フラガとか聞いてない   作:もう何も辛くない

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~祝~SEED FREEDOM ZERO劇場公開決定!





PHASE41 解放の末に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩山を穿って建設された地球連合軍基地から続々と出撃してきたダガーLが上空を埋め尽くす。基地の頭上、岩山の上では渓谷全体を睥睨する問題の陽電子砲ローエングリンが覗く。

 

 先行するミネルバから出撃したハイネのグフ、そしてルナマリアとレイのザクがデズモンド、バグリィからも次々と射出されたモビルスーツを率いて前方の地球軍モビルスーツ隊を迎え撃つ。

 

 やがてミネルバが上昇して前に出ると、モビルスーツ同士が砲火を交わすよりも先に艦首を開いて巨大な砲口を露にする。タンホイザーの発射態勢を取ると、自軍のモビルスーツが各々射線に巻き込まれないポジションを確保してその場で待機する。

 

 ミネルバの発射態勢に気付いたのだろう。その時、ダガーL隊の前面に異様な機体が躍り出た。ずんぐりとした胴体からダガーの上半身が突き出し、一対の翅のようなスラスターと六本の脚部─────昆虫を思わせる形状をしたモビルアーマー、YMAG-X7Fゲルズゲーだ。

 

 ゲルズゲーが前方へ突出した直後、タンホイザーが臨界し、白い閃光が迸る。全てを呑み込む光の奔流はゲルズゲーの巨体を包み込み、凄まじい爆発を起こす。ミネルバの巨体でさえ叩きつけられた爆風に煽られ、大きく揺らぐ。ハイネは機体の体勢を低く、爆風に吹き飛ばされないよう岩に身を寄せながら射線の様子を窺う。当然彼もミネルバのスペックは頭に入れており、タンホイザーの威力についてもそれは例に漏れない。しかし実際に目の当たりにすると、ここまで凄まじいものかと驚きを隠せなかった。

 

 だがそれ以上の驚愕が程なくして訪れる。視界を覆っていた砂嵐が晴れると、そこにはゲルズゲーが無傷で滞空していた。陽電子砲すら防ぎ切る防御機能を持つ地球軍のモビルアーマー─────すでにその性能を知っていたにも関わらず、ハイネは愕然とした。

 

 ─────こんな化け物をどうやって倒したってんだ、シンの奴…。

 

 一瞬の自失の後、ハイネはすぐに気持ちと思考を切り替え指示を飛ばす。

 

「行くぞ!敵モビルスーツ隊もできるだけ引き離すんだ!」

 

 強烈な先制パンチを完全に防がれたように思える一連の攻防だが、実の所ここまではザフト側の作戦通りに進んでいた。無論タンホイザーでモビルアーマー、モビルスーツ隊を薙ぎ払う事が出来たのなら最高ではあったのだが、防がれるという前提でハイネ達はこの戦闘での作戦を立てていた。

 

 モビルスーツ隊をタンホイザーで掃討すると見せかけつつ、真に意図したのは噂のモビルアーマー、ゲルズゲーを最前線に誘い出す事だったのだ。敵の戦力を前線へと引き込み、基地、そしてローエングリン周囲の守備を手薄にする─────それこそが、今回の作戦に於けるハイネ達の役割。

 

 眼前のダガーL隊が一斉にミサイルを撃ち出し、周囲に着弾して炸裂する。ハイネは機体を飛び上がらせながら、同時にこちらに向かって来たミサイル群をすり抜けて上昇。右前腕を突き出し、ドラウプニルを発射して近付くミサイルを撃ち落としていく。ルナマリアとレイもハイネ同様、放たれたミサイルに上手く対処していた。今度はこちらが反撃する番と言わんばかりにハイネが武装を抜こうとしたその時、敵モビルスーツ隊が一斉に左右に分かれた。

 

 視界が突然開かれる。その向こう側、岩山の上に覗く砲台を見てハイネは何かを考える前に叫びを上げた。

 

「避けろッ、ミネルバ!」

 

 真っ直ぐに上空のミネルバへ向けてローエングリンが向けられる。これがこの作戦の最悪のリスクだ。陽電子砲を持っているのはこちらだけではない。だがそれに対応し得る盾を持っているのは敵側だけ─────対処の方法は回避のみ。直後に放たれた砲撃に対し、ハイネに出来る事はミネルバが避けてくれるよう祈るだけだった。

 

 ミネルバが艦首を下げ急激に下降する。白い光条は艦橋の上を抜けていき、砂地を掠める程に下降した船体は何とか地面に激突する事なくギリギリの所で浮上する。

 

