壊れていく友達をただ観ていたい。
昔書いたものの供養です。
続きません。
「 志貴」その名前を聞いて、
僕「
それまで何か違和感のあったセピア色の生活が一変した。
僕は物心ついたときにはもう前世の記憶があった。前世の記憶をフル活用し、勉強や人付き合いなどはよくできた。
······けど何かおかしいことに早くに気づいた。
この世界は僕の死んだ時と同じかそれより前であることに······
そこからは前世と今世の違いを探した。
しかし、これといった違いが分からなかった。
少し地名が変わっていたり、大きな事件•事故が変わっていたりしたが、特に気になるところはなかった。
そんな僕に転機が訪れたのは高校2年生になったときだ。
「 志貴」
クラスの名簿でその名前を見たとき、僕はその瞬間から人生が始まったと思った。
前世の記憶を持ち、創作の世界へと迷い込んだ僕の存在意義をさがす旅の人生が。
都立総耶高等学校。特段目立ったことのない平凡な高校に通っている。
今朝はどうも慌ただしかった。
職員室の教師陣が青い顔をして走っていった。
駐車場に止まっている、いつもはない黒い車。······まるで霊柩車のようだった。
僕のいる2-Cは比較的仲の良いクラスだ。目立っている不良みたいなのが1人いるだけで、ソイツも悪いヤツではないし、なんなら友達だ。
まぁ······1人とんでもないのがいるが······
「チィース!おっはよー!眼鏡くん!」
「······はぁ······朝からお前の顔見てげんなりするわ」
「なに!!中学からの
「木崎くんおはよ、ほんとにあの2人仲いいね」
「······
弓塚さつき、
遠野志貴に淡い恋心を抱いている女の子だ。
彼女がクラスにいるか、いないのかでどっちのルートにいるかが分かる。
「······というか珍しいな。おまえが朝から出席するなんて。夜型のおまえらしくないぞ」
「オレだってそう思う······今日は珍しく目が覚めたんだよ。けど街で時間潰そうにも最近物騒だしな」
「物騒······?」
「おう。遠野だって知ってんだろ、例のアレ」
「通り殺人事件だよね、乾」
「あぁそうだ。やっぱ木崎はニュース見てるよな」
「うん。それになんか被害者の全員に共通点があるんだったよね?」
「ああ、全員の喉元にバツ印があるとかないとか」
「そんなんだったね」
「違うよ、2人とも。殺されちゃった人はみんな血が著しく失われてる、だよ」
僕たちの声が大きかったのか、弓塚が訂正してくれた。
「そうだったそうだった。現代の
サンキュー弓塚、オハヨウサン!」
その後も細かい被害者の話をしたり、
弓塚が遠野に褒められ照れていたり、遠野の貧血を心配したりした。
その会話混じりつつ、密かに胸を高鳴らせていた。
僕の人生がもうすぐ始まると。
その日担任の戸山先生は来なかった。
······もう殺されてるのだろう。
放課後、もう帰れるというのに憂鬱そうな表情をして夕焼けを観ていた遠野の顔を見て、「じゃあまた明日」と言って帰った。
死を連想するような色が苦手なのに、
血のような真っ赤な夕焼けを見て気分が悪くなっているのが少し滑稽だった。
彼は今日寄り道せず新しい豪邸へと帰るのだろうか?
