間が空いてしまいスミマセン。生きてます。
PCが逝ってました…。とはいえ環境自体は先月には戻っていたのですが、ちょっと休んじゃえと執筆をサボっていたらいつの間にやら九月も中旬に…。
短いですが、投稿します。サボり癖がついてませんようにと祈りながら、活動再開するつもりです。
オーブ連合首長国首都オロファトにある内閣府官邸内の専用オフィスに、カガリはいた。デスクの上に置かれた紙面に書かれた内容に目を通す彼女の表情は断じて晴れたものではない。それどころか、彼女をよく知らぬ者でさえ一目見るだけでも分かってしまうほど、彼女の顔からは怒気が満ち溢れていた。
「─────」
今すぐにでも暴れ散らかしたい欲求と、叫び出したい衝動を強く歯を食い縛る事で押さえつけながら、しかし押さえ切れなかった怒りがデスクへと叩きつけられる彼女の拳から窺える。
「カガリ」
「分かっている…。分かっているさ、アスラン。だが…こんなもの…!」
認めてなるものか、という一言を固い意志を持って告げる事ができたらどれだけ楽だったか。しかし感情のままに怒鳴り、当たり散らすような子供から、二年という時を通して大人へと成長してしまった彼女はそれをできずにいた。
紙面に記されていたのは長々とした文章だが、要するにオーブの戦力を地球連合軍へ捧げろという内容だった。それだけだったならまだ良かった。外交手段を通して断る、或いはそれが不可能としても連合からの要求を限定させる事ができたかもしれない。
問題は、紙面と一緒に送られてきた
「…彼らも細心の注意を払って航行をしていたんだろうが」
「あぁ。だが…、状況は最悪だ」
カガリと彼女と共にオフィスにいたアスランが視線を落とし、問題の画像を見つめる。そこに映されたのはある一隻の戦艦─────頭上から見下ろす形で、白亜の巨艦
オーブに対する要求が記された紙面には、この画像について触れる文言は書かれていない。だがそうでなくとも、この画像が同封されているという事が意味するものはただ一つ。─────
連合内でどこまでこの件について知れ渡っているかは分からないが、少なくともこんな脅しを掛けてくる以上、一部の者にしか知られていないだろう事は予想できる。同盟諸国には内密に艦を動かすだけでも大問題だが、アークエンジェルというその名自体に影響力を持ってしまった戦艦を動かしたという事実は大きく情勢を揺るがす事になるだろう。或いは、これを敵対行動と見なしオーブを敵国と捉える国も出て来るかもしれない。
「…進むも地獄、戻るも地獄か」
要求を呑めばオーブは今回の戦争に本格的に加担する事となる。中立の理念を掲げ続けたオーブが同盟に加わるだけならばいざ知らず、自衛ではなく他国の争いに介入するという事の意味は大きい。だが要求を跳ね退ければ国際的に孤立する事に繋がる。それだけでなく、現状の戦況を鑑みて地球連合が即座にオーブへ侵攻を始めるとは考えづらいが、あの画像をどう扱うかなど目に見えている。
どちらを選んでも待つのは過酷な道─────ならば少しでも負うだろう傷が少ない方を選ぶしかない。最早カガリに選択肢などないも同然だった。
「アスラン…」
「分かってるさ、カガリ。…だが、俺達はまだ賭けに負けた訳じゃない」
「…あぁ」
思わぬ形で自らの首を絞める事となったが、しかし世界に撒かれた種子はまだ根付いている。自身の未熟さ故に国を争いに巻き込んでしまったが、まだ絶望に呑み込まれた訳ではない。
まだだ、まだ─────。
波打つ情勢はオーブをも呑み、更に大きく渦巻いていく。それでもまだ、と自身を奮い立たせる希望が残っているのも確かだった。
今も世界のどこかにいる家族と友が、まだ希望としてカガリの心に微かながらにでも火を灯していた。その火を決して消すまいと、今にも流れそうになる哀しみを必死に堪えながら、カガリは手に力を込めて前を見据えるのだった。
「だいぶ荒れてきましたね」
アマギ一尉が激しくうねる海原を眺めながら呟いた。隣に座したトダカ一佐が相槌を打つ。
「まだ序の口だろうがな。こいつを抜けるまでは一時間くらいか?」
「そうですね。そう大きい低気圧ではありませんから」
ここはオーブ艦隊の旗艦、空母タケミカズチの艦橋。南アフリカに程近いインド洋上には分厚い雲が立ち込め、巨大な空母に乗っていてさえ緩やかに足元を撹拌させるような揺れを感じさせる。