 敵の必殺の一撃を回避する事に成功した─────が、それに息を吐いている暇など彼らにはない。

 

「っ、()が下がる!ルナマリア、レイ!」

 

『分かってます!』

 

 見ると、ゲルズゲーが後退しようとしていた。二発目のチャージを始める陽電子砲の防衛へと向かおうとしているのだろう。ハイネが呼び掛けながら機体を前進させると、返答をしながらルナマリアが、返事の声を上げるよりも先にレイが続く。

 

 ルナマリアのザクがオルトロスを腰溜めに構えて放ち、ダガーLを数機薙ぎ払う。レイは背部のポッドを開いてミサイルを放ち、敵のミサイルを払って道を作ると、そこにハイネのグフが躍り出る。テンペストビームソードを抜き、迎え撃とうと前に出て来る二機のダガーLを一機、返す刀でまた一機と斬り払う。

 

 ザフトと地球軍、互いの必殺の一撃を撃ち合うも決するには至らなかった戦いはモビルスーツの混戦へと移る。先行するハイネ機、ルナマリア機、レイ機の後に続いてバクゥ、ガズウート、ジンウォーカーがダガーL隊と交戦を始めた。

 

「くそっ…!」

 

 何とかゲルズゲーの後退を止めたいハイネだったが、行く手をダガーLに阻まれ歯噛みする。その向こう側ではチャージ中の砲台が岩山の上に鎮座している。

 

 再びタンホイザーの発射態勢を見せて誘き出す事は最早不可能だ。ミネルバの前面ではすでに地球軍機と砲火を交わす自軍のモビルスーツが密集している。この状況では発射態勢がポーズであると悟られかねない。無論、そう簡単に二発目を撃てないのは相手も同じだが、ローエングリンはこちらの頭上で敵を見下ろす形─────撃ち上げるのと撃ち下ろすのでは、ましてや岩山に囲まれた渓谷の中でその二つの難易度の違いは明らかだった。

 

 モビルスーツ戦は現状ほぼ互角─────むしろザフト側が押しているといっていい。時間を掛ければ殲滅も可能だろうが、それでは意味がないのだ。時間が掛かれば当然、ローエングリンの二発目のチャージが終わる。そうなった時、また同じように躱せるという保証はない。

 

 ─────シン…!

 

 シンはまだ来ない。しくじってはない筈だが、果たして間に合ってくれるのか─────表情に焦りを滲ませながら、ハイネは新たに襲い掛かるダガーLをすれ違い様にテンペストで切り裂くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一筋の光も差さない暗闇の道─────コアスプレンダーが通るのがやっとという狭い坑道の中を、シンは手元のモニターに表示される3D画像を頼りに突き進んでいた。

 

 遠い昔に忘れ去られた坑道は岩山の中を貫いて延び、地球連合軍の砲台の下に直接繋がっているのだという。コニールから渡されたデータこそ、その坑道の構造を表したマップデータであり、今シンの手元のモニターに映し出されている3D画像の正体だった。

 

 本来この狭い坑道をモビルスーツが通り抜けるなど土台不可能な話だ。しかしそれがインパルスに搭載されていた合体システムが可能としていた。シンが操るコアスプレンダーが先行し、そこから発信されるビーコンに従ってチェストフライヤー、レッグフライヤーが正確に軌道を辿ってついてくる。合体前のインパルスであれば、この坑道を通り抜けられる。ハイネ達本体がモビルアーマー、モビルスーツ隊を引きつけて前面に誘い出し、敵砲台の真下からシンが飛び出して一気に砲台を墜とす─────それがハイネの作戦だった。

 

 が─────

 

「クッ…!」

 

 コアスプレンダーの翼端が岩壁を掠る。確かにインパルスならば通れるとはいえ、断じて容易い訳ではない。ほんの少しずれるだけでこれだ。そのずれが更に大きくなれば一溜りもない。

 

 岩の間からしみ出した水が滝になって流れ落ちる中を突き抜け、シンは汗が滲む手に全神経を注ぎ操縦桿を操る。データが示す通りならば、そろそろゴールの筈だが─────皆は果たして大丈夫だろうか。仮にシンがこのまま何事もなく坑道を抜ける事ができても、本隊が相手の誘引に成功していなければシルエット装備のないインパルスでは敵モビルアーマー、モビルスーツ隊を相手取るのは不可能だろう。それ以前に、敵の陽電子砲によってやられていないか、そちらの方が気掛かりだ。敵には陽電子砲に対する防御手段はあっても、こちらにはないのだから。

