、そうはならないさ」
ティーカップは残り3つ。
「このティーカップを飲む、壊す、零す以外なら何をしてもいい。次いでに僕にも攻撃してはいけないからな。ルールを守ってくれないと安心できない」
「チッ!ンなこと分かってんだよ!」
ひとつひとつ、ティーカップを持ってみる。回してみたり、匂いを嗅いでみたり、よく観てみたり、形を触って調べたり、なんならソーサーをひとつ触ってみたりした。
結果的にわかったことが1つだけあった。
ソーサーの裏にホクロのような点があるのが1つ見つかった。果たしてこれは毒入りなのか?分からない。
「吉良吉影は川尻浩作だよ。東方仗助」
「何ッ!?」
「あの時、エステシンデレラで無くなった人物だよ」
「何故そこまで喋るんだ?」
一周回って冷静になってきた。少し整理を始めよう。
「別に…東方仗助、君が死ねばこの情報は約立たずになる。言わば、冥土の土産ってヤツかな」
「なら俺が生き残れば、活きた情報になるってワケだな」
ソーサーの裏の点はどうもマジックで書いてあるようなものだった。わざわざこの場まで設けたヤツがこんな事をする意味は?ワザととは考えにくい。
「吉良…川尻浩作は、あの弓と矢を所持している。スタンド使いを増やし、スタンド使いでの騒動が隠れ蓑となる。…それだけが弓と矢の使い方ではないんだがね」
「他にも何かあるような言い回しだな」
ヤツはいった。紅茶を飲む。ティーカップを壊す。紅茶を零す以外は何をしてもいいと。
「あの弓と矢…性格には、矢が、スタンド使いの本質と資質を剥き出しにさせるのだよ。」
「本質と資質?」
「"精神力"と言えばいいかな…。人間の中の未知なる可能性と願望を精神力を糧に、引き出し実現させてしまう」
クレイジーダイヤモンドを出現させる。覚悟の準備は整った。
「簡単に言えば、川尻浩作は矢の力によって時を戻す事ができる」
「ッ!?クレイジー・ダイヤモンド!」
紅茶の中身を全て『戻した』。そこから現れるのは、水と茶葉。その内のひとつが白い団子のような何か。空かさず、スタンドでカップに入れる。一滴も零さないように確実に。
「やっぱりこのカップが毒入りのようだなぁ〜!あの時、このカップだけ見る時間が長い気がしてたんだよなぁ〜!」
全体を見回した時、視線はこのカップに注がれていた。それを裏付けるように
「このソーサーの裏の点!これが毒入りの証拠だぜ!」
「なるほど。流石に簡単すぎたかな」
「ああ、俺の勝ちだ!とっとと「ただいま〜」ッ!?」
「あら!宮本くん!帰ってても良かったのに!」
「ああ、せっかくなら東方仗助くんを待ってみようかと。何かと世間は物騒ですからね」
お、おふくろ!?なんで…じゃあこのプリントは!?
「それじゃあ、僕はこの辺でお暇しますね。」
「また来なさいな!仗助見送ってやりな!」
「……わかった」
◇
「今日は楽しかったよ。仗助くん」
「テメェ…一体なんのつもりだ?」
この男が分からない。コイツのスタンドならおふくろを人質にしてもいいはずだ。他にも悪用は出来たはず。
「忠告しに来た。これから先も、川尻浩作を追うつもりならこの僕を倒していけとね」
「ま、ちょっと簡単すぎた気もするが君には良い試練になったんじゃあないかな?」
「…かもな」
吉良吉影とコイツのスタンドの能力は似ても似つかないが、危機感は勉強させてもらった。これから先、更に覚悟が必要になるかもしれないと。
「それじゃあ、最後に握手をしようぜ。和解と友情にな」
「ああ…勉強になったよ。宮本輝之輔」
「ああ、僕もだよ東方仗助。君みたいな人が友達なら『安心』するよ」
握手するには似つかわしくない、くしゃりとした音が握り込まれた。
◆
宮本輝之輔の手に持たれているのは3つの紙。あるいは札と言えるもの。
ひとつは、『東方仗助くん』と書かれているもの。
ひとつは、『東方朋子さん』と書かれているもの。
もうひとつは、『クソッタレの吉良吉廣』と書かれているもの。
「次は、杜王グランドホテル?ぶどうヶ丘高校?悩ましいな」
だが、自分にとって脅威のうち幾つかは手の内にある。幾分かは『安心』するが心許ない。
「やはり、川尻浩作と空条承太郎。この2人を抑えないと『安心』出来ない。それに…」
原作を知ってしまったからこそ変質したスタンド。変わってしまったスタンド、『エニグマ』
悪の道も正義の道も安心出来ない。平凡で何も無い日常こそが黄金のように輝いているのになぜ気づかない?
けれど、東方家には申し訳ないことをした。危険から遠ざけるには紙にするしかないと思った。とても好いてしまった。守りたかったんだ。
吉良吉廣は封印も兼ねてだ。紙さえ壊れてしまえば何時でもコイツは死ぬ。
「まずは顔合わせからだ。君もそう思うだろう?エニグマ」
目的地は杜王グランドホテル。
歩みを進める白髪の少年の隣には、微笑みを浮かべるスタンドがそばに居た。
転生:宮本輝之助【転生:エニグマ】
破壊力E スピード E 射程距離 E
持続力A 精密動作性 A 成長性 E
能力:対象を紙に封印する能力は変わらず。人の場合、宮本輝之輔自信、もしくは宮本輝之輔の事で安心感を得た場合に封印可能。1度でも安心感を出してしまえば何時でも封印可能である。代わりに、スタンド自身の射程距離はなく、宮本輝之輔に引っ付かなければ顕著はできない。また、スタンドその物すら封印できる模様。
本体の精神が狂った分、紙に封印する1点で突破したイメージ。
実際、出会って警戒し続けてドララしておけばK.O.されるだけの存在だが嘘と真実を交えて喋った結果、仗助くんは騙された。