「しかし、まさか喜望峰回りとは思いませんでしたよ」
アマギはふと漏らす。ここら一帯の海域は強い偏西風が吹きつけ、海流が合流する場所である為に波が荒く、古くから航海の難所とされてきた。
タケミカズチを初めとするオーブ艦隊はスエズを目指して航海を進めていた。連合より送られた要請を呑み、軍を送るとカガリの口から聞かされたのが丁度一週間前。タケミカズチを旗艦とした艦隊を編成、整備をして出航をしたのが三日前の事だった。
他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない─────オーブ国内の状況と国外の情勢を見て、いずれはと覚悟をしていた軍人は決して少なくはなかった筈だ。しかしいざ実際にその時に直面して、トダカは情けない話ではあるが失望を隠せなかった。
二回り、三回りも歳の幼い少女へと、大の大人が重い期待を背負わせ、それを実現できなかったと知れば失望する─────何と身勝手な話だろう。期待をするのはいい。だが自分がしたのはたったそれだけだ。願い、祈るだけで支える事をしなかった。獅子の娘だからとフィルターを掛け、きっと大丈夫だと高を括って何もしなかった。そういう意味では、
マユ─────血の繋がりはなくとも娘も同然の彼女が行方を眩ませてから、もうすぐ一月が経とうとしている。未だ国内では捜索活動が続いているが、決して彼女は見つからないであろう事をトダカは知っている。マユの失踪を知ったその日に、トダカはカガリから謝罪と共に一枚の手紙を受け取っていた。それはマユがトダカへ向けて書いた手紙だった。
宿泊していたアスハ別邸がコーディネイターの特殊部隊に襲われた事。それによって別邸に住んでいた者達がオーブ国内に滞留しづらくなった事、初めに書かれていたのはその二つの事実だった。トダカ自身、マユを経由してアスハ別邸に住んでいた者達と繋がりを持っていた為、そのような事があったのかと驚きながらも事情を呑み込む事ができた。だが驚くべきはまだここではなかった。
ユニウスセブンの一件から開戦に至るまで、裏で糸を引いている者がいる。それは地球、プラント双方の組織に所属していない完全な第三者である可能性が高い。その人物を見つける為に、一度国を出ると決めた─────端的に言えば、手紙にはそう書かれていた。
叶うならば今すぐにでも呼び戻したかった。そんな危険な航海を許したくなどなかった。しかしすでにマユは国を発った後であり、他でもない彼女がトダカであれば自分を止めようとするだろうと考え、託した手紙を渡すタイミングについてカガリへ指定したのだという。
あの時もトダカは今と似た無力感を感じていた。何もできない自分に対し、自身よりも幼い者達が世界の命運を背負う覚悟を固めて前へと進んでいく。何故自分はその選択をできなかったのか─────何故その勇気を持てなかったのか。マユの手紙を読んでから今に至るまで、トダカは常に自身の無力さを痛感してばかりだった。
「しかし─────」
ふとアマギが声を低めて言う。それを聞いてトダカは苛まれる自己嫌悪を一先ず振り払い、彼の声に耳を傾けた。
「このような事は、口にしてはいけないのでありましょうが…。今回の派兵、自分にはやはり疑問です」
振り返ったトダカの目が、理解をしつつも納得しきれないアマギの複雑な表情へと向けられる。
「我らオーブの理念を捨ててまで、何故このような…!」
「…如何なることがあろうとも、オーブの理念は守られて欲しいと願う気持ちは皆同じだ。だが、理念を掲げるだけで国を守れる訳でもない」
「トダカ一佐─────」
アマギの言う通り、オーブが掲げる三つの理念を保つ事で国を、民を守れるのならばそれが理想だ。しかし今、そのフェーズは過ぎてしまったという事なのだろう。あのカガリが派兵の要請を呑んだというのがその証拠だ。
ただの一兵士であるトダカでは想像もつかない何かが蠢いている─────そしてその何かと、愛娘は戦う覚悟を決めたのだ。なら、親である自分がすべき事は娘が愛する祖国をどんな手を講じてでも守り抜かなければならない。
「割り切れ、アマギ。此度の派兵に納得できていないのは皆同じ…、だが。これも国を護る為だ」