 

「─────いや」

 

 過る不安に対し、シンは考えを改める。仲間達が自分を信じて作戦に送り出してくれたように、今度は自分が仲間達を信じる番ではないか。皆は今も戦っている─────自分が来るのを待っている。そう信じた時、シンは胸の奥底から言いようのない力が湧いた気がした。

 

「っ、そこか!」

 

 データの入ったナビゲーションシステムが、不意に電子音を発し始める。出口までの距離は五百を切っていた。岩が崩れ落ちて塞がった出口に向けて、シンはミサイルを放った。

 

 前方の岩へ、データが示した出口を正確にミサイルが穿つ。瞬間、雪崩れ込んだ光を突き抜けて、コアスプレンダーが外へと飛び出した。続けざまに飛び出すチェストフライヤー、レッグフライヤーとシンは素早く合体シークエンスを進める。コアブロックが二つのパーツに挟まれ、両腕、両脚、頭部が展開する。

 

 シンが飛び出した地点は正に砲台の真下だった。周囲に機影は少なく、すぐに皆が頑張っているのだと悟る。

 

 急上昇して眼下に捉えた巨大な砲台へ向かって舞い降りるインパルスへ、対空防御用の砲座が向けられる。しかし無数の弾丸が放たれるよりも先にシンがビームライフルを抜いた。トリガーを引いて次々と砲座を潰していく。防衛の為に残っていた僅かなダガーLにもビームライフルを向けようとした時、シンは砲台のある崖下に特異な形状のモビルアーマーを見た。

 

 ハイネ達の攻勢から逃れて後退したゲルズゲーがインパルスの出現に気付き、ビームライフルを構えていた。素のインパルスはシールドがなく、ビーム兵器に対する防御手段がない。咄嗟にその場から退避しようと機体の姿勢を低くする。

 

 その直後、降り掛かる上空からのビームがゲルズゲーの狙いを妨げた。振り上げるシンの視界には、長大な砲塔を構える赤い機影─────ルナマリアのザクだ。彼女もまた、シンの出現に気付いており、フォローをすべく動いていたのだ。

 

 だが彼女()の攻勢はそこで終わらない。上空のザクに警戒を向けて見上げたゲルズゲーの足下から、今度は橙の機影が襲い掛かる。砲台の崖下から舞い上がるグフが、ゲルズゲーに防御の暇を与えずテンペストで装甲を切り上げた。

 

『シン、砲台が!』

 

「っ─────!」

 

 力を失くし、崖下へ落下していくゲルズゲーに目を取られかけた時、ルナマリアの警告が耳朶を打つ。シンがハッとして振り返ると、ローエングリンの砲台がゆっくりと基部の下に沈みかけていた。奇襲に気付いた敵が、砲台を収容としているのだ。

 

「くっそォォォッ!」

 

 ここまで来て、逃がしてたまるものか。ダガーLを撃ち倒しながら砲台へと急ぐ。途中で連射しすぎたライフルをチャージを待たずして投げ捨て、機体の腰部からアサルトナイフを取り出し突貫する。ただ前だけを見据え、背後の敵は仲間が何とかしてくれると信じて、シンは立ちはだかるダガーLを薙ぎ倒していく。

 

 砲台はすでに目前だ。それでも尚インパルスを阻もうとするダガーLにナイフを突き立て横合いに投げ捨てる。焦る視線の先では砲台が完全に収容され、その上のシャッターが閉まりつつあった。

 

 ただ走るだけでは間に合わない、そう察したシンは即座に砲台まで辿り着く事を諦める。だがあのシャッターが閉まり切る前に何としても─────機体を上昇させたシンは、腰部に搭載されたもう一本のアサルトナイフを取り出し、閉じかけていたシャッターの隙間に向かって投擲した。

 

 祈りながらアサルトナイフの軌跡を見つめ、シャッターが閉まる直前に中へと飛び込んだのを見届ける。息を詰めて見守る目の前で、少しの静寂の後に内からくぐもった音が響いた。直後、爆発がシャッターを押し上げ炎の柱が立つ。シンが投擲したナイフが砲台を捉えたのだ。爆発の勢いは留まらず、基地内部にまで影響を及ぼし誘爆を起こしていく。

 