この「遠野志貴」はどんなルートを辿るのか、楽しみだ。
欲を言えば、月のお姫様を迎えに行って欲しい。
そして、別れることなくずっと暮らしてて欲しい。
ただの部外者で月姫好きな人の意見だけど、それを応援したい。
それができないと、異物がここにいる理由が何一つとしてないのだから。
次の日の朝も慌ただしかった。
担任の戸山先生が今日も来なかったため、
新任のノエルという先生が来た。
いかにも高校生が好きそうなお姉さんだったが、
原作を知っている身としては全くお姉さんという感じではないことが分かっているが。
「死にたくない、殺されたくない」という考えが彼女をずっと突き動かしている。
そのために弱い自分ができることを必死にしている姿は尊敬できるが、その他がダメすぎる。
「好きな高校生のタイプは!?」
「彼氏はいるんですか?!」
動物園のようなHRの喧騒のなか自分に残っているノエル像を思い出していた。
······ノエル先生から視線を感じるが、それを無視して眠ることにしよう。
そうこうしてるとお昼になり、
購買でパンを買ってきた遠野といっしょにご飯を食べ、昨日遠野の家であった出来事や愚痴を聞いた。
どうやら遠野は寄り道して帰り、それで妹の秋葉からお小言をもらったらしい。
それを他人事感満載に笑ったら、遠野は少し不機嫌になった。
その後に弓塚の
放課後、いつまでもうるさかったクラスの男子たちにうんざりしながらも、
張り込むために帰る準備をした。
そして、遠野や乾、弓塚さんに挨拶して教室を出て、
廊下の角の柱にもたれかかり携帯をいじるふりをしつつ、
人がいなくなり遠野が出てくるのを待った。
「あら?まだ帰られないの?木崎クン」
「ノエル先生こんばんは。いえ、もうすぐ帰ります。
少し家族に連絡してから帰ろうとしてたららこんな時間になってました。さよなら」
「ええ······さようなら」
タンタンッっと少し大袈裟なほど音を出して階段を少し下り、静かに同じ位置へ戻った。
帰るはずがない。
すると、タイミング良く、遠野が思案してそうな顔をして教室から出てきた。
「······まぁ確かに美人だよな、ノエル先生」
まあ、顔はね。
「あ、いたいた。志貴クン、ちょっといい?」
遠野の顔がビックリしてて笑える。
「何かいけないコトでも考えてたの?すごいビックリしたって顔してるけど」
「い、いえ。そういうワケでは······あの。ところで何のようでしょうか、ノエル先生」
「······先生って言われるのいいものね。先輩よりもずっといいわ。貴方みたいな純朴な子に先生って言われると、なんだか背徳的でドキドキしちゃう」
この人先輩でもいけるって思ってたのか?流石に無理じゃない?······それとも
「は?······ノエル先生······?ち、近くないですか?」
遠野が呆気に取られてる間に距離を詰めていた。
そして、流れるように遠野の手を取った······首を見せつけるように視線を誘導していた。
「警戒しないで。
······指と指を重ねるだけ。体温を伝えるだけ。
······貴方に私を、食べてもらいたいだけ······」
女と男は恋人かと見紛うほどに密着し、女は男の視界を首に釘付けにした。
「貴方を忘れて······邪魔なものはぜんぶ取って······建前も、その眼鏡も──全て······」
女はまるで獲物を捕まえる蛇のようだった。蛇に捕まった餌のように男は······
タンッ!!
男は、遠野は思いっきり後ろに飛び退いた。視たくないものへの恐怖心が伝ってくるほど本気で、
「なーんて♪ジョウダンでした♡日本でいう名刺交換ってやつね!」
絶対に違います。
「冗談って······で、用はなんですか?俺を探してましたよね?」
「あーそれはもういいかな。もう終わったし。
それじゃあ、さようなら志貴クン。
ノエル先生は手を振りながら、僕のいる来た道へ歩いてきた。
僕は体を隠しつつ感覚を研ぎ澄ました。
······さあ、遠野、
「ノエル先生············戸山先生みたいにって······?」
この質問はしなくてもいい。だが、この「遠野志貴」を知るには重要な質問だ。
「好奇心は猫を殺す」
この遠野は好奇心が強いらしい。
僕はそれが知れて満足だ。
この後の行動の予測がたてやすい。
その後戸山先生が昨日死んだこと、
体の半分が焼け落ちていたことがノエル先生から伝えられていた。
遠野はまともな反応ができないまま、
普通の高校生が受け止められるような内容ではなかったし当然だが、
これから人ではなくなっていく「遠野志貴」の人の部分が見られて本当に良かった。
······あとはめんどくさいのを処理して帰ろう。
「あんまり高校生が探偵みたいなことしちゃダメよ?」
「探偵?······ああ、そんなんじゃないので、どうかお気になさらず」
「ずっと私と志貴クンのこと見て、貴方は何がしたいの?」
「······貴女のことではありませんが、
僕は、僕はただ観ていたいんです」
「?何を?」
「僕の友達が壊れていくのを」
そう言い、僕は少しだけ魔術回路をオンにした。
「······貴方は何を知ってるの?少し
「いえ、何も知りませんし、これはただ自衛するためのものです。僕は関わりたくはないんです······ただ、ほんとうにただ観ていたい」
熱に浮かされているような、そんな感覚があった。
このシスターには言っていい。特段害はないとそう思ってたからなのだろうか。
それか、「 志貴」の話ができる人をようやく見つけられた興奮のせいなのか。
魔術が扱えることを見せる必要はなかったのに見せたのも、そのどちらかが原因だろう。
「······そう、まあいいわ。私の害にはならないだろうし······
──でも、木崎クン、貴方はやっぱりおかしいよね」
「そうでしょうか?彼を観ていたいというのは間違いでしょうか?」
「······貴方は······志貴クンのこと、どう思っているのかしら?」
「人間らしい人間です······それでは用が済んだので帰ります、さよなら」
「あ、ちょっ······!······何あの子怖」