「…ハッ」
感情的な部分はあれど、やはりこの腹心は優秀だ。口下手でどうしても少なくなってしまうトダカの言葉から、彼の意思を汲み取れる。そして未だ納得しきれなくとも、それを呑み込み自身の任務へ投じる事ができる。
人である以上感情を抱くのは当然で、上からの指示に対して不満を抱く時があるのも致し方なくはある。しかしその憤懣を散らすべきは断じて今ではない。むしろ、自分達以上にやるせなく思っているのは、派兵を命じた諜報ん人である筈なのだから─────。
カーペンタリアからジブラルタルに及ぶザフトの勢力圏を避けるべく、ドレーク海峡を回るオーブ艦隊。オーブ軍との合流を待つスエズへ辿り着くには、もう少し掛かりそうだ。
「オーブの派遣軍…」
J.P.ジョーンズの艦橋で、ネオは仮面の下の表情に複雑な念を浮かべながら受け取った命令書に目を通していた。空母一、護衛艦六─────頑なに中立を謳い続けた国が齎すとは思えない旨の内容がそこには記されている。
現在彼女らはスエズに停泊し、ミネルバの追撃を続行するのか、はたまた新たな任務に就くのか命令待ちの状態だった。カオス、ガイア、アビスにネオのウィンダムしか残っていないのではどの道補給の必要はあったのだが。
「黒海を取り戻せ、って事ね…。ホント、好き勝手言ってくれるわ」
無造作に後方に立っていた部下へ命令書を押し付ける。オーブ─────ネオにとっては決して無関係ではなく、むしろ思い入れを捨てきれない国でもあった。こんな事になった今でも思い出す時があれば、彼の国の平穏を願わずにはいられない。
それが今、奇しくも今の自分が所属している陣営によってその平穏は壊され、戦いの場に引き摺り出されようとしている。その上、それを指揮する立場に立てというのだから堪ったものではない。断じてそんな悔恨の念を外へ漏らすような真似はしないが、どうしても胸の中で渦巻く形容しきれないごちゃついた感情をネオはすぐに打ち消す事ができずにいた。
─────ユウがあの時、余計な事を言わないでくれたら違ったかもしれない。
「…追加人員か」
一人の軍人として、部下の命を預かる指揮官として、苦しみを抱えながらもネオは前を向かなければならない。愛する人の手を振り払い、この道を選んだ以上は引き返す事など許されない。ネオは先程目を通した命令書に記された内容について思い返す。
補給を終え、出航を予定されているのは三日後。その間、いつになるかは未定だがこの艦にはパイロットが一名、その専用の機体と共に加わる事になっている。出航が間近に迫っている時節に、それもたった一人のパイロットを隊の中に捻じ込むなど一体何を考えているのか。専用機を与えられているのだから腕は立つのだろうが、これではミネルバ討伐の為の作戦をまた一から考え直さねばならなくなる。それくらい上も分かっている筈なのだが、それともそれを圧してでも加えるべきと思わせる程の人員なのか。それに─────
「ようやく、と言いたい所だけど…。碌に慣らし操縦もできないのに、よりにもよってミネルバ相手に初実戦をさせるんじゃないわよ」
アーモリーワン襲撃の頃はまだ正式なロールアウトはされておらず、その後想定外の地球降下によって受領が遅れに遅れていた、ネオ・ロアノークの
色々と言い募りたい事はあるが、何はともあれこれで本当の意味で戦力が整ったという訳だ。
「恨みはないけどね…。いい加減色々うるさくなってるし、そろそろ沈んでもらうわよ」
地球軍艦隊がスエズへ侵攻となれば、ザフトも黙ってはいまい。ディオキアに停泊していたミネルバを加えて迎撃に出てくるのは間違いない。
ミネルバ─────あの艦に特段思い入れはない。関われば苦い思いばかりさせられて来たが、かといって別に恨みも執着もない。だが、あの顔色の悪い上司のチクチクとした皮肉を聞くのもいい加減うんざりだった。
それに地球軍に所属している以上仕方ないという事情もあるが、ネオはザフトが大嫌いだった。逆恨みと分かってはいるが、自分がこんな目に遭っているのは元はといえば奴らのせいだ。なので少しくらい八つ当たりが籠っていたとしても仕方がないのだ。その感情を向けるべき相手が間違っていると分かっていても、少しくらい恨みを込めてやらないと、どうしても彼女の気が晴れてくれないのだから。