 地球軍基地の陥落を見届けるシンの足下では、時を同じくして戦闘が終わりを告げていた。基地が墜ちたのを見て、戦闘の意志を失った地球軍兵士が投降を始める。その様子と、ゆっくりとこちらへ寄って来るルナマリアのザクを見止めたシンは、少しの時間を置いてようやく戦いが終わったのだと実感を抱くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わって尚、騒然は終わらなかった。基地の陥落を受け、ガルナハンの町中の人間が家を飛び出し、これまで町を支配してきた連合に対して反攻に出たのだ。連合が接収した建物には石が投げ込まれ、基地の陥落と住民の反乱の報せを同時に受け狼狽えるしかない兵士達は、安住だった筈の場所から引き摺り出される。住民達は奪われていた物資を奪還し、町のそこかしこで勝利の雄叫びが上がっていた。

 

 喜びに沸く人々の中心では、担ぎ上げられた小さな少女がいた。ミネルバから帰艦したコニールが、町の英雄として称えられ、肩車されて連れ回されていた。

 

 インパルスから降りてその光景を眺めていたシンは微笑みを浮かべる。コニールは年相応の無邪気な笑顔で、町の解放の喜びを分かち合っている。良かった、と心の底から思える、心温まる光景だった。理不尽な支配から逃れ、これからもきっと大変なのだろうが、この先の彼女達に幸があるようにと密かに願わずにはいられない。

 

 自分も、コニールや仲間達から受け取った思いに応え、責任を果たす事ができた。この笑顔に溢れる光景を守る事ができたのだ─────。これで終わりではない。まだ自分の旅路は続く。そうと分かってはいても、密かな満足感に浸るのをどうしても止める事はできなかった。

 

 ─────不意に聞こえて来た、()()が聞こえて来るまでは。

 

 沸く人々には聞こえていない。シンにすら、喜びの声に殆ど掻き消されて気のせいとすら思える程の小さな音。しかし微かな引っ掛かりを覚えたシンは、音が聞こえて来た方へと足を向けてしまった。

 

 一方が勝てば、一方は敗れる─────勝てば喜びを分かち合い、敗れれば苦しみを嘗める。戦いというのはそういうものだ。だが─────()()()()()

 

 町の広場では引き出された地球軍兵士が一列に並ばされていた。皆一様に跪き、両手を頭部の後ろにやって無抵抗のまま裁きを待つ。

 

 一人、住民の手によって撃たれた。銃を握る住民にも、周囲でこの光景を見つめる者達にも、その顔に一片の憐れみもない。命を奪うという行為に対し、忌避感も何もない。それがまるで当たり前かのように、自分は正しい事をしていると言わんばかりにまた一人─────。

 

「ッ─────!」

 

 住民が銃を構えて引き金に指をかけたのを見た途端、シンは何かを考えるよりも先に駆け出していた。自覚なく声を上げ、それに驚いた住民がこちらを振り向く。引き金にかかった指は幸い力が入る事なく、シンは銃を持つ住民の腕を掴んで背後へ回り込み、グッと手首を捻り上げる。拘束の痛みに呻きながら住民が銃を手放し、それを拾い上げたシンは鋭く目の前の相手を、そして周囲で眺めるだけの住民達を見回した。

 

「な、何をするっ!」

 

「何、だって…?それはこっちの台詞だ!抵抗しない人達を撃つなんて、アンタ一体何を考えてるんだッ!?」

 

 声を荒げる住民へ、シンも声を荒げて問い返した。戦いに敗れて抵抗力を失った人達を並べて、これではまるで処刑の様で─────そこまで考えた時、シンはこれが正真正銘の処刑なのだと理解した。彼らはこれまで自分達が受けた痛みを兵士達に返している。

 

「こいつらが悪いんだ!先に攻めて来たのはこいつらなんだから!」

 

「─────だからって!」

 

「皆、痛めつけられた!大切な人を殺された人もいる!」

 

 シンに銃を奪われた住民が、その目に爛々と憎悪の色を燃やしながら喚く。それでもシンは言い返そうとするが、周囲の住民達の同調の声に掻き消されてしまう。

 

 父を、母を、子を、恋人を、友人を─────奪われた怒りと悲しみをぶつけて何が悪いと、住民達は本気でそう考えているのだ。

 

 ─────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。かつて、シンを救った男が口にした言葉だ。自分以外の誰かが()()なる姿を始めて目の当たりにしたシンは、兵士達に向けられていた憎悪の断片を受けて一歩後退る。このまま銃を返し、逃げてしまおうか、そんな事を考える自身の弱さに喝を入れ、もう一歩後退ろうとした足を踏ん張る。

 

「だからこそ─────大切な人を失う苦しさを知ってるアンタ達だからこそ、こんな事をしちゃ駄目なんだ!」

 

 震えそうになる声を張り上げ、必死に言葉を届けようとする。だが未だ、憎悪に身を焦がす住民達にはシンの思いは届かない。

 

「知った様な口を聞くな!お前のような子供が、我らの痛みを分かる筈が─────」

 

「俺も家族を殺された!」

 

 シンの一言が響き渡った時、怨嗟の声に満ちていた広場が波を打ったように静かになる。勢いを削がれた住民達だが、その内の一人が再び声を上げる。

 

「それなら…、それなら何で止めるんだ!あんただって俺達の気持ちが分かる筈だ!」

 

「分かるさ!だけど、そうして家族の仇を討っても、また別の誰かが俺と同じ憎しみを抱く─────繰り返すだけじゃないか!ただ人が、もっとたくさんの人が死んでいくだけじゃないかッ!」

 

 嫌だ。あんな事を起こすのも、目の前でそれを見過ごすのも─────何故ならシン・アスカは、その為に力を手に入れたのだから。例えそれが夢物語でも手を伸ばす、それこそがシン自身が定めた誓いだった。

 

「アンタらは嫌じゃないのかよ!そんなに人を殺したいのか!?仇を討てればそれで満足なのかよ─────!?」

 

 叫ぶシンに対して、住民達は何も返さない。あれだけ町の解放に喜び回っていた住民達も、この騒ぎに気付いたのか集まり、黙り込んでいる。

 

 ふと、男に肩車をされたままこちらを見つめるコニールと目が合った。瞳を揺らしながらシンを見つめたまま何も言わない。彼女も同じなのだろうか─────憎しみのまま、自分達を苦しめた者達等死んで当然と思っているのだろうか。もしそうだとしたら、悲しい。

 

「シン」

 

 静寂が流れる中、シンは背後から呼び掛けられた声と肩に置かれた手の感触で我に返った。驚いて振り返ると、そこにはいつからいたのだろう、ハイネが立っていた。彼の遠く奥の方では、グフと並んで立つ赤と白のザク、そしてその足下では機体から降りたルナマリアとレイの姿があった。

 

 もしかして、今の話を聞かれただろうか。別に自分から進んで話そうとは思っていないだけで、隠しているつもりはなかったから構わないのだが…、どうせ知られるなら、ちゃんと自分の口から仲間達に言いたかった。そんな風に思うシンの横をハイネが通り抜け、広場に集まった住民達へ言う。

 

「連合兵は我々が捕縛する。…構わないな?」

 

 ハイネの問い掛けに誰も答えない。静寂を保ったまま、しかし誰の目にも反抗する色は見られず、沈黙を肯定と見なしたハイネが背後のルナマリアとレイを呼ぶ。連合兵を捕縛するのだろう、シンも倣って手伝いを始める。

 

 住民達は皆、仇が目の前で奪われようとするのを誰も止められず、その場に立ち尽くしたまま見ている事しかできない。シンの放った言葉が届いたのか、それとも意味が分からず固まっているだけなのか─────シンにとってはどちらでも良かった。せめてこの場でこれ以上、誰かの命が奪われるという事がなければ、それだけで。

 

 捕縛した連合兵はマハムール基地の方へ移送される事となる。シン達は彼らに連合兵を引き渡してから、それぞれ機体に乗り込んでミネルバへと帰っていく。

 

 途中、シンは最後にもう一度だけ住民達を見遣った。硬直が解けて戸惑いを見せる住民達を、一瞬見遣るだけでシンはそれ以上何も見なかった。自分がすべき事はやったし、これ以上できる事はない。後は彼らが何を思い、どう行動するのか─────そこにシンの入り込む隙などなく、そのつもりもない。

 

 ただ、もし憎しみに呑まれたまま暴走するというのなら、その時は─────そんな事にはならないよう願って、シンはその場から飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シン「そこまでだァア~~~!!!!」

という事でシンのもうやめましょうよ回でした。前話の前書きにも本当は戦闘部分なんて殆ど原作と変わらんし、もっと端折りたいというのが本音でしたがこれに繋げたくて話数を犠牲にしました。原作シン君も私刑に気付かずスルーしてしまいましたが、見つけていたらきっと同じような事をしてたと思います。というか、アレを見てたらもっと違う道があった気がします。

次回からディオキア基地の方へと入りますが、色々と詰め込むつもりです。頑張ります。
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